「異例」のJリーグ3クラブ同時スポンサード。マネーフォワード辻庸介社長に聞く、「スポーツの価値を高める」パートナーシップとは?

コロナ禍真っ只中の2020年秋、横浜F・マリノス、北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡と、Jリーグの歴史ある3クラブのスポンサーとなったことを発表したマネーフォワード。異例ともいえるその決断の裏には、どのような狙いがあったのか。同社代表取締役社長CEOの辻庸介氏に、HALF TIME代表の磯田裕介が聞いた。

ワクワクと熱狂。「スポーツの力を信じている」

マネーフォワードは2020年10月、横浜F・マリノスのトップパートナー就任を発表。翌日の名古屋グランパス戦は冠試合「マネーフォワードDAY」として開催された。

磯田裕介(以下、磯田):まずは、今回横浜F・マリノスとトップパートナー契約を、北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡とパートナー契約を結ばれたわけですが、辻社長は「スポーツ」をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

辻庸介(以下、辻):スポーツの力を信じている、という言い方が一番合いますね。私自身テニスをプレーしたり、Jリーグ発足前から木村和司選手を応援したりしていまして、スポーツのワクワクと熱狂は何ものにも代えがたいと感じているんです。

なんとかスポーツに貢献できないかと、2年くらい模索していました。その間に、スポーツビジネスに関わる方にお会いしながら、業界のことやスポーツのカルチャーなどを学ばせていただきました。同時に、ご一緒できる機会を模索していたんです。

しかし、ただスポンサーとしてお金を出すだけではなく、スポーツの持つ力をレバレッジしていけるような形で応援したいと考えていました。

磯田:3クラブほぼ同時に、というのは、なかなか思い切った決断だったと思うのですが、1クラブずつ、パートナーとなった経緯をお伺いできますか。

辻:まずは横浜F・マリノスですが、チームの「アタッキング・フットボール」というプレースタイルが、当社の「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションと合致することが魅力に映りました。

当社は創業8年、個人で約1100万人、法人は中小企業から中堅企業までさまざまなお客さまにご愛顧いただいていますが、次のステップに進まなくてはならない時期です。インターネット業界では認知が上がってきましたが、一般的な知名度はまだまだです。より多くの人に知ってもらい、当社のサービスを活用していただきたいわけです。

横浜F・マリノスというチームは、伝統と歴史のあるチームです。パートナーになることでその知名度や信頼性を共有させていただくことは、当社にとっては大きなメリットがあります。そこで、チームのトップの方々にお会いする機会を設けていただき、じっくりとお話をうかがわせていただきました。チームの方針や運営に対する考え方など、とても素晴らしいもので、ぜひともパートナーとしてご一緒できればと思いました。

3クラブ同時となるスポンサード

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO 辻庸介氏

磯田:横浜というエリアも決め手となりましたか?

辻:そうですね。多くの観客を集めることに成功しているというのは、大きかったですね。そして、当社の社員も試合を見に行きやすいエリアだということも重視しました。

磯田:アビスパ福岡については、どのような経緯でしたでしょうか。

辻:当社は福岡に開発拠点と営業拠点があるのですが、そこの支社長が熱烈なアビスパ福岡サポーターでして、「スポンサードしましょう!」と熱心に口説かれたことが最初に興味を持ったきっかけです。

福岡は、高島市長がITやスタートアップ誘致に注力されていることもあり、日本の地方都市の中で、先進的な取組が進みやすい地域だと感じています。私たちが届けたい企業のDX化推進や生産性向上を実現し、街全体の活性化に貢献したいと思い、パートナーシップを結ばせていただきました。

磯田:北海道コンサドーレ札幌はいかがでしょうか。

辻:こちらも、北海道支社長が強く推したことがきっかけです。北海道にも当社の営業拠点がありますから。でも、それだけではありません。

コンサドーレを支援しているドラッグストアチェーン「サツドラ」社長の富山さんとは以前からの知り合いで、いろいろとお話は伺っていました。サツドラのポイントサービス「EZOCA」から一部をコンサドーレの支援に回す取り組みは、とても素敵だなと思っていました。

