現在、大河ドラマや民放ドラマの影響か、マラソンに注目が集まっています。
日本におけるマラソンは、1912年のストックホルムオリンピックから始まったともいえます。
その当時、「マラソン足袋」でマラソン競技に出場していました。
それから時間が経ち、マラソン競技には専用の「ランニングシューズ」が使用されるようになりました。
そして、現在では、おもにランニングシューズがマラソンで使用されています。
この記事では、マラソンシューズの歴史と各メーカーの取り組みについて、解説します。
SEEスポーツからDOスポーツへの広がりを見せるマラソン
2007年の「東京マラソン」をきっかけに、ランニング人口が増えたといわれています。
メタボリックシンドロームの解消や健康維持のためにランニングを続ける人は多く、かつて「見るスポーツ(Seeスポーツ)」だったマラソンは、今や「やるスポーツ(Doスポーツ)」に変化しているといえるでしょう。
そんなマラソンは、走りやすい「靴」と走行のための「道」さえあれば、誰でも手軽に始められるスポーツであり、アマチュアからプロフェッショナルまで数えると、多くのランナーがいると考えられます。
そのマラソンに欠かせない「靴」ですが、現在、「ナイキ」や「アシックス」のような有名企業が「マラソンシューズ」の生産・販売をしています。
しかし、マラソンにおいて欠かせない「履物」は「シューズ」だけではなく、「マラソン足袋」と呼ばれるものも。
この「マラソン足袋」は、1912年、ストックホルムオリンピックが開催された頃から存在していたといわれています。
「ハリマヤ足袋店」がつくった「マラソン足袋」
以前、東京の文京区大塚に「ハリマヤ足袋店」という足袋製造会社がありました。
ここの足袋を愛用し、マラソンの練習に明け暮れていたのが「金栗四三」。
大河ドラマ「いだてん」の第一部の主人公にもなった人ですね。
この「ハリマヤ足袋店」がつくった足袋は、ストックホルムオリンピック予選においても金栗選手によって使用されました。
マラソン途中で足袋底が剥がれるというトラブルが起きたにも関わらず、彼は見事優勝しています。
ストックホルムオリンピックの予選後、その経験を活かし、マラソン専用の足袋が開発されました。
「マラソン足袋」誕生
金栗選手とハリマヤ足袋店は、共同で、マラソンの走行に特化した「マラソン足袋」を開発。
材料選びから始まり、何度も改良・改善を重ねて誕生した「マラソン足袋」は、ストックホルムオリンピック本大会において使用されます。
しかし、布製の足袋は石畳の路面からの衝撃を吸収できず、多くの選手が膝を痛めてしまいました。
金栗選手も実力を発揮できずに棄権。
マラソン足袋にはさらなる進化が求められました。
「金栗足袋」の誕生
ストックホルムでの苦い経験を活かし、マラソン足袋の底には丈夫なゴムとショック吸収用の凹凸が加えられました。
この新しい「マラソン足袋」は、金栗選手達によって、下関から東京までの1200km走破が可能かどうかのテストをされ、見事その長距離ランニングに耐えました。
1919年には足袋の「こはぜ」を除去し、代わりに甲ひもをつけた「金栗足袋」が完成。
1928年のアムステルダムオリンピックでは、この金栗足袋を履いた山田兼松選手と津田清一郎選手がそれぞれ4位と6位になりました。
続く1936年のベルリンオリンピックでは、孫基禎選手が優勝を果たすなど、金栗足袋は見事マラソンの日本選手をオリンピックの頂点へと押し上げたのです。
マラソンの進化に欠かせない「シューズ」の進化
「マラソン足袋」の進化についてみてきましたが、「マラソンシューズ」はどのように進化してきたのでしょうか。
元々、スポーツシューズは存在せず、あったのは革靴だけ。
スポーツシューズという概念が誕生したのは、1895年に「ジョセフ・ウィリアム・フォスター」という人が靴に釘を打ち付けスパイクシューズを開発したことがきっかけです。
20世紀に入り、フォスターはスポーツシューズ専用メーカーの「J.Wフォスター社」を創設。
スポーツ専用シューズの開発・販売をします。
1920年にはドイツのダスラー兄弟が「ダスラー兄弟商会」を創設し、さまざまなスポーツ専用シューズを開発。
現在の「アディダス」「ピューマ」の礎を築きました。
ランニング専用シューズの誕生
ランニング専用シューズは、1953年に先述の「ハリマヤ足袋店」が開発しました。
その名も「カナグリマラソンシューズ」です。
