お茶の間のテレビショッピングで知られるジャパネットたかたを筆頭に、8つの事業会社を束ねる(株)ジャパネットホールディングスが、新たな中核事業に据えるのがスポーツ・地域創生だ。2017年にはJリーグのV・ファーレン長崎をグループ会社化し、2023年を目指し「長崎スタジアムシティプロジェクト」も進める同社。陣頭指揮を執る髙田旭人代表取締役社長 兼 CEOに、スポーツの価値を「ジャパネットならでは」の方法で最大化する秘訣を聞いた。(聞き手は田邊雅之)
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長崎でのスタジアムシティプロジェクト
前回のインタビューで、自身のマネジメントスタイルについて、「任せられるとことは任せている」と社員の自発性を育む考えを示した髙田旭人社長。「会社としてやれることが拡がりますから」という答えについて、さらに尋ねてみた。
――まさに『やれることが拡がる』という点に関してですが、現在、ジャパネットホールディングスはV・ファーレンの新スタジアムの建設計画を進めています。髙田社長は「チャネルミックス」という言葉を使いながら、スタジアムの周辺にホテルを建設したり、総合的なビジネス施設を整備していく計画を提示されていますが、これはアメリカ型の都市開発、スポーツ施設を起点にしながら街づくり全体を進めていくというイメージに基づくものなのでしょうか?
「(新スタジアム建設計画に関する)今回の話の流れは結構アナログで。もともと長崎駅の近く、しかも県庁所在地から徒歩10分の場所に7ヘクタールの土地があるというのは『奇跡』だと思ったんです。その時は、ジャパネットに投資ができるだけの余力があって、私も年齢的に若かった。まだ40歳だったので、『やってみよう』ということになったんですね。
しかし、いざスタジアムを建てても、スタジアムだけがあったのでは、試合がない日は全然盛り上がらないことになってしまう。だったらホテルやオフィスが必要になってくる。そのホテルにしても、スタジアムで試合をするだけでは埋まらないから、じゃあアリーナも必要だよねという発想で、様々な施設を増やしていっているんです。
そうやって自分たちで仮説を立ててから海外に行ってみると、まさにそういう世界が広がっていて。ですからどこかを見て真似をしたというよりも、アメリカが思いのほか進んでいたので、『やっぱり間違いじゃなかったんだ』と、実感したという感覚に近いですね。答え合わせができたことは、すごく自信になりました」
新スタジアムでも収益化目指す
――新スタジアムの建設は、御社にとっても大きなステップになります。今後はクラブを経営するだけでなく、スタジアムの運営も含めてさらにマネタイズを図っていくことが求められてくる。その点については、どのようなプランを練っていらっしゃいますか?
「かなりのチャレンジだと思っています。長崎はかなり可処分所得が少ないですし、スポーツへの投資が少ないというデータもあったと思います。でも長崎でうまくいけば、逆に日本中で上手くいくはずだというのがモチベーションになっていて。長崎がうまくいって、真似してくれる民間企業が(全国で)5、6個できると、日本中の地域が盛り上がる。
結局、東京には人が集まりすぎて様々な弊害が起きているし、地方は人が減りすぎて弊害が出ている。そういう状況のバランスが自然に取れるようになるという意味では、スポーツが持つ力は大きいと思いますね。正直、マネタイズの部分に関しては、これまでの実績から細かく計算すればするほど、ちょっと元気がなくなってくるんです(笑)。新たにオフィスを作ろうといっても、長崎は大企業も少ないですから。
しかし、それはあくまでも『今の長崎』にオフィスを構えたい人を集めた場合のボリュームに過ぎない。スタジアムの真横に、ワンフロア600坪の最先端のオフィスがあったら、東京からでも(支社を)出そうとする大手企業はあると思うんです。私自身、どこかの都道府県に魅力的な施設があって、自治体の誘致の協力も得られて割安で入れるというのなら、オフィスを構えることを考えますから。ジャパネットという規模の会社を経営している立場からすれば、他の企業の社長も、同じようなことを考える発想はあるだろうと。そういう仮説のもとに、様々な施設を作ろうと思っているんです。
