ラ・リーガはいかにアジアで「プレミアリーグの牙城」を崩したのか? グローバル戦略とローカルでの取り組み

アジアでは歴史的にイングランド・プレミアリーグの人気が高かったが、そこに近年割って入ってきたのがスペインサッカーリーグの「ラ・リーガ」だ。国外拠点の整備や各国の「駐在員」の配置など国際化を図るラ・リーガには、確固たるグローバル戦略とローカルで進める取り組みがある。

ラ・リーガでアジア市場責任者を務めるイバン・コディナ(Ivan Codina)氏がシンガポールから来日し、今月都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALFTIME カンファレンス2024 Vol.2 supported by アビームコンサルティング」で語った。

ラ・リーガのグローバル戦略と「放映権」の密接な関係

スペインのプロサッカーリーグ「ラ・リーガ」に所属するクラブは、1部が20クラブ、2部が22クラブ。レアル・マドリードCFやバルセロナFCなど世界的なビッグクラブや、久保建英を擁するレアル・ソシエダなど日本で馴染みの深いクラブも多い。

ラ・リーガはリーグ運営だけでなく、国内外での放映権の販売や各クラブの国外での事業拡大支援まで幅広く役割を担っている。特に放映権については、2013年に、それまで各クラブが個別に販売していたものがリーグによる一括販売に変更されたことは当時画期的だった。

リーグが放映権を管理することで、放映権収入を各クラブに分配する基盤を整えることができ、各クラブの財政安定化をもたらした。選手移籍に関わる費用はそのうち一定割合しか使えず、それ以外のクラブ経営、事業にもバランスよく配分することをルールとして定めたことも大きい。

コディナ氏は「2013年以前はいくつかのクラブが破産に直面していたような状況だった。長い道のりだったが、競争力あるリーグを運営するにはガバナンスが大切になる」と説明した。

ラ・リーガ Managing Director, SEA - Japan, S. Korea & Australia イバン・コディナ氏(左)

アジアで存在感を増すラ・リーガ

セッションのモデレーターを務めたTEAMマーケティング岡部恭英氏は、「現在のスポーツビジネスで収入のうち最も大きな割合を占めるのは放映権。これはスポンサー料収入よりも多い」と解説。コディナ氏も「全体の戦略の中心にあるのは、放映権の価値を高めること」と同調する。

ラ・リーガは国外に9つの拠点を置き、シンガポールは東南アジア、日本、韓国、オーストラリア市場を管轄するオフィスとして2017年に設立。コディナ氏は代表を務める。また、重点市場の国に配置される駐在員(デリゲート)も現在世界で45人おり、日本もそのうちのひとつだ。

現地のファンや放映パートナーなどステークホルダーとの物理的な距離を縮め、リーグの認知度、人気度の向上を目指す。岡部氏は「アジアは歴史的にプレミアリーグの人気が高かった。その中で存在感を増してきたのがラ・リーガだ」と説明する。

「7年前、ラ・リーガはアジアでは知られていない存在でした。アジア出身選手の少なさやキックオフ時間の影響もあり、北米、中南米、アフリカなどに比べると人気は劣っていたのが事実です」(コディナ氏)

リーグでは、その後、毎節3〜4試合程度をアジアの時間帯を意識したキックオフ時間にするなどの施策を実施。最も人気の高い試合であるレアル・マドリードCFとバルセロナFCが対戦するスペインダービー「エル・クラシコ」でも行った。

モデレーターを務めたのはTEAMマーケティング シニアバイスプレジデント APAC代表の岡部恭英氏(右)

「ジャパン・ウェイ」を学ぶ。ラ・リーガにとっての日本

放映権の価値を高めるためには、そもそも「いかにファンに応援してもらうか」という命題がある。ラ・リーガでは現在、そのカギは「デジタル」にあると取り組んでいる。

リーグでは世界20以上のSNSプラットフォームでアカウントを展開し、現地の言語で運営するだけでなく、いかに各国の人々と文化に関連させられるか、コンテンツのローカライズを意識している。

また、コディナ氏は「Jリーグから学ぶことは多い」とも言う。Jリーグとは2017年に戦略的連携協定を締結し、競技面や事業面での活動を共有している。ラ・リーガが国外のリーグとこのような協定を結ぶのは日本が初めてで、「非常に重要な市場」(コディナ氏)と位置付けられている。

直接的なファンづくり以外にも、日本は才能ある次世代の発掘の場にもなっている。

現在、7つのラ・リーガのクラブが日本にアカデミーなどの拠点を置くほか、ラ・リーガ自体でも有望な選手をマドリードにあるハイパフォーマンスセンターに招待したり、各クラブのトレーニングに参加できるようサポートしたりしている。

日本サッカーの成長には目を見張るものがあるとコディナ氏は強調する。

「日本のサッカーは間違いなく成長過程にあり、才能あふれる選手も多い。日本は(2022年カタール)W杯でスペインを敗っているので、結果でも証明しています(笑)。これから重要になるのは、この成長とJリーグの盛り上がりをどう次につなげるか。私たちも“ジャパン・ウェイ”を学んでいます」

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