「アントラーズがファンに忘れられないように…」鹿島・小泉社長が語るコロナ禍のエンゲージメント

コンテンツ配信プラットフォーム noteによるオンラインフェス「note CREATOR FESTIVAL」が先日開催。「これからのファンとの向き合い方」をテーマとしたセッションには、鹿島アントラーズ代表取締役社長の小泉文明氏とアソビシステム社長 中川悠介氏が登壇した。スポーツ・エンタメ業界のトップランナー2人は何を語ったか?キーワードは、情報発信とエンゲージメントだ。

コロナを契機とした、新たな取り組み

「新型コロナの影響で売上の約30パーセントが失われ、正直とても大変な状況にある」

こう吐露したのは、鹿島アントラーズ代表取締役社長の小泉文明氏。一方で、コロナの大打撃を受けたからこそ、様々な取り組みを始めたとも語った。

まず1つ目がクラウドファンディングだ。個人からの寄付はふるさと納税になるという仕組みも用いながら支援を募り、一カ月半で1.3億円が寄附金として集まった。クラブの経営状態を包み隠さずファンに伝え、そのお返しには監督とのサッカー談義などコト消費に近いリターンを設定したという。小泉氏は、「多くのファンがアントラーズへの愛を伝えてくれた」と語った。

次に挙げたのは、アパレルブランド「F.D.」の設立だ。アントラーズの恒久的スローガンである「Football Dream」をコンセプトにしたアパレル商品の展開を8月に発表。クラブがライフスタイルに溶け込んでいくことで、ファンの裾野を広げる狙いだ。他にも、メルカリのデジタル領域のノウハウを活かし、ホームタウンである鹿島地域のデジタル化を推進するコンサルティング事業も開始するなど、従来のサッカービジネスの枠を越えた事業展開を行う。

同じく登壇したアソビシステム代表取締役の中川悠介氏も、エンタメの観点からコロナ禍での取り組みを語った。同社はライブイベントやメディアを通じて、原宿が生み出すポップカルチャーを発信する。興行を中心としたスポーツビジネスともビジネスモデルは似ているといえる。

中川氏は、「(新型コロナで)300本程のイベントやライブが中止になった。現在はオンラインの新たな取り組みを進めている」とし、今までは興行が事業の中心だったが、8月には同社初のプライベートブランド『ASOBIDEPAAART(アソビデパート)』をオープンしたことを紹介。所属タレントが企画・デザインしたグッズがオンラインで購入できるという取り組みだ。

「自分たちでモノを作って売ることで、ファンとの距離の近さを実感した。またTシャツのサイズなどをみると、意外なファン層の発見にもつながる」と同氏は続ける。

「一番の不安は、ファンに忘れられてしまうこと」

メルカリ取締役会長/鹿島アントラーズ代表取締役社長 小泉文明氏

続いて話題は、「コロナ禍で起こったファンとのコミュニケーションの変化」へと移った。

小泉氏は、「試合というコンテンツがゼロになったことで、ファンにアントラーズのことを忘れてほしくなかった」と発言。新しいファンを獲得するよりも、現在のファンをつなぎとめることを重視する姿勢を見せた。

具体的には、ファンとのコミュニケーションを厚くする施策として、情報発信のチャネルを多様化。パートナーシップ契約を結んでいるTikTokにクラブの公式アカウントを開設するなど、コアなファンを飽きさせず、これまでにないアントラーズの姿を届ける取り組みを行っている。

一方で、afterコロナも見据える。代表格は、5Gを土台にしてコンテンツを絡めた、次世代のスタジアム体験だ。「現在の制限のもとで来場するコアなファンの熱量をキープし、その後1万人、2万人のサポーターが戻ってきたときに、スタジアム体験をいかに価値あるものにして、熱量を高めるかが重要」と、小泉氏は説く。

中川氏は、情報発信のスタイルが変化したと指摘。今まではマネージャーがタレントを守りながら情報を発信していく保守的な傾向が見られたが、現在はタレント自身が情報を細かく発信するようになったという。インスタライブやタレント同士の同時配信、ファンと一緒にイベントを企画するファンクラブミーティングなどは、コロナ禍から生まれた新たなファンとのつながり方だ。

コンテンツの価値基準が変わる

アソビシステム株式会社 代表取締役 中川悠介氏

ファンとの新たなつながりを模索する中で、小泉氏は「歴史があるクラブだからこそできること」を実感したという。それは、既存ファンのエンゲージメントだ。

例えば、YouTubeの公式チャンネルでOB選手をゲストに過去の名試合を放送し、ギフティング(投げ銭)システムを導入したところ、試合結果がすでに分かっているにも関わらず多くの視聴者がゴールシーンでギフティングを行い、大盛況となったという。「昔からのファンは懐かしく、最近ファンになったばかりのサポーターは、さらにアントラーズを好きになってくれている」と、小泉氏は話す。

これについて中川氏は、「新しいファンは、過去のコンテンツに対しても思った以上にプラスな反応を示してくれる」と共感。コンテンツの価値に対する判断基準は、「新しいか古いか」だけではなくなってきており、新しいコンテンツの追求だけがすべてではないという実感をコロナ禍で得たと語った。

ファンクラブのあり方も変容

両者が共通して意識しているのは、新たなファンクラブのあり方だ。選手とファン、クリエイターとファンの関係性は、コロナ禍で変容を遂げつつあるとそれぞれ指摘した。

小泉氏は、多面的なファンとのコミュニケーションを設計するために、個々の選手の情報発信とコンテンツを強化する考えを示した。現在のファンクラブはチームに紐づいているが、選手一人一人のファンクラブにすることも構想しているという。まさに、「個の時代」に合わせたファンエンゲージメントといえる。

一方の中川氏は、「僕たちは逆に、個のアーティストのファンクラブのみがある」と切り出し、「そこから会社に興味を持ってもらえるような『ファンクラブ2.0』の取り組みをしたいと考えている」と語った。タレントを通してファンがアソビシステムという会社を知るという構図は、先出のアントラーズにも似る部分がある。両者は対照的なファンクラブのあり方を描きながらも、共通するのは「変化が起きている」ということだ。

対談の最後に、小泉氏は改めてこうビジョンを示した。

「今までの常識を破り、ファンとの新しい関係性を築くフェーズにきている。多様なツールを活用してライフスタイルを提供し、文化を作るチームに進化していきたい」

 
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