北海道の若手起業家がチームを支援しているというのも、いいですよね。サポーターとスポンサーが一体になって、チームを盛り上げている様子が伝わってきていました。そういう熱量に共感したこと、さらに福岡同様、ローカル企業のDX化で私たちが貢献できることがあるのではないかと思い、パートナーとならせていただきました。

(※サツドラホールディングスがコンサドーレと展開する「EZOCAコンサドーレ サポートプログラム」では、プログラムに参加する地域の店舗での買い物について、地域ポイントサービス「EZOCA」を利用した支払い額の0.5%がコンサドーレ札幌に還元される)

上からも下からも風通しのいい企業風土

磯田:アビスパ とコンサドーレは、現場からの提案だったのですね。ボトムアップでスポーツクラブのサポートをすることが決まるというのは、社内に風通しのいい文化が根付いているということかもしれません。辻社長が常に心がけていることは、どんなことですか?

辻:当社は、ルールを作りすぎないようにしています。「ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー(MVVC)経営」を標榜していて、社員はお金の課題をテクノロジーで解決したいというミッションに共感して集まっているので、ゴールを共有しているんです。そのゴールに向かって、自分達が大切にしている価値観やカルチャーを体現しながら、自発的に動いてほしいと思っています。

なので、地方(支店)のリーダーの想いも強いんですよね。熱量が高いので、仲間を巻き込みながら、独自にいろいろ考えて実行に移しています。もちろん失敗もありますが、軸がブレなければいいんです。

新しいチャレンジは「やりたいかどうか」という意志と「会社のMVVCにマッチしているか」が一番大事です。自分で考えることが、何よりも大事なんですね。やらされ仕事ではなく、「自分ごと」にすることで、アイデアも実行力も生まれてきますから。もちろん、かけたコストに見合う結果が求められるのはビジネス上当然なので、きちんと試算もしてから判断しています。

磯田:3クラブを同時にスポンサードするというのは異例だと思いますが、ビジネスの戦略上、なにか意図はありますか。

辻:タイミングはたまたま重なったんです。3クラブともチームやスポンサーのカルチャーとマネーフォワードのカルチャーが似ていたことや、それぞれのチームの担当の方とのご縁をいただき、決まりました。

そして当然これは継続してやっていかなくてはならないので、社内で担当者を募集しました。すると、大勢のメンバーが手を挙げてくれたんです。やっぱり、みんなスポーツが好きなんですよね。

磯田:関東圏は横浜F・マリノス、北は北海道のコンサドーレ、南は福岡のアビスパと、それぞれのエリアで社員が夢中になって応援してくれれば、MCVVが大事と仰る通り、インナーブランディングとしても大きく貢献してくれそうですね。こうしてビジネスとして投資してくれる企業が増えると、スポーツ界にお金が流れることでスポーツ産業が活性化します。

辻:そうですね。スポーツの価値をもっと高めていきたいと思っています。いろんな業界の人が関わることで、スポーツビジネスにも新しい発展があるはずです。ITやデジタルを活用し、スポーツが持つコンテンツを世の中に届けることができれば、スポーツの持つ価値をさらに高めていけると確信しています。

ビジネスでは、スポーツのように感情を爆発させるようなことはなかなかないですからね。そういう意味では、スポーツ唯一無二のコンテンツといっていいと思います。

磯田:スポーツはまさに「筋書きのないドラマ」といえますね。選手が必死になってプレーする姿に、多くの人が惹きつけられます。

辻:お金をかけたチームが必ず勝つわけでもないところも、面白いですよね。さらに日本のスポーツのいいところは、家族連れでも安心して観戦できる環境が整っていることです。ワークライフバランスの大切さが叫ばれる中で、余暇の過ごし方としてますますスポーツが重要な地位を占めてくるんではないでしょうか。

企業とスポーツがビジョンを共にして成長していく

HALF TIME株式会社 代表取締役 磯田裕介

磯田:マネーフォワードさんとして、家族や子どもに対してのアプローチはなにか考えていらっしゃいますか?

