シント=トロイデン立石CEOと飯塚CFOは、いかに国境と文化の壁を乗り越えたのか?【#SBS欧州 現地レポート③】

スポーツビジネスサミット(SBS)が「スポーツを通した地方活性化」をテーマに初開催されたのが2018年9月。その1年後となる今年9月には、サッカー・ベルギーリーグ1部のシント=トロイデンVV(STVV)の協力により、ベルギーの「地方都市」ともいえるシント=トロイデンで、「欧州SBS」が実現した。現地密着したHALF TIMEによる連載3回目は、STVVの立石敬之CEOと飯塚晃央CFOによるパネルディスカッションの質疑応答を中心にレポートする。

前回レポート: シント=トロイデン日本人キーマンが証言する、スポーツキャリアの成功条件

飯塚CFOが語る、クラブ経営で鍵を握る要素

左から:シント=トロイデンVV 飯塚晃央CFO、立石敬之CEO

我々は普段、サッカーというスポーツをスタジアムやテレビで見て、選手のインタビュー、マッチレポート、コラムといったものを紙媒体やインターネットなどを通じて読んで楽しんでいる。その過程でトレーニングメソッドや最新の試合分析などといった知識を付けていくが、サッカーというスポーツを財務という視点からアプローチする機会はほとんどない。

しかしベルギーで行われた欧州スポーツビジネスサミット(SBS欧州)では、シント=トロイデンVV(STVV)でCFO(最高財務責任者)を務める飯塚晃央氏がパネルディスカッションに参加。その後の質疑応答では、クラブ経営の実情から仕事への心構えまで語られ、参加者の目が釘付けになる貴重な機会となった。

「私が仕事をする上で意識しているのは2つあります。1つ目は予算ですね。予算配分をどう作り上げるかは一番大事になる。通常の企業経営では一番収益が大きいところにリソースを投入しますが、例えばサッカークラブの場合、ユースの育成組織に投資したお金が利益を生むタイミングは5年後になったりする。そういう分野(=将来への投資)に対して、何%の予算を投入するのか。そこはサッカークラブの経営者によって、違いが出てくるところだと思ってます。

2つ目がキャッシュです。移籍市場で選手を補強する場合には、まずクラブからお金が出ていく形になる。施設づくりにもお金がかかってきますよね。だから、いかにキャッシュを回すかが大事です。そして自分たちが出資したものを、いかに長期的に利益に変えていくかという、予算との紐付けもしていかなければならない。それができないと、特にサッカークラブは先に進むことが難しいと思います」

飯塚氏がクラブ経営の財務のポイントを解説すると、質疑応答はさらに熱を帯びていく。

選手移籍を巡る、資金繰りの難しさ

左から:シント=トロイデンVV 立石敬之CEO、司会を務めた九州産業大学 福田拓哉准教授

SBS欧州には、スポーツビジネスに従事しているビジネスパーソンも参加していた。専門的な知識を持つ参加者からは、実践的な問いも投げかけられる。

「移籍金を違約金と理解すると、長期契約を結ぶことによって得られる違約金も大きくなるが、選手が売れない場合は買い手がなくてもクラブに残しておかなければならないというリスクも生じます。また選手は帳簿に載せなければならないと思いますが、選手の資産価値が株価のように変わるのも事実です。その管理はどのようにされているのですか?」

飯塚氏の答えは非常に明瞭だった。

「選手を売る側は、会計上は(売上として)一括計上ですので特に個別に管理する必要はありません。ただし相手クラブから移籍金が分割で支払われたりする場合は、(未回収分は)売掛金として会計システム上に残る形になります。選手を買う側は資産計上になるので、選手ごとに(資産として)帳簿に載せていきます。基本的には契約した年数で減価償却していきますね。それとは別に契約書もありますので、それも管理します」

なるほど、選手は資産に計上されるのか。軽い驚きの声が参加者から漏れた。

立石敬之CEO が、飯塚氏の話を受けてさらに細かな説明を行う。その内容は、夏の移籍市場でSTVVを去った一人の日本人選手を思い出させるものだった。当時、クラブの周辺では「選手を高く売ってお金が入ってきたんだから、もっと選手を補強しろ」と要求する声があがっていたのだ。

「10億円で選手が売れたら、10億円の収入がある。それを受けて(経理の実務を知らないファンやメディアは)『10億円使って新しい選手を獲れ』と言うんです。だけどキャッシュは分割で入ってくるから、10億円を全額回収できるのは先になる。こうして売上とキャッシュフローがずれていくと、キャッシュがなくなるんです。

しかも選手を売ったのと同時に、10億円の選手を仮に5年契約で買った場合、単年で経費として計上できるのは2億円に過ぎない。だから10億円の選手を売り買いすると、収支は8億円の利益となってしまい、そこに大きな税金がかかって(さらにキャッシュが減って)くるわけです」

欧州に挑戦する日本人に、最も求められる要素

欧州スポーツビジネスサミットには約20名の社会人と学生が参加した。

一般の社会人や学生がサッカークラブの財務を知る機会はほとんどない。参加者にとっては目から鱗の連続で、「この話は最高に面白かった」という声があがっていた。

質疑応答では他にも、「日本人が海外に来る際の障壁はなんでしょうか?」という質問も投げかけられた。立石氏はFC東京のGM時代、選手をヨーロッパに送り込んだときの例をあげた。

