Jリーグ、湘南ベルマーレにみる「スポーツを通した、地域一体のSDGs推進」の可能性

ここ数年、スポーツ界でも急速に関心が高まるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。スポーツの持つ発信力や影響力を活かしたSDGsの推進などが期待されるが、5月に開催された「HALF TIMEカンファレンス2022」では、Jリーグ、クラブ、パートナー企業が、それぞれの目線から取り組みのあるべき姿を語った。

湘南ベルマーレは「地域の一員」

左から)KPMGコンサルティング 執行役員 佐渡誠氏、湘南ベルマーレ 代表取締役 水谷尚人氏

カンファレンスでは、社会貢献活動に積極的に取り組む湘南ベルマーレ 代表取締役社長 水谷尚人氏、クラブパートナーの鈴廣蒲鉾本店 企画チーム常務取締役 本部長 鈴木智博氏、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事 髙田春奈氏が登壇し、KPMGコンサルティング 執行役員ビジネスイノベーションユニット統括パートナー 佐渡誠氏のモデレートのもと議論が進められた。

はじめに、各社の社会貢献活動への取り組みについて紹介を求められると、湘南ベルマーレの水谷氏はサッカー以外の活動に触れながら、その肝要として「地域のサポーターの方々との距離感」を挙げた。

「市民クラブというのは、地域の方々がいてこそ。サッカー以前に地域を構成する一員としての意識を持つことが大切」(水谷氏)

湘南ベルマーレでは、育成年代のアカデミーでも「そこに落ちているゴミを拾える選手になろう」を象徴的な言葉として育成に取り組んでいる。小さなことから地域に貢献することの大切さを早くから説いている。

パートナー企業、リーグの取り組み

鈴廣蒲鉾本店 企画チーム常務取締役 本部長 鈴木智博氏

そんな湘南ベルマーレを20年以上前からスポンサーとして支援しているのが鈴廣蒲鉾。150年以上の歴史を持ち、小田原に本社を構える同社では、近年ではかまぼこの需要創出に向けてマーケティング活動をするなか、クラブと地域の結びつきの強さを感じているという。

「湘南ベルマーレの選手が試合前後にかまぼこで補食(※)してくれている影響で、地元のサッカークラブの子どもたちも食べてくれるようになりました。鈴廣は昨年からクラブの『魚肉たんぱくサプライヤー』となり、活動内容がよりわかりやすくなっています」(鈴木氏)

(※ 食事以外で足りない栄養素を摂取すること。かまぼこなどに含まれる魚肉たんぱくは高たんぱく・低カロリー)

こうしたスポーツを通した地域貢献活動はリーグとしても推進されている。Jリーグは、地域の企業・団体や地方自治体などとJクラブが連携して取り組む活動を社会連携活動、通称「シャレン!」と名付け、プロジェクトに取り組んでいる。

「年に1回、特にホットな活動を表彰するシャレン!アウォーズといったイベントを企画して各クラブの取り組みを盛り上げていくことで、Jリーグのスポーツ以外の側面を知ってもらうきっかけをつくっている」と髙田氏。2021年には、J1〜J3の57クラブが、計2144回のシャレン!活動を行なった。

こうした中、一歩深く踏み込んで、クラブがハブとなって地域のステークホルダーを巻き込みながらSDGsを推進していこうというのが、湘南ベルマーレとKPMGコンサルティングの取り組みだ。

「地域共創型SDGsプラットフォーム」という発想

カンファレンスに先立った5月20日、湘南ベルマーレとKPMGコンサルティングは「地域共創型SDGsプラットフォーム」の構想を発表。クラブを取り巻く地域の企業や団体、自治体などさまざまなプレーヤーが、デジタル上のプラットフォームでSDGs推進に向けた情報収集、企画発案、連携・実行、そして効果測定までできるようになるというものだ。

「スポーツの力を信じてらっしゃる経営者は多い。しかし、関わり方がスポンサーとして広告を出すことくらいしかわからない。これから新しい関わり方をつくっていく上で、SDGsを切り口にしていけたらと思いました」と話すのは、KPMGコンサルティング 執行役員の佐渡氏。2年前からパートナーとしてクラブを支えながら、より発展的な取り組みを構想してきた。

地域の課題解決・SDGsの達成に向けては、なにもクラブが全てのステークホルダーに企画を持って回らなくても、クラブがプラットフォームとなり、様々な企業から企画が挙がればいい。24時間・365日、プラットフォームがデジタルで回り続ければ、それが実現できる――。背景にはこういった思想があり、企業同士や企業と自治体などの連携が加速することも期待される。

そして、活動したからにはそれを評価することも必要になる。湘南ベルマーレの水谷氏は、「第三者が評価をして、取り組みが貢献した価値が可視化される。これは企業にとっては非常に魅力的なこと」と評すると、鈴廣蒲鉾の鈴木氏は、「湘南ベルマーレの持つオープンで柔軟性のある風土こそが、プラットフォームを活性化させるための大事な土壌」と付け加えて、今後積極的に参加をしていく意気込みを示した。

これからの地域貢献のあり方とは

V・ファーレン長崎の社長を経てJリーグ理事に就任した髙田春奈氏

セッション終盤では、これからのSDGsへの取り組みについて議論が展開された。水谷氏は、Jリーグやクラブがこれからも積極的に活動を続けていく必要性について語り、湘南ベルマーレとしての地域貢献活動について次のように述べた。

「活動をより多くの人に知ってもらうためには、関心を持ってもらうことが必要。『地域の人と共に歩んでいくクラブ』として、地域で困っていることがあれば我々に声をかけてもらえれば、クラブだけでは解決できなくとも、解決できる仲間、パートナーを紹介するという形をつくりたい」(水谷氏)

Jリーグの髙田氏は、リーグが日本になくてはならない存在となるために、よりクラブと連携して地域貢献活動を行っていくことの必要性を述べながら、自身のクラブ経営の経験から、クラブと地域の結びつきについても次のように強調した。

「サポーターの方々はすごい熱量で応援してくださる。結びつきはただのギブアンドテイクではなく、絶大なものです。サポーターのみならず、地域全体との結びつきも深めていけたら。そのきっかけがクラブであり、リーグでありたい」(髙田氏)

近年多くの企業がSDGsへの取り組みを行っているなかで、スポーツというコンテンツや、地域に密着するスポーツクラブが持つ影響力や可能性は大きい。壮大な目標に対しては、あらゆるプレーヤーが協力することが必要不可欠であり、スポーツ界では地域、企業、チームなどの連携がますます進んでいくことが期待される。

■カンファレンスの様子は動画でもチェック