今年3年目の日本プロバスケットボールリーグ、Bリーグはアルバルク東京の2連覇で2018~19シーズンを終えました。
2018~19シーズンの観客動員数においてまだ正式な発表はありませんが、レギュラーシーズンで248万人となっており、B1プレーオフを見据えれば、昨シーズンの250万人を上回るのはほぼ確実でしょう。
右肩上がりの観客動員を更新しているBリーグ。それではBリーグはいかにして観客動員を伸ばしていったのか、考察していきます。
Bリーグとは?
Bリーグとは日本のバスケットボールのプロリーグで、2015年4月に設立されました。ちなみに日本のスポーツにおいては野球のNPB、サッカーのJリーグに次ぐ3番目のプロ・リーグです。
Bリーグの場合、Jリーグをモデルとしていただけにどうしても比較してしまうのですが、開幕時においてJリーグにあってBリーグにないもの、それは代表チーム、選手のネームバリューでした。
Jリーグの場合、ちょうど代表チームが黎明期(れいめいき)を迎え、それに伴い選手の名前がマスコミを通して売れ出した時期であったことから、開幕初年度の観客動員数は実業団の時代をはるかに上回る結果を残しました。
しかしBリーグの場合は、肝心の代表チームが低迷していたことから、マスコミに取り上げられる頻度も当時のJリーグに比べれば多いとはいえず、いかにして観客を呼び込んでいくかが喫緊の課題でした。そこでBリーグはこれまでのプロリーグとは異なるマーケティング手法で観客動員増に挑んでいきました。
ターゲットを『女性』と『若者』に絞った戦略
まずBリーグは2020年までに来場者数300万人というミッションを掲げています。
現時点では発表されていませんが、2018~19シーズンはおそらく270~80万人あたりになると推測されています。
しかしミッションを達成するには来年までに少なくても30万人以上は増やさなければなりません。
しかも残り1年で30万人増やすというのはスポーツの世界においてかなりハードルの高い数字です。
そこでBリーグが一貫して取り組んでいるのは「若者」と「女性」にターゲットを絞ること、潜在来場者のペルソナを形成すること、つまり具現化です。
なぜBリーグは「若者」と「女性」をターゲットにしているのでしょうか?
それは若者の意見として「プレイしていて楽しいから」という答えが圧倒的に多いといわれています。
異論はあるかもしれませんが、丸刈り、根性のイメージがある野球とは対極的な位置にあるといっていいでしょう。
そして野球、サッカーになくてバスケにあるもの、それは学校の授業に男女ともバスケがあることです。
よってバスケに理解ある女性が潜在的に存在しており、そこにBリーグは目をつけたということです。
しかも競技者登録人口はサッカーに次いで2番目で、裾野が広いことも魅力的な市場に写ったはずです。
実際、日本のバスケの競技者登録人口が60万人。
潜在的な観戦意向者は700万人といわれており、試合会場の収容人数の課題はあるにせよ、十分開拓できる余地はあるのです。
そして観戦意向者のペルソナを調査してみると、バスケ観戦者の特徴としてひとりで観戦する人は少なく、集団で観戦したい人が多いのが明らかになっています。
…しかも最初の動機は『誘われたから』。
そう、バスケの場合、観戦者は自ら情報収集して行くのではなく、情報を共有して一緒に行くスタイルが優勢になっているといえるでしょう。
こういう人達は流行にも敏感で気に入れば自ら積極的に情報を発信する、まさに若者や女性の特徴といえるのではないでしょうか?