辻:お子さんたちに「お金の教育」をしてあげたいですね。セミナーのような座学だけでなく、せっかくスタジアムがあるのでそれを活用しながら、体験型のお金教育なんかもやってみたいです。

磯田:子どもにお金のことを教える機会が圧倒的に少ない現状では、とても貴重な経験になりますね。

辻:お金は人生においてとても大切ですが、ツールなので、うまく活用しながら生きていってほしいんです。子供のころからお金について学ぶ機会はすごく大切だと考えています。教育に加えて当社はテクノロジーの会社でもあるので、テクノロジーでお金の課題を解決することを目指していきます。

磯田:海外へ進出するビジョンなどはありますか。

辻:アジアへの進出は計画しています。すでにベトナムには開発拠点があり、インドネシア最大のクラウド会計会社に出資もしています。今後はベトナムやインドネシアを起点に、アジアでのサービス展開も目指していきたいです。この点でも、3チームと一緒にできること大いにありそうです。

磯田:Jリーグもアジア戦略を考えていますから、ビジョンがとてもマッチしていますね。横浜F・マリノスはトップスポンサーですが、どのような関係性を築いていきたいと考えていますか?

辻:スポンサーとなることを発表してすぐの日産スタジアムの試合を冠試合として開催したのですが、社員が200人も観戦に集まったんです。ウチの社員は全部で900人くらいで、地方にいるメンバーもいるから、すごい割合ですよね。いまはリモートワークを推奨しているのでオフィスには社員が少なく、久しぶりにあんなに集まりましたね。

でも、もっと驚いたのは、チームも選手も、そしてサポーターも「マリノスファミリー」としてウェルカム感いっぱいで迎えくれたことです。スポンサードを発表した翌日の試合だったのに、手作りの横断幕を作ってくれたことには感動しました。

チームは試合に勝って、マン・オブ・ザ・マッチの表彰をさせていただいたですけど、すぐに引っ込もうと思ったら、キャプテンがピッチに呼んでくれて「“フォワード”なんだから前に!」といって一緒に写真を撮ってくれたんです。

スポーツはあくまで「選手が主役」ですからね、スポンサーが前に出るなんて想像していなかったので、それは驚きました。選手が歓迎してくれると、スポンサーとしてももっと応援したいと思っちゃいますよね。

磯田:サポーターにアンケートを実施したら、多くの回答があったそうですね。

辻:サポーターのみなさんはSNSをよく利用しているようなので、リアルタイムで盛り上がってくれたみたいです。アンケートもツイッター経由だったのに、たくさん反応がありました。マリノスとマネーフォワードの向かうところが似ている、という意見があったりして嬉しかったですね。

相乗効果で共に飛躍するパートナーシップ

冠試合で選手と記念撮影をする辻社長(中央)。隣には、ユニフォーム(パンツ)に入ったマネーフォワードロゴを見せるDF小池龍太選手。

磯田:スポンサーとして今後どのようにサポートしていく予定ですか?

辻:スポンサーとしては、チームの価値を上げるために貢献すること責務だと考えています。そこで、チームブランディングの専任人材を採用して、3チームを超えてリレーションを作って活動していく予定です。さらにスポーツビジネスを理解して、私たちが得意なデジタルの領域で新しい取組を提案していきたいと思っています。

磯田:長期戦略として、スポーツチームのスポンサーをしていくということですね。これまでのスポンサーは地元のチームだからという理由で、寄付のような感覚で援助する企業が多かったですが、御社はちょっと違いますね。

辻:会社が成長していけば、よりスポーツに貢献できるはずです。スポンサードを通して、クラブの価値向上に貢献していきたいですね。当社には「Speed」「Pride」「Teamwork」「Respect」「Fun」という5つのカルチャーがあります。

どのカルチャーもスポーツに通じるところがあると思うんです。パートナーとして自分達のカルチャーを体現しながら、チーム、サポーターのみなさんと一体になり、応援していきたいですね。そして、世の中にワクワクを少しでも増やし、チャレンジする人を応援していく会社でありたいと思っています。

 
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