プログラム提供から採用まで。パーソルキャリアとバリュエンスホールディングスが進める、アスリートキャリア支援の最前線

10月6日(火)〜30日(金)の日程で開催されている、スポーツビジネスの専門展示会&コンファレンス「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」。数多くのトピックの中でも一際大きな議論を呼んだ「アスリートキャリア」について、本稿では、企業・ビジネスの視点から先進事例の紹介と闊達な議論が行われた「スポーツとビジネスをつなぐ、アスリートキャリアの可能性」セッションの模様を詳報する。

パーソルキャリアが始めた、アスリートキャリア支援プロジェクト

右上から)パーソルキャリア執行役員 dodaエージェント事業部 事業部長 大浦征也氏、バリュエンスホールディングス代表取締役社長 嵜本晋輔氏、HALF TIME代表取締役 磯田裕介

「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」でも一つの議題となったアスリートキャリア。これをより企業・ビジネス視点で議論したのが、1日目に行われた「スポーツとビジネスをつなぐ、アスリートキャリアの可能性」セッションだ。

登壇は、パーソルキャリア執行役員の大浦征也氏、バリュエンスホールディングス代表取締役社長の嵜本晋輔氏をパネリストに迎え、HALF TIME代表取締役 磯田裕介がモデレーターとなって進行。まずは、パーソルキャリアの大浦氏が、今年8月にスタートしたばかりの「アスリートキャリア支援プロジェクト」について語った。

パーソルキャリアはこれまで、「スポーツを仕事に!」を合言葉にしたWebメディア「SPORT LIGHT」を運営し、スポーツ業界で働く人々へのインタビューや、スポーツ業界の求人情報を掲載してきた。そこから派生する形で「アスリートキャリア支援プロジェクト」を発足することとなった。

同プロジェクトでは、アスリートが競技を通じて得た経験やスキルをビジネスで活かす方法を知り、引退後に選択できるキャリアを増やすことを目指す。社会やビジネスに関する知識習得や、競技経験をビジネスで活かす方法を学ぶプログラムが提供される。

パーソルキャリアの前身であるインテリジェンス時代には、2008年のリーマンショックの影響で事業拡大を諦めざるを得ず、その後は細々と継続してきたというアスリートのキャリア支援。それをなぜ今再び大掛かりなプロジェクトとしてスタートさせたのか?

そのきっかけとして大浦氏は、昨今のスポーツ業界におけるビジネスの拡大、そして、コロナによって引退を考えざるを得なくなったアスリートが数多くいることに言及。同社が重要視する「キャリアトランジション」の考え方を次のように話した。

「引退した選手のキャリアをマッチングするというよりは、現役中からお付き合いをして、引退を前向きなものとして捉えてほしい。そしてビジネスの世界への第一歩として、ワクワクしてほしいと考えています」(大浦氏)

同氏は「ビジネスサイドとスポーツサイドの切り分けに、終止符を打ちたい」とも述べ、「競技レベルを上げるメソッドの中で、ビジネスに活かせるものを抽出する」ことも目標の一つであり、ビジネスとスポーツ(競技)を二分する必要はないという考え方を提示した。

アスリートキャリア支援プロジェクトの開始に合わせて行われたイベントには、プロ・実業団問わず、夏季スポーツから冬季スポーツ、そしてeスポーツの選手までもが参加。「多くの競技でキャリアへの意識の向上が進んでいることを認識した」と同時に、「支援の枠組み自体がまだ普及していない現実も目の当たりにした」と大浦氏は述べ、今回のプロジェクトが持つ大きな可能性を感じたことを明かした。

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バリュエンスホールディングスはアスリートを「採用」

バリュエンスホールディングスも9月に「アスリートのためのデュアルキャリア採用」をスタート。10競技で10人ずつ、計100人のアスリートの採用を募集する。セッションが行われた10月6日時点ですでに14名からの応募があり、2名の入社が決定するなど着実なスタートを切ったことを明かしつつ、嵜本氏はデュアルキャリア採用に乗り出した背景を語った。

バリュエンスホールディングスは今年3月に社名を変更、現在を「第二創業期」と位置づけ、「らしく、生きる。」という企業ミッションを掲げた。そうした中で、「働かないと生活が成り立たない。人生をかけて夢中になりたい競技に専念できていない」というアスリートが置かれた現状に直面し、「アスリート、そしてスポーツ界に貢献できることはないか」と考えてこのプロジェクトをスタートさせたという。

