ポスト2020は「体育からエンタメへ」 小泉文明×池田純×加藤裕子が語る、日本スポーツの“次のフェーズ”

東京2020オリンピックを控えた昨年夏、日本フェンシング協会は『World Fencing Day Japan』を都内で開催。日本のフェンシングに関わる人の考えや思いを討論し、学びの場を提供する目的で行われた同イベントで、メルカリ小泉文明社長(当時/現在は会長)や横浜DeNAベイスターズ初代球団社長の池田純氏などが登壇し、『東京2020オリンピックを成功に導く』をテーマにした2つ目のセッションが展開された。

東京2020オリンピックを機に起こる、巨大なパラダイム・シフト

左から : 小泉文明氏 (メルカリ取締役社長兼COO/当時 ※現在は会長)、池田純氏 (横浜DeNAベイスターズ初代代表取締役社長)、加藤裕子氏 (東京2020組織委員会 フェンシング競技スポーツマネージャー)

フェンシング協会が策定した理念を巡って貴重なダイアログが交わされた1つ目のセッションに続き、『東京2020オリンピックを成功に導く』と題したセッションが開幕。こちらも壇上には豪華な面々が揃う。

モデレーターは株式会社ムードメーカー代表取締役で横浜ベイスターズの元スタジアムDJでもあるDJケチャップ氏、パネリストは株式会社メルカリ取締役社長兼COO(当時/現在は会長)で鹿島アントラーズFC代表取締役も務める小泉文明氏、横浜DeNAベイスターズ 初代代表取締役社長の池田純氏、そして東京2020組織委員会でフェンシング競技のスポーツマネージャーを務める加藤裕子氏である。

口火を切ったのは、率直な実感を吐露する池田氏。「私自身は別のところに興味があるというか。日本中一瞬ブームになってみんなで盛り上がるのは間違いない。だからこそ、その後、どうするのかなということの方が気になります。大会のチケットも全部外れましたし(笑)」と、“大会まで1年”の機運と同時に、ポスト2020への関心を示す。

続いてマイクを握ったのは小泉氏だった。東京2020オリンピックとの新たな関わりができはじめたという。

「僕もチケットは当たらなかったんですが、かなり興味があります。というのも、(メルカリが)鹿島アントラーズを買収した結果、(大会の)運営に関わることとなって。鹿島スタジアムでは11回サッカーの試合が行われるので、むしろ責任を感じる立場になってきました(笑)。でも、閉塞感がある状況をどう打破して盛り上げていくか。そこをクリアできれば、チャンスはあるんじゃないかなと」

モデレーターを務めたDJケチャップ氏 (株式会社メードメーカー 代表取締役)

小泉氏が抱く閉塞感とは、いかなるものなのか。

「一つ願っているのは、世代交代が進めばいいということです。フェンシングは確かに太田会長になってから変わってきていますけど、他の競技団体では世代交代があまり進んでいない。いわゆる体育的な、エンタメから少し遠いレベルでの話が多かった。だからオリンピックを境に閉塞感を払拭し、次世代の人たちを中心に、エンターテインメントやビジネス化が進むフェーズに移る必要があると思うんです」

池田氏は横浜DeNAベイスターズの球団社長を務めていた頃、まさにプロ野球界全体の世代交代を促進しようとした人物である。氏の体験談は説得力に満ちていた。

「私は35歳で球団社長になったんですけども、セ・リーグの球団の中での次に年齢が若い人が、確か58歳というような状況でした。しかも若い人が新しく入った場合には、まず周りに気に入ってもらわなければ、ものを言わせてもらえない雰囲気もあった。結局、物事というのはすごく情熱を持っている人が、偏執的なまでのパワーを発揮して一気に変えていかないと変わらない。しがらみに囚われて、表面的な人間関係や協調性を重視していくと、全てが中庸的になってしまうんです」

選手の意識改革、経営目標の明確化、様々な数字の開示、そしてスタッフの配置変換による新たなモチベーションと役割の提供。当時ベイスターズのプロモーションにも関わっていたDJケチャップ氏の軽妙な司会を通して、池田氏が幾多の改革を断行し、球団を大幅な黒字化に導いていった様が赤裸々に語られる。

する・見る・支える スポーツ産業全体を拡大

小泉氏はこれを受けて、2020年以降に向けたスポーツ界の目指す先と課題を解説した。

「(スポーツ界の)マネタイズが難しいのであれば、競技人口を増やすか、応援する人々を増やしていかなければならない。その点で僕は結構、危機意識を持っているんです。

チームスポーツに関して言えば、子どもたちの人口が減ってきた結果、競技人口自体が減っている。特に地方の小学校では2、3校合同しないと、サッカーや野球のチームが作れないような状況も出てきています。テニスやゴルフなどの個人スポーツも今は人気がありますが、それでも競技人口は減ってくる。そうなればファンの人口も当然減るじゃないですか?そのジリ貧の構造をどうするのかを、本当に考えていく必要があると思うんです。

