「勝敗を超えた価値を作り出す」 FC岐阜が挑む、クラブの魅力創造とは

岐阜県全域をホームタウンとして、地元経済界のバックアップを受けJリーグで戦うFC岐阜。より地元に愛されるクラブ経営を推し進めるために、何が必要なのか? FC岐阜のスポンサー営業とグッズ販売を担当する東武良さんに、スポーツビジネス講座『HALF TIME Global Academy第4期』の受講も振り返ってもらいながら、お話しを伺った。(聞き手は小林謙一)

降格、コロナでも離れなかったスポンサー企業

――スポンサー営業をご担当されているということで、コロナ禍ではかなりご苦労されたのではないですか?

東武良氏(以下、東武):2020年のスポンサー収益は前年比98%でした。2020年はJ3に降格して戦う初年度、また新型コロナウイルスの感染拡大もありスポンサー契約にとって大きな不安要素がありましたが、多くの企業様に引き続きご支援を継続していただくことができました。

コロナで大多数のスポンサー企業様が経営にダメージを受けた中ではありましたが、力強くご支援の継続をいただけて大変有り難かったです。

継続していただけた理由は企業様によって千差万別ですが、大きくは次の点がポイントとなったと推測しています。1つ目は、影響力のあるスポンサー様や地域リーダーの方々の引き続きのご支援。2つ目はホームゲームの集客数実績とホームタウン活動・地域貢献活動への評価。集客実績はJ2リーグで第12位で、ホームタウン活動は年間600回以上行っています。そして最後に、1年でJ2に復帰することへの期待。

といってもチケット収入は激減しましたし、グッズ販売もダウン。FC岐阜は親会社を持たないクラブチームなので、やはり資金面では苦労もしてきました。しかしクラブがJリーグに加入して14年を数え、岐阜県内の理解が深まっているのを感じます。岐阜の経済界や県下42の市町村様からのバックアップ、県民の方々のサポートもあって県内スポーツクラブとしてはリーディングカンパニーといっていいと思います。

2021年は、各スポンサー企業様がコロナの影響を受けてから最初の契約更改でした。J2に復帰できなかったこと、そして試合数が8試合減ることも勘案して、広告料の定価を一部下げる判断をしました。既存スポンサー様が継続していただけることを大前提に考え、結果、協賛社数は前年対比10社増となっています。

変化の激しい時代なので、大きな支援をしていただいているスポンサー様が降りてしまうこともあり得ます。そんなときでも安定してクラブ運営を続けていくためにはスポンサー様の絶対数があるということは、リスクヘッジであると同時に将来に向けて大きな財産となります。

私たちフロントはチームの勝敗にコミットすることはできませんが、競技だけでないクラブの魅力を作り出したいと考えています。あるスポンサー企業の方が、「チームが勝ってくれることに越したことはないんですが、それよりも最後まで戦い抜いた選手たちを応援しているんです」とおっしゃっていて、その言葉にハッとしたんですね。

かつてのプロスポーツチームへのスポンサードは、メディアへの露出やスタジアムに看板を出して広告効果を狙うというシンプルなものだったんですが、今はSDGsの協働やスポンサー権利を活用した様々な活動を行うことで、企業の発展だけでなく地域への貢献という長期的視点にも立って、もっと深いところを見て応援してくれているんだなと。

フロントスタッフは「勝敗を超えた価値」を創造

FC岐阜の東武良さん。スポンサー営業とマーチャンダイジングを担当。

――スポーツビジネス講座も受講されました。どのようなことを得られましたか。

東武:グローバルアカデミーで学んだのは、いろんな国のプロスポーツ事情や競技の枠を超えた事例ですね。そのままマネをするということではなく、たくさんの気づきがあったことが最大の収穫でした。やはり、同じ競技、同じ業界に留まっているだけでは視野が狭くなってしまいますから、広くいろんな事例に触れられたことはとてもよかったと思います。

印象的だったのは、オランダのヨハン・クライフ・アリーナの方がおっしゃっていたこと。その方は「スタジアムは空港だ」といっていたんです。実は、私たちFC岐阜も「スタジアムをテーマパークにしたい」と思って取り組んできたのですが、その方向性が間違っていないと思うのと同時に、より深く、より大きな視点だなと感じました。

テーマパークには「喜び」や「楽しさ」といった感情がたくさんあふれていますが、逆にいうとそれだけなんですね。一方で空港というと、多くの人が行き交って出会いや別れなどもあって、「悲しさ」や「さみしさ」などのマイナスの感情もあるわけです。より多くの感情があるというのはスポーツの現場でも同じで、勝って嬉しいときもあれば、負けて悔しいときもあります。

