お茶の間のテレビショッピングで知られるジャパネットたかたを筆頭に、8つの事業会社を束ねる(株)ジャパネットホールディングスが、新たな中核事業に据えるのがスポーツ・地域創生だ。2017年にはJリーグのV・ファーレン長崎をグループ会社化し、2023年を目指し「長崎スタジアムシティプロジェクト」も進める同社。陣頭指揮を執る髙田旭人代表取締役社長 兼 CEOに、スポーツの価値を「ジャパネットならでは」の方法で最大化する秘訣を聞いた。(聞き手は田邊雅之)
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本業とのシナジーを生み出していく
前回のインタビューでは「V・ファーレン長崎や長崎という場所について、あまりにも魅力が伝わっていない」との認識を示し、ジャパネットの付加価値によって、長崎のチームならではの魅力を発信していきたいと語った髙田社長。そこで今回は、本業とクラブ経営の関係性を聞いた。
――本業に関連して述べれば、例えばジャパネットさんの番組でV・ファーレン長崎のシーズンチケットを販売したり、あるいは長崎の食と観光とサッカーを組み合わせたツアーなどを、全国レベルで販売したりされるようなプランはあるのでしょうか?
「実際、長崎ではシーズンチケットを既にテレビショッピングで販売していますし、我々は第1種旅行業者(編集部注:国内・海外の全形態の旅行契約を取扱うことのできる旅行業登録)の資格も取っているので、この先々、様々なことをやるケースはあると思っています。
ただし、それは本業の売上を伸ばすというよりは、あくまでもお客さんのためであって。旅行や出張の手配はみんな苦労しているし、例えば電話一本でいいホテルに泊まって、移動手段も割安で確保できたら楽じゃないですか。そういう意味でのサービスは、やっていこうと思っています」
――では本業は本業としてさらに成長を図りつつ、“「今を生きる楽しさ」を!”という企業理念を、スポーツも通して総合的に実現していくイメージに近い。
「本当にそういうイメージですね。自分がサッカー観戦でいろんな所に足を運んでみて改めて思うんですけど、みんなまだサッカーの楽しさを知らないんです。だからこそ、長崎の50組のシニアの夫婦の方や、仕事を引退されてちょっと楽しみがないなという方にスタジアムに来ていただけたら、20組くらいの方にはハマってもらえる気がするんですね。
サッカーの楽しさを知ってもらうだけでなく、観戦を通して友人ができたり、毎週の楽しみや生きがいができたりするようになる。これはすごくワクワクする出来事だし、素晴らしいことだなと思います」
――とはいえ経営側にとっては、スポーツクラブの運営は大変な事業でもあります。髙田社長ご自身は、スポーツビジネスの難しさをどう表現されますか?
「結構、鍛えられる感じはしますね。ジャパネットは上場企業ではないので、正直、業績やビジネスモデルについて、外部から指摘されることはないじゃないですか。経営者としては、きちんと結果を示していけばいいことになる。
しかし、サッカーチームはパブリック(公的)な要素が強い。特に強化を担当していると(試合に)負けた時に、『ちゃんとやれよ、ジャパネット』などと言われるケースも出てくる。でもこういう部分を乗り越えていかないと、サッカービジネスはできないんだろうなと思います。そういう面でも自分が鍛えられている、いい経験をさせてもらっているなと思いますね」
――それが故にこそ、結果が出た時の喜びも大きくなる。
「ええ、すごく嬉しいですよね。もちろん勝てば、みんな笑顔で『ありがとう!』となるわけですし。とにかく毎週、はっきりと黒白付くのは面白いですね。ただしサッカーというのは難しくて、なかなか一筋縄ではいかない」
クラブ運営のノウハウを本業に
――クラブ経営に直接的に携わることによって、新たに得られたノウハウなどはあったのでしょうか?
「どうでしょう・・・まだ今のところは、ジャパネットでやってきたことを、クラブ経営に生かすことの方が圧倒的に多いですね。でもクラブ経営も会社の経営も、一緒だなと思います。試合の勝ち負けが決まる時にチーム内で起こることと、会社の組織で起こることは本当に似ているなと感じていて。
私は監督やコーチと、よく話すようにしているんです。試合前に30分ぐらい、だいたい雑談ベースで話をしていると『会社と一緒ですね』という話によくなる。例えばスキルの足し算がそのまま実力になるわけではないし、人間同士の相性や気持ちのフォロー、そういう要素をきちんとケアしていく組織でなければ結果は出せない。これはサッカーチームもまったく同じで。だからこそ少し時間はかかるかもしれませんけど、V・ファーレン長崎は必ず強くなると思っているんです」
――そういう点で、高木琢也監督の後任に、手倉森誠監督を起用されたのは本当に感服しました。高木監督も素晴らしい指導者ですが、まさにV・ファーレン長崎にぴったりの方を任命されたなと。
「そこはまさに私が一番こだわっていたところですね。手倉森さんの人間性や、サッカーの位置づけの考え方がすごく一緒なんです。実際、お声がけして何度もお話しする中で、結果云々とは別に、この人に任せていこうという確信がどんどん深まりました。今、チームは少し苦戦していますけど、僕自身は全然迷っていません。このまま一緒に頑張りたいなと思っています」
――それがサッカーの内容や強さだけでなく、カルチャーの面でも魅力的なクラブを作っていくことにつながっていく。
「ええ、そうです。それと私自身は、選手が自分の言葉でちゃんと喋れるチームにしたいですね。監督もそのことを結構、指摘される方なので、そこは見ていて親近感が湧くんです。サッカー界では口下手だったり、試合は結果を出せばいいと割り切っている人が多いんですが、手倉森さんは違いますから」
――サッカークラブを経営するというのは、御社で扱われている商品などと違って、生物(なまもの)を扱っていらっしゃる感覚なのかなという印象も受けますが。
「そうですね(笑)。私自身、こんなことを言いながらも、最初はちょっと憂鬱だったんです。でも別のクラブオーナーの方と一緒に試合を観ている時に、『毎週末、こんなに楽しめるっていいよね』と言われて。それは結構、目からウロコでした。
チームを経営する側でサッカーに携わることができる、こんなに感情移入できることに関わっているのは恵まれているんだなと。それまでは(クラブ経営は)大変だと思っていましたけど、あのときから、楽しもうと思えるようになりましたね」
――スタジアムにいらっしゃる、様々なファンの方と感情的に深くつながることもできますしね。
「ええ、今は父(注:ジャパネットたかた創業者・前代表取締役の髙田明氏)がジャパネットという立場も含めて、V・ファーレン長崎の社長としてメッセージを出してくれています。でも将来的に父が抜ける時があれば、今度はやはり親会社側として、私が何らかの発信をしなければならない。
そういう時が来たときには私自身が表に出ていって、さらに多くの人たちとつながっていければなと思っています」
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