スタジアム内外で「地域を赤く染め上げる」 米MLS ニューヨーク・レッドブルズのスポンサーシップ戦略

世界で活躍するスポーツビジネスパーソンからいつでも、どこでも直接学べるオンライン講座『HALF TIME Global Academy』。第3回は、米MLSのニューヨーク・レッドブルズでマーケティングパートナーシップ&プレミアムサービス シニアディレクターを務めるダレン・マイヤー氏による「スポンサーシップ論」。成長著しいMLSの中でも歴史あるクラブが、ニューヨークという競合ひしめく地域でどのようにスポンサーシップに向き合っているのか、貴重な指針が示された。

スポンサーシップセールスのベテランが講師に

ニューヨーク・レッドブルズ マーケティングパートナーシップ&プレミアムサービス シニアディレクター ダレン・マイヤー氏

この10月から11月にかけて開講される『HALF TIME Global Academy』は第三講を迎えた。これまでには、米USLラスベガス・ライツFCのオーナー兼CEO ブレット・ラッシュブルック氏による第一講、そして米MLSシアトル・サウンダーズFCのスポーティングディレクター クリス・ヘンダーソン氏による第二講と、日本ではなかなか聞くことができない講義が続いた。

今回は、NBAブルックリン・ネッツ(移転前はニュージャージー・ネッツ)のパートナーシップマーケティング担当ディレクターやIMGカレッジのスポーツマーケティングGMを歴任し、現在はMLSのニューヨーク・レッドブルズのマーケティングパートナーシップ&プレミアムサービス シニアディレクターを務めるDarren Meyer(ダレン・マイヤー)氏が講師として登場。

11年連続ポストシーズン進出を決め、ピッチ上で結果を残し続けているニューヨーク・レッドブルズ。そのピッチ上での躍進をマーケティングとセールスから支える同氏から、クラブが取り組む「スポンサーシップ論」が展開された。

地域に染み込む、チームカラーの赤色

MLSニューヨーク・レッドブルズが掲げるブランドのスローガンは「Red Runs Deep」。ピッチに立つ11人の選手だけでなく、4万5000人以上のアカデミーの子供たちや地域の人々にも、レッドブルズの「赤色」の血が流れることを目指していると、マイヤー氏はクラブの目指す方向性について冒頭で語った。

このクラブでパートナーシップ戦略を司るマイヤー氏は、本拠地のレッドブル・アリーナにどのようにしてクライアントに足を運んでもらい、興味を持ち続けてもらうか日々課題に取り組んでいるという。そのカギは関係性を築き、それを保持していくためにスタジアム内外でタッチポイントを増やすことだ。例えば、スタジアムに足を運んだことがない企業担当者に試合当日の様子のイメージを持ってもらうために、3Dでスタジアム空間を見てもらえるスポンサー向けの資料も活用する。

スポンサーシップの価値を上げるため、クラブがファンや地域コミュニティと強くつながることは重要だ。そのため、携帯アプリやデジタルプラットフォームでのタッチポイントづくりや、試合当日の会場での滞在時間を増やすためのスタジアム外でのコンサートなどの仕掛けも行う。

だが、マイヤー氏が「最も売るのが好きな権利の1つ」として動画付きで紹介したのは、レッドブルズが地域コミュニティと次世代向けに力を入れる「ミニピッチづくり」の取り組みだ。これは、教育機関や行政と協働して、授業が終わった後に行き場がなくなる子供たちをなくすために恵まれない地域の学校内に小さなピッチを設置する取り組みで、移動手段がなくても子供たち参加ができるように校内に作るというのもポイントになっている。クラブがコーチを派遣して指導するほか、子供たちやその家庭に栄養に関する知識も伝える。レッドブルズでは、ここ5年間で20のミニピッチを作り続けている最中だという。

このミニピッチの取り組みには、現在、金融機関のウェルズ・ファーゴがスポンサーとして付き、ブランディングに活用している。このように未来ある子供たちに機会を提供することは、スポンサー企業とクラブにとって非常に満足度の高い試みであるという。

「このミニピッチのプロジェクトを通して、『我々はレッドブルアリーナで起こっていることだけではなく、それ以上に地域や次世代に対して取り組んでいる』というメッセージを、スポンサーに伝える機会になっています」(マイヤー氏)

