ラ・リーガが実践する「パッションポイント・マーケティング」とは何か?【HALF TIMEアカデミー第三講レポート】

世界で活躍するスポーツビジネスパーソンから直接学べるオンライン講義『HALF TIME Global Academy』。第三講となる8月18日の回は、ラ・リーガでアジア地域のマーケティング責任者を務めるラッセル・タン(Russell Tan)氏を迎えて、「スポーツマーケティング論」が繰り広げられた。

第一講:「eパートナーシップ」の発想も。ラ・リーガが取り組む、グローバルパートナーシップ最前線【HALF TIMEアカデミー第一講】

改めて考える「スポーツマーケティング」

HALF TIME Global Academy 学長 中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)

『HALF TIME Global Academy』は第三講を迎え、まず、学長の中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)が、第一講「グローバルスポーツビジネス論」と第二講「アジアスポーツビジネス論」を振り返り、このコロナ禍で求められる「柔軟性」と「テクノロジー活用」についての話題が多かったと総括。

国内だけでなく、世界に向けてデジタルでどうビジネスを拡大していくのか。スポーツ業界に限らず多くのビジネスが抱えるこの課題に対し、試行錯誤を繰り返しつつも新たな施策を考えているビジネスリーダー達の言葉は、受講生にとっては学ぶべきことが多いと語った。

今回の第三講には、スペインサッカーリーグ「LaLiga」でアジア地域(日本、韓国、オーストラリア)のマーケティング責任者を務めるラッセル・タン氏が講師として登場。ライツホルダーとスポンサー両側の視点からスポーツマーケティングについて解説してくれた。

「スポーツマーケティングはエモーションとパッション、そしてストーリーを伝えるパワーがある」

タン氏は、この言葉からセッションをスタートさせた。ラ・リーガでアジア地域のマーケティング責任者を担うまでの自身のキャリアを紹介していく中でも、ストーリーを伝える大切さを強調。自らの強みや特徴を知ってもらうことで共感やブランドイメージを作るという、マーケティングの重要点を自己紹介でも表現してくれた。

冒頭でさらに述べたのは、「マーケティングは世界を変えることができる」という言葉。これは現在、今まで以上に信憑性があるとタン氏はいう。スポーツマーケターにはエンターテインメントを提供するだけではなく、新型コロナウィルスに対抗するための「一体感」を生み出し、世の中に「希望」を届けることが求められているからだ。

スポーツは国や文化の壁を越えて、ある種の一体感を生み出す。この一体感が体験として積み重ねられ、「スポーツは自分の一部にさえなる」と同氏はいう。自分の応援するチームが負けた次の日に学校へ行く時の悔しさ、そして同じチームを応援することで友達となる一体感は、スポーツがもはや自分の人生の一部であるということだ。

一体感を味わう瞬間はチームの勝敗だけではない。応援するクラブを支援するスポンサー企業の商品に対して愛着を持つ、またはクラブやリーグが発するメッセージに好感を持つことでも感じられる。この「つながり」を作っていくのもスポーツマーケティングにおいては非常に重要だ。

これを、ラ・リーガのようなライツホルダーが自身のマーケティングをしていくのか(Marketing of Sport)、それとも、ラ・リーガを通したパートナーのマーケティングを展開していくのか(Marketing through Sport)という2つの観点を意識することが、スポーツマーケティングにおいて重要だと、タン氏は説く。

「スポーツマーケティングの中心は、消費者」

消費者にコンテンツやニュースを届け、高ぶる感情を生み出すことができれば、それは何事にも変えがたい「体験」へとつながる。それはスポーツ時代が作り出すドラマ性もあるが、マーケティングを通して生み出すこともできる。その接点を作っていく考え方をタン氏は「パッションポイント・マーケティング」と呼ぶ。

スポーツマーケティングでは、主人公となるのはブランドではない。重要なのは「ストーリーをどう伝えるかにある」と、タン氏はいう。

国や地域によってローカライズの必要性はあるが、応援するファンやサポーターの物語、そしてチームや試合にまつわるストーリーは世界共通で伝わっていく。特に欧州では、親から子など何世代も通して1つのクラブを「継承」して応援し続ける文化もある。

