豪州プロバスケリーグNBLの成長戦略とは? コミッショナーが語る「デジタル活用」と「国際化」

オーストラリアンフットボール、クリケット、ラグビー、サッカーなど国内で様々なスポーツが盛んなオーストラリア。ファンにとっては多くの選択肢がある状況の中、バスケットボール界はデジタル活用と国際化を進めながら、他の国内スポーツとの差別化を図ってきた。

NBLコミッショナーのジェレミー・ローリガー(Jeremy Loeliger)氏が、リーグ成長の軌跡と今後の展望について、今月都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2022」で語った。

オーストラリア国内スポーツで唯一ファンが増加

NBLは「National Basketball League」の略で、オーストラリアのプロバスケットボールリーグを指す。オーストラリアの9チーム、ニュージーランドの1チームという10チームから構成され、既に国際リーグともいえる。「NBAに次ぐ世界2番手」というのがリーグの売りだ。

ローリガー氏は「より多くの人にNBLに興味を持ってもらうこと(リーチ)、そして、NBLを好きでいる人が増えること(親和性)を目指している」と説明する。

事実、国内バスケットボールのファン数は増加の一途で、2020年時点で過去5年の間に32%増加した。スポーツ自体が他のエンタメとの競争環境下に置かれる中、主要スポーツの中で唯一プラス成長を果たしている。

とはいえ、実はこうしたリーグ成長の背景には、43年の歴史の中で経営破綻という苦い経験をしたことが教訓にある。

10年前に破綻。経営改革を実行

NBLコミッショナーのジェレミー・ローリガー氏(右)。左はモデレーターを務めたスポーツブランディングジャパン日置貴之氏

リーグが経営破綻に陥ったのは10年前。当時は国内競技連盟(NF)が国内バスケの競技力向上を目的として運営していた。ファン向けにエンタメを届ける、放映コンテンツとして提供するといった発想がなく、マネタイズもできていなかった。

「リーグのスタッフはわずか6名。テレビ放映も各試合日に2試合のみで、当然国内の認知度は上がらなかった」とローリガー氏。経営破綻は必然であったともいえる。

その後、リーグのオーナーシップが変わりローリガー氏が2015年にGMに就任すると、独自のOTTプラットフォームの開発、複数メディア会社との放映契約を行うなど経営改革を実行。同氏が16年にCEO、19年からはコミッショナーと職を移す間、NBLは世界40ヶ国で試合が放映されるまでになった。

国際化を推進。米欧、そしてアジアへ。

リーグは現在、世界一のバスケ大国であるアメリカ、そしてユーロリーグが存在する欧州を強く意識している。オーストラリアの人口は2700万人で現在も増加を続けるものの、市場規模としては上限が見えているからだ。

さらにはNBLに所属する10チームのうち2チームがメルボルンに本拠地を置き、市内には他のプロスポーツも含めると20チーム以上が集まるなど競争環境が激しい。そんな中、国際化を成長のドライバーと位置付けるのも頷くことができる。

例えば「NBL Next Stars」プログラムでは、NBAに輩出する選手を育成するため有望選手を最低1シーズンNBLでプレーさせている。プログラムにヨーロッパの選手を呼んでくることで、その選手のファンもNBLに目を向けさせることができる。

もちろん各クラブの外国人選手枠は活用が進む。2020年に馬場雄大選手がメルボルン・ユナイテッドで活躍した後、翌年NBAテキサス・レジェンズと契約したのは好例だ。その上で、NBLはリーグ全体として海外市場の取り込みを見据えている。

NBLが見据える展望。日本進出も?

同じアジア太平洋に位置するNBL。日豪のコラボレーションはこれからだ

国際化に関してローリガー氏が最後に口にしたのは「アジア」だ。前述のようにアメリカやヨーロッパとは「NBL Next Stars」プログラムを通して関係を築いているが、アジアでの取り組みはまだそれほど進んでいない。

「NBLのレギュレーションでは外国人選手は3人まで各チームに所属が可能。アジア人選手もそこに取り込みたいと考えている」とローリガー氏。

同氏は今回のカンファレンスに合わせて、日本のバスケットボール関係者との意見交換を進めているとも言及した。仮に外国人選手枠やプレシーズンマッチの開催などで進展があれば、日本とオーストラリア双方のファンの関心度も上がるだろう。

NBLは日本をはじめアジアのバスケットボール市場への「リーチ」を、虎視眈々と狙っている。逆に日本のバスケットボール界にとっても国際化のチャンスが広がってくるといえる。

カンファレンス・アーカイブ動画

ジェレミー・ローリガー氏が登壇した「HALF TIMEカンファレンス2022 」のセッション「NBLの成長戦略:デジタル活用と国際化」のアーカイブ動画をご覧いただけます。 ダイジェスト版は以下より。全編ノーカット版をご希望の方はフォームからリクエストください(無料)。

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