セカンドキャリアの「準備」と「目標設定」、そして成功に導く「モチベーション」とは?【廣瀬俊朗×江尻慎太郎×外池大亮】

『HALF TIMEカンファレンス2020』の掉尾を飾るセッション3。「元プロアスリートが考えるセカンドキャリア」と題されたパネルディスカッションには、廣瀬俊朗氏(元ラグビー日本代表キャプテン/株式会社HiRAKU代表取締役)、江尻慎太郎氏(元プロ野球選手/野球指導者、スポーツキャスター、AcroBats株式会社事業戦略企画担当)、外池大亮氏(元プロサッカー選手/早稲田大学ア式蹴球部監督)が登場。自らの体験に基づく貴重な助言を行っている。

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アスリートからビジネスパーソンへ

元ラグビー日本代表キャプテン/株式会社HiRAKU代表取締役 廣瀬俊朗氏

モデレーターの川名正憲氏(ファナティクス・ジャパン合同会社マネジング・ディレクター)がまず提示したのは、アスリートとビジネスパーソン、2つのキャリアをいかにつなげていくかというテーマだった。

「アスリート時代の経験や価値を活かそうとし過ぎて、逆にスポーツのドメインに縛られてしまう。ならば思い切って新卒の社会人のように、ゼロからキャリアを作ってもいいのではないか。いろんな議論があると思いますが、現在の活動も踏まえて、アスリートが持つ価値とは何か、アスリートがいかにしてビジネスの世界で活躍できるかといった点について、お伺いできればと思っています」

この問題意識を踏まえ、川名氏が水を向けたのは廣瀬氏である。

同氏は今年7月、元Jリーガーの山内貴雄氏などと共に一般社団法人APOLLO PROJECT(アポロ・プロジェクト)を設立。アスリートや元アスリートを対象にした教育プログラムやキャリア支援事業などを手掛けるようになった。

「基本的には、今まで培ってきたものを活用する部分と、新しいものにチャレンジする部分、両方があったらいいのかなと思っていまして。アスリートは1つの目標が決まるとめちゃくちゃ頑張れる反面、次の目標をなかなか見出せずに悩んでしまいがちになる。現役の頃のライブ感(充足感)を追い求めすぎると、結構しんどくなるんです。だから個人的には『違う喜び』を見つけにいくことが、とても大事なポイントかなと」

廣瀬氏のコメントには実感がこもっている。同氏は5歳でラグビーを始め、慶應大学や東芝、日本代表で活躍。30年にも及ぶラグビー人生を送ったからだ。

「APOLLO PROJECTも、言うなれば今まで好きなことを仕事にしていた人たちに、人生を懸けられる仕事を見つけてほしいという想いから始まっているんです。今後はアスリートが培ってきたものを言語化したり、アスリート同士で学びながら、多様な世界に触れていけるような場所を構築していきたいですね。たとえばこういうイベントに関しても、その場に呼ばれてただ話をして終わるのではなく、むしろイベントを仕掛けられるようになっていく。そういう人が増えていくのは、とても価値があると思いますから」

続いて発言したのは江尻氏だった。

同氏は現役引退後、ソフトバンクのグループ企業における営業職を経て、球団広報に転身。さらには新会社を立ち上げ、アスリートのキャリア支援を多角的に手掛けるようになった。

「僕が立ち上げたAcroBatsはソフトバンクホークスの子会社として、引退した選手を解説者として派遣したり、講演会やイベントを設けて出演させたりするような活動からスタートしました。こういう活動をしていると、そもそも、なぜ講演ができるようになる必要があるのかという、(アスリートに対する)根本的な教育の話も出てくる。その点、廣瀬さんが課題などを具体的に認識されているのは、さすがなだと思いました。

多くのアスリートを見ていると、どこに目標を置いていたかが、すごく大きく影響していると思うんです。たとえばプロ野球選手として活動することを人生のゴールに据えていた人もいれば、そうではない人もいるわけじゃないですか。あるいは廣瀬さんのように、W杯に出場するレベルまでいった人もいる。そういう人に対して、どうアプローチをすればいいのかということは常々考えています。現役時代に稼いだ生涯年俸なども、目標設定の仕方にかなり影響しているような感じを受けますから」

