データが物語る日本ラグビーの未来像(1)国内ラグビーの人気低迷を打破するには

アジア初となるラグビーW杯開催、そして新たなプロリーグ構想の発表。日本ラグビー界に変革の追い風が吹いている。はたして日本ラグビーはいかなる可能性を秘め、何を目指していくべきなのか。長年、観戦者調査を実施してきた早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授に、日本スポーツマネジメント学会での調査報告に合わせて、未来への指針について聞いた。(聞き手は田邊雅之)

ラグビー界に不足していた「地域密着」

ラグビーW杯2019日本大会がいよいよ開幕する。画像=Mitch Gunn / Shutterstock.com

――ラグビーW杯がいよいよ開幕しますが、日本ではラグビー人気の低迷が長年指摘されてきました。1970年代や80年代には国民的人気を誇ったにもかかわらず、90年代から人気が低下。2003年にはトップリーグが発足し、人気回復の起爆剤になるかと期待されましたが、なかなかテコ入れにはつながらなかった。理由はどこにあるのでしょう?

「私がラグビーの調査に関わったのはここ3年4年くらいですが、(今年)7月に大阪で日本スポーツマネジメント学会のセミナーを行った際には、1995年のラグビーW杯南アフリカ大会で、日本がニュージーランドに17対145で大敗したのを機に、一気にラグビーファンが離れたということが指摘されていました。

これは日本で1993年にJリーグが発足し、サッカーが人気になっていくタイミングと重なっていたんですね。たしかにJリーグも最初の『ハネムーン期』を過ぎると人気は落ちるんですが、2002年にW杯が行われたのをきっかけにファンが戻り、定着していく形になった。サッカーの場合は、同じ頃から地域密着型のアプローチが浸透していたったことも、人気の安定化に貢献したと思います」

――サッカーと対照的だったのがラグビーということですね。

「ええ。そもそもスポーツの場合、『アイデンティフィケーション(チームとの同一化)』が非常に重要になります。一般の人たちはチームとのつながりを見出し、自分の代わりにチームが活躍するという関係性を求めているからです。そこで鍵を握るのが、地域密着型の運営になる。精神的な結びつきがなければ、応援しに行こうという気持ちにはなりませんから。

ラグビーに関しては、いくらトップリーグを作ったからといって、各チームが地域に密着しなければ、応援する理由がないということになってしまうんです」

見るスポーツに必要な「自分とのつながり」

――トップリーグが発足する以前、日本のラグビー界では新日鉄釜石や神戸製鋼など、地方にあるチームが人気を博していました。当時は地域密着型の運営を行っていると受け止められていたわけですが、実態は異なっていたのでしょうか?

「我々はこの3年間、いつからラグビーファンになったかという視点で調査をしてきました。まず一つのグループを形成しているのは、いわゆるテレビドラマの『スクール・ウォーズ』でラグビーに興味を持った世代です。私もちょうどそれ前後の世代に当たりますが、当時は大学ラグビーも社会人チームもともに人気があった。

ただし日本の場合は『スクール・ウォーズ』よりも前の世代、新日鉄釜石が強かった時代からのラグビーファンも存在する。そこで細かくセグメント化して分析をしていくと、実は一つ前の世代は『全国区』のファンが多いことが分かるんです。

これはプロ野球でいえば、昔は日本中どこに行っても、読売ジャイアンツのファンが多かった状況に似ています。日本における『見るスポーツ』の黎明期というか、テレビが普及し始めてスポーツ観戦が一般的になり始めた頃は、ラグビーでも全国区で人気を集めるケースが多かった。

しかし時間の経過と共に、見るスポーツは多様化して、選択肢が増えてくる。しかも一般の人々がスポーツを見る目も肥えてくると、やはり最終的には地域密着型の運営をしていて、自分とのつながりが強く感じられるスポーツに落ち着くことになる。

こういう流れを踏まえれば、新たな時代の流れにうまく移行できたサッカーと、できなかったラグビーという解釈になると思います。確かに潜在的には、ある程度のラグビーファンがずっといるのですが、ラグビーというスポーツそのもの以外のなんらかの要素が理由で積極的にチームを応援するファンが獲得できなかったのではないか、という印象を受けますね」

ファン歴(ファンになった時期)によるセグメンテーション。各セグメントの特徴を把握することで、マーケティング戦略に活用できる。図=編集部作成

――『ラグビー以外の理由』を確保する上でも、地域との繋がりが重要になる。

「ええ、やはり『地域』はキーワードになると思います。確かに日本やアジアでは、レアル・マドリードやバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドといったヨーロッパのサッカーチームが人気を誇っている。こういうクラブの場合は地理的なつながりがなくとも、圧倒的に強かったり有名だということで、ファンがついてくる。日本で言えば昔のジャイアンツ、ラグビーなら新日鉄釜石や神戸製鋼が全国的な人気を誇っていたのに近いと思います。

しかし、そこまでチームが強いとか、圧倒的な知名度があるわけではない場合には、ファンがつながりを見出すための別の要素が不可欠になる。そこで大事になるのが地域とのつながりなんです。その点、Jリーグの場合は鹿島といえば鹿島アントラーズ、磐田と言えばジュビロの磐田の名前がすぐに出てくるわけですが、ラグビーの場合は、どのチームがどこを拠点に活動しているかというのも、あまり知られていないと思うんですね。例えば東芝のラグビーチームにしても、府中という地名が挙がった時に、多くの人たちがすぐにラグビーを連想するような存在にはなってこなかったのが実情ではないかと」

全国区のファン獲得を目的とした旧来の発想から、地域に密着した「ラグビー以外の理由」の掘り起こしへ。それがラグビー人気を復活させる鍵となる。次回は地域密着型マーケティングの骨子について伺う。


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