サッカー元日本代表の鈴木啓太氏が2015年に立ち上げたAuB株式会社。腸内細菌の研究から始まり、現在は一般向けのコンディショニング製品から、次世代アスリートを支援するプロジェクトも手掛ける。注目を浴び続けるAuBの現在位置とは?鈴木氏に伺った。(取材・文=小林謙一)
研究開発から製品化まで。奔走した6年間
Jリーグの浦和レッズで2000年から2015年まで活躍し、各世代の日本代表にも名を連ねた鈴木啓太氏。彼が引退後に創業したのが、腸内細菌の研究とコンディショニング関連製品を展開するAuB株式会社だ。
調理師の母親に幼少の頃から「人間は腸が一番大事」「便を見なさい」と言われて育ち、現役時代にも腸からコンディションを整えてきた経験をもとに2015年10月創業。アスリートの腸内細菌を研究し、その研究成果からヘルスケアに応用できる製品の開発を進めている。
現在AuBは創業から7期目。これまでにアスリート750名から検体を提供してもらい、その腸内細菌データを研究してきた。最初の4年の歳月を費やして理想的な腸内細菌の種類や割合の傾向を発見し、独自の菌素材「ATHLETE BIO MIX®(アスリート・ビオ・ミックス)」を開発するに至った。それを製品化したものが、「AuB BASE」と「AuB MAKE」というコンディショニングアイテムだ。
「AuB BASE」は、腸内環境を整えるためのカプセルタイプのサプリメントで、コンディションの土台を作るためのものとして「BASE」と名付けられている。腸内環境を整えるには、1000種類もあるといわれる腸内の細菌群(腸内フローラ:細菌叢)が多様性に富んでいることが必要で、それによりヒトの健康につながることが研究からわかってきた。
「腸内環境はヒトの免疫に大きく関わっていて、免疫機能のうち7〜8割は腸が司っているといわれています。腸内フローラの多様性と、新型コロナウイルス感染の重篤化、うつや癌といった病気との関連性も世界で研究が進んでいます。健康な人にとっても、持病があるような人にとっても、腸内フローラの多様性はとても重要なんです」(鈴木氏)
一般的には、ヨーグルトなどが腸内環境を整えるのにいいと言われる。それに対し、より利便性を高くしたのがAuB BASEといってもいい。
「発酵食品全般が腸内環境を整えるのに有効だというのはよく知られていますよね。確かに特定の菌には特定の機能があるのですが、1つの食品からは1〜数種類の菌しか摂取できません。毎日違ったヨーグルトを食べるのも大変ですし、続けにくいですよね。そこで、AuB BASEはアスリート・ビオ・ミックスをもとに、30種類以上の菌を理想的に組み合わせてあるんです」(鈴木氏)
トップアスリートも愛用するプロダクト
実際にAuB BASEを愛用する現役アスリートも多い。ボートレーサー(競艇選手)のトップ選手、毒島誠選手もそのひとりだ。毒島選手は最高峰のSGグレードで7回の優勝を誇り、同世代の選手とともに「ニュージェネレーション」と呼ばれる実力派でもある。
「実は、私自身が『腸活』について興味があって、SNSで発信していたんです。それをAuBさんが見つけてくれて、縁がつながりました。30歳を過ぎて、今後も活躍するためにはコンディショニングが重要だと考えていましたから」
こう話す毒島選手は、サプリメントを利用しながら年間のレースを戦っている。
「AuB BASEを使ってみて、風邪をひきにくくなったと思います。それと、もともと鼻炎を患っていたのですが、症状がひどい日が減りましたね。二日酔いも少なくなったし…。あとはやはり便通がよくなりました。私の場合は朝食を食べたあと、決まった時間に出るようになりました。とても規則正しい感じですね」
アスリートならではの実感もあった。ボートレーサーは減量が避けられず、体調管理には人一倍気をつける必要がある。
「私たちボートレーサーは、一年中減量との戦いに苦しむんです。かつては下剤などを使って体重を落としたりもしていたんですが、そうすると腸内の善玉菌まで排出してしまうのか、体調が悪くなるときもありました。今ではそうしたことは減りましたね。コンディションはよくなったと思います」(毒島選手)
鈴木氏もこう補足する。
「腸内環境は『整う』ことが大事なんです。新型コロナウイルスの感染拡大で免疫力にも大きな関心が寄せられましたが、免疫力は高ければ高いほどいいというわけではない。免疫機能が強すぎると起こるのがアレルギーで、本来はカラダに害がないものでも体内に入ってくると攻撃してしまう。腸内には免疫機能をコントロールする菌もあって、そういった意味でも、腸内フローラの多様性は重要ということです」