「武藤嘉紀(現ニューカッスル/イングランド)は、ビッグクラブからもオファーがありました。FC東京からすれば、そういうクラブに移籍してくれた方が利益になった。しかし、最終的にはマインツ(ドイツ)を選びました。マインツは岡崎慎司(現ウエスカ/スペイン)が地位を築いてくれたため、日本人選手が試合に出やすい環境があった。

長友佑都の場合は(立石氏と親交が深く、後にFC東京の監督に就任する)マッシモ・フィッカデンティの存在が鍵になりましたね。私は常に選手たちのキャリアを最優先してきました。『必ず移籍先で試合に出られる』とまでは言わないけれど、試合に出られる可能性が高いところに送り出してきたんです」

立石氏の口調が熱を帯びる。

「私がSTVVのCEOに就任したとき言ったのは、『日本人は絶対にヨーロッパでも戦える。だけど私たち日本人には、“自信”というものが欠けている』ということでした。

もちろん言葉の問題もありますよ。私も全然喋れませんが、そんなのはなんとかなるわけです。だけど、日本人はそもそも自信を持っていないからリーダーシップを取れないし、自分の意見も言わない。ダメなものは『ノー』、良いものにははっきり『イエス』と言っていけば良いんです。『自信』というのは、うちの選手にもビジネススタッフにも持ってほしいですね」

その自信の源は、現場での成功体験である。

「先日、うちのマテリアルスポンサーをされているAOKI TOKYO(株式会社AOKI)さんがこられて対談をしました。その時に『新入社員はどんなときに自信を持つようになりますか?』と聞くと、こんなふうに答えてくれました。

『自分が洋服のカスタマイズを担当したお客様が受け取りに来て、初めて袖を通したときに“これ、良かったね”と言われた瞬間、新入社員は自信を持つんです』と。

自信を持つのは現場しかない。いくら選手に『お前はうまい』『お前はいい』と言っても、彼らは自信を持てない。でも、ベルギーに来て、ドカーンとシュートを一発決めたりすることで、初めて自信を持つんです。これはビジネススタッフも同じです」

ジャパンクオリティを、再び確信するための試み

立石氏の話は、サッカーのフィールドに当てはめるとわかりやすい。たしかにサッカーには、その国独自の文化や価値観、レベルの差などが反映されるため、日本から海を渡ってやって来た選手は戸惑ってしまう。だが基本的なルールは、万国共通である。そこで「自分にも意外とやれる」と気づき、自信に高まっていった時に、日本人選手はヨーロッパの舞台で活躍できるのだろう。

これはビジネスの現場でも同じことが言える。例えば、先の「サッカークラブの財務」だ。プロスポーツクラブの財務とはいえ、世間の企業会計とそう変わりはない。また国によって税制が違ったり、会計の解釈が異ることがあるのも確かだが、日本で言う損益計算書は世界ではプロフィット・アンド・ロス(PL)、貸借対照表はバランスシート(BS)と言えば通用する。勘定科目もほぼ似たり寄ったりだ。

これまでの経験が、現地で通用すると実感すれば「自信」がつく――。立石氏は次のようにも証言する。

「飯塚だって、『自分はできるのかな?』と思ってSTVVに来たけれど、(会計業務は)『ヴィッセル神戸と意外と一緒じゃん』と気づいた。そして『やれる』と思うことでグッと伸びた。でも日本人に、そういう自信をつけさせるのは本当に難しい。今回のテーマは『自信をどうやって付けさせるか』だと思ってくださって結構です(笑)」

結局、この話はどんな分野でも応用できるのだ。立石氏はこうも述べていた。

「『ジャパンクオリティ』というのは僕らの営業トークです。日本のモノ、サービス、ヒト…。日本には、サッカーに限らず世界に誇れるジャパンクオリティがたくさんある」

例えば、日本食や食材は日本が誇る分野の一つ。日本の食べ物を正しくヨーロッパの人たちに知ってもらうために、STVVは今季、JETRO(日本貿易振興機構)の承認を得て「⽇本産⾷材サポーター店制度認定団体」になっている。

さらに立石氏の口からは、ファッション、フェス、コスプレ、マンガ、DJといったサッカーとは直接関係のないジャンルの話題も次々に出てきた。この中には日本が強い分野もあれば、ベルギーの方が強い分野もあるし、両国共に秀でている分野もある

サッカーという垣根を超えて日本の良さを発信し、ベルギーの良さも取り入れながらSTVVを発展させる。それがひいてはサッカーやその他の競技にも還元される。立石氏たちは、そんなサイクルを思い描いている。

自信を持って頑張ろう。世界と日本は、そう大きく変わらない。それが立石氏と飯塚氏から、SBS欧州の参加者へ送られたメッセージだった。

次回は現地密着レポートの最終回として、SBS欧州の一環で行われたスタジアム視察と、その場所で見られた参加者の出逢い・発見をレポートする。


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