「スポーツ都市ランキング」どう読み解く?調査のNRIに聞く

スポーツを活用することで、まちづくりや地域創生、住民の健康向上にどうつなげられるか。多くの地方自治体が関心を持っているテーマだ。ただ関心はあっても、実際にどう取り組むかとなると実践している自治体はまだ多くはない。とはいえ東京オリンピック・パラリンピックの開催もあって、この10年、急激に関心が強まっているのも事実だ。

野村総合研究所(NRI)は、このテーマに対して、今年、調査レポート『スポーツ環境に関する都市ランキング』を発表した。レポートでは様々な指標から都市をランク付けしているが、意外な都市が評価されるなど、興味深い内容となっている。

「今後もスポーツに取り組む価値ある?」レポートの背景

『スポーツ環境に関する都市ランキング』は、公開されている統計情報を収集し、国内106都市の住民に対して「居住都市のスポーツ環境調査」のアンケートを行い、計72の指標を用いてスコア化したもの。スポーツを「する、みる、ささえる」といった視点の①都市のスポーツ環境(インプット)、「実施率、観戦率」といった視点の②スポーツのアウトプット、「経済、健康、地域」といった視点の③スポーツのアウトカムから評価している。

今回の調査で見えた点について、社会システムコンサルティング部 谷本敬一朗さんはこう解説する。

「インプット(都市のスポーツ環境)、アウトプット、アウトカムの相関関係が見られ、スポーツとまちづくりの関係性を証明できた。スポーツ環境を整備することが都市にどんな効果をもたらし得るかは曖昧だったが、ある程度定量的に整理することができたので、少しでもスポーツに取り組む都市や事業者を後押しする結果になると嬉しい」

また、同部の西崎遼さんは「東京オリパラが終わり、スポーツへの熱が冷めてしまう可能性がある中で、もう一度スポーツの価値を示し、スポーツに関する取組を途切れさせないようにしたかった」と狙いを明かした。

スポーツジムやアリーナ、スタジアムなど、民間企業が自前でスポーツ施設を整備することはもちろんあるが、市民向けに体育館、プール、競技場、ランニングコース、公園などを設置、整備するのは自治体が一般的。しかし、当然ながら建設費や維持費などの費用がのしかかってくる。

予算が潤沢な自治体であればさほど問題にはならないだろうが、予算が限られているところだとスポーツ環境の整備はやはり二の足を踏む。とはいえ、整備していくことによって、例えば、スポーツに積極的に取り組みやすい環境となっていき、運動をする住民が増えれば住民の健康に好影響を与える。また、スポーツにより関心を持つことで、地元チームの試合観戦の機会も増えて、街のコミュニティの活性化にもつながっていく。

「する」環境が充実している鳥取市

レポートの中で紹介しているランキングで、興味深い結果がいくつかある。

1つが『「都市のスポーツ環境」の「する」』に入った5都市だ。この「する環境」というのは実際に実施しているか別にして、住民がスポーツをしやすい環境が整っているかどうかを評価している。

1位から鳥取市、長岡市、松本市、宮崎市、つくば市となり、いずれも地方都市が上位を占めている。宮崎市であれば、高校や大学、スポーツチームの合宿地と知られているので、その関係で施設が充実しているのかとも推測できるが、鳥取市が1位になった理由はどういう点なのだろうか。

「鳥取市は、過去に国民体育大会を誘致する際にスポーツ施設を多く作った経緯があり、そこが顕著に表れたと見ています。都心部は人口が多いので、1人当たりの施設の割合となると、どうしても少なくなってしまう。地方はもう少し余裕があるということで、この結果になったのではないか」(谷本さん)

鳥取県は1985年に国体を開催していて、その時期前に県立体育館などが作られている。他にも市内中心部半径数キロ以内に体育館が多くあり、アンケートに答えた市民も、する環境が整っているという印象があるのかもしれない。

ただし、今回の指標では「する環境」の定義として必ずしも施設の充実さだけを見たわけではないという。社会システムコンサルティング部の原田遼さんはこう解説する。

「『する環境』の評価には体育館のような施設だけではなく、人が歩きやすい、走りやすい環境というのも入っています。アンケートでは、『あなたの街は、歩きやすい街ですか?』『緑に触れる機会が多いですか?』『公園で遊びやすいですか?』といった視点も入れました。