同プロジェクトでは、幾つものキャリアを両立する「デュアルキャリア」の考えに基づき、アスリートが競技も仕事も取り組むことのできる環境をサポートするため、アスリート100人をバリュエンスホールディングスが自社で採用を行う。雇用形態・勤務時間などを調整し、アスリートの競技活動を応援しつつ、ビジネスの場でも活躍してもらう取り組みだ。

100人という規模については、同社の事業拡大を支え、既存の社員へのポジティブな影響といったビジネス的な狙いも大いに込められているという。「夢中になることを持っているアスリートが、なかなかそれを見つけられない既存の社員にとって、良い刺激になるのではないか」と嵜本氏は語る。    

また、同氏は「競技の違いによって業務上のパフォーマンスの違いが出てくるのかを見てみたい」という狙いから、募集の競技の数を「10」と明確に設定したことも明かし、今回のデュアルキャリア採用が今後の展開も見据えたプロジェクトであることを示唆した。

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解決すべき「スポーツ界の長年の課題」

セッションが進む中で、モデレーターの磯田から「キャリア支援はスポーツ界の長年の課題では?」との質問が投げかけられた。すると大浦氏は、「(アスリートの採用における)成功体験がないというのが一番の問題」と、アスリートと企業の「橋渡し」がまだまだ不足している現状を指摘し、次のように続ける。

「新卒採用で体育会出身者が人気を集めているのだから、アスリートがそれ以上に評価されるのはごく自然なことだと思います。ただ、現実として採用が進まない背景には、(アスリートの)採用そのものをしてこなかったがゆえの(企業の)成功体験の欠如があります」(大浦氏)

また同氏は、アスリートの採用が進まない根本的な要因として、新卒一括採用やジョブローテーションによる人材育成、そしてメンバーシップ型雇用などに代表される「日本型雇用」の存在にも触れた。事実、こうした雇用慣習が主流だと、アスリートとしての経験をビジネスに活かしたり、大きなキャリアチェンジを行うことは容易ではない。

一方で、近年盛んになってきているジョブ型の雇用が社会全体で進めば、アスリート採用の間口も広くなる可能性もある。大浦氏は、「得意技能のあるアスリートが特定の分野で活躍することもあり得るのでは」と期待を口にしたが、これはバリュエンスホールディングス嵜本氏が、競技ごとの人材の特徴を検証しようとするアプローチに近いともいえる。

途中、モデレーターの磯田からガンバ大阪でプロサッカー選手としてプレーした嵜本氏へ、「アスリートとは異なる、上場企業の社長に必要な能力をどのように構築してきたか」との質問がされると、嵜本氏はサッカーを通して「良い組織を作る必要性」を学んだことを挙げ、また一つのチームとして「個性を見極め、役割を明確にしてパフォーマンスを最大化するマネジメント」を意識して経営を行ってきたことを明かした。

嵜本氏の例は、アスリートしての経験をビジネスの世界でも活かすことができるという証左に他ならない。

競技とビジネスをつなげていく

Athlete career

セッションの最後には「アスリート自身ができる工夫、すべき工夫とは何か?」へと話が及ぶと、大浦氏は、現役時代からビジネスの世界との接点を持っておくこと、そして現役選手としての肩書きを有効に利用することを挙げた。

バリュエンスホールディングスの嵜本氏は、Jリーガーの平均引退年齢が25.5歳であるというデータを引き合いに、アスリート自身を取り巻く厳しい現実に目を向ける必要性を説いた。したがって、人生で最も注目される時期である現役中に、将来を見据えて動き始めることが必要であるというのが同氏の助言だ。    

さらに嵜本氏は、サッカーの本田圭佑選手や長友佑都選手など、海外を拠点とする選手の中には現役中からビジネスのキャリアをスタートさせる選手がいる一方、Jリーガーをはじめ国内のスポーツ選手にはまだそういった存在が少ないことも課題に挙げた。先陣を切るような選手、そして身近なロールモデルの存在がアスリートのキャリア形成を盛んにしていくためには必要不可欠であると指摘した。

最後には、大浦氏は「(スポーツと)ビジネスとの垣根が低くなっている今、この機会を活かせるか」が重要であると発言。嵜本氏は「コロナ禍をきっかけにスポーツを再定義し、アスリートの価値を高めることができれば、スポーツ界の未来は明るい」と前向きなメッセージを述べ、スポーツ界の未来への明るい展望をもってセッションは締めくくられた。


「スポーツビジネスジャパン2020オンライン」は今月30日までコンファレンスプログラムのオンデマンド配信と展示会が行われている。参加申込は【こちら】の公式Webサイトより。

 
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