これまで多くの企業が部活動(実業団)の統廃合を行ってきた中、近年、逆にスポーツを積極的に活用して成功を収めてきた企業がある。日本郵政は2014年に女子陸上部を設立すると、チームは10年間で強豪としての地位を固め、企業ブランドの向上にも寄与している。
企業が部活動を持つ意味とは?また、スポーツをどのように活用すればよいのか?日本郵政株式会社 スポーツ&コミュニケーション部の千葉岳志氏に聞いた。(聞き手はHALF TIME山中雄介)
千葉 岳志氏(写真左)
日本郵政株式会社 スポーツ&コミュニケーション部 部長
日産自動車株式会社にて約28年間、コミュニケーション、ブランディング、マーケティング等を担当。その傍ら、2000年に府中アスレティックフットボールクラブを設立し、現在は会長を務める。2023年より日本郵政株式会社で現職。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了(スポーツ科学修士)、早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。
山中 雄介(写真右)
HALF TIME株式会社 Chief Communications Officer
日系・外資系の広報PR代理店、ブランディング会社等を経て2019年HALF TIME参画。メディア、カンファレンスの運営から法人向けのPR・ブランディングサービスの提供まで幅広く担当。英ブライトン大学修士号取得(MSc International Event Management)。
日本郵政グループ女子陸上部については、同社のオウンドメディア「JP CAST」向けに2022年から取材を重ねている。
日本郵政グループはなぜ女子陸上部を立ち上げたのか?
山中:日本郵政グループ女子陸上部は2014年の設立。その後10年間で実業団女子駅伝の最高峰、クイーンズ駅伝で4度の優勝を果たすなど成功を収めてきました。まず初めに、女子陸上部をつくったのは、どのような経緯があったのでしょうか。
千葉:2007年の「郵政民営化」がひとつのきっかけです。郵政事業が、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命と、持株会社である日本郵政の4つの会社に分かれました。「グループの一体感がなくなっていくのをどうにかしたい」という話が、当時あったそうです。そこで、スポーツの力を活用しよう、実業団スポーツを持ってもいいんじゃないかと議論になったのです。
山中:その中でも、女子陸上に目をつけた理由とは?
千葉:郵便と駅伝の親和性が高いことに注目したそうです。かつて郵便が「飛脚」と呼ばれた時代には、一人が中継地点まで走って、次の人がまた中継地点に走って…と手紙を届けたんです。それって、まさに駅伝じゃないかと。当時、男子は他社のチームが多かったこともあり、女子の陸上部を作ることになりました。
目的は、陸上部の強化、地域・社会貢献、そしてグループ社員の一体感の醸成の3つ。本社広報部のもとで活動をはじめましたが、より活動を広げるため、2023年にスポーツ&コミュニケーション部として独立したというのが成り立ちです。

「女子陸上部には無限の可能性がある」
山中:HALF TIMEは以前から女子陸上部を取材してきましたが、スポーツを本格的に活用していこうという専門部署ができたのには驚きました。
千葉:実は、専門部署を作りたいと経営層に直談判していたのが、女子陸上部の髙橋監督(※)だったんです。チームの強化はうまく進みましたが、その他はなかなか手つかずの状態でしたから。「女子陸上部には無限の可能性がある」というのが監督の信条で、会社に対してもっと貢献できると考えていたようです。
(※髙橋昌彦監督。2014年創部から現在まで監督を務める人物。かつては小出義雄監督の下、コーチとして高橋尚子選手をサポートした経験もある)
山中:ちなみに、千葉さんはどのような経緯で参画するようになったんでしょうか。
千葉:実は、髙橋監督とは早稲田大学の大学院で同窓だったんです。10年ぶりに連絡がきて、話を聞くと、「実は新しい部署を作ろうと思っていて…」というわけで。今となっては「僕の役目は女子陸上部の強化だから…」なんて言うから、いろいろ任せてもらっていますよ(笑)。

