「スポーツが持つ力を信じて、人を育てていく」 スポーツビジネススクールの連携が拓く、新たな境地【後編】

スポーツビジネスが国内外で市場成長を目される中、人材育成への視線も熱い。国内でチケッティングを中心にスポーツビジネスを展開してきたぴあ株式会社が2021年4月から展開するスポーツビジネスプログラムは、今年8月に開講したHALF TIMEのアカデミーと提携する。ぴあ株式会社執行役員の永島誠氏とHALF TIME代表の磯田裕介、そして『ぴあスポーツビジネスプログラム』では常任講師を、『HALF TIME Global Academy』では学長を務める中村武彦氏(Blue United Corporation President & CEO)に、展望を聞いた。

前編:「現場ノウハウ」×「グローバル視点」 スポーツビジネススクールの連携が拓く、新たな境地【前編】

日本のスポーツビジネスには、大きな伸びしろがある

スポーツビジネス界で活躍できる人材を育成する、ぴあとHALF TIMEの2つの教育プログラムが連携。お互いの特徴を活かし合い、シナジーを発揮していくことを目指していく。

『ぴあスポーツビジネスプログラム』は、長年チケッティングやファンクラブ運営でスポーツ界を支えてきたぴあ株式会社が、そのノウハウを十二分に活かしてスポーツビジネスで現場の即戦力となる人材を育ていくプログラム。そして『HALF TIME Global Academy』は、「誰でも、いつでも、どこからでも学べる」をコンセプトに、海外のエグゼクティブを講師に招聘したオンライン形式のグローバルなアカデミーだ。

ますます優秀な人材が求められるスポーツビジネス界において、課題とされていることについて伺った。

――今後の発展が期待されるスポーツビジネスですが、日本での展望はどのようにお考えですか?

中村武彦氏:Blue United Corporation President & CEO。NEC海外事業本部を経て、2005年MLS国際部、2009年FCバルセロナ国際部など歴任後、2015年Blue United Corporationを設立。東京大学社会戦略工学研究室共同研究員、HALF TIME Global Academy学長、ぴあスポーツビジネスプログラムの常任講師も務める。この日は拠点であるNYからオンラインで登場。

中村:北米がスポーツビジネスの本場だといわれていますが、国によって違いがあります。そして、日本には大きな伸びしろがあると思います。アメリカでは70年かけて、アメリカンフットボールで10万人の集客を実現しました。それに対して、日本では20年ほどでJリーグが1試合あたり約2万人の観客を集めています。

市場規模が違うので単純に比較することはできませんが、スポーツビジネスにまだまだ発展の余地のある日本では、さらにマネジメントしていけば、もっともっとスポーツが盛り上がっていく可能性があるということです。そのためには、原理原則は理解しつつも日本ならではのスポーツビジネスを志向していく必要があります。安易な西欧崇拝をやめて、スポーツに関係している人たちのマインドセットを変えていかなくてはなりません。

磯田:昨年末、スイスで行われたスポーツビジネスの国際カンファレンスに参加しました。そこで報告されたのは、伸びているジャンルは「eスポーツ」、エリアは「アジア」ということでした。今後は世界中が、どうアジアを攻略するかに知恵を絞ってくるわけです。そして、アジアのスポーツを牽引しているのは紛れもなく日本ですから、大きなビジネスチャンスがあるといえるでしょう。

必要とされる即戦力と、日本ならではの採用環境

永島誠氏:ぴあ株式会社 執行役員 ライブ・エンタテインメント本部 スポーツ・ソリューション推進局 局長。ぴあで約15年にわたり、Jリーグ開幕や2002年サッカーW杯を含むチケッティングから事業開発まで携わった後、横浜F・マリノスに転職し約13年の間にチケット企画営業部長、マーケティング部長、事業統括本部長などを歴任。2019年ぴあに再び入社し現職。スポーツビジネス事業を統括する。

