スポーツビジネスジャパンで提示された、日本スポーツ界の未来を拓く2つの「チャレンジ」

スポーツビジネスの専門展示会&コンファレンス「スポーツビジネスジャパン」が10月6日、開催を迎えた。オンライン展示会とコンファレンスで構成される本イベント。LIVE配信は2日間で24セッション、現在はうち22セッションがオンデマンド配信中だ。オフィシャルメディアパートナーのHALF TIMEでは初のオンライン開催となった同イベントのLIVE配信されたコンファレンスプログラムを中心にレポートをお届けする。

オンラインならではのコンファレンス&展示会に

スポーツビジネス促進とスポーツを通じた地域活性化のための専門展示会&コンファレンス「スポーツビジネスジャパン」。毎年恒例となったスポーツビジネス界の一大イベントは、2020年は新型コロナウィルスの影響により、10月6日から30日にオンラインで開催。

初日から2日間にわたってLIVE配信で行われたコンファレンスプログラムには、シリコンバレー、ニューヨーク、ジュネーブなど海外からの登壇者も多数参加し、オンラインならではの様相に。2日間で24セッションが配信され、うち22セッションは現在オンデマンドで視聴可能だ。また、企業と関係者を結び産業振興の場となる展示会もオンラインで展開。10月30日まで特設サイトに訪問でき、チャット機能で担当者とも会話ができるなど工夫が凝らされている。

例年とは違った形で開催された「スポーツビジネスジャパン」。多くのスポーツイベントが無観客または制限付きでの興行を余儀なくされ、新たな収入源を見出すことが急務となっている。そんなコロナ禍での課題やスポーツ界の現状について、コンファレンスプログラムでは様々な角度からのセッションが行われた。

その中でも特に現在のスポーツで重要な2つのテーマを扱ったセッションにフォーカスしてレポートしたい。1つ目は、試合やイベントが延期となり、活動の幅を広げることが求められたアスリートに迫った「デュアルキャリア」の在り方。2つ目は、コロナ禍では急激に最新情報・動向が注視さるようになった「スポーツテック」。これらについて次に掘り下げていく。

コロナ禍で加速する「デュアルキャリア」

右上から時計回りに)廣瀬俊朗氏、藤沢久美氏、播戸竜二氏、奥村武博氏

初日に開催されたセッションの1つのテーマは「アスリートのデュアルキャリアは、誰がサポートするべきか?」。試合が中止となったコロナ禍は、多くのアスリートにとって自分の存在価値を考える機会となったが、この現状を前にして現役引退後に独自のキャリアを歩む三名のパネリストが登壇した。

サッカー界から播戸竜二氏、野球界から奥村武博氏、そしてラグビー界からは廣瀬俊朗氏。モデレーターを務めたのはJリーグ理事でもあり、シンクタンク・ソフィアバンク代表を務める藤沢久美氏。

日本では「アスリートは、現役中は競技に集中するべき」という考え方が根強い。その中で、例えばアスリートとビジネスパーソン・経営者といった複数のキャリアを並行して歩む「デュアルキャリア」について、いつ・どのように考えていくべきなのかという議題からセッションは始まった。

競技特性も影響するデュアルキャリアとの向き合い方だが、3名において共通していたのは、ぼんやりとしていても早い段階からアスリート以外の世の中の仕事や社会の仕組みについて視野を広げておくべきという考えだった。

デュアルキャリア、実践のヒントとは

どんなアスリートにも必ずやってくるのが「引退」という現実。だが元サッカー日本代表で現在はJリーグの特任理事も務める播戸氏が強調したのは、「若い段階では、選手達はデュアルキャリアの重要性が分からない」というものだ。そのために周囲の大人やOBが視野を広げる仕組みを作る必要があるが、播戸氏は「日本はこれから作っていく段階にある」と指摘する。廣瀬氏もこれに同調し、「スポーツ=ライフ(競技をすることだけが人生)」という考え方を、仕組みで変えていく必要があると主張する。

各競技では選手会やリーグが選手のキャリアサポートに力を入れ始めているが、まだ選手の現役時代に関する労使協定の話が多く、引退後や別のキャリアの選択については議論が及んでいないケースが多い。一方で、ニュージーランドではラグビー協会が現役選手を対象に毎週講師を派遣し、アスリートとしてのキャリア以外の目標設定を行うサポートを実施している事例などを廣瀬氏が紹介した。

現役を引退した3名の姿勢からも「デュアルキャリア」を考えるヒントが溢れている。それぞれに共通しているのは成長するための「学び」を続けていることだ。播戸氏は現役時代から引退後を見据えてマネジメント会社を設立。デュアルキャリアを実現していく上では、常に競技だけでなく外の世界についても学ぶ意識が重要だ。

廣瀬氏は終盤、「引退後でも活躍できる選手の資質」は何かという質問を投げ掛けた。つまり、現役中と引退後に必要な資質は一緒なのか、別なのかとも捉えられる。プロ野球選手としてのキャリアを終えた後に公認会計士となった奥村氏は、「常に目的意識を持って取り組んでいるかどうか」と回答し、「目標設定力」や「向上心を持つ」というアスリートにとって当たり前のことを維持し続けることが、その先の人生においても重要であると提言した。

