「サッカークラブからエンタメブランドへ」 ユベントスFCがリブランディングで実現する、ビジネスイノベーション

1897年創設のユベントスFCは126年の歴史を誇るだけでなく、セリエAで最多優勝を飾るなど名実ともにイタリアの名門として君臨してきた。そんな伝統と格式のクラブともいえるユベントスが、ロゴ(エンブレム)の変更を含む大胆なリブランディングを実施したのが2018年。

当時は驚きを持って迎えられ、現在では多くのプロスポーツチームに先鞭をつけることになったブランド戦略は、どのように生まれたのか?そしてリブランド後のコロナ禍を経て、グローバルとアジアで見据えるビジネス展開とは?今夏のスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス」に合わせて来日した、アジア責任者のフェデリコ・パロンバ氏に聞いた。(取材・文=新川諒)

リブランディングは「ロゴだけではなく、新たなポジションづくり」

ミラノサローネでの展示。写真提供=ユベントスFC

ユベントスのリブランディングは大きな衝撃と話題を呼んだ。サッカー界ではいわゆる「エンブレム」が歴史的に用いられてきたが、新たな「J」のロゴはその常識を見事に覆した。シンプルなデザインはグッズ展開の幅を広げ、サッカーファンでない層にも受け入れられやすいものとなった。

「ユベントスは伝統と歴史を誇るだけでなく、常に先進的で革新的であることを大事にしています。だからこそリブランディングに踏み切ることができました。

その裏にあったビジョンとビジネスアイディアは、ユベントスをサッカークラブからエンターテインメントブランドへと変えることでした。ロゴを変えるだけでなく、新たなポジションをつくっていきたいと考えたんです」(パロンバ氏)

当時、ユベントスのファンはニールセン調べで世界に5億7200万人。サッカー界では有数のクラブといえども、今後より若い世代やサッカーファン以外を取り込んでいくには、サッカーだけにとどまらない存在になることが必要だった。

「多くの競合がひしめく環境では、試合の『90分間』以外の時間にも人々へリーチしていく必要があります。私たちの競合は他のサッカークラブではなく、Netflixやゲーム、音楽といったものなのです」(パロンバ氏)

新たなブランド戦略のコンセプトは「Black and White and More」。チームカラーの黒と白が表すサッカーだけでなく、新しい要素を加えていくということが示されており、これまでに音楽やアート、飲食など様々なジャンルとのコラボレーションを進めてきた。DJや音楽プロデューサーとの協業など、まさにサッカーだけにとどまらないエンターテインメントということだ。

音楽やアート、飲食などとのコラボを積極的にすすめる。写真提供=ユベントスFC

トリノ市内に総合施設「サッカーを超える存在に」

サッカーを超える存在としての象徴的な空間が、本拠地のトリノにある。パロンバ氏が「ぜひいつか見に来てほしい」と胸を張る、ユベントス・ビレッジだ。

サッカースタジアムやトレーニング施設、博物館だけでなく、一般客も利用できるホテル「Jホテル」や、教育機関の「ユベントス・カレッジ」も同じ敷地にある。カレッジは地元の私立校との提携によるユース選手が通う全寮制の学校で、衣食住、トレーニング、教育をすべて同じ施設で提供している。

「ユースの選手たちはトレーニング、試合、移動と忙しいスケジュールをこなしています。日々の生活はプロとほとんど遜色がありません。だからこそ最も重要な『教育』をしっかりと受けられる環境を作るのが私たちの責任です」(パロンバ氏)

ユベントスFC APACマネージングディレクター フェデリコ・パロンバ氏

敷地内には「ユベントス・メディカル」と呼ばれる医療施設もある。スポーツ医学を中心に診断、専門医療、リハビリなど60名のスペシャリストを配置し、一般患者にも開放されている。トップ選手の治療を実際に行なっているスタッフに診てもらえるというわけだ。

こうした他業種・他業態への進出は、サッカークラブの運営とは異なるアプローチが求められる。歴史と伝統で築き上げたブランド力以上に大切なことがあるとパロンバ氏は教えてくれた。

「常にプロフェッショナルであることが必要です。医療や教育は私たちが専門としていることではありませんでした。新しい分野へ拡大していくには多くを学ぶ必要があり、信頼できるパートナーを見つけることが重要です」(パロンバ氏)