この「ストーリーテリング」をうまくマーケティング手法としてキャンペーンに活用している例として、タン氏は、スポーツイングランド(Sport England:イングランドのスポーツ政策を統括する組織)の女性アスリートをエンパワーするキャンペーン「This Girl Can」、P&Gによる、アスリートを支える「親」に焦点を当てたコミュニケーション「Thank You Mom」などを挙げた。

スポーツを通して人々や社会が前進し、アスリートとしての自信や家族の絆が生まれる様子を映し出すなど、スポーツ団体やパートナー企業が強いメッセージを伝えた好例である。

ラ・リーガをグローバル市場に

ラ・リーガのアジア地域マーケティング責任者 ラッセル・タン氏

ラ・リーガのマーケティング戦略において、日本という海外市場を含むグローバル市場も欠かせない。

乾貴士、香川真司、岡崎慎司、久保建英。現在ラ・リーガには日本サッカーの歴史を彩る4人の選手が在籍している。リーグに所属する日本人選手を通して目指すのは、日本のファンとの距離を縮めていくことだ。そのために、「リーグ、クラブ、選手達のストーリーを伝え、その地域との関連性(ローカル・レレバンス)を作っていくことを意識している」(タン氏)という。

スポーツ界の中で他リーグや他競技とファンを奪い合うのではなく、ネットフリックスなど他のエンターテインメントを競合として捉え、そのリーチはサッカーファンだけに留まらない。(ラ・リーガの)ハビエル・テバス会長曰く、各国の国内リーグと協働して「各市場で常に2番(=国内リーグの次の存在)」を目指すことを心がけているという。

選手や指導者育成、そして経営面を含め多岐に渡ってラ・リーガが培ってきたノウハウを各市場に共有することで、サッカーのレベルを世界中で高める取り組みだ。Jリーグはその戦略的連携協定を結んだ初めてのリーグとなり、ラ・リーガが日本を市場としても大きく見ていることが伺える。

ラ・リーガが各市場で行う施策は、第一講でディエゴ・サンチェス氏が細かく解説してくれたが、タン氏は、スペインの文化からラ・リーガを知ってもらうために開催しているイベント「ラ・リーガトーク」なども紹介してくれた。

スポーツマーケティングの「成功」の定義を考える

スポーツマーケティングの「成功」は、一概には定義できないかもしれない。だがその成功に向けて重要視する3つの要素の変遷をタン氏は教えてくれた。

まずは、かつての企業ロゴの露出や広告看板に頼るマーケティングではなく、ファンエクスペリエンス向上への取り組み。そして、スポーツを活用した企業の課題解決。さらには、チームやイベントに対してファンを巻き込み、高揚度を高めていくことだ。

これらと同様に、現代の企業とクラブ両者が各キャンペーンやアクティベーションに合わせたKPIも持つ必要性にも言及した。例えばラ・リーガのパートナーであるビール銘柄「バドワイザー」は、スポンサーをして得るエンゲージメントの数値だけでなく、感謝の声(Thank You Factor)も指標に入れているという。

さらに、これからはよりマーケティングにおけるイノベーションも求められる。タン氏が最後に触れたのは「クリエイティビティーの魔法」を活用することだ。ブランドとその瞬間をつなげ、消費者の感情を揺さぶっていくことが、今まで以上に必要な時代になる。

講義の後にはたっぷりと時間を使って質疑応答がなされた。タン氏は1つ1つの質問に丁寧に答えるなど、講師と受講生の間に広がる濃厚な時間こそが、このグローバルアカデミーの魅力であることを改めて再認識することとなった。

次回、最終講のテーマは「eスポーツ・マーケティング論」。講師にメジャーリーグサッカー(MLS)のeスポーツ・ゲーミング部門でシニアマネージャーを務めるバイオン・ウェスト氏を迎える。コロナ禍で一層注目されるeスポーツを活用したマーケティングの最前線が紹介される予定。第四講のみの参加者も引き続き募集中している。

『HALF TIME Global Academy』公式ホームページ


ラ・リーガのビジネススクール「LaLiga Business School」では、Master in Football Management, Methodology and Analysis、Master in Sports Law Applied to Professional Football、Master in Global Sports Marketingの3つの修士コースを提供中。次回の入学はこの秋11月となる。

LaLiga Business School公式Webサイト[English]