サッカー界でいえば、選手のヨーロッパ移籍にも対応しなければならない。この傾向は基本的に止められないので、それを前提にチームのフィロソフィーを保ち、いかに強いチームを維持していくかが求められるようになった。スター選手の見つけ方もそうですが、新たなフェーズへの対応は鍵になるでしょうね。我々はそういう変化を踏まえた上で、若手に投資するべく、6億円かけて高校生の選手向けに、アカデミー(若手選手の育成施設)の寮を建設したんです」

次世代の人材をいかに確保していくか。この課題に対して、池田氏が説いたのはやはり発想の転換だった。

「これからは『ゆるく、楽しく』競技に接してもらえるようにするかが大切になると思うんです。以前のスポーツ界では、上手くても練習に来なければ、試合に出さないぞと指導者が言うような状況があった。あんなことを続けていたら、もう誰も来なくなってしまう。

むしろ今は『来たいときだけ練習に来てください、試合にもいつでも出られますよ』と枠を広げた上で、もっと本気でやりたいのなら、じゃあベイスターズ傘下のチームに入ってくださいねと勧められるような多様な環境を用意していかなければならない。

それと同時に『格好良さ』もアピールしていかないと。例えば今、サーフィンの世界大会が宮崎で行われていますが、ルックスも普段の生活スタイルも含めて、若い世代は格好良い人に憧れる。大谷翔平選手の人気が高いのも同じ理由です。彼は見た目がいいだけじゃなくて、二刀流を貫くとか、登板ができなくなれば今度は打者として結果を出そうという生き様の格好良さも持っている。

これからはすごいプレーが観られるとかお金が潤っている、或いはエンターテインメントが充実しているといった要素だけではなく、“カッコいい”と呼ばれる、あり方や生き様やメッセージなど多様な側面で、心を感動させる競技に、若い子が集まっていくような気がします」

フェンシングは「接点を拡大させていく」べき

ならばフェンシング界では、いかにして他のスポーツに対抗しようとしているのか。フェンシング競技のスポーツマネージャーを務める加藤氏はこう証言した。

「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が結成され、私は2012年から携わっていますが、その時点で立てていた目標があります。全競技の中で、一番の「成長率」を上げていくこと。陸上や体操、あるいは水泳、野球、サッカーといった成熟しているスポーツに追いつこうとしても、競技特性の違いから目指すべき姿が異なり意味がない。ただ、成長率であれば一番を目指せると。そこで日本フェンシング協会の改革を通じて日本のフェンシングを最大限に成長させようと考えました。太田会長が一緒に注力してくれたおかげで、おそらくフェンシング界の成長率については今のところトップを走っているのではないかと思います」

加藤氏の指摘は説得力に富んでいる。このようなセミナーが行われている状況は、何よりの証拠だろう。ならばフェンシング協会は次に浮かび上がる課題、すなわち一般社会における認知度と人気の向上をどう実現させていくべきなのだろうか。モデレーターのDJケチャップ氏は、池田氏に水を向けた。

「多くの人に足を運ばせるって、すごく大変なんですよ。無料券を配っても興味がなければあまり来ないし、次も無料じゃないと来なくなる。だから『接点』を増やしていくことが、どの競技でもすごく必要だと思うんです。 例えば私の場合、太田さんは存じ上げていますけど、フェンシングのルールは分からない。じゃあ自分にとって何が近しい接点かというと、スターウォーズのライトセーバーなんですね。もちろん他にも接点はいっぱいある。それは食べ物かもしれないし、マンガや映画、ドラマだという人もいるかもしれない。いずれにしても、フェンシングに関心のない一般生活者との接点をいかに作って いけるかが重要になる」

一方、小泉氏は鹿島アントラーズで活用するマーケティングのフレームワークを一例に挙げ、同様に接点作りの大切さを強調する。

「僕はサッカーチームを経営しながら、カスタマージャーニーのマップを作っているんです。試合前、試合中、試合後を通して、どう次につながる体験を提供するかという発想ですね。その中には当然、様々なカスタマーがいるわけですが、試合に初めて来てくれた人を、どうやって巻き込んでいくかを考える。これはおそらくフェンシングでも同じではないかと」

オリンピックをフル活用するためのヒントも

貴重なダイアログが終わり、セッションは質疑応答に移行する。最初に手を挙げた質問者は太田会長だった。内容はずばり、東京2020オリンピックをテコにフェンシングを盛り上げていく方法である。まずは小泉氏が、ベンチャーマインド溢れる回答を口にする。

