ラグビーでのスクラムといえば、大迫力の組み合いです。「スクラムを制するチームが試合も制す」と言われるほどで、その後のプレーに大きな影響を与えるため、ラグビーの醍醐味でもあります。かつては、スクラムを不得意としていた日本チームですが、スクラムを強化し、世界の強豪チームと互角に戦うまでに急成長しました。
本記事は、スクラムのルールや組み方、反則について、今後の試合観戦で役立つ内容になっています。
スクラムとは
スクラムとは、軽度の反則が起きたり、密集からなかなかボールが出ずに、試合が動かなくなった時、早く、安全に、公平に試合再開ができるようにするために行われるセットプレーです。
1900年代以前は、スクラムの明確なポジション分けやルール設定はされておらず、当時は、スクラムのポジションに近かった選手がフロントローとなって、グラウンドにボールを置いて試合を再開していました。その後、1900年代前半にニュージーランドチームが2−3−2のスクラムを組んだことをきっかけに、ルール化されました。
スクラムでは、押し勝つことによりボールを奪って攻撃のチャンスを作ることができます。基本的に、優勢なのはボールを投げ入れるチームですが、スクラムで押し勝ち、相手側のチームがボールを奪うこともあります。そうなると、攻守が逆転し、試合の流れが大きく変わることも少なくありません。これも、ラグビーの見どころです。
ルール
ラグビーは危険を伴うスポーツなので、ジャッジは両チーム公平に、正しく行われることが何よりも優先されます。
ルール上は、絶対に何人でスクラムを組まなければならないという決まりはありません。基本的には、フォワード8人ずつの計16名でスクラムを組みます。しっかりと静止した状態になるまでは、審判は掛け声ができません。そして、タイミングを見計った審判による掛け声をきっかけに、ボールを保持しているチームのスクラムハーフが、スクラムの真ん中に真っ直ぐにボールを投げ込み、ボールの取り合いが始まります。 スクラム内では、フッカーがボールを足でかき出すことになっています。ボールが真っ直ぐに入らなかったり、フッカー以外のプロップが手でかき出した場合は、反則になります。
スクラムの掛け声
スクラム時に審判がする掛け声を聞いて、何の為に、何を言っているのか気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは、スクラムを組むタイミングを合わせるため掛け声で、「クラウチ、バインド、セット」と言っています。
「クラウチ」は、かがむ・しゃがむの意味の英語で、身をかがめてスクラムの準備をします。
「バインド」は、紙挟みをバインダーというように、縛る・束ねるという意味の英語です。ラグビーでは、フロント左右のプロップが相手プロップのユニフォームをつかむことで、最前列が離れ過ぎないように、気をつけなればなりません。
そして「セット」で、両チームのフォワードが頭を入れてスクラムを組みます。
掛け声の歴史
一昔前までの掛け声は、クラウチ、アンド・ホールド、エンゲージの3段階でした。ちなみに、アンド・ホールドは、クラウチの姿勢の維持、エンゲージは現在のセットと同じです。
しかし、これにより深刻な首の怪我をする選手が多かったことから、エンゲージでの衝撃を弱めるため、アンド・ホールドを相手プロップの肩をタッチする「タッチ」に変更され、エンゲージの前に「ポーズ」を含めた4段階(クラウチ、タッチ、ポーズ、エンゲージ)が試されました。
現在は、姿勢をキープするポーズが負担という選手たちからの意見と、時間短縮の理由で3段階に戻され、タッチからバインドに変わることで相手をつかむ形に、より安全になるよう修正されています。
スクラムの組み方
まず、フロントの3人がフッカーを中心に、お互いの体脇のジャージをしっかりつかんで引きつけ合って組み、塊を作ります。相手に負けない姿勢になるには、できるだけ膝を地面の近くまで落とし、腰を落とした低い姿勢を保つことが重要です。相撲でもそうですが、力勝負では腰が高いと力負けしがちです。また、首の筋肉を鍛えるトレーニングも大切です。
次に、第2列のロック2人が、お互いに組み合った後、第1列の3人の間2箇所に頭を入れ、第1列の選手のお尻の位置に合わせて肩の位置を調整します。
