プロサッカー選手引退後のセカンドキャリアとして、アパレルブランドの立ち上げを選択した小林久晃さん。立ち上げから7年が経ち、現在は「FIDES(フィデス)」「FIDES GOLF」の2つのラインを福岡の直営店、ECなどで展開している。プロスポーツ界からの信頼も厚く、男子ゴルフトーナメントの公式ウェアにも採用。順調に売り上げを伸ばす一方で、漫画のキャラクターやコーヒー専門店とのユニークなコラボも注目を集める。「FIDES」立ち上げの経緯、ブランドへの想いやコンセプト、コラボ、今後の展望について話を伺った。(初出=NESTBOWL)
小林 久晃さん
FIDES ディレクター
1979年、茨城県出身。駒澤大学卒業後の2002年、ジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に加入。その後、モンテディオ山形、ヴィッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府でプレーしたのち、2012年サガン鳥栖に移籍。2016年12月、37歳で引退するまで15年間Jリーグで活躍する。引退後の2017年に「FIDES」、2022年に「FIDES GOLF」を立ち上げる。
すべての人のためのユニフォーム(服)をつくりたい
――2016年の引退後からわずか半年後に、アパレルブランド「FIDES」を立ち上げています。なぜアパレルだったのでしょうか。
セカンドキャリアではサッカーから離れた環境でチャレンジしたかったのです。何がいいかと考えたときに浮かんだのがアパレル業界。もともと服が好きでしたし、これまで培ってきた人脈も活かせるのではないかと思いました。また、選手時代から「身体の大きいスポーツ選手にフィットする服があればいいのに」と、ずっと思っていたので、それを実現させたいという気持ちもありました。
――15年間Jリーガーとして活躍した中で、印象に残っている試合を教えてください。
サガン鳥栖に在籍していた2014年第33節、浦和レッズとの一戦です。最終節の前節で、浦和レッズが勝てばほぼ優勝確定となる試合でした。私はベンチスタートだったのですが、サガン鳥栖が退場者を出して0-1で負けている状況で出番が回ってきました。残りわずか30秒、あとワンプレーで試合終了というそのとき、コーナーキックから私が同点ゴールを決めて、土壇場で1-1に。
結局、浦和レッズはその年は優勝できず、ガンバ大阪が優勝したシーズンでした。誰もが浦和の勝利を確信していた時間帯に追いついたので、とても大きなインパクトを残し、今でも鳥栖サポーターからは「あの試合は感動しました」と言っていただけるんですよ。浦和レッズやガンバ大阪のサポーターからも「あの試合は…」と言われることがあります。
――現役時代はどんな服を着ていたのですか。
アメカジも着ましたし、時代や流行の流れに乗っていろいろとでしょうか。でも何かしっくりこない。私は身長が185cmあるのですが、背が高いとなかなか合う服がありませんし、いいなと思って着てみてもキレイに見えなかったりするのです。だからこそ、スポーツ選手をはじめどんな体型の人が着てもきれいに見えるシルエットで、スタイリッシュに着こなすことができる服が作りたかったのです。
――それが、「FIDES」の“現代のすべての人のためのユニフォーム”というコンセプトにつながっているのですね。
おっしゃる通りです。ブランド名の「FIDES」は、ラテン語で「信頼」という意味を持ちます。お客様との信頼、取引先との信頼、社員同士の信頼など、何よりも信頼を大切にしたいとの想いからこの名前をつけました。着心地や耐久性もお客様からの信頼を得るためにはとても大切な要素ですので、縫製は日本国内で行っています。生地にもこだわり、何度も試作を重ねたオリジナル生地を用いた商品も多いです。
――福岡で直営店をスタートさせたのはなぜですか。
サガン鳥栖に5年間在籍していたことが大きかったです。鳥栖は佐賀ですが同じ九州ですし、福岡も近いのでなじみがありました。今思えば、アパレルやビジネスに何の知識も経験もない素人が、よく現役を引退して半年後に店舗をオープンしたなと思いますが、思い切ってやったからこそ今があります。改めて、行動することの大切さを実感しています。
――現在は、ゴルフラインの「FIDES GOLF」も展開されていますね。
「FIDES GOLF」は2022年の春夏から開始したのですが、これも「好きをカタチに」との想いから。私自身ゴルフが好きで、身近な人からのニーズが高かったことも背中を押してくれました。 「Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント 2023」では「FIDES GOLF」が公式ウェアとして採用されました。また、宮崎のフェニックスカントリークラブでの取り扱いも始まっています。おかげさまで「FIDES GOLF」は、予想よりも早い速度で成長しているなあと感じています。