スポーツ&コミュニケーション部の現在地
山中:では、スポーツ&コミュニケーション部の取り組みについて教えてください。
千葉:女子陸上部の運営と共に、グループ社員の健康増進を図ること、そして社員を通して地域社会の活性化に貢献することを基本スタンスにしています。「スポーツを通じたグループ企業価値の持続的向上」が目指すところであり、「スポーツのチカラでニッポンをゲンキに! powered by Team JP」というキーメッセージも定めました。
具体的な活動でいうと、昨年からももいろクローバーZの皆さんに“日本郵政グループスポーツ応援アンバサダー”に就任いただき、一緒に「MEKIMEKI体操」を展開しています。多くの方々に身体を動かすきっかけを提供するものですが、この取り組みを通じて企業としてのブランド力の向上にもつながればと思っています。
千葉:調査をすると、MEKIMEKI体操を知っている人と知らない人で、日本郵政グループに対する企業好感度に違いが出ることが分かりました。体操を知っている人の好感度が、知らない人の倍ほどあるという結果になったのです。
「日本郵政グループが健康経営に熱心な会社だ」というイメージを持ってくれる人の割合も多くなる。就職したいと思ってくれる人や、グループ社員の中で「これからも働きたい」という人が高くなることも分かっています。ブランド力を上げる一定の効果があるということです。
とはいえMEKIMEKI体操はグループ社員の80%が知っていますが、世の中的には15%程度しか認知がない。でも、こういう数字が取れているということが重要なんです。いい数字も悪い数字も明らかにすることで、今後の活動に活かしていけますからね。
山中:そうした「基盤整備」が2023年から24年だったというわけですね。
千葉:はい。今後はこれらの数字を定点観測して、効果測定をしていきます。例えば女子陸上部は社内で100%に近い認知度がある。ですからその次のステージに進んで、彼女たちの頑張りを通して「元気をもらえる」とか「誇りを感じる」といった結果を得ていくことを目指しています。

スポーツの影響力を社内外で活かしていく
山中:今後に目を向けると、さらに注力していきたい活動はありますか。
千葉:現在も社内報などを通じてMEKIMEKI体操を広める活動を行っているんですが、今年は体操を自ら伝えていける社員を増やしていきたいと考えています。また、社外でもこの1年で動画再生数2,650万回以上、全国900以上の保育園や幼稚園で採用いただくなどしていますが、社会課題解決のツールとして、本当の意味での普及・定着に向けてはまだ道半ばといったところです。
山中:全国に広がる日本郵政グループならではですね。支社や店舗が広域にわたると、どうしても本社との距離が生まれてくる。そのギャップを埋める「エバンジェリスト」が必要です。

千葉:郵便局は全国に約2万4000局、グループの社員数は約36万人にのぼります。スポーツを経験してきた人たちもたくさんいるので、そうした人材を活用しない手はありません。
山中:日本郵政グループには、“郵便局の魅力を発信する”オウンドメディア「JP CAST」があり、まさに社員の方々を通して取り組みを伝えていますね。
千葉:「JP CAST」は広報宣伝部が担当していますが、定期的に女子陸上部のトピックを取り上げてくれるので、ありがたいです。「社員の素顔を届ける」というのがコンセプトなので、アスリートとは相性がいいんだと思います。
女子陸上部はYouTubeやInstagramなどのSNSで発信をしていますが、スポーツ&コミュニケーション部の定例ミーティングに広報宣伝部のメンバーが同席してくれたりと、連携をとりながら運営しています。プレスリリースは広報宣伝部に負けないくらい出すぞと頑張っていますので(笑)、ぜひこれからも楽しみにしていてください。
企業はスポーツを通して社外の認知拡大だけでなく、好意度の向上や企業イメージの変化をもたらすことができる。“売り手市場”の現在、入社意向度や入社後の勤続意向も重要な指標だ。協賛活動から部活動(実業団)まで、企業のスポーツへの取り組みは、その存在意義を見出すことで、現代ならではの企業課題を解決する手段になるに違いない。
◾️HALF TIME制作の女子陸上部コンテンツはこちら
【クイーンズ駅伝2024】創部10周年で4度目の優勝‼ 「つなぐプライド」で女王の座を掴み取った日本郵政グループ女子陸上部。その舞台裏に密着!
意外な回答続出? 日本郵政グループ女子陸上部 歴代キャプテンが選ぶ「チームNo.1」は誰だ!?
上記の他にも実績は多数。スポーツアセットの活用について関心のある方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。