ユベントス・ビレッジにはトレーニング場のほかホテルや医療、教育施設も併設する。写真提供=ユベントスFC

アジアへ進出「イタリアから全てを知ることは不可能」

新しい取り組みという点では、アジア市場への進出も目覚ましい。2019年にアジア太平洋地域の拠点となるオフィスを香港に構え、現在では10名のスタッフが働いている。パロンバ氏は創設から在籍する人物のひとりだ。

「イタリアから全てを知ることは不可能」と、各地にクラブ関係者が足を運ぶ必要性をこう説く。

「サッカークラブにとって最も重要なステークホルダーはファンです。サッカーの試合をどう楽しんでいるのか、私たちに何を求めているのか。各国で違う特性を持つファンを理解し、彼らに対するアプローチを考える必要があります」(パロンバ氏)

オンラインではアジア地域の代理店と組んで各市場に合わせたSNS戦略を展開。現在では3800万のフォロワーを抱える。オフラインでは子ども向けのスクールを日本、中国、オーストラリア、インドネシアで計6ヶ所展開し、その他にサマークリニックなども実施する。公式ファンクラブもアジアだけで31の組織があるなど、存在感は際立っている。

日本でもサッカースクールである「ユベントス・アカデミー」を開校している。写真提供=ユベントスFC

そして、もうひとつの重要なステークホルダーがパートナー企業だ。現在はアジアで9社が名を連ねる中、そのうち1社は日本企業の株式会社Cygames。クラブのアジアオフィスができる前の2017年7月に契約を締結してから、現在まで共に歩んできている。

「私たちはブランドの認知をグローバルで上げていく責任がありますが、一方でパートナー企業はユベントスを“地元”で愛される存在となるように手助けをしてくれています。アジアや日本の企業とは非常に良い関係を築くことができています」(パロンバ氏)

クラブの歴史上でも日本企業とのパートナーシップを紡いできたユベントス。古くは1995/96シーズンに胸スポンサーを務めたソニーから、現在のCygamesまで、「幸運をもたらすパートナー」となっていることも同氏は強調してくれた。

モバイルゲームを展開する株式会社Cygamesは2017年よりクラブパートナー。写真提供=ユベントスFC

新市場で必要なのは「適応力」 イノベーション精神で挑戦

もちろん、日本の魅力は「ゲン担ぎ」だけではない。日本という市場、そして国内サッカー界をパロンバ氏はこう評する。

「日本のファンからはサッカーに対するリスペクトと愛を感じます。サッカーがカルチャーとして深く根付いている証拠でしょう。私たちにとって競争は激しいですが、より多くの機会があるともいえます」(パロンバ氏)

アジアでは、ファンをゼロから啓蒙していく必要がある国も少なくない。他のスポーツが主流で、サッカーは比較的後発の国々もある。同氏は世界各国を①サッカーを消費する国、②サッカーを生産する国、③どちらも行う国、に分けて捉え、国内のプロリーグが存在しながら海外サッカーとも近い距離にある日本は③のグループに入る「サッカー先進国」だとした。

HALF TIMEカンファレンス2023に登壇したパロンバ氏

「日本は伝統と革新が混ざり合い、バランスが取れた国だと感じています。これはユベントスにも通じることで、だからこそ日本の皆さんは私たちのクラブに親しみを持ってくれていると思います。

どの国にもそれぞれの特性があり、グローバルブランドとしては他国の文化を学び、理解しなければなりません。特にアジアでは物事が急激に変化し、常に進化しています。それがこの市場の興味深い点であり、素晴らしさでもある。常に戦略を変えていくことも考えておく必要があります」(パロンバ氏)

歴史と伝統を大切にしながら、リブランディングに舵を切り世界各国に進出するユベントス。クラブ哲学であるイノベーションの精神で、今日もまた新たな取り組みを進めている。

カンファレンス・アーカイブ動画

フェデリコ・パロンバ氏が登壇した「HALF TIMEカンファレンス2023 」のセッション「ユベントスFCのグローバル・ブランディングとアジアでのビジネス成長」のアーカイブ動画をご覧いただけます。 ダイジェスト版は以下より。全編ノーカット版はフォームからアクセスください(無料/日本語同時通訳あり)。

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