――ビジネス成長を牽引するのは「人材」に他なりません。日本における現状で課題はありますか。

永島:人材という面では、チームは即戦力を求めています。インターンなどを受け入れているところもあるのですが、正直に言って、現場には教育する余裕がなかったりするんです。また、中途採用の人たちはそれぞれの専門スキルを持って入社するので、全ての部署が即戦力を手に入れられるわけではありません。ですから、私たちは若い人材を育てて、そうしたチームやクラブの課題を解決するソリューションを提供していこうというわけです。

磯田:スポーツビジネスの人材採用は、需給のバランスがとても悪いんです。少ない求人に対して、多くの人が応募します。さらに、求人があっても決して待遇がよくないこともあるので、採用環境を良くするには、まずはスポーツという産業そのものを成長させなくてはならないんですね。

中村:アメリカでは、チームのフロントスタッフも「プロ」であるのが特徴です。選手と同じように、毎年待遇の交渉をして契約を結んでいきます。条件のいいところがあれば、そちらに乗り換えていきます。ただし、これはあくまでアメリカ流であって、日本ならではの採用環境を作っていくべきだとは思います。

課題としては、選手と経営側の「視野の長さ」が違うことです。クラブは勝たないといけないし、同時に盤石な経営基盤を築かないといけない。選手が現役で活躍できる期間はとても短いので、彼らは目の前の「結果」である勝利することにこだわります。これが選手の(短期的な)視野ですが、しかしクラブからすると勝利は保証できない。一方で、チームは長く続いていくことが命題ですから、経営の面ではファンサービスなどに力を入れて「人気」を獲得していくことを目指します。これが経営の(長期的な)視野です。この視野の長さの不一致が、チーム運営での難しさにつながります。

人材育成を通して、産業の成長を目指す

磯田裕介:HALF TIME株式会社代表取締役。人材紹介大手インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社後、シンガポール、ベトナム法人に出向。その後スポーツ業界特化の英系ヘッドハンティング会社シンガポール法人に入社し日本事業を立ち上げ。2017年HALF TIMEを設立し、スポーツビジネス専門のPR・採用支援や教育事業を展開する。

――チームの「人気」が経営のベースになるというお話が出ました。近年は、スポーツのファン獲得に向けてさまざまな取り組みがなされていますが、今後はどのようなプランが必要だと考えていますか?

永島:Jリーグでは、「イレブンミリオンプロジェクト」という、年間1100万人の観客を集めるという活動を行ったことがありました。私もその一環で2008年に欧米のリーグを視察に行ったのですが、その頃から、試合以外のイベントで来場者を楽しませるという動きが出てきたと思いますね。

中村:先日のHALF TIMEアカデミーでも講義がありましたが、USL(米国サッカーリーグ2部)のラスベガス・ライツというチームは、ハーフタイムにフィールド上で水風船を投げ合うイベントをしたり、ヘリコプターから現金を降らせてつかみ取りをする企画をしたりと、大胆なファンイベントで注目されていますが、ポイントは来場者全員に楽しんでもらいたいという発想力だと思います。

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――日本ではスポーツに純粋さを求めたり、神聖化する傾向もあるので、そこまで思い切ったイベントは受け入れられないかもしれません。

永島:でも、参加型のイベントは人気ですよ。横浜F・マリノスでは、スタジアムの外のイベント広場でPKをしてもらってゴールが決まったら水しぶきが盛大に上がる、というイベントをやりましたが、子供たちが夢中になって挑戦していました。着ている服はビショビショになっちゃったので、試合観戦に影響しないか心配になりましたけど…(笑)。プロ野球やJリーグは、欧米のファンサービスを学んで取り入れています。広島カープの本拠地マツダスタジアムでは、バーベキューをしながら試合を観れたりしますよね。

――そういったイベントは、選手側には影響はないのでしょうか?