そうなるとツールとしてSNSはもってこいです。
特にtwitterは拡散力があるので一気に情報を広めることができます。
そしてtwitterといえばスマホ。
Bリーグは情報発信のみならず、スポーツビジネスに必要な要素を全てスマホで済ませるシステムを目指していったのです。
スマホ1台で全て簡潔できる仕組み作り
スポーツビジネスにおいて収入源は何か?それはチケット、放映権、スポンサー、グッズといわれています。
しかし、これまでは上記4つの収入を得るにはコストもそれなりにかかっていました。
チケット販売については委託業者、放映権についてはテレビ中継、スポンサーについては看板広告、グッズについてはスタジアム販売といったところです。
しかしBリーグではこれらを全てネット、しかもスマホで完結しています。
具体的にはチケットについてはWEBにおける直販、放送についてはネット中継、スポンサーならデジタルアクティビティ、グッズならEC販売といった具合で、四大収入を得る上でのコスト削減を徹底的に追求した結果、スマホだけで全て完結できる仕組みをつくりあげたのです。
データベースの一元管理によるデジタルマーケティング
Bリーグは『若者』『女性』をターゲットとして、的確にアプローチするため、世界最先端のスポーツビジネスに欠かせない「デジタルマーケティングの推進」に力を入れるようになります。
デジタルマーケティングにおいて、まずデータベースは欠かせません。
集客するのに必要な要素、つまり来場者、チケット、グッズ等はクラブが握っています。
そこでこれらのデータをBリーグが一括管理することでBリーグ全ての会場でチケットを取りやすくする等観戦者にとって様々なメリットを提供しているのです。
そしてデータを一括管理することでデータ分析や比較、さらにナレッジを共有することで新たなビジネスに繋げるチャンスを生み出すことが可能になります。
現在はお客様を対象としたデータベース統合を構築していますが、近い将来は競技者のデータベースとの連携を視野に入れているといわれています。
BリーグによるとこれらのモデルはアメリカのMLS(メジャーリーグ・サッカー)を参考にしたといわれています。
なぜならアメリカにおけるサッカーの立ち位置と日本におけるバスケの立位置とがとても似ていたからこそ取り入れたのではないかといわれています。
バスケ業界におけるSNSの活用
Bリーグの場合、スタート時からSNSを通じてバスケットボールにおける情報発信に力を入れていました。
なぜなら開幕前の段階でメディアの取扱いが野球、サッカーと比べて断然低く、認知度をあげるには自ら情報発信して存在を認めてもらうしかなかったからです。
そして潜在顧客に対するアプローチもこれまでの『試合を見に来てください』といった直接的な手法ではなく、『まずはつながりませんか?』とハードルを低くしているのがBリーグのアプローチ手法なのです。
バスケットボールの場合、得点が入りやすく、試合展開がスピーディーであることから観戦者曰く退屈になることが少ないそうです。
よって友達に誘いやすいという点がバスケの優位な点で、情報発信する上ではSNSはとても魅力的なツールなのです。
また、Bリーグでは観客動員としてではなく、記者会見やイベントといったライブ配信についてもSNSを活用しています。
TwitterのみならずLINEでも毎週クラブ持ち回りで選手のトークを生配信して、親しみやすさを意識した運営を行っています。
このようにリーグだけでなく、クラブ・選手を巻き込むことでBリーグにおける宣伝の波及効果をSNSで高めているのです。
なぜクラブ・選手がここまで協力しているかというと、Bリーグ全体の収益を各クラブへ配分しているからです。
その配分の目安としてリーグへの貢献といった経営実績の項目の中にSNSの活用といった項目があるといわれています。
まとめ
今回はBリーグにおけるマーケティングの取り組み方にスポットをあてましたが、東京五輪を契機に、競技のプロ化に取り組むスポーツ団体が追随してくる可能性は大きいと考えられます。
つい最近まで卓球がプロ化されましたし、ラグビーも今年秋に開催されるラグビーワールドカップ以後、新たなプロリーグに生まれ変わるといわれています。
そしてハンドボール、アイスホッケーといった球技はいまだプロ化されていません。
よってスポーツのプロ化におけるマーケティング担当者の活躍の余地はまだまだ残されているといえるでしょう。
プロチームを運営するにあたって収入は絶対条件です。
そのためにはマーケティングは欠かせません。
いかにしてお客様を呼び込み、リピーター化していくか、クラブの運営で一番理想的なのはスタジアム、アレナといった器を8割方年間チケットで占めることです。
実際欧州のサッカー界における人気チームはスタジアムの8割以上を年間チケットで占められ、当日券の購入が難しいといわれていますが、これができればクラブ経営はます安定するでしょう。
そしてマーケティング手法も年々進化しています。
SNSを駆使したマーケティングもまだ発展途上ともいえるし、近い将来新たな手法が生まれてくるかもしれません。
マーケティングに携わる人は日々勉強が必要になるでしょう。
スポーツマーケティングは日本のスポーツ界においてこれからますます重要な役割を果たすのは間違いありません。
観戦する人を増やし、魅力に触れたら実際に楽しんでみる、そのサイクルが軌道に乗ればそのスポーツは発展するでしょう。
マーケティングに携わりたい人はスポーツの発展に貢献できます。
理念に共感できれば小さいことでもいいからまずは実行してみてはいかがでしょうか。