ピッチサイドにプール、毎年恒例になったヘリからの「現金配布」…なぜラスベガス・ライツFCは奇抜なマーケティングを仕掛け続けるのか?

世界で活躍するスポーツビジネスパーソンから、いつでも、どこでも直接学べるオンライン講座『HALF TIME Global Academy』。前回8月の第1期に続いて、この10月から11月にかけて開催される第2期でも、海外のスポーツビジネスの最前線で活躍する講師をゲストに、「学び」と「つながり」の場が提供される。第一講は、米USLラスベガス・ライツFC オーナー兼CEO ブレット・ラッシュブルック氏による「マーケティング論」。数々の型破りな施策の裏にある、スポーツマーケティングの真髄が示された。

アカデミー第2期が遂にスタート

HALF TIME Global Academy 学長 中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)

10月20日から始まった、第2期の『HALF TIME Global Academy』。スタートにあたり、まず学長の中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)がアカデミーの特徴を紹介。講師陣の質疑応答などインタラクティブな講義、そしてグローバルにスポーツ界で活躍したい志を持つ参加者同士の交流も約束した。さらに、コロナ禍で移動することが少なくなった現代は、海外から「生」の学びを得ることができる貴重な機会であることも念押しした。

全講義が英語のみで展開された第1期と違い、第2期は日本語の同時通訳も。その第一講には、米誌『スポーツ・イラストレイテッド』が「世界で最も興味深いクラブ」と称したラスベガス・ライツFCのオーナー兼CEO Brett Lashbrook(ブレット・ラッシュブルック)氏が講師として登壇した。

米MLSコミッショナーの右腕弁護士として活躍後、現MLS(米国サッカーの1部リーグ)のオーランド・シティSCがまだ米独立リーグUSL(同2部リーグ)の所属だった際にCOOとして招聘され、クラブは見事MLSに昇格。その後同氏の故郷ラスベガスにUSLの新チームを自ら創設。ラスベガスという世界でも随一のエンターテインメントの街で、スポーツ興行を行うためにどのようなマーケティングを行っているのか、その事例をもとに「スポーツマーケティング論」が展開された。

米国流「スポーツマーケティング」とは

まず、「スポーツマーケティング」とは何か?ラッシュブルック氏は、チームや組織のために行われるプロモーション活動全てと表現した。同氏が「どれだけ来場者を楽しませることができるか」と強調する通り、チームが試合に負けても来場者に笑顔で帰ってもらうことに全力で取り組む。講義で紹介された様々な事例から、ラスベガス・ライツFCが取り組むスポーツ・マーケティングについて振り返ってみたい。

2018年にラスベガスに創設され、現在米国サッカーの2部リーグ「USL Championship」に参戦するこの若いクラブが目指すのは、都市と一体化し、その街全体が放つカルチャーをチームのマーケティングにも取り入れることだ。ラッシュブルック氏はどんな小さな街にもその地域にしかない特性、ユニークさがあり、それを最大限に生かして差別化することが大切と述べた。

ラスベガスは昔からSin City(シン・シティ=過ちを犯す街)と言われてきた。その呼び名をネガティブに捉えるのではなく、チームカラーにも全面的に活用することを決断。ラスベガスの街を想像した時に思いつくのは「みんなが楽しんでいること」であり、クラブの方向性もその1点に尽きるとラッシュブルック氏は語る。「来場者へ、どのように楽しさを伝染させていくか」を大切にしているという。

チームエンブレムにも、ラスベガスを想起するビルボード(巨大看板)「Welcome to Las Vegas」を模したデザインを活用。街のアイコンを参考にして、唯一無二のエンブレムを作り上げた。もっとも、チーム名やロゴもサポーターの投票によって決定したので、街の住人と共に作るチームを最初から意識してきたともいえる。

チーム名のLights(ライツ)は、「眠らない街」ラスベガスの灯りを象徴するものであり、毎年恒例のトップチームの集合写真もよくあるグラウンドでの撮影でなく、スタジアム隣にあるネオン博物館(The Neon Museum)前で撮影するのが恒例になっている。

さらにライツは、チーム構成にも地域性を取り入れる。ラスベガスの街に密着するために、地元出身の選手や大学などで地元に馴染みのある選手を積極的に獲得することを決めた。「多くのチームは地元選手の獲得を『目標』にしているが、ライツは『ルール』にしている」とラッシュブルック氏は証言する。まずはクラブを自分ゴトとして捉えてくれる地域住民を増やすことを狙い、最初の3年間で8人のラスベガスに馴染みのある選手が所属してきた。

来場者を営業マンに変える「仕掛け」

ラスベガス・ライツFC オーナー兼CEO ブレット・ラッシュブルック氏

クラブ創設2年目となる2019年シーズンの平均観客動員数は7,711人。ここで重要なのは、ラッシュブルック氏が「クラブの観客全てが、(純粋な)サッカーファンではない」と、度々強調していたことだ。土曜夜に試合を開催する場合が多いため、ラスベガスの街中に溢れるカジノやショー、そして格安でビールが飲めてしまうバーと対抗して、クラブの話題を作ることを念頭に置かなければならない。ラスベガスを本拠地とするクラブとして「自分たちが何者であるかを理解すること」が重要だと同氏は説く。

