VRからOTT対応まで、メディアプロ幹部が説く「新時代の放映権ビジネス」とは

世界で活躍するスポーツビジネスパーソンからいつでも、どこでも直接学べるオンライン講座『HALF TIME Global Academy』。前回8月の第1期に続いて、この10月から11月にかけての第2期でも、海外のスポーツビジネス最前線で働く外国人講師をゲストに「学び」と「つながり」が提供された。最後となる第四講は、放送事業において20年以上のキャリアを持ち、スペイン大手メディアグループのメディアプロのAPAC CEOを務めるPilar Jimenez(ピラー・ヒメネス)氏による「放映権論」が展開された。

業界20年の講師が説く「放映権ビジネス論」

メディアプロ APAC CEO ピラー・ヒメネス氏

10月から11月にかけて開講された『HALF TIME Global Academy』は第四講を迎えた。これまでには、米USLラスベガス・ライツFCのオーナー兼CEO ブレット・ラッシュブルック氏による第一講「マーケティング論」、米MLSシアトル・サウンダーズFCのクリス・ヘンダーソンによる第二講「強化部(GM)論」、そして同じくMLSニューヨーク・レッドブルズのダレン・マイヤー氏による第三講「スポンサーシップ論」と、日本ではなかなか聞くことが出来ない講義が続いた。

今回のゲストスピーカーはPilar Jimenez(ピラー・ヒメネス)氏。2015年からメディアプロでスポーツライツ、コンテンツ、イノベーション&オーディビジュアルの分野で活躍し、昨年より中国オフィスの開設を経てメディアプロのAPAC CEOに就任。それ以前はスペイン大手のデジタルエージェンシーWYSIWYGや、FOXインターナショナルなどで要職を歴任してきた。放送事業で20年以上のキャリアを持つ同氏から、普段あまり表舞台に出てこない「放映権ビジネス」についての講義が展開された。

新たな収入を生む、新時代の放映権ビジネス

創設から25年、今では7000人近くの社員を誇り、4つの大陸で運営を行うメディアプロ。長期的にどうコンテンツの価値を高めることができるかを一緒に考えることができるパートナーを選定する。お互いにとって利点があり、最終的には放映権の売買だけでなく、コンテンツの価値向上による利益を生み出すことを目指している。

メディアプロでは、従来型の放映権のライツマネジメントだけではなく、大会のマーケティングやブランディングも担う。多角的で現代的な放映権ビジネスともいえる。この根底にあるのは「顧客とともに課題抽出をし、付加価値を提供することで信頼を得ていく」という考え方だ。これはラ・リーガと長年一緒に取り組んできたからこそ生まれた考えだという。ラ・リーガが自国以外で拡大する戦略を掲げていたことから、メディアプロも同じチームとなり、協働することに務めてきたという。「いずれはROI(投資対効果)を考える必要があるが、まずは信頼を得ることが大切」だとヒメネス氏は指摘する。

同社が掲げるのは、「スマートな配信をしつつ、価値を高めていく」こと。まずは放映権を獲得し、パートナーと協働する土台を作った上でOTTやソーシャルメディアのような新しい配信プラットフォームにも果敢に展開する。ここ5年では、新たなビジネスへの投資も急激に増えてきているという。

近年では、カナダ・プレミアリーグやフランスのリーグ1とも契約。世界中のスポーツリーグと提携し、新たな配信チャネルで展開し、ブランドを構築する手助けをする方針は変わらない。現在のコロナ禍で経済的に不安定な状況に陥っている世界中のスポーツリーグにとって新たな収入源の創出は欠かせないが、ただ放映権を売買するだけではなく、共に新たな放映の形をつくり、テクノロジー、マーケティング、コンテンツと放映にまつわるビジネスを360度支えるのがメディアプロともいえる。

