業務委託は決して新しい手法ではありませんが、最近は「アウトソーシング」という格好いい名前で呼ばれています。
それは業務委託が、いわば「新・業務委託」になったからです。
かつて、業務委託は、自社では手が回らなくなったときの「つなぎ」でしかありませんでした。
しかし、今は最初から業務委託「ありき」でプロジェクトを進める会社も珍しくありません。
優秀な会社員がフリーランスに転身するようになったり、業務委託を受けるベンチャー企業が増えたり、インターネット会議システムが普及したりしたことで、業務委託は新しいステージに突入しています。
この記事では、業務委託の基礎知識を確認したうえで、企業が業務委託を積極的に利用するメリットとデメリット、業務委託を受けて働く人のメリットとデメリットについて考察していきます。
業務委託とは
業務委託と雇用は、誰かに仕事を任せるという点では同じです。しかし、雇用は仕事を任せるにあたり、その人を自社の従業員にしなければならないのに対し、業務委託は社外の人または会社に仕事を任せることになります。
雇用でないということは、業務委託のメリットとデメリットを考えるうえでとても重要です。
業務委託は委任と請負の2種類。その違いは
業務委託には委任と請負の2種類があります。
委任
委任は、業務委託を受けた人・企業が、業務委託された仕事をすれば完了するというものであり、仕事の成果は問われないのが特徴です。
例えば、A社がイベントの受付業務をB社に委任契約で業務委託したとします。このときB社は、受付の仕事をすればよく、受付の質までは問われません。受付の仕事が終われば、委託料が支払われます。
委任は民法で、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによってその効力を生ずる」と規定されており(第643条)、成果について触れられていません。
請負
請負は、成果が求められます。例えば、C社がD社にコンピュータ・システムの構築を請負契約で業務委託したとします。このときD社は、C社が提示した仕様書とおりのシステムを、期限内につくらなければなりません。期限がきてシステムができあがっても、それが仕様書と異なる場合は業務は終わらず、報酬は支払われません。
請負は民法で「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定されています(第632条)。
「結果」は成果のこと。
つまり、請負は、成果に対して報酬が支払われるので、業務委託をした企業は、成果が出ていなければ報酬を支払う義務はありません。
業務委託をする企業のメリットとデメリット
業務委託をする企業(発注者)のメリットとデメリットは次のようになります。
<メリット>
- 社内で手掛けることができない仕事を遂行できる
- 専門の人・企業に任せることができる
- 人件費を節約できる
- コスト安
<デメリット>
- 社員が育たない
- 社内に知見が蓄積しない
- 失敗したときにリカバーが難しい
- 発展性が乏しい
1つずつ解説します。
メリット:社内で手掛けることができない仕事を遂行できる
企業に大きなビジネスチャンスが巡ってきても、そのビジネスを自社の経営資源だけでは遂行できないことがあります。
例えば、メーカーが新技術の特許を取得して試作品を完成させても、販売ルートを持っていない場合があります。または、マーケティングが苦手なこともあるでしょう。
そのようなとき、販売だけを、または、マーケティングだけを、他社に業務委託することができます。
マーケティングと販売を他社に手伝ってもらえれば、下請メーカーがBtoCビジネスを展開できるようになるかもしれません。
メリット:専門の人・企業に任せることができる
社内にマーケターや販売員がいても、その人たちのスキルが低いこともあります。そんなときに業務委託を選択すると、専門のスキルを持った人にマーケティングや販売を頼むことができます。
業務委託先企業と一緒に自社のマーケターや販売員が仕事をすれば、高いスキルを吸収できるでしょう。
業務委託先は「企業の家庭教師」になります。
メリット:人件費を節約できる
例えば、これまで大規模イベントを開いたことがない企業が、その業務を遂行するには、社員をいちから育成しなければなりません。それには時間もコストもかかります。
業務委託してしまえば、社内に大規模イベント用の社員を持つ必要がなく、人件費を節約することができます。
メリット:コスト安
業務委託先の人・企業は、特定の仕事に特化していることが多いので、効率よく業務をこなすことができます。そのため、割安に受注することが珍しくありません。
デメリット:社員が育たない
企業が業務委託を乱発すると、社員が育ちません。
