Jリーグが2026/27シーズンで掲げる「世界基準の“新開幕”」。新規ファン創出とエンゲージメント最大化に向けて実践するファンマーケティングとは?

Jリーグは1993年の開幕から30余年。2025シーズンは年間総入場者数が1350万人を超えて史上最多記録を更新し、市場規模をさらに拡大させている。

Jリーグはいかに新規ファンを呼び込み、熱狂的なコアサポーターへ引き上げているのか。新シーズン開幕を前に、Jリーグ執行役員(マーケティング事業担当)の鈴木章吾氏が、7月に都内で開催されたセミナーでファンマーケティング戦略を語った。

2026年8月7日、Jリーグが「新開幕」

2026年8月7日、2026/27シーズンのJリーグが開幕する。これが史上最大の「転換期」とも呼べるのは、リーグが今季から世界標準となる「8月開幕〜翌年6月閉幕」へとシーズンを移行するからだ。リーグは“第二の創業” と位置付け、「新開幕」と銘打つ。

8月7日、Jリーグの新たな歴史が始まる。

現在Jリーグが掲げるのは「ここから、世界だ。」というメッセージ。世界標準のカレンダーになることで、欧州クラブとの間で選手移籍が活発になり、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)などの国際大会にも臨みやすい環境になる。

事業面と競技面どちらにもメリットがあり、鈴木氏は、「Jリーグが目指すのは、”世界を目指す舞台”から、 “世界に選ばれる舞台”になること」だと強調する。

その背景にあるのが、Jリーグが持つポテンシャルだ。実は直近のフルシーズン2年で総入場者数の過去最高記録を更新中で、2025シーズンは1350万人まで到達。前年比108%の成長という確かな数字を残している。

「入場者数やチケット収入は、ビジネス全体を動かす最大のトリガー。各クラブと連携しながら、Jクラブの経営規模を現在の1.5倍から2倍へと引き上げ、欧州5大リーグに肩を並べる存在を目指していきます」(鈴木氏)

Jリーグ 執行役員(マーケティング事業担当)兼 マーケティング事業本部 本部長 鈴木章吾氏

人気を支える綿密なファンマーケティング

その人気を支えるのが、リーグとクラブが連携して取り組む緻密なファンマーケティングだ。

まず、Jリーグにはリーグ統一の顧客データ基盤「JリーグID」がある。現在約550万IDの登録者数を持つ、国内スポーツ最大規模の顧客基盤だ。

「この基盤には、チケット購入履歴、グッズ購入履歴、キャンペーン応募履歴など、あらゆるデータが集約されており、共通のデジタルマーケティングプラットフォームとして各クラブに提供しています」(鈴木氏)

各クラブが単独でこうしたシステムを揃えるには膨大な投資とリソースが必要だが、リーグが一括でツールを提供することで、メルマガやLINE、アプリでのコミュニケーション、そしてデータ分析まで、クラブは一連のマーケティング活動を実行できる。

セミナーでモデレーターを務めた株式会社ヤプリ執行役員CMOの近藤嘉恒氏も「これだけ高度なクロスチャネルの仕組みを全60クラブが活用できる状態を作っているのは素晴らしい」と、その一貫性を高く評価する。

セミナーでモデレーターを務めた株式会社ヤプリ執行役員CMO 近藤嘉恒氏(左)

リーグとクラブで「役割分担」。描く集客ファネル

この巨大なデータベース活用の鍵を握るのが、「顧客のセグメンテーション」と、「リーグ・クラブ間の役割分担」である。

Jリーグでは、スタジアム観戦の意向をベースに、ファン層を9つのセグメントに分類する「9segs®」のフレームワークを用いている。年間のスタジアム観戦回数をもとに、コア層(4回以上)、ライト層(3回以下)、離反層(当該年に観戦なし)、認知・未利用層(知っているが観戦経験なし)、未認知層(そもそも知らない)まで分類し、さらに高関心・低関心まで分けている。

その上で、各層ごとに施策を打ち出し、クラブとリーグで担当領域を分けてアプローチするのだ。

「Jリーグを知らない層には興味を持たせるための施策を打つ。ここはリーグが主導し、メディア露出の強化やIP(キャラクター等)コラボなど、関心を喚起する施策を実行します。

 『関心はあるが観戦したことがない層』に対して初めてのスタジアム体験を提供するのは、リーグとクラブが協力して行う。そこから一度来場した方をリピーターにして、ファンクラブへと導いていく領域はクラブ主導。このような役割分担を敷いています」(鈴木氏)

事実、リーグとしての施策は、「ポケモンとのコラボ」「24年ぶりの地上波ゴールデンタイム全国生放送」など連日発表されており、開幕に向けて積極的に機運を高めているのがうかがえる。

ポケモンとのコラボレーションのコンセプトは「進化」。画像提供=Jリーグ

関心想起から獲得へ。持続的なファン獲得へ

スポーツビジネスにおいて永遠の課題でもある新規層開拓とコアファンへの育成を、壮大なビジョンと綿密なファンマーケティング戦略、そしてデータとテクノロジーで実現するJリーグ。

関心の想起だけでなく、顧客獲得につながる施策の実行も大切だと鈴木氏は述べる。

「関心想起型の施策は話題作りやメディア露出が目的で、獲得型の施策は実際の来場やチケット購入といったコンバージョンを目的としています。このどちらの施策が欠けても、もしくはどちらかに偏っても施策効率は出ません。バランス良く実行できるように常に気を配っています」(鈴木氏)

目的を見失わず施策を打ち出し、効果を正しく測定する。これが、持続的なファン獲得の根幹となり、現在もJリーグは観客増を実現させているのだ。

ヤプリの近藤氏は最後に、プロスポーツのファンマーケティングにおける「テクノロジーと現場の情熱の融合」の重要性を挙げ、今後の発展に期待を寄せた。

新シーズンの開幕により真の世界標準へと突き進むJリーグ。そのファンマーケティング戦略は、今後もスポーツビジネスにおける大きな指標となるだろう。