その後、第3列にいる左右フランカーは、それぞれ、第2列にいるロック2人をつかみ、肩を第1列のお尻につけます。そして最後にナンバーエイトが左右のロックのお尻に肩をつけて待ちます。左右フランカーとナンバーエイトは、守備に飛び出すことも多いので、きつくスクラムに組み込むことはしません。
審判は、両チームのスクラムの準備ができたことを確認してから、掛け声を開始します。掛け声の前に組み始めた場合、後ほど解説するアーリーエンゲージの反則を取られます。
ポジションと役割
主流なのは、左右フランカーを2列目の左右ロックの横に配し、ナンバーエイトのみ3列目という3−4−1の組み方です。
フロントローは3人、左から左プロップ、フッカー、右プロップとなります。センターのフッカーは、スクラムリーダーとも呼ばれ、スクラムの8人をまとめ上げ、マイボールスクラムの際には、足でボールを味方側にかき出す役目があります。両サイドのプロップにはスクラムで支柱となる、体が大きくパワーのある選手を配置します。どちらかというと右プロップが起点になって押し込むことが多いです。
セカンドローは、左ロックと右ロックの2名を配置します。右ロックにはパワーのある選手を置き、右プロップに力を与えます。
3列目のバックローは3人で、左フランカー、ナンバーエイト、右フランカーを配置します。左フランカーには、タックルが上手い選手を配し、相手のナンバーエイトからの攻撃を阻止します。
右フランカーは右プロップを支え力を与えつつ、相手の攻撃にも備えます。
最後尾にいるのは、チームで最もパワーのあるナンバーエイトです。スクラムを統率しつつ、フッカーがかき出したボールをスクラムハーフに繋いだり、自ら持って走ったりし、攻撃にも守備にも、スクラム以降のボールを素早く上手く扱える選手を配置します。
かつてはスクラムが苦手だった日本チームですが、スクラム時の個々の選手の弱点を見つけ、練習を繰り返し、克服しました。また、戦う相手チームに合わせた戦略を立て、組み方を工夫したことで、安易には押し出されない体制を作ることができるようになったのです。
スクラムの反則
ラグビーにはスクラムに関する反則が多くあります。本記事では、その一部を紹介していきます。スクラムは危険を伴う行為ということもあり、ルールにも禁止行為が細かく定められています。
反則を行なった場合に、相手チームに与えられる権利が3つあります。軽い方から重い順に、スクラム、フリーキック、そしてペナルティです。フリーキックでは、以下の4つから選ぶことができます。
- ボールを蹴り出し、相手陣地に攻め込む
- 相手チームのラインアウト
- その場でタップキックから再開
- スクラム
続いて、スクラムの主な反則行為についてご紹介します。特に記載がない限りは、以下で紹介する反則行為に対して、相手側に与えられる権利はペナルティです。
アーリープッシュ 〜ボールがスクラムに入る前、審判の「セット」の声の前にフライングしてスクラムを押すと、この反則になります。相手チーム与えられるのは、フリーキックです。
オーバータイム 〜スクラムハーフが、故意に制限時間内にボールを投入しない反則のことです。こちらも、相手チームにフリーキックの権利が与えられます。早くボールを入れない場合は、審判からも指示が出るので、滅多には起こらない反則です。
コラプシング 〜スクラムを故意に崩したと判定された場合にとられる反則で、スクラム時によく見られます。自然に崩れてしまった場合には、組み直します。
ニーリング 〜故意に膝をついたり、形を崩す反則行為のことです。攻守どちらにおいても反則になる可能性があります。
ヘッドアップ 〜スクラムが終了する前に故意に頭を抜いてしまった時の反則です。
まとめ
本記事では、スクラムについて解説しました。怪我をすると命に関わる危険な行為だからこそ、細かなルールや反則行為がたくさんあるのですね。
2019年のワールドカップでアイルランドやスコットランドといった強豪チームと戦った日本チームは、スクラムの組み方を強化したことで、見事勝利しました。スクラムに注目して観戦してみると、より迫力満点の試合鑑賞ができるのではないでしょうか。
(TOP写真提供 = Olga Guryanova / Unsplash.com)
《参考記事一覧》
スクラムには何の意味があるの?初心者のためのラグビー解説!(スポジョバ)