「僕ならオリンピックが終わった直後、一般の人たちの“熱量”が高い間に、次の大きな大会をやってしまいますね。おそらくフェンシングは(東京2020オリンピックで)メダルを取ると思いますし、テレビ局もオリンピックの雰囲気が残っているうちに次のネタを探し始める。そこでフェンシングが先陣を切って大会をやれば、メダリストが最初に出てくる大会ということで、メディアも多分、飛びつくと思うんです」

続いて池田氏は、メディアではなく、一般の人々の側に立ったソリューションを提案した。

「例えばフェンシングの剣があるじゃないですか。私ならあれに触ってみたいし、山手線の駅に展示されていたりしたら、かなり面白いと思いますね。要は一般の人たちとの接点の多様化。何かをあげて、ギブアウェイして、接点を作っていくこともポイントになる。展示するのとモノを実際にあげるのは違いますが、接点の多様化という同じ意味を持っています」

ちなみに加藤氏によれば、フェンシング協会はこの種の試みにも取り組んでいるという。

「千葉県のイベントでは、選手のサインが入ったミッション・ステートメント(決意が書かれた色紙)も配布したんです。選手も頑張って手分けして、最終的には600枚ぐらい手渡すことができました」

次に投げかけられたのは、マイナー競技において、オリンピックそのものの比重が大きすぎるのではないか?という質問だった。小泉氏はその事実を踏まえた上で、極めてユニーク、かつ実効性の高いアイディアを提唱した。

「比重が高くなるのは仕方ないと感じる部分もありますが、やりようは色々あるんじゃないかと。例えば前回の冬季オリンピックで、カーリング女子がすごくブームになったじゃないですか。でも一旦ブームが終われば、(次のオリンピックまでの)4年間、強化費を捻出するのも大変な状況になる。ならば世間の感動が最大値まで盛り上がったあのタイミングで、クラウドファンディングなどを仕掛けて、活動費を集めてしまってもいい。オリンピックの波というのは普通の競技では避けられないので、それを逆に利用していく方法を考えてもいいと思いますね」

2つ目の質問は、フェンシングが持つ歴史や伝統を、どう活用していけばいいかという内容だった。フェンシングは陸上や体操、水泳と共に、実は1896年の第1回近代オリンピックであるアテネ大会から開催され続けてきた、数少ない競技の一つでもある。

「フェンシング関係者の人にとっては当たり前なんでしょうけど、私たちにとってそういう話はすごく興味深い。個人的には発祥を知りたいと思ったし、そこをもっと教えてほしい。しかも小難しく説明されるんじゃなくて格好良い動画とか、あるいは井上雄彦さん(注:スラムダンクやバガボンドの作者)のような人が手がけた漫画で、ドーンとプレゼンテーションしてもらえたらと思いますね。歴史や伝統、発祥といった要素は根幹だし、フェンシング界として継続的に伝えていかなければならない。変えるのはその時代にあった提示の仕方だけでいいん です」(池田氏)

ポスト2020 持続的なスポーツ産業の発展

最後に出た質問は、スポーツ庁が掲げたビジョン、2025年までにスポーツ産業の市場規模を15兆円にまで拡大させるという構想についてである。池田氏が15兆円の試算の内訳を明確化するのと同時にしがらみに因われない改革の必要性を力説する一方、小泉氏は次のようにスポーツが持つ可能性の大きさを指摘して、質疑応答を締めくくった。

「15兆円を達成できるかはともかく、テクノロジーとの掛け合わせ方によっては、かなりやりようがあると思っているんです。これからのスポーツビジネスでは、スポーツという括りそのものが、いい意味で曖昧になってくる。アパレルやヘルスケア、病院や旅行なども入ってくるでしょう。

もちろんサッカークラブはスポーツを軸にしていくわけですが、極論するならサッカーをする部門とビジネスを手がける会社を分けてもいいのではないかと。自分たちで枠をはめずに、どんどん他の業界とコラボレーションしながら、新しい分野に“染み出して”いくようにする。そうすると、スポーツ界にはまだまだ伸びしろがあるし、行政や市民と連携しながら地域の在り方も変えていける。こういうアイコン的な力を持っているというのも、スポーツの良さであり魅力だと思うんです」

『World Fencing Day Japan』の2つ目のセッション はこうして終了。熱心に耳を傾けていた100名ほどの参加者たちは10人ずつのグループに分かれ、小泉氏なども加わる豪華なワークショップに向かっていった。

次回は、柔道のレジェンド野村忠宏氏、自転車・トラック競技の新田祐大氏、そしてフェンシングからは女子サーブルの江村美咲選手が登壇し、オリンピックへの心構えを中心に議論されたセッション、『覚悟 ~「その日」に向けての準備と納得!~』の様子をお届けする。


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