調査結果では、地方都市だとその辺りの指標が高く出ている。当たり前かもしれませんが改めて、地方都市は体が動かしやすい都市として(このレポートを通じて)メッセージを伝えられたのではないか」(原田さん)

一方で、都心部は人口が多いわりには体育館が少ない。例えば東京の23区内だと、区によって5、6ヶ所は体育館があるところもあれば、2ヶ所しかない区もある。もちろんその分、都内は24時間使える民間運営のジムが多いのではあるが、気軽にスポーツをする環境ともいえない。

「都心部でスポーツ施設が足りないのであれば、例えばデジタルの力を使って、既存の学校施設や公共施設などに対し、市民が利用可能な枠を最大化することもできるかもしれない。一方、地方で施設数が充実しているのであれば、大規模大会の誘致などそれを武器にしてさらに何かできることがあるかもしれません」(谷本さん)

「する」環境上位でも「実施率」上位ではない

レポートの興味深い示唆のもう一つが、「する」環境が整っていても、必ずしも「実施率」が高くないという点だ。「スポーツのアウトプット」の「実施率」のランキングは、1位から名古屋市、北九州市、大阪市、神戸市、八尾市となっている。この項目は住民がスポーツをする頻度について評価したものだが、「する」でランキング上位に入っていた自治体の名前が出てこない。

「長野には(長野冬季オリンピックの)レガシーがあってウィンタースポーツの施設は多いが、どうしても稼働が季節限定的になってしまう。そのため、長野は『する』環境としては上位だが、実施率があまり高くない結果になっているのでは。住民の方は『スポーツ施設が全然空いていない』という感覚だと聞いている。

逆に、青森県の八戸市には、ウィンタースポーツが行われるアリーナ施設に移動式断熱フロアを使用して様々なアリーナスポーツやコンサート等にも利用できるよう設計されたフラット八戸という施設がある。

こうした技術からヒントを得ながら、長野のような『する』環境が充実している都市は、その環境を生かし、既存施設の改良やソフト面での工夫を取り入れることで、新たな効果を生むことができるのではないかというのが、我々としてのメッセージです」(谷本さん)

レポートは、ランキングだけ見るだけでなく、相関関係を見るとさらに別の見え方もできてくる。

例えば、国内トップリーグをみる機会の充実度が高い人は、スポーツの試合を直接観戦することも多く、スポーツサービスの消費もするということが見えてきた。他にも、個人でのスポーツ実施率が健康への意識の高さにつながるというのは自明だが、さらに、移住決定理由におけるスポーツの大きさという点にも相関するというのは興味深い。地方移住がこの数年叫ばれ続けているが、スポーツ環境の整備が移住先として選ばれる可能性を高めることを示唆しているのかもしれない。

「みる環境と観戦率」の相関関係では、縦軸をスポーツ観戦率、横軸をスポーツをみる環境で各市を分布させている。縦横ともに一定の高い指標を出しているのは、やはり横浜市、札幌市、大阪市、広島市、千葉市などと都市部だ。

「一定の見る環境に到達した都市の住民は、大体スポーツを見ている。単純に、(プロ野球やJリーグなど)プロクラブの存在もある」(西崎さん)

一方で、相関分布図の左上には、観戦率は高い都市として呉市(広島)、八尾市(大阪)らが出ていて興味深い。スポーツ観戦率のスコアは高いが、そもそもこれらの都市にはプロクラブはなく、みる環境が整っているとはいえない。

「確かに呉市や八尾市がでてきているが、これは近い都市のプロクラブに引っ張られているのではないかと推察しています。プロクラブの価値が広域に影響を与えているという見方ができるのではないでしょうか」(谷本さん)

呉市は広島市に隣接している。広島東洋カープやサンフレッチェ広島の試合観戦へ行く人が多いのかもしれない。八尾市も大阪市南部に隣接しており、セレッソ大阪の試合観戦、または大阪市内の大阪ドームでのプロ野球観戦をしに行くことが考えられる。