もちろんチームは勝ってくれたほうがいいのですが、たとえ負けたとしても、そのときの感情にも価値が出てくれば、スタジアムに来ることの意味も大きくなるはずです。

接戦で負けてしまったときの「惜しい」という気持ちや、絶望的と思われた状況からの大逆転で「信じられない!」という驚き、不甲斐ない試合を観たときの「しっかりやれよ!」という怒りでさえも、スポーツを通してこそ味わえる感情ですよね。スタジアムというのは「喜怒哀楽」全ての感情が表現できる、すごく貴重な場所なんだと思っています。

そのような中、私たちフロントの仕事は勝敗以外の部分でいかに価値を提供できるか、「喜」と「楽」の創造をしていけるのかというのを担っていると思っています。

Jクラブが岐阜にある意味」を考え直す

――プロスポーツクラブで選手や監督といった現場を支えるフロントとして、どのようなことを意識してますか?

東武:コロナ禍が2年続いて、クラブは経営的なダメージを負っています。今後は収益アップを目指していかなくてはなりませんが、これを逆にいい機会と捉えて、Jクラブが岐阜にある意義を見つめ直したいと思っています。

具体的には地域貢献という側面をもっと深く考えていきたいですね。もらうばかりでなく、クラブが“与えられる存在”になり、その結果、皆様が応援したくなる存在となることが目標です。たとえば、コロナ禍でご苦労されている飲食店とクラブのファン・サポーターをつなぐ仕掛けをすることで、地域が元気になるお手伝いを考えています。

Jクラブが「ハブ」となって地域のお役に立てることは沢山ある。そういったことにもっともっとチャレンジしていきたいですね。

以前、パートナー企業の方から「クラブの目指したいもの、やっていることが思ったよりサポーターに届いていないのでは?」と指摘されて、ハッとしたことがありました。自分たちは一生懸命やっているつもりでいても、それがみなさんにしっかり届いていなければ意味がないですよね。そういったところも今後は改善できるように、もっと発信の仕方に力を入れていきたいと思います。

ただし、これらは将来的にマネタイズしていくための施策として、きちんとビジネス目線を持って取り組んでいきます。私たちはスポンサーを集める営業職ですが、“集める”仕組みから“集まる”仕組みに変えていければベストだなと考えています。

ビジネスでも「非日常」「期待感」

『HALF TIME Global Academy』では、セビージャFCやヨハン・クライフ・アリーナ、シカゴ・ファイアーFCなどが講義を展開した。

――その他の学びはいかがでしたか。

東武:セビージャFCなどは、クラブの価値を十二分に活かすブランディングをしているんですね。初めは、クラブの知名度が違うので私たちには無理かなと感じていましたが、アカデミーを受講しているうちに、それはやり方次第だと感じるようになりました。

現在は、クラブの価値をパートナー企業がもっと活用していただけるように、企業様ごとにより個別のスポンサー提案ができたらいいなと思っているんですね。企業によって抱えている課題はさまざまです。どのようにFC岐阜を活用すればその課題が解決できるか、それを個別に提案したいということです。

スポンサーとしての権利を活用して企業が行うマーケティング活動を「アクティベーション」といいますが、一層実現に向けて取り組み始めています。

クラブは約270社のパートナー企業にご支援いただいていて、そこに対して私たちからすべて個別に提案していくことはマンパワー的にも難しい。ですので、担当者にセミナーに集まっていただいて、パートナー企業側からご相談いただくような形もあり得ると考えています。クラブの価値をパートナー様にも共有していただいて、お互いにその活用法を考えていければいいですね。

グローバルアカデミーで参考になったことがもうひとつあります。それは、提案書の作り方です。海外のクラブでは、選手やスタジアムの写真をたくさん使って作られている。ビジネス文書だと、とかく文字だけでそっけないものにしがちですが、そこにビジュアルが入ることで見る側も改めてクラブの価値を感じることができます。

海外クラブは、チームのエンブレムを大切に扱っているなとも感じました。確かに、サポーターがスタジアムに来場したときには、チームのエンブレムやフラッグなどを目にすることで非日常感を味わい、試合への期待感を高めていきますよね。それはビジネスでも同じなのではないかと思いました。そういった観客目線の重要さに、あらためて気づくことができたのはとても貴重な機会でしたね。

岐阜のスポーツは、長らく「名古屋のセカンドホーム」という位置づけだった。確かに、娯楽という面では名古屋エリアに敵わないだろうが、FC岐阜は独自の戦略で、岐阜県民が地元を誇りに思いながら楽しめるプロスポーツクラブを目指していくだろう。

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