経営者が安易に業務委託を容認すると、管理職やプロジェクトリーダーは、難しい業務が発生すると業務委託先を頼るようになるでしょう。
経験が浅い部下に仕事を任せると、上司は仕事を教えたり、完了するまでの長い時間を待ったり、失敗したときのフォローをしたりしなければなりません。業務委託したほうが、楽に高い成果をあげることができますが、それでは部下は成長しません。
デメリット:社内に知見が蓄積しない
企業にとって仕事をこなすことは、その仕事に関連する知見を社内に蓄積することに他なりません。企業は仕事でしか売上をあげることができないので、業務委託はビジネスチャンスを他社に渡しているようなものです。
業務委託先の人・企業は、割安な委託料でも利益を上げることができています。それは、その優れたビジネスモデルを構築できたからです。安易な考えで業務委託を続けていると、ビジネスモデルを考える貴重な機会を失うことになります。
デメリット:失敗したときにリカバーが難しい
業務委託先に任せる仕事を、ブラックボックス化させないようにしましょう。ブラックボックス化してしまうと、業務委託先が仕事に失敗したとき、発注側企業はリカバーできません。
もちろん、業務委託先が仕事に失敗すれば賠償請求することができます。しかし、失敗したことの直接的な損害は、発注側企業が被ることになります。
デメリット:発展性が乏しい
業務委託先の人・企業は、受けた仕事「しか」しません。そのため発注側企業は、事業の発展は期待できません。
自社の社員が同じ仕事をすれば、さまざまな気づきが得られ、そのなかから優れた改善案が生まれるかもしれません。
働く人にとっての業務委託のメリットとデメリット
業務委託を受けて働く人のメリットとデメリットは次のようになります。
ここでは業務委託の受け手として、フリーランスなど個人事業主を想定しています。
<メリット>
- 交渉で報酬を決めることができる
- 仕事の裁量が大きくやりがいがある
<デメリット>
- すべて自己責任、守ってもらえない
- 労働力を「買い叩かれる」可能性がある
1つずつみていきましょう。
メリット:交渉で報酬を決めることができる
働く人が労働者の場合、つまり会社に雇われている場合、どれだけ良質な仕事をしても、どれだけ大量に仕事をしても、給料と手当と賞与以上の報酬を得ることはできません。
しかし、フリーランスになれば、クライアント企業から業務委託の打診を受けたとき、報酬の相談をすることができます。
これは自分のスキルと労力と時間を高く売るチャンスであり、労働者には巡ってこないチャンスです。
メリット:仕事の裁量が大きくやりがいがある
業務委託の仕事には仕様書があり、そのとおりのものをつくったり、そのとおりにしたりしなければなりませんが、それ以外は自由に仕事を進めることができます。
労働者の場合、上司の指示通りに仕事を進めることを、強く求められることは珍しくありません。
デメリット:すべて自己責任、守ってもらえない
フリーランスが業務委託を受ける場合、交渉も、契約締結も、業務の遂行も、報酬の請求も、経理業務も、すべて1人でやらなければならず、すべての判断は自己責任になります。
もちろん、発注企業もフリーランスが困ったら助けるでしょう。しかし、その助け方は上司や先輩社員がしてくれる助け方とは違います。
上司や先輩社員は、スタッフを育成しようと助けますが、発注企業は業務が滞ると困るからフリーランスを助けるだけです。
そして、発注企業にとって「助け」は「余計なコスト」です。
助けなければならないことが多くなると、次はもうそのフリーランスに発注しないでしょう。
デメリット:労働力を「買い叩かれる」可能性がある
企業と個人では、どうしても個人のほうが弱くなってしまいます。
つまり、業務委託をする企業と、仕事を受けるフリーランスでは、どうしてもフリーランスのほうが立場は弱くなります。
業務委託をする企業は、コストダウンをしたくて自社の仕事を外に出します。フリーランスは、よほど高い技量を持っていないと、自分の労働を買い叩かれてしまうでしょう。
ただこれは、発注側企業とフリーランスが対等の立場だから起きる現象です。ビジネスでは、対等の立場にある2者は、熾烈な「綱引き」をすることになります。
報酬の交渉ができるのは、スキルがあるフリーランスだけです。スキルが低い人の場合、労働者でいたほうがより高い報酬を得ることができるでしょう。
まとめ
業務委託という仕事の仕方は、発注側にも受注側にも、メリットとデメリットがあるもの。
本記事で紹介した内容を参考に、うまく活用してみてください。
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