ニューヨークには数多くのプロスポーツチームが存在する。米4大スポーツリーグのチームだけでもサポーターやスポンサー企業の獲得への競争は激しく、どのように差別化をするべきか常々意識しているという。ファンやサポーターとのタッチポイントを増やし、地域とのつながりを強固にしていく。そうすることによって、この「激戦区」エリアの全プロスポーツチームの中で、第三者の調査会社調べで顧客満足度1位を獲得してきたことも同氏は紹介した。

スポンサー収入を高めるためにすべきこと

ウェルズ・ファーゴをスポンサーとしたミニピッチ設置の取り組み。地域に支店を持つ金融機関にとっては、またとないブランディングの機会だ。

獲得したスポンサーをどのように満足させ、契約更新やアップセルにつなげるかも「スポンサーシップ」の醍醐味だ。レッドブルズでは、クラブの各スポンサーの価値と体験を最大化し、アクティベーションをカスタマイズするために、現在のスポンサー企業数は約40社に留められている。そしてホスピタリティ(観戦以外の体験も含めた高付加価値サービス)を購入するスポンサーも含め、約50社との関係性を特に大切にし、継続してもらうために邁進するという。

スポンサー企業の目的や課題をヒアリングし、それぞれにカスタマイズされたアクティベーションを展開。ブランドイメージの醸成、認知度アップ、ブランドロイヤルティの向上など、どのようなインパクトを企業側にもたらしているか、効果測定も怠らない。シーズン終了後には、第三者機関を用いた効果測定・価値算定を行い、20-30ページにも及ぶレポートを提供する。クライアントに支払ってもらっている倍の(算定)価値を創出することを心がけ、関係性を強固なものにして契約更新を目指していくという。

現代のスポンサーシップには、データ活用も欠かせない。MLSが誇るミレニアル世代やヒスパニックを含む多様なファン層、そしてクラブのサポーター層やパートナー企業に対する忠誠心までも明らかにする。そのためクラブ内の他部署との連携も重要になる。

例えば、ビールを飲みながら観戦したいサポーター向けに空間を作ろうとしていたスタジアム運営の部署と連携して、アルコール飲料メーカーをスポンサーとした新たなスペースを作り出した。このようなマーケティングのパートナーシップは、ファン体験の向上にもつながる。新たなスタジアム空間を求めていたファンにスポンサー企業と共に商品の提供に取り組み、結果としてそこに訪れたファンは商品に対して良い印象を抱き、高い購買意欲も示す。ファン、スポンサー、クラブのWin-Win-Winの取り組みだ。

「スポンサーの数を増やし過ぎない」

質疑応答では、日本と異なるスポンサーシップの考え方に対する質問も受講生から挙がった。例えばクラブのスポンサー社数については、マイヤー氏がレッドブルズに転職した2015年にはパートナー企業は約5-6社に留まっていたが、それは今となっては8倍に増えたという。権利をパッケージ化するのではなくカスタマイズさせ、個々の満足度を高めるためには、「スポンサーの数を増やし過ぎない」という戦略も明らかにした。

また、新型コロナウィルスの影響下でのスポンサーシップについては、今年3月からデジタルでのアクティベーションを積極的に開催しているが、ソーシャルメディアでのインプレッション数は自宅に滞在する人が増えた影響もあり増加しているとマイヤー氏は語った。選手たちもバーチャルのコンテンツやファンミーティングに積極的に参加し、afterコロナ時代に向け新たなマネタイズの機会を作り出している最中だという。

どんな状況であってもスポンサー企業に寄り添い、共に課題解決に取り組んでいく姿勢。特に地域でミニピッチを作っていく試みこそが、ニューヨーク・レッドブルズが「Red Runs Deep」を実現するために先頭に立ち、新たな価値を企業にもたらしている実例なのではないだろうか。

長年のスポーツビジネスの現場での経験をもとにMLSニューヨーク・レッドブルズでスポンサーシップを担当するダレン・マイヤー氏。日本とまた違った取り組みを知ることで、受講生は今後に生かせるヒントを得たに違いない。第2期の『HALF TIME Global Academy』は、残すところあと1回。最終回となる「放映権ビジネス論」の参加申込は、公式Webサイトで引き続き受け付けられている。

▶︎『HALF TIME Global Academy』第2期 公式Webサイト

 
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