テクノロジーでスポーツ業界にイノベーションを

右上から時計回りに)宮田拓弥氏、中嶋文彦氏、岡部恭英氏

新型コロナウィルスの影響で注目されることとなったのは、「スポーツテック」も同様だ。コンファレンスの2日目には、「スポーツ界にイノベーションをもたらすSPORTS TEC」というテーマでセッションが行われた。

JリーグアドバイザーでもあるTEAMマーケティングの岡部恭英氏がモデレーターとなり、株式会社電通CDC Future Business Tech Teamの中嶋文彦氏、そしてScrum Ventures創業者の宮田拓弥氏の2名がパネリストとして参加。スイス、日本、米国というそれぞれの活動拠点から見た日本のデジタル化と最新のトレンドについて議論が行われた。

「過去30年間、テクノロジーの発展では遅れをとってきたのが日本の現状」――。岡部氏はこう切り出したが、新型コロナウィルスの影響により「変化を嫌う日本でさえ、意識は激変した」とも指摘した。そもそも日本は今後、人口減少と少子高齢化に立ち向かうことが急務であり、そのソリューションとなるのが①国外市場への拡大と、②イノベーションだというのが同氏の考えだ。

そのイノベーションの肝となるのが「テクノロジー」。ここにビジネスの拡張性が高い「スポーツ」を掛け合わせていく取り組みが、中嶋氏と宮田氏が取り組む「SPORTS TECH TOKYO」というプラットフォームだ。これまで交わる機会が少なかったスタートアップとオープンイノベーションを推進する事業会社が出会う場を設けることで、新たな可能性を生み出すことに挑戦している。

SPORTS TECH TOKYOの挑戦

海外、特に米国のスポーツビジネスが成長を続けるのは、新しい組み合わせが生まれ、業界の外から人材が「越境」してくることで、業界自体が新陳代謝を続けているからだと岡部氏はいう。そういった動きを日本で加速させるのが「SPORTS TECH TOKYO」だといえる。

中嶋氏は、大企業中心である日本のビジネス界でも、スタートアップのテクノロジーやプラットフォームを取り入れ、共に新たな事業を創造していく流れが出てきていると分析。NTTなどの巨大通信会社が、ベンチャー企業と共に新たなスポーツ観戦体験を提供しようとしたり、ソフトバンクやDeNAなどIT企業がスポーツチーム自体に出資する時代になってきていると指摘した。

ベンチャー投資を行う宮田氏は、2020年のこれまでのスポーツテック業界を振り返ると、大きな話題を呼んだのがフィットネスのサブスクリプションサービス「Peloton(ペロトン)」と、オンライントレーニング用の鏡型デバイス「Fitness Mirror(フィットネスミラー)」だったと振り返る。個人スポーツにテクノロジーを掛け合わせたことが両者の共通項であること、そしてフィットネスミラーに関してはアパレル企業のLululemon(ルルレモン)が買収したことで新境地が拓けたことにも言及した。

新型コロナの影響で日本でも新たなスポーツ視聴・スポーツ体験が求められているが、ゲームコンテンツ作りが得意な日本のビジネス界は、オンラインとオフラインの掛け合わせから糸口を見出せることができるのではと宮田氏は期待を込めて話す。

今後のスポーツ界に必要なものとは

様々な切り口から日本スポーツ界の課題とその解決策を提示し続けた「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」。この2つのセッションをはじめ、合計24のコンファレンスセッションでは、他にも多くのトピックが議論された。では、そこから学ぶスポーツ界に真に必要なものとは一体何なのか?

まずは、「オープンイノベーション」。日本には世界にも誇るリソースを豊富に持つ大企業が存在するが、新しいチャレンジを続けるベンチャー企業と交わる機会が少ない。従って、まずは接点を作り、協働の機会を増やしていくことが必要になる。これはベンチャー企業をアスリートに置き換えても同様で、様々なアイデアや発信力を持った選手が、現役時代から様々な人や社会と交わることで、新しい価値を生み出すことにもつながる。

そして、「スポーツ以外でも稼ぐ」こと。スポーツビジネスの根幹は、放映権、スポンサーシップ、チケッティング(マッチデー/興行収入)、そしてマーチャンダイジングの4つの収入源から成るが、今後はテクノロジーを活用して「5本目の柱」を打ち立てるなど幅を広げることが重要だ。

「新たな収入源の創出」は、アスリートのデュアルキャリアそのものでもあるが、リアルな価値を持つスポーツ選手やチームがオンラインで今後どのような変革をもたらしてマネタイズの機会を作っていくことができるか。これを実現することでスポーツが「競技」という枠にとどまらず、ファンやサポーター、地域コミュニティや社会に対して、新しい価値を提供していけることになるのかもしれない。


「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」では、今月30日(金)までコンファレンスプログラムのオンデマンド配信と展示会を開催している。

▶︎スポーツビジネスジャパン2020オンライン 公式Webサイト