まちづくりに民間が積極関与していく潮流も

最近では民間企業がスポーツを活用したまちづくりに関心を持っている。自治体、民間企業、プロスポーツチームがタッグを組んで、取り組むケースが出てきている。プロ野球であれば横浜DeNAベイスターズは、スポーツまちづくりの「スポーツタウン構想」を2017年に発表して、既に動いている。

Jリーグでは鹿島アントラーズが、医療機関、スポーツジムなどをスタジアムに併設していて、地域住民のコミュニティにもなっている。また、鹿島アントラーズは地元企業を結びつけるコンサルタント的な取り組みも始めている。その流れは企業スポーツにも起こっているという。

「企業スポーツの潮流が少し変わってきました。以前は、部の運営に多額の費用が掛かることもあり、コストセンターと呼ばれる例もありましたが、『ずっとお金だけ垂れ流すような部でいいのか?』と近年、言われるようになってきた。企業の中で、自分たちの持っている部というリソースをどう活用していくかというひとつの出口が、まちづくりへの貢献となってきている。儲けるだけでなく地域貢献をする、SDGsに取り組む。その一つの方法として、スポーツを活用していくという潮流が出てきている」(西崎さん)

必ずしも部を抱える企業だけではない。企業と自治体が組んでスポーツを活かしたまちづくりを行っているケースもある。

「(新潟県)長岡市は大学と企業コンソーシアム、地元関係団体等と連携し『多世代健康モデル研究会』を立ち上げ、誰もが健康に暮らせるまちづくりについて検討を進めてきています。

多世代健康まちづくり事業の一環として、健康総合企業でタニタ食堂を展開する株式会社タニタのプロデュースのもと、健康の3要素『食』『運動』『休養』を良質でバランスよく実践できる健康づくりの拠点・タニタカフェをオープンし、イベント実施も含めて運動を通じた住民、高齢者への健康意識を高める取り組みを推進しています。

自治体だけだと結局、ソフト面のノウハウがなく、何をやればいいかわからないということも多い。このようにスポーツ×健康まちづくりの推進に向けて企業と自治体との連携を作っていくきっかけになってもらえれば」(原田さん)

「部活の地域移行」も新たな課題に?

レポートでは、この数年社会問題としてフォーカスされている「部活」についても一部解説している。部活顧問を担当する教員が土日も休みなく負担が過度にかかる状況になっていた。また、そもそも運動部の指導を担当できる教員も足りておらず、さらには少子化の影響で学校単独での部活が維持できなくなったりと、結果的に子どもたちがスポーツに親しむ機会や環境が失われているという実態が問題になっていた。

文科省、スポーツ庁が部活動の地域移行を決定し、いよいよ2023年度から段階的に始まる。

「これについては新たな問題が出てくると見ています。今までは先生がボランティア的に担ってくれていたものを地域が支えることになる。地域の一般の方を含めて、スポーツに対して関心が無い方が増えると、必然的に学生がスポーツをする環境も維持できない状況になっていくでしょう。これには、自治体が対策していかないといけません」(西崎さん)

NRIはシンクタンクとして地域創生や地域活性化について長年取り組んできている。今回はそこにスポーツという視点を交えたレポートとなった。今後も「スポーツ×まちづくり」に関するレポートを出していく予定だ。

「取り組みを行う自治体はまだ少ないので、スポーツをまちづくりに活用する価値を広めていきたい。まずはレポートをきっかけに、スポーツ環境を整えることがこんなに効果的なんだ、住民にとっても意味があることなんだ、という認識が高まり、スポーツ健康まちづくりに取り組む自治体・事業者が増えてほしいですね」(谷本さん)

左から)『スポーツ環境に関する都市ランキング』をとりまとめた、社会システムコンサルティング部 西崎遼さん、谷本敬一朗さん、経営DXコンサルティング部 原口瞳さん、社会システムコンサルティング部 岡崎恭直さん、原田遼さん

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■お問い合わせ先

E-mail:sports_city_ranking@nri.co.jp