去る11月、「スポーツビジネスジャパンコンファレンス2023」が東京都内で開催された。「サッカーを通じた社会価値創出の可能性」をテーマとしたセッションでは、東京23区内初のJリーグクラブを目指すクリアソン新宿の取り組みについて、代表の丸山和大氏、KPMGコンサルティングの土屋光輝氏らが紹介。多様性あふれる巨大都市「新宿」でどのようにクラブの存在意義を示し、社会価値を創出しようとしているのかを語った。
東京23区内初のJクラブを目指すクリアソン新宿
J1からJ3まであるJリーグは現在、日本全国に計60クラブが散らばる。東京ではFC東京、町田ゼルビア、東京ヴェルディが活動する。町田ゼルビアはJ2優勝で初のJ1、東京ヴェルディは昇格プレーオフを勝ち抜き16年ぶりのJ1復帰と、次のシーズンのJ1は初めて東京拠点のクラブが3つとなる。
実は、Jリーグ入りを目指す東京拠点のクラブは他にも存在する。そのひとつがクリアソン新宿だ。先述の3クラブの活動拠点はいずれも東京23区外だが、クリアソンは新宿という大都市に本拠を置き、“23区内初のJクラブ”を目指す。
2005年に丸山氏ら大学サークルの有志で設立されたクリアソン新宿は、2009年の東京都リーグ4部からステップアップしていき、現在はアマチュアの最高峰であるJFLに所属する。クラブにはJ1経験者、アンダーカテゴリー日本代表経験者も在籍する。
昨年9月26日にはJ3に参入可能となるクラブライセンスがJリーグから付与されたものの、JFLで11位だったためJリーグ入りは叶わなかった。ただ、目標とするJリーグ入りまであと一歩。クラブの経営規模も既にJ3クラブのレベルまで伸びている。
「クリアソンは約6億円の売上規模ですが、J3クラブの平均が現在6〜8億円ほど。私たちはJFLのクラブですが、J3規模のクラブになっています」(丸山氏)
実質4部リーグのクラブが国立競技場で1万人以上集客
クリアソン新宿のユニークな点は、従来注目されづらいアマチュアリーグにいながら、大きな発信力を発揮している点だろう。
JFLはJ3の下位に位置し、J1から数えると4部リーグに相当するが、クラブは2022年10月9日と23年4月9日、東京の国立競技場でリーグ戦のホームゲームを開催した。ホームである新宿区とはいえ、JFLのクラブとしては異例の国立開催。結果、1万6218人(JFL歴代最多入場者数)と1万1150人を集めて大きな話題を呼んだ。
クラブは「新宿のサッカークラブ」として存在感を増している。オフィス街、歌舞伎町といった巨大繁華街のある新宿駅周辺、大学生や留学生など若者であふれる高田馬場・早稲田などの特徴的なエリアが区内にある点も、クラブの地域活動やビジネス面に活かす。
「新宿区は外国籍の方々や一人暮らし高齢者が非常に多いなど、多文化共生や健康づくりに関してもともと大きな問題がありました。さらにはコロナ禍で飲食店を中心に非常に大きなダメージを受けた。地域活性化のためにスポーツの力を使えればと、様々な活動をさせてもらっています」(丸山氏)
クラブは新宿区と2020年10月に包括連携協定を締結。高齢者の健康促進のためにサッカーボウリング大会を開いたり、区内の障がい者就労施設の支援活動を行ったり、日本語学校に通う留学生の交流フットサル大会を開いている。社会問題の解決に寄与する活動を積極的に行うことで、クラブの存在価値を示し続けている。
クリアソン新宿を支えるパートナー企業たち
サッカークラブがどのように地域から認められる存在になり、価値を高めていくことができるか。企業各社がパートナーとして共感、参画してもらうようにも取り組んでいる。
大手コンサルティング会社のKPMGコンサルティングは、2015年頃からスポーツビジネスに関わる。グループ会社が本社を新宿に構えていることから、2021年よりクリアソン新宿の地域パートナーとしてクラブを支える。一方、本業のコンサルティングを通しても、クラブの社会価値創出の活動をサポートしている。
丸山氏が多文化共生や高齢化などに言及したように、土屋氏は「新宿区は日本の社会課題の縮図」と述べ、クリアソン新宿と一緒に地域の課題解決に取り組む。実際、クラブや自治体、企業パートナーなどステークホルダーとのディスカッションを多く重ねて、ビジネスモデルやクラブの価値創造ストーリー(将来像)を描くなどを行った。
「KPMGでは、スポーツを活用して社会インパクトを最大化することに取り組んでいます。スポーツの『情報発信力』を上手に使いながら、社会にどうメッセージを打ち出していくか、そしてスポーツが与える価値をいかに見える化するか。クリアソン新宿とはクラブが地域・社会へもたらす価値を可視化、定量化していくことに取り組んでいます」(土屋氏)
「ソーシャルキャピタル」という指標から見える社会価値
土屋氏が話すように、KPMGでは、クリアソン新宿に関わることによる影響をデータで可視化する試みも始めている。
「ソーシャルキャピタルは交流、信頼、社会参画といった要素で構成され『人間関係や市民活動の豊かさ』を示すものとされていますが、クリアソン新宿を応援することと、そうした地域コミュニティへの参画意識についてどのような相関があるのかデータを取りました。その結果、クリアソン新宿の試合観戦経験のあるパートナー企業やサポーター、ボランティアの方々は、東京都平均のスコアに比べてどの項目でも高いことが分かりました」(土屋氏)
このような結果は、クラブを通じた地域の人びととの繋がりというなかなか見えにくい社会価値を、クリアソン新宿が創出しているといえる材料になる。現在スポーツ界ではSROI(社会的投資利益率)という指標に徐々に注目が集まっているが、自治体や地元企業などのステークホルダーへの価値貢献が示しやすくなるかもしれない。
丸山氏は、社会価値を創出するには、クリアソン新宿を介して「巻き込んでいく」ことが第一歩だと考えている。
「クリアソン新宿が取り組む地域活動も、決して我々だけでやる必要はありません。地域活動をしたいと思っている様々な企業がたくさんいる。とはいえ一企業が定期的に行うには難しいこともある。そこに我々がリーダーシップを持って巻き込んでいき、そうした企業の方々が『月に1回ぐらいは参加しようかな』となればいいのではないでしょうか」(丸山氏)
そして、サッカークラブだからこそ垣根を越えた取り組みもできるという。
「例えば新宿には名だたる百貨店があります。本来競合である各社でも、サッカーを通して一緒に顔を合わせてイベントに協力しあい、地域や街をよくしていく仲間として取り組むことができるんです。実際に、伊勢丹、マルイ、京王、高島屋に加え、東急歌舞伎町タワーもクリアソンの法人パートナーです。
サッカーは、足というミスが起こりやすい部位を使うスポーツで、だからこそ人と人がコミュニケーションをとって補い合う。こうしたサッカーというチームスポーツの精神を、クラブのさまざまな活動にも反映していけたらと思います」(丸山氏)
セッションの様子はこちらの動画から
クリアソン新宿の丸山氏、KPMGコンサルティング土屋氏らが登壇したセッション「サッカーを通じた社会価値創出の可能性」のダイジェスト動画を以下よりご覧いただけます。
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