一時は「サーカスの中でサッカーの試合が行われている(=試合以外のエンタメ・演出があまりにも多い)」と揶揄された事実も例に挙げたが、ラッシュブルック氏は、あくまで来場者が翌日同僚や友人に話したくなるような「体験」をもたらすことを目指すという。同氏が「来場する8,000人近く(のファン)が、私たちにとってのセールスマン」と語る通り、ラスベガスの週末に行われているエンターテインメントに負けない奇抜さをクラブは表現してきた。

ワールドカップやMLSのような、一流のオン・ザ・ピッチの興行を提供できるわけではない。それでも地域住民にスタジアムに足を運んでもらい、地元メディアにも取り上げてもらうためには、サッカー意外にも工夫が必要だ。

例えば、サッカーの試合では恒例となっている選手の入場シーン。ライツではUFC(アメリカの総合格闘技)風に変え、一人ひとりにスポットが当たるような演出に変えた。試合前に選手達が肩を組んで撮影するチーム写真にも「12人目の選手」として、毎試合シーズンチケット保有者を選出。また、試合後のユニフォーム交換も選手同士だけでなく、ファンを巻き込み試合で着用したユニフォームをプレゼントする仕掛けも。さらに、勝敗に限らず試合後には10分間ファンへサインする時間を設け、少しでも子供たちとの接点を創り出している。

ラッシュブルック氏はこれらの事例を紹介するたびに、「なぜ他のチームが取り入れていないのかが分からない」と語る。これまでの「当たり前」を疑うことが、奇抜だが理にかなったアイディアの源ということだ。

広告を出すのでなく、口コミをつくる

ラスベガス・ライツFCのチーム集合写真はネオン博物館で撮影。ラマの姿も見られる。

エンタメが世界一ともいえるほど溢れる街で、どのようにして土曜日の夜にスタジアムへ来てもらえるか?この着眼点があれば、マーケティング予算の使途も違ってくる。「出して終わり」の広告を出稿するのではなく、その同額をヘリコプターからピッチ内にバラ撒き、ファンが争奪戦を繰り広げる企画を作る考えだ。

その方がよっぽど話題性があり、口コミ(WOM:Word of Mouth)マーケティングにつながる。そして、ファンの「体験」も向上する。ちなみにこの「ヘリから現金配布」企画は、クラブスポンサーのホテル・カジノ企業のアクティベーションという点も含んでいる。

お手頃価格のプライシングもラッシュブルック氏の信条だ。シーズンチケットは1試合10ドル換算となる最低200ドルから提供。そのパッケージではなんとユニフォームも特典としてプレゼントする。「断るのがもったいない」(ラッシュブルック氏)ほどのお買い得感を訴求する。

また、地元で募金活動を行う人々に対しては、クラブからの寄付金と交換できるコードを提供する。コードを利用してチケットが購入されるたびに、その活動は5ドルの「キックバック」を得られる。そうすると、この活動の起案者がチケットを友人や知人にセールスしはじめるのだ。「人は広告よりも信頼している人の話を聞く」と指摘するラッシュブルク氏は、「彼らにチケットを売らせてあげればよい」とチケットセールスの発想の転換を求めた。

一方、同氏は「15ドルのうち5ドルが寄付に回る仕組みを理解してくれれば、サッカーファンでなくても、地域のため、自分たちの子供のために(スタジアムに)行ってみようかと思ってくれる人がいる」ともいうように、地域のつながりを強固にする取り組みにもなっている。

これ以外にも、クラブが大切にする、ファンに「楽しさ」を提供するためのマーケティング活動への投資は惜しまない。ゴールを決めた瞬間を盛り上げるため、紙吹雪を飛ばすマシーンを6台購入。ピッチサイドには子供用プールが設置され、ホームゲームには毎試合チームの「公式ラマ」2頭がファンと触れ合う。クラブの価値提供を第一に置くからこそ、通常であれば困難と思われる仕掛けも実現する。

数々の施策を仕掛け続けるラッシュブルック氏の言葉からは、スポーツマーケティングの真髄が示されているだろう。

「私たちはチームが勝つことは約束できないが、(来場者に)土曜の夜に2時間の楽しい時間を提供して、勝敗に関わらず笑顔にすることは約束できる」

講義の最後には、多くの質問が飛び交った。あまり聞くことのできない米USLのクラブの話に存分に触れる機会となり、奇抜な企画の裏側にあるスポーツマーケティングの基礎を学ぶ時間となった。初講からHALF TIMEアカデミーの醍醐味を味わうことができた第2期。これから続く3つの講義への期待も高まるばかりだ。各回の申し込みは、公式Webサイトで引き続き受け付けられている。

▶︎『HALF TIME Global Academy』第2期 公式Webサイト

 
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