スポーツ・マーチャンダイジング(グッズ販売)グローバル大手のファナティクスは、2018年に日本オフィスを創設。海外スポーツのライセンスビジネスを行うだけではなく、プロ野球やJリーグ、Bリーグといった国内の主要リーグの各チームと次々と提携し、ビジネスを拡張する。先日、清水エスパルスと10年にわたる長期のパートナーシップを発表したのも、記憶に新しいに違いない。日本市場の陣頭指揮を執るファナティクス・ジャパンのマネジングディレクター 川名正憲氏に、日本のマーチャンダイジングの未来と、今後の事業成長を支える戦略・組織について聞いた。
前回:ファイターズとファナティクスが新たなボールパークで挑む、これからのマーチャンダイジングビジネス
多様化するプロスポーツと共に事業成長
「ファナティクスは、野球だけではありません。プロ野球は圧倒的なファンベースと歴史がありますが、他のスポーツにも伸びしろがあると思っています」(川名氏)
これまでファナティクスは、国内ではプロ野球のユニフォームの供給や、アパレルの企画・販売を中心に事業を展開してきた。2017年にグローバルで買収したMajestic(マジェスティック)の国内事業を引き継いだため、プロ野球が事業のスタートとなったのは必然だ。
国内プロスポーツでは、マジェスティックの頃から福岡ソフトバンクホークス、埼玉西武ライオンズ、東京ヤクルトスワローズと協働してきた。しかし2018年よりファナティクスとして新たに事業を開始し、それまでマジェスティックとして持っていた製造機能に加えて小売の機能を備えた。
それらの機能を活かし、福岡ソフトバンクホークスとはさらにマーチャンダイジング事業を拡大していくことを目的として、2019年から10年間にわたる包括的なパートナーシップの契約締結に至った。現在は福岡ソフトバンクホークスの商品の企画開発からECと実店舗の販売まで手がける。また来年からは新球場をも舞台とした北海道日本ハムファイターズとの12年にわたる事業が始まる。
「(NPBの)12球団のうちの2チームを包括的に、他の2チームはユニフォーム含むアパレルの企画製造など、部分的にサポートさせていただいています。プロ野球だけで見ても、まだまだ可能性がある」(川名氏)
プロ野球だけでなく、サッカー、バスケも
他方、Jリーグクラブとの事業も積極的に展開していく。この12月には清水エスパルスとの長期・大型契約も発表し、2021年のシーズンから10年間にわたり商品の企画開発からEC、実店舗の運営までを行う計画だ。
実は、北米でファナティクスの事業成長に大きく貢献したのもサッカーだった。これまでMLSメジャーリーグサッカー(MLS)の公式ストアや各クラブの店舗運営を行ってきたノウハウを、日本のサッカー界でも展開することを目指す。
もちろん、新たなプロスポーツとして成長するBリーグクラブとの連携も欠かさない。現在ファナティクスは仙台89ersと富山グラウジーズのオフィシャルサプライヤーを担っている。
スポーツのカテゴリに限らず、各チームではファンエンゲージメントや収入の観点からマーチャンダイジングへの期待値は増してきている。一方で、チーム単体で取り組むには効率が悪かったり、高い専門性が必要とされたりという状況もある。そういった課題にぶつかった際に、パートナーとしてあげられるのがファナティクスだ。
ちなみに、同社の米国市場ではNCAA(全米大学体育協会)のビジネスがプロ以上の成長を遂げている。日本ではアマチュアスポーツのライセンスビジネスはまだ無いに等しい状態だが、高校野球や大学ラグビー、箱根駅伝はプロにも負けず劣らず、高い人気を誇るコンテンツでもある。
元々は高校、大学でも体育会野球部の主務を務めていた川名氏は、「いずれはアマチュアスポーツ界にも貢献していきたい」というビジョンを口にし、次のようにも話す。
「少子化や財政面で課題が出てくる前に、応援してくれるファンへ健全な形で商品を提供して、収益化できる仕組みを今後作っていくべきです」(川名氏)
成長戦略に欠かせない人材
それでは改めて、ファナティクスとは一体どんな企業なのか?