コーヒー専門店や「キャプテン翼」と異業種コラボ
――コラボにも力を入れていらっしゃいますが、どのようなことを大切にしていますか。
まずはコラボ先とのストーリー性があることを重要視しています。そして、コラボすることでお互いがプラスになることも大切にしています。たとえば、コラボ先が有名だからという理由でコラボすると、単に相手のブランドの名前を借りるコラボになってしまい、おもしろさがありません。
同じアパレル業界とのコラボにもあまり興味がないです。どうしても特定ブランドの生地を使って商品化したいなど、相手側の認知にもつながりプラスになるのであればOKですが、同じアパレル業界で組んでも大きな化学反応は見込めないのではと思っています。
――異業種であるコーヒー専門店「NO COFFEE」とのコラボは大成功しましたね。どのようなきっかけで、コラボが実現したのですか。
オーナーの佐藤慎介さんが福岡で「NO COFFEE」をオープンしたのが2015年12月なのですが、その2カ月ほど前に、共通のアパレル関連の知人を介して佐藤さんと知り合いました。私がまだ現役でサッカーをやっていた頃です。意気投合して時々食事にも行くようになり、ずっといい関係が続いています。
佐藤さんが「NO COFFEE」を立ち上げて、ここまで成長させてきた軌跡や功績、そして苦労も友人としてずっと近くで見てきました。私が「FIDES」を立ち上げるときも佐藤さんのブランディングや仕事に対する姿勢がとても参考になりましたし、勉強させてもらいました。
そんないい関係から「FIDES×NO COFFEE」のコラボが自然な流れで実現しました。それまで「FIDES」は、サッカーを全面には出していませんでしたが、佐藤さんが「このタイミングでサッカー色を打ち出してみるのもおもしろいですよね」と言ってくれたことで、「NO SOCCER」というヒット商品が誕生したのです。佐藤さんとは、今でもよくゴルフや食事に行きます。毎回いろいろな話をして、たくさん刺激をもらっています。
――「キャプテン翼」とのコラボも印象的でしたし、大ヒットしましたね。
子どものときからずっと「キャプテン翼」を見て憧れていましたし、サッカーを始めたきっかけでもあるので、「キャプテン翼」とのコラボは、いつか必ずやりたいと「FIDES」を立ち上げた当初から思っていました。ここまで世界中で愛されているサッカー漫画は他にはありません。世界中のサッカー選手も「キャプテン翼」のことを知っています。
コラボするなら、2020年の東京オリンピックの時期が最適だと考え、それを目標に準備を始めました。残念ながら新型コロナによって、東京オリンピックが1年延期となり、当初思い描いていたものとは少し違うカタチにはなりましたが、インパクトを残せたコラボになったと思います。Jリーガーを含め、たくさんの方々に喜んでもらえたことも嬉しかったです。また機会があれば、ぜひチャレンジしたいと思っています。
――今後はどのようなコラボを実現させたいとお考えですか。
サッカーとはずっとつながっていたいと思っていて、Jリーグチームとはぜひコラボしたいです。今は、サガン鳥栖の公式移動着を毎年つくらせていただいていますが、いつかは試合のユニフォームも担当したいと考えています。ユニフォームはシーズン中に使用するものだけでなく、期間限定や特定の日だけ着用するもの、ホームゲームでサポーターに配るものもあります。可能性や機会はたくさんあるので、ぜひ実現させたいです。海外のチームも視野に入れています。プレミアリーグのチームとのコラボがもし実現できたら最高ですね。
ファン、子どもをサポートできる新しいビジネスを
――この先のビジネス展開や、ゴールとして考えていることはありますか。
先ほど「FIDES」のコンセプト“現代のすべての人のためのユニフォーム”の話が出ましたが、これには続きがあり、“FIDESはみんなのホームグラウンドであり、クラブハウス”、“僕と僕の愛するチームメイトの夢を叶える場所”という内容も掲げています。つまり、3つのコンセプトが「FIDES」というブランドの原点なのです。
今後はこうした原点に基づき、ファッションやスポーツを通して、積極的にコミュニティを作っていくこともできたらと考えています。イメージしているのは、子どもたちにいろいろな経験や刺激を与えてあげられるような場を提供すること。それによって、子どもたちがもっといろいろな目標や夢を持ってくれたら嬉しいですし、さまざまなコミュニティによって新たなカルチャーやビジネスが生まれるチャンスも広がっていくと思っています。
(文=伊藤郁世、撮影=立石采希)