永島:マリノスの本拠地である日産スタジアムは陸上用のトラック部分が広いので、そこでイベントを行うのであれば試合には影響がありませんでした。スタンドのすぐ手前に「フワフワ」を設置して子供たちが試合中でも遊べるようにしたり、より近くでプレーを観てもらうためにピッチサイドで観戦してもらう席を作ったんですが、スタジアムの環境に合わせて、ファンを楽しませるイベントを行っていくことが重要かもしれません。

中村:スポーツイベントはもちろん試合や選手のプレーがメインですが、そこにだけフォーカスするのは、競技のファンしか見ていないことになります。より視野を広げて、これからファンになってくれるであろう人たちを楽しませることにも取り組んでいかなくてはなりませんね。

スポーツが持つ「共有力」を拡げていく

――より広い視野で、長い視点でスポーツを考えられる人材を育てていく必要がある。

永島:スポーツは「筋書きのないドラマ」といわれますが、それは他のどんなコンテンツにもない魅力だと思います。IT企業がチームのオーナーになったり、スポンサードする例が増えていますが、それだけスポーツというコンテンツには価値があるということです。他にもスポーツを核として街づくりを行ったりして、新たなビジネスの創出が行われています。

中村:スポーツには「同一化」と「共有力」があります。たとえばアメリカという国は、多数の人種や言語があり、街ごとにメディアがあるなど、多様性であふれています。そんなアメリカが1つになれるのが、大統領選挙と戦争、そしてスポーツだといわれています。スポーツには、人種や、性別、年齢を問わず、みんなを巻き込む力があるということです。日本は将来的に少子化が進み、経済力も弱まっていきますが、そんなときこそ、みんなを1つの方向に向ける力としてのスポーツの重要性が増していくと思います。

磯田:スポーツには無限の可能性があると思います。私自身、小さい頃からサッカーをやってきましたが、仲間と一緒に目的を達成するという経験は、スポーツだからこそ味わえるものではないでしょうか。今後は、企業がスポーツを支援する、ビジネスとして成長産業にすることで、社会的な責務も果たす時代になってくると思います。

「自ら考えて、動ける人材」を育成

――日本のスポーツビジネスの展望まで伺いましたが、話をプログラムに戻します。今後のスポーツビジネスを担っていくために、どのような人材を育成していきたいと考えていますか?

永島:ぴあのプログラムでは、その人がどのポジションまで行きたいかを見極めて、育成していきたいと思います。まずは「集客」というスポーツビジネスの基本を学び、その先の発展に必要なことは、自分で考えながら目指していける人材になってもらえるように導いていきます。

磯田:HALF TIMEアカデミーでは、グローバルに活躍できる人材を育てていきたいと考えているので、世界のスタンダードを知り、今の自分とのギャップを認識して、それを埋めていってほしいと思っています。そのために、今後、インターンの機会やグローバルで働く糸口など、人材育成の「出口」の支援も行っていきたいと考えています。

中村:「自分で考える」、「気付ける」人材となってほしいですね。1つの正解を求めるのではなく、不正解はないんだというマインドセットで新たな挑戦をしながら、「なぜ自分はこう考えるのか」と自分なりに解釈して学んでいくことが大切だと思います。そのためには、原理原則を学び、事例を知り、実践していくというプロセスを提供していきたいと思います。


来年4月に開校する『ぴあスポーツビジネスプログラム』は、公式Webサイトより申込を受付中。11月29日(日)には、無料の開講記念セミナーも開催される。詳しくは〈こちら

HALF TIME Global Academy』第3期は、開講スケジュールとコマ数を拡大し、講師陣も新たに2021年1月〜3月に開催。スペイン・ビジャレアルCF国際ディレクターによる「スポンサーシップ」、米MLSシカゴ・ファイアFCのVPによる「コミュニケーション&メディア」など、専門テーマを網羅的に提供する。詳細・申込みは以下の公式Webサイトより。

▶︎HALF TIME Global Academy第3期 公式Webサイト