これを履いた山田敬蔵選手はボストンマラソンで優勝し、マラソンシューズの機能性を世界に見せつけました。
その後、1959年に、表面に針の先端ほどの小さな穴が開けられ、着地ごとに靴の内部の熱と湿気を外部に排出する仕組みを採用したマラソンシューズが誕生します。
その高い通気性と靴底のグリップ力は多くの選手から評価され、1964年の東京オリンピックでは円谷幸吉選手がこれを履いて銅メダルを獲得。
1968年のメキシコシティーオリンピックでは、君原健二選手がこれを履いて銀メダルを獲得しています。
高反発素材を使用した厚底シューズ
足を包む「アッパー」と地面に接する箇所である「アウトソール」の間には、着地時の衝撃を吸収するパーツである「ミッドソール」が配されています。
このミッドソールをかかとからつま先まで全面に配した初めてのシューズが「ボストン」です。
その後、地面からの衝撃を吸収するためのミッドソールの厚みは新しい製品が生まれるごとに厚くなっていきますが、上級ランナーは地面に脚力を十分に伝えるため、ミッドソールが薄めのものを選んでいました。
しかし、2017年に高反発素材をミッドソールの材料として使用し、着地時の衝撃の85%をエネルギーに変換しながらも、かかとからつま先までにカーボンファイバープレートを採用することで、推進力を飛躍的に向上させたマラソンシューズが誕生しました。
このシューズは「東京フルマラソン2018」で設楽悠太選手が着用し、彼の日本新記録達成に貢献しました。
マラソン足袋
マラソンシューズの誕生・改良によって、マラソン足袋から注目がそれましたが、近年、マラソン足袋に再び注目が集まっています。
今注目を集めるマラソン足袋ってどんなもの?
マラソン足袋に再び注目が集まったきっかけは、民放ドラマ「陸王」です。
この劇中で老舗足袋業者にいる主人公達が開発したのが、「陸王」と呼ばれるマラソン足袋。
劇中の小道具のマラソン足袋をつくったのは、スポーツ用品メーカーの「MIZUNO」です。
フィクションとはいえ、足袋自体は少し改良すれば本格的な競技にも使用できるものに仕上がっており、商品化を望む声も多く寄せられたといいます。
オリンピック選手が使用
先述したように、マラソン足袋はオリンピック選手が履いていたほど。
トップレベルの競技にも対応できる確かな性能があります。
現時点でマラソン足袋を使用して競技に出場している選手はいませんが、いつか、かつてのようにマラソン足袋を履いた選手が出てくると良いですね。
ドラマ「陸王」で使用
「陸王」で使用されたマラソン足袋は各所で注目を集めましたが、その一方で、平成に入ると同時に倒産した「ハリマヤ」のことも話題となりました。
そして現在、大河ドラマ「いだてん」で「ハリマヤ」のことが取り挙げられ、ランニングシューズの礎となったマラソン足袋に注目が集まっています。
ハリマヤの技術は、「オリンピアサンワーズ」というシューズメーカーに大事に保存されており、ハリマヤのシューズも店内に展示されています。
プロが愛用しているマラソンシューズはどこのメーカー?
ここからは、現在のプロが使用しているシューズはどこのメーカーのものか、見ていきましょう。
プロはおもに以下のメーカーのシューズを使用しています。
・ナイキ
ナイキは、先述のカーボンプレート入り厚底シューズをつくった会社です。
現在、選手達の多くがこちらの厚底シューズを履いています。
・アディダス
アディダスは、ナイキのライバル企業のひとつです。
新たなマラソン用シューズ「Adizero Sub2」を開発しています。
まとめ
現在、メーカー各社がつくるマラソンシューズは飛躍的な進化を遂げています。
その結果、2時間を切るタイムでフルマラソンを走り切ることができるようにする計画もスタートしています。
今後、マラソン用シューズがどのように進化していくのか、目が離せません。
参考記事一覧
NIKEの最強シューズは「フルマラソン2時間切りを可能にする」(WIRED)
履いた選手が活躍 ナイキの厚底シューズに「ドーピング」の声も(livedoor news)
市民ランナーが4年で100万人も減った謎 地方在住の40~50代男性が減少(PRESIDENT Online)
シューズが支える「マラソンの進化」(NHK SPORTS STORY)
ドラマ「陸王」の"マラソン足袋"を制作したミズノに聞く、もう一つの開発ストーリー(FASSION SNAP.COM)