名古屋グランパスと「SY32」のコラボも。スポーツ×ファッション領域でエニシークが目指す未来

近年、スポーツをするウェアとしてだけでなく、ファッションアイテムとしても注目されるようになったスポーツアパレル。その背景には、アパレル業界からスポーツ界への新規参入を果たす企業の新たな動きがある。この領域で頭角を現す株式会社エニシークの津田聡CEOに、名古屋グランパスなどのスポーツクラブと取り組んできたこれまでと、スポーツとファッションの未来について訊いた。

「スポーツにファッションを」ライフスタイルからの気づき

株式会社エニシーク CEO 津田聡氏

シーズン中、毎週のようにスポーツ観戦に足を運ぶスポーツファンにとって、スタジアムに立ち並ぶ物販やグッズ販売はお馴染みの光景だ。それでも実際にグッズに手が伸びない人の中には、「ファッション性の高いものがあれば買うのに」と漠然と思ったことのある人も多いのではないだろうか。

「ファッションブランドの力で、スポーツチームのオフィシャルグッズを面白く出来るのではないか」――。

この原体験をもとに、ファッション業界からスポーツ界へ進出し、アパレル事業を展開しているのが株式会社エニシークだ。津田聡CEOは、700人近い従業員を抱えるアパレル大手の株式会社アバハウスインターナショナルに21年勤務。アパレル業界のノウハウを熟知し、自社ブランドだけでなく社外ブランドとの契約も手がけてきた。

スポーツアパレルへの進出は、まずは社内プロジェクトの一つとしての新規事業でスタートすることとなる。「ファッションでスポーツグッズを面白く」――この想いを打ち明けると、強く背中を押したのが当時の社長だった。ファッション業界の津田氏にとってスポーツ界は全くの別世界だったが、業界の人とのつながりやネットワークを作るために毎年開催されているスポーツビジネス産業展などにも足を運んだ。

こうして積極的に前進する津田氏に対して、社長は「こういうプロジェクトは会社の枠組みでやるのではなく、一歩外へ出て自分達の力でやる方が上手く行く」と助言。エニシークはアバハウスから出資を得て別会社として独立しながら、1年間同社内のオフィススペースを間借りするなど、創業期に強力なサポートを得てスタートを切ることとなった。

世のスタートアップが直面するような資金繰りに追われることなく、大企業のバックアップを受けて事業を展開できたことも急成長の要因の一つだ。

「スポーツを普段着に」オフタイムを軸にした商品展開

スポーツチームとの最初の仕事となったのは2017年、Bリーグクラブの横浜ビー・コルセアーズとアパレルブランド「PARADOX TOKYO」とのコラボだった。Tシャツ、パーカー類を中心に大胆なグラフィックをあしらい、今までにないアパレルウェアのラインを展開した。

ファッション企業ならではのプロデュースに手応えを感じる津田氏だったが、同時にスポーツ業界が直面している課題も知ることになる。プロスポーツチームは新たなファン層を獲得しようと常にマーチャンダイジングを模索する一方、既存メーカーは効率的に同じものを作り続けようとし、新しいものを生み出すことが難しい。「グッズ開発に対する悩みを抱える人は予想以上に多かった」と津田氏は言う。

スポーツのマーチャンダイジングの特異性は、スポーツクラブのファンは多種多様で、グッズを購入する層は一定ではなことだ。これは、アパレルブランドが特定のファン層に向けて商品を提供するのと対比できる。一方で興行という側面では、単発で開催されるフェスやライブなどと違い、シーズンを通して計画立ててグッズ販売を行う必要性がある。ファンは多様だが、計画性も求められる――。津田氏は、「どういうグッズを提案していくのかはすごく難しい部分でもあり、面白い部分でもある」と言う。

ここで重要になるのは、スタジアムやアリーナにいる全ての来場者に商品を手に取ってもらうのは不可能だということだ。そのためターゲットを設定して、ストーリーを組み立てて、手に取ってもらいたい来場者をイメージすることが一番重要になってくる。その上で、これまでのグッズを排除するのではなく、プラスアルファでどのようなグッズが提供できるかを考えるのが、津田氏のアプローチだ。

「アパレルの世界ではオンタイムとオフタイムという分け方をします。オンタイムは仕事や冠婚葬祭の場に来ていく服。オフタイムが普段の服。スポーツのマーチャンダイジングに置き換えるとオンタイムは試合会場で身につけるもの。そしてオフタイムは普段着を意識した商品となります。私たちはオフタイムに軸足を置いた商品を提供していきたい」