8社でインターンを経験。「異色」のJリーガー

元プロサッカー選手/早稲田大学ア式蹴球部監督 外池大亮氏

いかに人生の新たな目標を見つけるかが鍵を握る。廣瀬氏と江尻氏の認識は共通していた。現役時代から、意欲的にこの活動をしていたのが外池氏である。

「僕はJリーグが選手のセカンドキャリアを意識し始めた頃にプレーしていた人間で、現役時代、8社でインターンを経験しました。その理由は、横浜F・マリノスから戦力外通告を受けたことだったんです。トライアウトを受けてもなかなか次のクラブが見つからず、翌シーズンのスケジュールが決まらない。そんな状況の中で自分と向き合った時に、何も(価値を)持っていないことに気づいた。そこで何か取っ掛かりが欲しいと思って、毎年オフの期間に5日間インターンをやるようになりました。最初は、自分が現役を引退した後のためにという意識だったんですが、そこからいろんなネットワークが生まれたし、サッカーに対するものの見方が広がったんですよね」

ただし当時は、風当たりもかなり強かったという。

「一緒にやっていた選手からは、『外池さんはインターンをやって、次のことを考えているんですよね? そういう人とは一緒にプレーしたくないです』などと、かなり辛辣に言われたこともありました。でも『これがプロスポーツやJリーガーの現状だとするなら、必要性を知らしめるためにもインターンを続けていかなければならない』と思うようになって。それがデュアルキャリア(複数の業務に並行して携わるキャリア)いう発想に結びついていったのかもしれません」

外池氏は現在、早稲田大学ア式蹴球部(サッカー部)の監督として活動している。大学はデュアルキャリアの発想を広く浸透させていく上で、貴重な環境を提供しているという。

「大学は(卒業後に)企業人として生きていくか、あるいはアスリートを続けるかという、1つのターニングポイントになっています。いろんな学生がいることは、意識レベルや能力がそろわないという点で、競技上のやりにくさにもつながる。でも多様性を尊重してあげることで、いろんな引き出しが増えていく。だから今は、多様性を受け入れるような人間を大学サッカーで育てて、Jリーグや企業に輩出していくことをビジョンに掲げています」

セカンドキャリアに向けた「準備」とは

元プロ野球選手/野球指導者、スポーツキャスター、AcroBats株式会社事業戦略企画担当 江尻慎太郎氏

三者三様のバックグラウンド、そしてアスリートが持つ価値を高めていくための方法論は実に興味深い。モデレーターの川名氏は、そもそもアスリートのキャリアを、ファーストキャリアとセカンドキャリアに分けて捉えるべきかという問題もあると指摘した上で、現役時代からどのような準備をするべきかという2つ目のテーマに移行した。

「新橋のサラリーマン」も経験したことのある江尻氏は、複眼的にこの問題を捉えていた。

「本を読んだり、いろいろなビジネスについて人から話を聞いたりするだけでも準備になると思うんですけれども、僕自身は(プロ野球選手が)職人のように野球だけに没頭するという在り方も全く否定しないんです。どこかのタイミングでビジネスに触れた時には、一気に力を発揮するんじゃないかと思いますし、自分自身、ビジネスマンになってからは信じられないぐらいスピードで物事を吸収しながら、成長していくことができましたから。ただし、外池さんがおっしゃったインターンの制度は、とてもいいと思いましたね」

外池氏自身、インターンで得たものは大きかったという。

「6年間で8社、様々な業種でインターンをやらせていただいたんですが、すべてステークホルダーというか、サッカーというプロスポーツを支える企業だったんです。メディアであれメーカーであれ、そこに生きる人たちの発想は自分になかったものですし、新たに気づかせてもらったことが、成長ポイントになった側面はあると思います」

