スポーツ心理学とはどのような学問で、どう活用するのか

プロスポーツ選手が飛び抜けた成績を残すと、「メンタルが変わった」と分析されることがあります(*1、2)。

スポーツは、運動神経と筋肉を競うゲームであり、体を上手に動かす才能と厳しいトレーニングが勝負の行方を左右するはずです。それではなぜ、メンタルや気持ちや感情といった、神経や筋肉や肉体以外のものが重視されるのでしょうか。

それは、心の動きがトレーニングのモチベーションに関わったり、極度の緊張がパフォーマンスを著しく低下させたりするからです。

そこで、スポーツをする人の心を整えて、最高のパフォーマンスを追求する学問「スポーツ心理学」が誕生しました。

スポーツ心理学がどのような学問で、スポーツ・シーンでどのように使われているのか、スポーツ心理学に関する資格とあわせて紹介します。

*1:大坂なおみ元コーチが明かすメンタルコントロールの極意『心を強くする』(DIAMOND ONLINE)

*2:イチローにとって、平常心を保つことは、剛速球を投げることと同じくらい大切なことだ(前編)(SPORTING NEWS)

スポーツ心理学とは

国立スポーツ科学センターは、スポーツ心理学を「スポーツに関わる課題を心理学的側面から明らかにして、スポーツの実践や指導に科学的知識を提供する学問」と定義しています。(*3)

この定義から、次のことがわかります。

  • スポーツ心理学は、スポーツ全般を対象とするものであって、プロスポーツ専門の学問というわけではない
  • スポーツの課題には心理的な側面がある
  • スポーツ心理学は、スポーツすることやパフォーマンスに加えて、指導も研究対象にしている
  • スポーツ心理学では、科学的なアプローチをする

*3:https://www.jpnsport.go.jp/jiss/tabid/1296/Default.aspx

スポーツ心理学の領域

スポーツ心理学には、

  • スポーツ運動の発達
  • スポーツの運動学習
  • スポーツの動機づけ
  • スポーツの社会心理
  • 競技の実践心理
  • スポーツメンタルトレーニング
  • 健康スポーツ心理
  • スポーツ臨床

の8つの領域があります。

それぞれの領域の詳細は以下のとおりです。

  • スポーツ運動の発達

運動発達やスポーツ経験の心理面への影響を検討する

  • スポーツの運動学習

運動制御と運動学習を検討する

  • スポーツの動機づけ

スポーツに参加したり、スポーツを継続したりする心理社会的要因を検討する

  • スポーツの社会心理

スポーツ集団内の個人の行動や、グループダイナミクスを検討する

  • 競技の実践心理

実力を発揮するための心理要因などを検討する

  • スポーツメンタルトレーニング

リラクゼーションやイメージング、メンタルトレーニングが、身体、心理、パフォーマンスにどのように影響するか検討する

  • 健康スポーツ心理

身体活動、メンタルヘルス、身体活動などに関する心理社会的要因を検討する

  • スポーツ臨床

スポーツに関わる悩み、課題、人格的成長に関する心理を検討する

スポーツ心理学によるパフォーマンスへの影響

写真提供 = Serena Repice Lentini / Unsplash.com

スポーツ心理を学んだことがないアスリートや一般の人には、「スポーツ心理学は本当に運動パフォーマンスを上げるのか」と疑問に感じる方も少なくないでしょう。

スポーツ心理学の専門家で大阪体育大学教授の手塚洋介氏は、スポーツ選手がメンタルトレーニングを受けると、次のようなスキルを獲得できるようになると指摘しています(*4、5)。

メンタルトレーニングで得られるスキル

  • イメージを活用するスキル
  • 注意をコントロールするスキル
  • 目標設定に関するスキル
  • 心理的エネルギーをコントロールするスキル
  • ストレスを管理するスキル

試合前に試合運びをイメージできれば、そのゲームを有利に進めることができます。

スポーツは長丁場になることが多いもの。しかし、注意力を常にマックスにしておくことはできません。したがって、試合中、ここぞというときに注意力を集中させるには、注意力を低下させるスキルも重要となります。

また、ハイパフォーマーたちは、目標を立ててそれに向かって進むようにしていますが、目標が高すぎるとモチベーションが高まりません。一方で、目標が低すぎると簡単に達成できてしまい練習量が増えることはありません。

そして、スポーツの疲れには、身体的な疲れと心理的な疲れがありますが、身体的エネルギーを温存するように、心理的エネルギーもコントロールしていかなければなりません。

また、スポーツ選手にも、当然ですがプライベートの時間があります。日常生活でストレスを抱えていると、練習に身が入らなかったり、試合に影響することもあります。

以上のように、メンタルトレーニングで得られる5つのスキルがスポーツのパフォーマンスに直結することがわかります。

*4:心理学が解明する、「スポーツパフォーマンス」と「感情」との関係(夢ナビ)