レプリカユニフォームやタオルマフラーといったファンの定番商品に勝る必要はない。エニシークが目指すのは、普段使ってもらえる、着てもらえるものを意識した、アパレル要素をスポーツに加えたものづくりだ。

ターニングポイントとなった、名古屋グランパスと「SY32」

バスケでの実績を基に、サッカーでも受注が増え始め、展示会経由でJクラブからも注文が入り始める。最初はプロジェクトベースで商品企画を行う形が多かったが、とある偶然が重なり、大手クラブとの長期的なパートナーシップが生まれることとなる。

エニシークが取り扱うブランドの中に「SY32 (エスワイ サーティーツー)」がある。これはイタリア代表でもプレーしていた名サッカー選手のパオロ・マルディーニとクリスチャン・ヴィエリのアイデアによって誕生したブランドで、日本では2014年春頃から展開しており、津田氏も前職からこのブランドを扱っていた。

このブランドを国内で特に愛用していたのが、名古屋グランパスのホームゲームでスタジアムDJも務めるラジオDJのYO! YO! YOSUKE氏だった。そのため、偶然にもSY32は名古屋グランパスのチーム内で知れ渡ったブランドとなっていた。

さらに幸運なことに、名古屋グランパスは2019年4月からオフィシャルショップ「クラブグランパス」を12年ぶりにリニューアルオープンさせる計画となっていた。名古屋から日本に、そして世界にグランパスとそれに紐づくカルチャーを発信していく場づくりが、偶然にも予定されていたのである。

名古屋グランパスのマーケティング部MDグループのグループリーダー兼ショップマネージャーを務める吉村一彦氏は、こう語る。

「チームショップには、クラブのエンブレムや選手を活用した商品が主流なイメージが多いと思います。(Jリーグは)プロ野球に比べるとアイテム数が少なく、更には選手の移籍も活発でなかなか商品展開がしにくいという現状もあります。そのため(新たなショップは)サッカーが好きな人なら誰でも楽しめる環境であり、グランパスだけではないスポーツのアパレルとして発信できたら良いという思いでスタートしました」

単なるスポーツグッズを販売するショップではなく、スポーツ好きのファンがライフスタイルの一部として使える様々な商品を扱っていく――。それを証明するように、ショップ内ではグランパスと「SY32」のコラボグッズだけでなく、なんとSY32のオリジナル商品も取り扱うというから驚きだ。吉村氏はその狙いをこう話す。

「せっかく(ブランドと)コラボするのであれば、そのブランドの価値を知っていただきたい。(コラボグッズと共に)ブランドをトータルでお客さんに知っていただきたいという思いがありました」

名古屋グランパスのファンがSY32を知ってファンになる一方、ブランドのファンがチームのファンとなる。この相乗効果を生み出す、理想的なパートナーシップだと、津田氏は次のように話す。

「プロスポーツチームのオフィシャルショップ内で、こういったブランド展開を行っているのは他にないと思います。コラボ商品を含めてブランドのコーナーを常設しているのは珍しいのではないでしょうか」

ファッション×スポーツ。今が「ベストなタイミング」

アパレル企業のエニシークがスポーツマーチャンダイジングで実績を積み重ねていく中で、今後目指すのは自社主導でのグッズ開発とマネジメントだという。クライアント企業(チーム)からの発注ベースで、コラボ先のブランドとの折衝も含め、企画、生産、納品を行うこれまでと違い、チームとのライセンシー契約で自主企画、生産、販売していくことは、在庫リスクなども伴う。

だが、「責任が増えれば増えるほど、チャレンジングであり面白い」というのが津田氏の考えだ。「ファッションの力でスポーツグッズを面白く」という軸は変わらず、「どういった提案が出来るような会社でありたいか」を常日頃考えていると言う。

ファッション業界では、ここ3、4年、ファッションにアクティブ、スポーティな要素を取り入れた「アスレジャー」がトレンドとなっている。この外部環境の変化も、エニシークが取り組むスポーツグッズのファッション化にとって大きな追い風になっていると津田氏は話す。

「プロスポーツのグッズとして取り入れやすい(アクティブな)要素と、ファッションのトレンドがもの凄く近づいています。両者のタッチポイントを作るのは、今がベストのタイミングです」

エニシークの社名の由来は「ご縁(えにし)を探す(Seek:シーク)」こと。スポーツとファッションはこれまで必ずしも近い存在ではなかったが、多くのクラブとブランドのコラボレーションや、ファッション性の高い、ライフスタイルの一部になるスポーツグッズの展開は、まだまだ発展の余地があるだろう。様々な「ご縁」から生まれる、新たな可能性に期待したい。


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