ファナティクスの日本法人には現在約50人のスタッフが所属し、業務は機能軸で分かれている。商品の企画開発やデザイン、仕入れ、製造、サプライチェーン、ECの運営やマーケティング、そして店舗運営・販売など様々なスペシャリストが各業務にあたっている。
本社を東京、虎ノ門ヒルズにごく近い場所にオフィスを構えるほか、ホークスと実店舗を含めた包括的なパートナーシップを結ぶことから福岡にも拠点を置く。恐らく今後は、北海道や静岡を拠点にするスタッフも必要となってくるだろう。
これからさらなる事業成長を目指すファナティクスが求めるのは、進化していくビジネスの中で新たな取り組みや変化にチャレンジしたいと思う人材だという。
「これまでもどんどん新しいビジネスを展開してきて、貴重だったのは専門性を持ちつつ、柔軟性を持って業務に取り組むことのできる人材です」(川名氏)
業務上、アスリートやチーム関係者と交わる場面も自然と多くなる。気配りができ、プロフェショナリズムを持って仕事に取り組む姿勢が求められるが、必ずしもスポーツの専門性が必要とは限らない。現に、一般のアパレル企業で商品開発をしていた人材などを積極的に採用している。
ファナティクスが育む、企業カルチャー
日本での立ち上げから3年。ファナティクス・ジャパンの企業カルチャーはまだ形成段階だというが、川名氏は「今までやってきたことを延長して続けていくだけでは、活躍は難しい」とも指摘する。新しい会社だからこそ一人ひとりのアイデアや提案が必要とされ、個人が常に成長を目指すことで組織としても成長していくのだろう。
そんな同社のカルチャーを象徴するようなエピソードがある。
マジェスティックを買収したばかりの日本オフィス1年目の頃は、実店舗の運営・販売経験も少なかった。翌年東京ドームで開催された日米野球でのグッズ販売では、試合が終わり撤収作業を始めると、なんと輸送のためのトラックの台数が全く足りていないことが判明。
現場にいるスタッフが総出で手分けして、すぐにクルマを借りに行き、オフィスとドームを何度も往復して荷捌きをするなど、部署関係なく「自分ゴト」として作業したという。
「現場にいるスタッフ約20人みんなでやりましたよ。本当はトラックが5台必要だったのに1台しかない。撤収まであと2時間で翌日も広島に移動予定。もう、やるしかなかった(苦笑)」(川名氏)
川名氏はこうエピソードを振り返りながら、チームワークの大切さを改めて語る。
「我々のビジネスはモノの企画・製造から現場での販売まで、地味で泥臭い側面も多い。それでも厭わずにチームのために、そしてファンのために責任を持ってやり切るメンバーが大切なんです」(川名氏)
ファナティクスの米国本社には「ファン至上主義」の経営ビジョンのもとに「とにかくやる」という行動哲学がある。「議論するのではなく、まずは動こう」という姿勢は、会社全体で大切にされている。
これからのマーチャンダイジングとは
2020年、スポーツ界にとってこれほど柔軟性が求められたシーズンはなかったのではないだろうか。スタジアムやアリーナでの観戦が制限され、マーチャンダイジングビジネスも先々の全てを見通すことは難しい。ただし、川名氏は次のようにひとつ見当をつける。
「日本ではまだ、スタジアムで使うためのグッズをその場で購入するファンが多い。つまりオンライン比率が増えていく余地が大いにあります。現在、制限があって会場に行くことができない中で、今後も(マーチャンダイジング全体の)オンライン比率がさらに加速していくと思います」(川名氏)
一方で、これまで通りファンがスタジアムやアリーナに来場することが可能となれば、再びオフラインの購入体験が重要になる。これにオンラインでの利便性も織り交ぜ、タイムリーな商品企画と販売ができれば、マーチャンダイジングへのニーズはさらに高まっていく。
「良いアパレルがあれば、自分の応援するチームのアイデンティティーを身に付けて応援したいという欲求は、これからも変わらずあるでしょう」(川名氏)
そのためにも一番大事なのは、「ファンが欲しいと思う商品の選択肢を増やすこと」だと川名氏はいう。一般的なアパレル業界では在庫の効率性が問われ、少ない商品数で多くの売上をあげることが良しとされる見方もある。ただしそれだけでは、スポーツの特異性に応えることはできない。
「ファンビジネスを突き詰めるのであれば、老若男女、多様な趣向に応えないといけません」(川名氏)
ときにはファナティクスの得意領域以外で他のライセンシーに製造を依頼することも出てくるだろう。多様な趣味嗜好を持つファンのニーズに応えていくのは、これからのマーチャンダイジングの在り方ともいえる。
一方で川名氏は、「ファンが何を求めているか、予測はしない」ともいう。
「スポーツマーチャンダイジングの難しいところは、(競技)結果が不確実であること。これはスポーツの醍醐味でもありますが、我々は結果の不確実性を前提にビジネスをしています。つまり、未来を予測してビジネスをすると、結果的には上手くいかない」(川名氏)
これに対し、成功のカギは「需要を追いかけられる体制を作る」ことだと、川名氏は最後に明かしてくれた。不確実な競技結果に対して、徹底的に「反応速度」を高めていくのがファナティクス流のビジネスなのだ。
スポーツ界はコロナ禍で苦しい状況が続くかもしれない。しかし、「とにかくやる」というファナティクスの行動哲学は、いつの時代であっても変わることはないのだろう。
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