2023年3月に開業したプロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場エスコンフィールドHOKKAIDOと、スタジアム周辺を含めたエリアとなる北海道ボールパークFビレッジ(以下Fビレッジ)。一帯はスタジアム以外にもさまざまな施設が広がり、シーズン最終戦の9月28日には300万人来場を突破した。
Fビレッジが「試合がない日」「野球以外」でも集客する秘訣について、Fビレッジを所有・運営する株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントでマーケティング部長を務める正田直也氏が、HALF TIMEとヤプリ共催のセミナーで語った。
充実の施設設備で観戦環境・顧客体験を向上
札幌市と新千歳空港の中間地点に位置する5万人規模の北広島市。ここに新たに誕生したのがプロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地、エスコンフィールドHOKKAIDOだ。2015年よりプロジェクトが発足し、2023年3月に開業した。
エスコンフィールドHOKKAIDOはスポーツ施設としては世界最大級のビジョンを備え、観客席の一人当たりのスペースを札幌ドームの1.4倍にするなどファシリティ面に積極投資。快適な観戦環境で顧客体験を向上させている。
そして球場の外側に広がるのは、幅広い世代の交流の場を目指した空間。敷地内では認定こども園が子どもを迎え、株式会社クボタが農業学習施設を開く。今年春にはシニアレジデンスやメディカルモールも開業する。「未来にバトンを渡していく」ことをミッションに、球場内外であらゆる世代を惹きつけ、交わる環境づくりに取り組んでいる。
「Fビレッジは『共同創造空間』をテーマに掲げ、様々な方と二人三脚で開業を迎えました。志を共にできる方々とご一緒できたのは大きかったですね」と、正田氏は振り返る。
ファイターズ スポーツ&エンターテイメントが掲げたプロジェクトの目的は4つ。スポーツと北海道を融合した新しいまちづくり。野球事業と非野球事業のミックス。パートナーとの共創による多種多様な方々が集うエリアづくり。そして球場を核としたプラットフォーム事業の推進。
従来の「野球場」から脱却して、ボールパークの中で他業種・他業態と掛け合わせることで、野球事業のみではなく総合的なプラットフォーム事業への転換を目指すアプローチになる。
初年度は目標の300万人来場を早々に突破
Fビレッジでは、北海道との親和性が高く、また大きな市場性のあるアクティビティを意識した施設や店舗が多くある。例えば、球場内にホテル・天然温泉のほかサウナを用意して「サウナー」を取り込む。また、球場の外にはアウトドア好き向けにグランピング施設を、愛犬家向けにドッグランを設けた。
プロ野球の試合がない日には親子キャンプやヨガイベントを実施したり、ランニングシューズの「On」とコラボしたランニングイベントも実施してきた。その積み重ねが初年度の目標達成につながったと正田氏は説明する。
「年間300万人来場という目標を掲げ、開業から9月30日までの約半年間で303万人と無事目標を達成することができました。そのうち約3割は野球観戦以外の来場者。野球に関心がない方にもターゲットを広げ、そういった方々に来ていただける施設になろうと取り組んできました。正直、想定以上に(来場者数が)推移できたかなと思っています」
ファイターズの試合がない日でも、来場者数は一日あたり平均で平日4,500人、休日1万500人。地元の北海道だけでなく遠方からの来場もあり、「行楽地化してきている」(同氏)という。
Fビレッジは野球観戦以外の副次目的化を進め、そこに北海道らしさや真新しさを取り入れ、北海道の代表的な「行楽地」となることを目指す。その先に「街」ができていく新たなモデルに挑戦していく。
30万DLのアプリが担う、デジタル・タッチポイント
Fビレッジが多様な店舗・サービスの集合体だとすると、顧客基盤の拡大がマーケティング戦略の根底を支えることになる。様々なタッチポイントで顧客情報が取得することで、多様性に応じたサービス改善や来場体験の提案ができるからだ。
開業に向けては、統合顧客ID(F VILLAGEアカウント)を軸としたマーケティングプラットフォームの構築と浸透に取り組んだ。その中核が、来場者とのタッチポイントとなるFビレッジ公式アプリだ。
「『Fビレッジを満喫してもらうためのパスポート』をコンセプトに、来場時の便利ツールとして開発を進めました。担当したのはマーケティングチームの3名と制作ベンダーさんです」(正田氏)
ファイターズの試合情報だけでなく、Fビレッジ内のホテル予約やキャッシュレス決済にもアプリを使うことができる。POSレジなどの施設側のインフラから顧客が日々使うアプリまで、マーケティングチーム主導で一気通貫で構築できたことも成功のポイントと正田氏は振り返る。
アプリは、3月1日のリリースから9月末までに累計30万ダウンロードを突破。初年度目標の約2倍を達成し「想定以上に浸透した」と正田氏は話す。シーズン終了後のユーザーアンケートでは95%がアプリが必要だと認識しており、アプリをきっかけにファンクラブに入会するという効果も生んだ。
観光需要の拡大で「まちづくりプラットフォーム」へ
「マーケティングで得た情報を、次年からは本格的に使っていきたいと考えています」と、正田氏は今後の展望について語った。
初年度はまず基盤を整え、情報を取得して分析を進めた。その次はいよいよデータを活用してプロモーションを強化する。並行してニーズに基づきFビレッジ内のエリア・施設開発に落とし込むことができれば、総合的な体験価値はますます高まっていく。
分析から見えてきた結果のひとつとして、今後は観光・行楽需要の創出へも力を入れていきたいと話す。来場体験を向上させていくことがアプリの存在価値を測ることにもつながると、正田氏は話す。
「施設全体での回遊性を高めることで、Fビレッジならではの来場体験の提案と収益向上を実現していきます。これをFビレッジ内で実現できれば、将来的には周辺エリアや北海道各地と連携していくこともできるはず。そこまでの発展性を考慮してアプリを設計しています」
正田氏いわく、野球場としてのエスコンフィールドHOKKAIDOは90%以上が完成したというが、Fビレッジにおいてはまだ3割程度だという。発展の余地がおおいに残るフィールドで、データをもとにした開発が行われていく。「世界がまだ見ぬボールパーク」の進化はまだまだ続く。