それを実現させるためには、魅力的な要素がスタジアムの周りにいっぱいある状況を作っていかなければならない。たしかにこういう話になると、『長崎は所得が少ないから、そんなにお金を使わないですよ』という声も出てくる。だったら私は、所得を増やせばいいと思っていて。所得の高い大手企業を誘致していけば、少なくとも余力のある人が来るわけですから。今までになかった世界を積み上げていって、みんながワクワクできるようにしていけば、長崎の人が元気になると思うんです。」
――発想や視点を変えて、好循環を生んでいく。
「そうです。だから私は学校や大学なども作れたらいいなと思っています。しかも大学を作る際にスポーツ学科も作れば、学生にとっては横にスタジアムとアリーナがあって、サッカーチームもあるし、もしBリーグもとなれば、バスケットボールチームもある環境の中で学べることになる。そういう大学が本当にあれば、私だったら通いたいですし」
――贅沢な環境ですよね。授業で学んだことを、実地で研修することもできる。
「しかも大学生が増えれば、うちもインターンで受け入れるので、マンパワー的に助かることになる。そうなれば、お互いハッピーになるよねという発想で、今いろいろな仕掛けをしている感じですね」
民間の力を最大限に活用
――髙田社長の一連のお話を伺っていると、「官」ではなくて「民」を重視されている印象を受けます。もともと日本におけるスポーツビジネスは、特に地方に行けば行くほど「官」に依存する傾向が強いと言われていますが、そのような認識をお持ちなのでしょうか?
「それは強く思います。やはり行政や自治体のみなさんとやりとりしていると、目的は幸福量を最大にすることではなくて、みんなにとって一定のラインの幸福を作ることになっている。
もちろん、それ自体は正しいんです。でも私たちがスタジアムを作る時には、高価格帯のVIPルームなども含めて収益化のモデルを作るべきだという考え方をする。この発想は海外でも標準になっていますが、日本の自治体では子どもを含めて、みんなが使いやすいスタジアムを作ることがどうしても目的になってしまう。
確かに日本のように、平等を優先してスポーツ施設を作ろうとするなら、民間じゃなくて自治体がやったほうがいいんです。しかしそうすると、今度は別の弊害が出てくる。サッカーのグラウンドを作ろうとした時に、『なぜサッカー用の施設だけ作るのか』という声が上がって、『じゃあ陸上施設も作りましょう』ということになり、ピッチの周りに陸上トラックができる。そうするとピッチとスタンドが遠くなって、スタジアムとしての魅力が落ちてしまう。そういう危険性を考えれば、民間100%のプロジェクトにして、支払っていただいた以上の価値を返すということにフォーカスした意思決定をしていったほうがいいだろうと」
――そこは日本的発想の落とし穴ですね。むしろスタジアム経営という観点から述べれば、VIPシートや価格の高いチケットを軸にマネタイズを図れば、逆に一般の方々や子どもたちに向けて安価にチケットが提供できるようになるはずです。
「まさにそうなんですよ。日本的な感覚だと『どうしてあそこだけ?』と思われがちですが、そこはむしろサービスを提供する側の覚悟の問題になる。お客さんはお金を払っているわけですから、質のいいサービスを提供することは差別でもなんでもなくて、出していただいたお金に対する正当なリターンなんです。もちろん我々は、全ての人に対して支払った以上の価値を感じていただくようにするという責任がありますが、そういう発想で(スタジアム運営を)やっていきたいなと思いますね」
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単なるスタジアム建設ではなく、スタジアムを軸とした長崎の総合的な地域おこしへ。そして「民」だからこそ可能となる、斬新なビジネスモデルの構築へ。高田旭人社長は壮大なビジョンを見据えていた。次回はジャパネットグループがスポーツそのものに見出している「価値」について伺う。
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