デジタル技術を駆使して、スマートフォンやPCなどを通じてギフティング(寄付)を行うのが「投げ銭」。ギフティングの対象は、動画配信者やアーティスト、アイドルや俳優の卵など、多種多様です。
プロスポーツ界でも、ファン層や収益の拡大につなげようと「投げ銭」の導入が進んでします。
スポーツ界での「投げ銭」がどのように行われているか、そしてその課題点などを浮き彫りにしていきましょう。
「投げ銭」とは
「投げ銭」とは、デジタル技術を用いて寄付を行うサービスのこと。「ギフティング・サービス」とも呼ばれ、「SHOWROOM」や「17 Live」、YouTubeの「スーパーチャット(スパチャ)」、ゲーム実況の「Twitch」などが知られています。
動画などを生配信中して、リアルタイムで視聴者が配信者に対してギフト(ポイント)を送ることができる仕組みになっており、配信者にはギフトからサービスの手数料を引かれた分の金額が支払われるケースが多いようです。
スポーツ界でもこの「投げ銭」システムの導入が進められていますが、スポーツにおける「投げ銭」の場合、ユーザーはオンライン上で金銭やポイント等をチームや選手に提供し、チームの勝利や選手のプレーに対して、ファンが直接対価を払うという形になっています。
ユーザーにはポイントに応じたプレゼントを提供
スポーツ界における「投げ銭」として、2018年にスタートした前払い式のSNS型スポーツギフティングサービス、エンゲートがありますが、同社のサービスは、ユーザーがあらかじめポイントを購入し、好きな選手やチームに「投げ銭」として贈ることができるというもの。
エンゲートはSNS型という特徴を生かし、例えば「素晴らしい。ナイスシュート!」、や、「勝ったね。おめでとう!」などのメッセージとともに、ギフティングすることが可能です。
同サービスはサッカーJリーグの7チームやバスケットボール男子Bリーグの9チーム、ハンドボールの湧永製薬やアイスホッケーのアイスバックスなど、49以上のチームが契約しています。
「投げ銭」では、数多くギフティングしたユーザーに何らかの特典が設けられることが多くありますが、エンゲートの場合、ポイントが多いユーザーに選手とのミーティングイベントや撮影会への参加、選手によるオリジナルのビデオメッセージ配信などの特典が用意されています。
得点を充実させ、積極的にギフティング総額の底上げを図っているチームも多く、選手たちも、ギフティングへの返信を積極的に行っています。
プロ野球でもサービス導入の動き
スポーツ界のトレンドになりつつある「投げ銭」ですが、Bリーグなどの新興プロリーグと違い、“老舗”のプロ野球では、あまり浸透していませんでした。
しかし、2020年6月に阪神タイガースがプロ野球で初めてエンゲートと提携。6月26日からの対横浜DeNA3連戦において「スカパー!を見ながらエンゲートで阪神タイガースを応援しよう!」と銘打たれたトークイベントを実施したのです。
同イベントでは、球団OBの亀山努氏と藪恵壹氏が日替わりでエンゲートの阪神専用サイトに登場し、ファンはスカパー!で試合を見ながら、ギフトを行いました。
タイガースの勝利が決まると、六甲おろしを歌うなどして大盛り上がり。視聴者は好プレーを披露した選手に対し、画面上で「ナイスバッティング」などの応援メッセージともにギフティングをしたり、思いを込めたコメントを投稿したりして、にぎやかに試合観戦を楽しんだのです。
3日間で集まった寄付は、1ポイント=約1円の換算で10万ポイントを超えました。選手別では、梅野隆太郎捕手が3万4000ポイント以上を集めて一番人気だったとされています。
同イベントで阪神専用ページを開設したMGスポーツの担当者は「トークイベントが投げ銭のベストな形かどうかは分からない。さまざまな形で今後も展開していきたい」と手応えを口にしています。
ファンから贈られたギフトは、選手への還元はもちろん、タイガースアカデミーを中心としたジュニア育成、また社会貢献活動にも活用されたということです。
今季のプロ野球は、新型コロナウイルスの感染拡大により、3カ月遅れでようやく開幕しました。
開幕当初は無観客試合で実施され、観客動員開始後も1試合5000人の上限のもとで開催しているため、各球団の重要な収入源である入場券収入の激減が懸念されています。
そんな事情から、「投げ銭」の導入が検討されていますが、まだまだ本格導入には至っていないというのが現状です。
ただし、イニングごとに攻守交替があり、サッカーやバスケットボールなどに比べてプレーの静止時間が長い野球は「投げ銭」がしやすいスポーツといえます。
今後は、各チームが追随すれば一気に拡大する可能性はあるかもしれません。
スポーツ×投げ銭には問題も
スポーツ界で注目を集めている「投げ銭」ですが、課題点もあるようです。
その1つとして、「投げ銭の行き先が不透明」であるということが挙げられます。
「投げ銭」は、ユーザーが「投げ銭」の対象を選択できず、選択ができたとしても、本当に選手に届くのかが不透明です。
チーム全体に対してのギフティングであればいいのですが、本来なら特定の選手を選択して「投げ銭」できるようにしないとこのサービス本来の強みにつながっていかないといえます。しかし、それをスムーズに行うシステム構築は簡単ではないでしょう。
また、それができたとしても「投げ銭」したお金が本当に選手個人に届いたかどうかが明らかになることが理想的ですが、これも現状では難しいといえます。
理想的なシステムの構築には、映像配信業者をはじめ、競技の運営組織やチーム、選手やその他の関係者といった各社間の調整が金銭的なものを含めて必要となるため、時間も必要でしょう。ただ、これは不可能ではないので案外早く解決するかもしれません。
「投げ銭」の課題として、「行き先が不透明」という他に、「スポーツと投げ銭の相性の悪さ」というものもあります。これは、既存の投げ銭サービスの成功事例と比較した場合に、スポーツでは消費者心理が微妙に異なるという一面があるからです。
「SHOWROOM」は、アイドルを目指す小女に対してファンが「投げ銭」をするシステムですが、ファンには、「この子のランキングを上げたい」という心理に加えて、「自分の存在をこの子に認知してほしい」という欲求があります。
つまり、その人の夢に「共感」し、その夢を叶えるために「応援(投げ銭)」をするケースが大半であり、「投げ銭」の結果、配信者からの「感謝」「認知」といった心理的な見返りを得ることで、ユーザーは満足するのです。
対して、スポーツ観戦における「投げ銭」の消費者心理というものは、「スーパープレイをした選手への賛美」や「勝利したチーム、勝利に導いてくれた選手への感謝」がメイン。「よくぞ打ってくれた!」でお金を払うものの、「打ってほしい」という思いから、お金を出すことはなかなかないでしょう。
「応援」としての「投げ銭」か、「感謝」としての「投げ銭」か、この違いは大きいはずです。また、ポイント還元によってプレゼント等の何らかの特典が与えられたとしても、「〇〇選手に認知してもらえた」というところまでは難しいと思われます。つまり、物質的な満足度を得るシステムは簡単につくれても、精神的な満足を与えられるシステムの構築は難しいことだといえます。
まとめ
スポーツ世界における「投げ銭」の現状と課題点を紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
新型コロナの影響もあって、スポーツ界でも新たな収益モデルの構築が叫ばれています。
「投げ銭」はそんな意味からも注目され、大きな可能性を秘めるものであることは確かですが、既存の「投げ銭」サービスとの消費者心理の違いなど、超えるべき壁も高いといえるでしょう。
( TOP写真提供 = Sergey Nivens / Shutterstock.com)
《参考記事一覧》
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