コンディションの重要性「アスリートも一般の人も同じ」
サプリメントであるAuB BASEの次に発売したのが、カラダのコンディションを整えながら筋肉量をアップさせるプロテイン「AuB MAKE」。実は、アスリートのからの要望で誕生した商品だという。
「アスリートからの要望で多かったのがプロテインということで開発をスタートしたんですが、すでに多くの先行商品がありますから、AuBらしいものを作ろうと考えました。行き着いたのは、腸内環境を整えながら効率よく筋肉をつけられるプロテイン。例えば、プロテインをたくさん摂ると便やオナラのにおいが臭くなるという現象が起きることがありますが、これは腸内に硫化水素が増えているということで、あまりよくない症状なんです」(鈴木氏)
プロテインは、トレーニング後に筋肉が修復するところに素早くタンパク質を補給し、より筋肉量をアップさせる目的で摂取するもの。「AuBらしさ」について、鈴木氏はさらにポイントを挙げた。
「口からものを摂るときに大事なのが、カラダのコンディションが整っていること。口から入ったものは胃で消化されて腸で吸収されるのですが、腸のコンディションが整っていないとせっかく補給したものが吸収されずに流れていってしまうんです。もちろんプロテインにも当てはまることで、AuB MAKEは腸内環境を整えながらしっかりと効果が上がるように作られています」
アスリートの声から生まれたプロテイン。ともすれば「プロ向け」とも思われがちだが、鈴木氏はきっぱりとこれを否定する。
「AuBの商品は、ぜひとも一般の方にもご愛用いただきたいと思って開発しました。プロの人たちが使用しても間違いないものなら、一般の人たちにも安心して使っていただけると考えています。
『仕事をする』という意味では、アスリートだって普通のビジネスパーソンだって同じですよね。いつでも最高のパフォーマンスを出したいし、疲れはすぐに解消したい。プロもアマも、カラダのコンディションを整えることは一緒だと思うんです」
そこには、元アスリートであった自身の想いが込められている。
「私もかつてはプロサッカー選手として活動していましたが、今はごく一般的な生活をしています。両方の環境を経験して感じたことは、コンディショニングを整えるということはとても重要であって、同時にとても難しいことなんだなと。ですから、“コンディショニングのプロ”であるアスリートの協力を得て、より多くの人の健康に貢献していきたいと」
ジュニア世代の食育から、ひいては国全体の「健康」へ
鈴木氏は、AuBの活動を通して、未来のスポーツ界を担うジュニア世代へのサポートも行っていきたいと語る。
「私自身の実感なのですが、子供たちと地域との接点が少なくなってきているように思っていて……。私は静岡県の清水という街で育ったのですが、若い頃から地域の多くの人たちに応援され、支えられてきました。そんな環境を多くの地域で作って行きたくて、まずは私が現役時代にお世話になった浦和レッズを通して貢献したいと思ったんです。
具体的には、浦和レッズとの特設サイトのAuB BASEの売上の10%を、クラブのアカデミー(18歳以下の選手が所属)の強化費として活用してもらうというサポート契約をさせていただきました。サプリを購入していただくことで、その方の健康にも、若手アスリートの育成にもつながるプロジェクトです」
ジュニア世代への支援は、スポーツ界の大きなテーマだ。自身が多くの人たちに支えられた経験を持つ元アスリートだからこそ、その大切さを感じているという。
「スポーツ選手として、若いうちに自己管理スキルを身につけてもらいたい。高校生や大学生になると、それまでは親に頼っていた食事の管理を自分でしていかなくてはならなくなります。食事はコンディションにおいての基本ですからね。若いうちに食事の知識や栄養学などを学べる機会を提供できればいいなと。
アスリート・ビオ・ミックスはアスリートから検体を提供してもらうことで研究開発をしてきましたが、次世代を支援することになるという点で共感してもらっています。その想いを形にしていきたいですね。そして、その先には、アスリートだけでなく一般の人たちのコンディショニングにも貢献していきたいと思っていて、それは日本という国全体の利益につながるはずだと信じています」
先出のボートレーサー・毒島選手も、現役のアスリートとしてその志に共感すると語ってくれた。
「アスリートが協力して健康のことに取り組むというのは、とてもいいと思いますね。選手だけでなく、ファンのみなさんも健康でいて応援してくれることは、私たちにとってもありがたいこと。それに自分も協力できていることは、とてもうれしいですね」