*5:https://www.ouhs.jp/department/teacher/tezuka_y/

なぜ緊張すると試合で力を発揮できなくなるのか

「緊張すると試合で練習の成果を発揮できない」とは、よく言われることであり、多くの人が経験していることですが、この現象にも、選手の心理(メンタル)が関わっています。

緊張とは、感情が強まった状態のこと。

たくさんの人が見ている、負けるとこれまでの努力が水泡に帰す、支援してくれた人のためにもよい成績を残さなければならない、相手はとても強そうだ――このような感情が緊張を生みます。

手塚教授によると、感情は、環境変化に対応するために動き、そして動いた感情は身体の変化をもたらします。身体の変化とは、自律神経の活動の変化であり、自律神経が支配している臓器や器官の活動の変化のこと。

つまり、緊張という感情の変化によって自律神経が通常とおり働かず、その結果、手足が通常とおり動かなくなるわけです。

それでは、試合で最高のパフォーマンスを発揮することはできません。

ここまでの流れをまとめるとこのようになります

●感情の変化(緊張)→自律神経の変化→手足の変化→低パフォーマンス

低パフォーマンスを解消するには「元」を改善すればよいわけです。この流れを逆にしてみましょう。

●低パフォーマンスを高パフォーマンスに変える→手足を自由に動かせるようにする→自律神経を通常とおりに動かす→感情の変化をきたさないようにする(緊張しないようにする)

つまり、試合本番になっても緊張を生まないようにする訓練、つまりメンタルトレーニングが重要になります。

スポーツ心理学に関する資格

本記事では、次の3つのスポーツ心理学関連の資格を紹介します。

  • スポーツメンタルトレーナー
  • スポーツメンタルトレーニング指導士
  • 認定スポーツカウンセラー

スポーツメンタルトレーナーとは

スポーツメンタルトレーナーは、

1)選手に効果的な練習を指導できる
2)練習を継続する意思を育てることができる
3)試合本番で実力を発揮できるように選手を心理面でサポートできる

人材のこと。

一般財団法人日本能力開発推進協会が認定する民間資格であり、スポーツメンタルトレーナーの資格を取得するには、日本能力開発推進協会の講座を受け、試験に合格する必要があります。

学習内容と試験内容は、

1)勝つために必要なメンタルトレーニングの知識
2)不安やスランプを克服するメンタルトレーニングの知識
3)結果を出すための指導の知識

の3項目です。

スポーツメンタルトレーニング指導士とは

スポーツメンタルトレーニング指導士は、選手に心理的スキルを身につけさせたり、選手の心理的な相談にのったりすることができる人材のこと。

日本スポーツ心理学会が認定する民間資格であり、スポーツメンタルトレーニング指導士の資格を取得するには、

1)日本スポーツ心理学会に2年以上加入
2)スポーツ心理学の修士号を取得
3)所定の研修を受ける
4)指導実績を持つ
5)日本スポーツ心理学会の講習会を受講
6)審査にパス

という6つのステップを踏まなければなりません。

かなりハードルが高い資格であるといえるでしょう。

認定スポーツカウンセラーとは

認定スポーツカウンセラーは、スポーツに関わるすべての人に、心理面のカウンセリングを行える人材のこと。

認定スポーツカウンセラーは、日本臨床心理身体運動学会の認定資格であり、認定スポーツカウンセラーには1級、2級、3級があります。

3級を取得するには、

1)スポーツを8年以上行っている
2)体育学系科目と心理臨床系科目を所定の単位数取得の2つをクリアしていなければなりません。

2級を取得するには、

1)3級を取得して5年以上経過
2)修士を持つ
3)スポーツ臨床経験や日本臨床心理身体運動学会指定の研修を受ける

ことが求められます。

また、1級を取得するには、

1)2級を取得後、臨床心理士資格を取得
2)スーパーバイザーを経験
することが条件となっています。

まとめ~スポーツ選手の精神的支柱

スポーツは結果がシビアで、自分の実力を隠すことはできません。

また、スポーツ選手には、アドバイスしてくれる人や練習相手が必要です。

つまり、スポーツ選手は、孤独と闘ったり、他人とコミュニケーションを取ったりしなければならないので、強い精神力が必要です。しかし、すべての選手が強い精神力を持っているわけではないので、精神的支柱が必要となります。

スポーツ心理学を習得すると、スポーツ選手たちの精神的な支柱となることができます。

(TOP写真提供 = carballo / shutterstock.com)


《参考記事一覧》

大坂なおみ元コーチが明かすメンタルコントロールの極意(DIAMOND ONLINE)

イチローにとって、平常心を保つことは、剛速球を投げることと同じくらい大切なことだ(SPORTING NEWS)

心理学が解明する、「スポーツパフォーマンス」と「感情」との関係(夢ナビ)

手塚洋介(大阪体育大学)

スポーツメンタルトレーナー(一般社団法人 日本能力開発推進協会)

スポーツメンタルトレーニング指導士とは(日本スポーツ心理学会)

認定スポーツカウンセラー資格について(日本臨床心理身体運動学会)

 
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