一方、廣瀬氏は外池氏とは違う形でデュアルキャリアを実践していた人物である。トップリーグは企業スポーツの形態をとっているため、廣瀬氏自身、現役時代は東芝に勤務しながら、楕円形のボールを追い続けていた。

「たしかに江尻さんがおっしゃったように、競技を『極める』というのも1つの方法としてありかなと思います。ただしある程度先が見えてきた時点で準備をし始めるのも役立つし、本を読んだりいろんなことをしてみるのも、最初のステップとしてはいいでしょうね。

でもアスリートの場合は、体を動かして何かを体感することも結構大事なのかなと。頭で理解しているだけではなくて一度アウトプットして実感を得ていくと、より学びも深まったりしていくのではないかと思いますから」

インターン制度を活用したりデュアルキャリアを模索しながら、人生の新たなステージに向けて準備を重ねていく。外池氏が実践した方法が重要であることは指摘するまでもない。「次の一歩」の踏み出し方を学ぶのは、日本のスポーツ界で最も欠けていた要素だからだ。

だが廣瀬氏や江尻氏は、1つの競技を極めればこそ見えてくるもの、そしてアスリートならではの対応力や吸収力、「フィジカルな知」の有用性も説いた。いずれの意見も経験に裏打ちされているだけに強い説得力を持っている。

「現役引退後」のモチベーションを高める秘訣

モデレーターを務めたファナティクス・ジャパン合同会社 マネジングディレクター 川名正憲氏

モデレーターの川名氏が最後に提示したのは、キャリアメイクや価値の創出に対するモチベーションそのものをいかに高めていくかという、最も根源的で難しいテーマだった。

このテーマに関しても、各氏のコメントには実感がこもっていた。

「特に野球の場合だと、お金持ちになった選手のセカンドキャリアが実は一番難しいと感じているんですよ。もう成功しているので、わざわざ自分を変える必要とか、マインドセットを見直す必要なんてあるのという考え方をしてしまう(笑)。

もちろんこれは、アスリートに限ったことではないと思います。でも、その結果として不幸になる――自分は『ゲスト(周りからちやほやされる存在)』だとずっと思っていて、いつの間にか『裸の王様』になっているような経験をしたくないのであれば、そういう人たちを、いつどうやって気づかせてあげるかを考えなければならない。これは常々悩ましいところですね(江尻氏)」

「まさに、その悩ましいところを僕たちも感じていまして。だから1つは、良いロールモデルをどんどん作っていきたいねと。あの人は元気に頑張っていたけど、今度また新しいチャレンジをしている。そういうスタンダードというか、それも1つの生き方だとを示せるような人が出てきてほしいと思います(廣瀬氏)」

「今、うちの部で1番テーマにしているのは主体性なんです。僕は主体性というのを責任とアイディアだと捉えているんですが、部の中でも審判やマネージャー、あるいは広報と具体的な役職を明確に持たせて、自分たちの価値をそれぞれがそれぞれの役割で広げながら、みんなで共有していく。そういうマネージメントや作り付けをしていこうと。

また、キャリアは下地を作ることはできても、急に出会いがあったり、突然光が見えたりして拓けることもある。だから学生を廣瀬さんのAPOLLO PROJECTに参加させてもらって、何を感じさせてあげたり、ちょっとつまみ食いをさせてあげたいなと思っているんです(外池氏)」

「それはすごくいいですね!アスリートの側にとっても、すごく刺激になるというか。『今の大学生はこんなことを考えているのか。だったら自分たちも、もっと頑張らないとあかん』と思ったりするでしょうから(廣瀬氏)」

和やかな雰囲気の中、誰もがお互いのキャリアと実績に敬意を払いながら、自由闊達に体験談や意見を交わす。モデレーターの川名氏の巧みなガイダンスの下、セッション3も非常に充実した内容となった。

日本は今もコロナ禍にあえいでいる。しかしスポーツ界では、アスリートやスポーツそのものの価値を高めるための新たな試みが少しずつ、だが確実に始まっている。

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