他には、F1の管理会社であるFormula One Management (FOM)と提携し、南米でのファン開拓と新たなブランドづくりにも携わる。各市場に適したマーケティング、ブランディングを行うために、メディアプロは世界中に幅広いネットワークを構築し、コンテンツをローカライズさせ、リーグや大会に対して新たな価値を提供する。各スポーツリーグや大会では、自国や開催国だけではなく、世界中にファンを作り新たなビジネスを模索しているのが現代。そのためにはグローバル戦略と徹底したローカライゼーションが不可欠だ。

withコロナ時代に求められる柔軟性

新型コロナウィルスによるパンデミックが起こり、これまでにない年となった2020年。ヒメネス氏は「新規事業開拓に創意工夫が求められる」とも語った。求められるのは柔軟性であり、放映権に関しても各国で何がベストなエコシステムであることを理解することが必要で、「必ずしも独占契約を目指すわけではない」ともいう。

今の時代、AmazonやNetflixのような新興のオンライン配信(OTT)プラットフォームでもスポーツ・ドキュメンタリーは人気を博す。実は、世界的に人気の高いサッカー監督であるペップ・グアルディオラ氏が指揮官となったマンチェスター・シティに密着し、コンテンツを制作したのもメディアプロ。Amazon Primeの『ALL OR NOTHING』は、大人気シリーズとなっている。

このようなドキュメンタリーをリーグやチームのようなコンテンツホルダーと共に生み出し、世界へ発信することは、スポーツファンだけでなくより広いエンタメコンテンツの消費者にもリーチが広がることとなる。ドキュメンタリーに登場する選手やスタッフは様々な犠牲を払ってプロとして人生を歩む。その人間的なストーリーに魅せられる人々も多い。「人に近づくことができるコンテンツは、マーケティングとしても魅力的である」とヒメネス氏はいう。

新たな市場へ展開していくために

グローバルでは、メディアプロは世界各国のリーグの放映権を持ち、年間約4万時間ものライブスポーツを放映している。制作面では常に進化を目指し、世界が注目するレアル・マドリード対FCバルセロナの一戦「エル・クラシコ」では40台のカメラ撮影に加えて、スローモーションやVR(バーチャルリアリティー)などの最新技術も取り入れ、約600人が制作に臨む。

他にも、国際卓球連盟とは「世界卓球選手権」の再構築に向け、コンテンツ製作に最新テクノロジーを活用。スタッフやカメラの台数が少なくても選手のダイナミックな動きや至近距離の映像を撮影できる手法を提供するなど、規模や資金力の小さい大会やリーグにも対応する。ファンエンゲージメントにも力を入れ、「卓球」というコンテンツ自体を制作と放映を通して魅力あるものへと仕立てていく試みだ。

また、中国市場ではラ・リーガと15年にわたる契約も結び、中国での認知度向上を担うために動き出した。すでに10年間、中国市場拡大を目指してきたラ・リーガと共に、今度はeスポーツリーグを中国内でも展開していくことを目指す。通常の試合中継やコンテンツと同じクオリティーで、eスポーツを通じてより若い世代へリーチして、若年層をターゲットにするスポンサー企業を巻き込むことにも取り組んでいく。

最大の商品となるスポーツのライブ配信の質を高めることはもちろん、各市場でカスタマイズした施策を展開し、コンテンツの認知度を高め、ファンとの持続性あるエンゲージメントを続ける。これは何も放映権に限ったものでなく、スポーツ、エンタメビジネスに共通する発想でもあった。

放映権の売買に留まらない、社が展開する多様なビジネスを紹介してくれたメディアプロのピラー・ヒメネス氏。メディアやエージェンシーもライブスポーツの放映を取り扱うだけではなく、チームやリーグと同じようにマーケティングに携わり、ファンを増やすことに取り組んでいる。コンテンツホルダーとメディアの間で躍動する「放映権ビジネス」に関する視点を知ることで、アカデミーの受講生はスポーツビジネスの視野をより広げられることとなったに違いないだろう。

 
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