「現場ノウハウ」×「グローバル視点」 スポーツビジネススクールの連携が拓く、新たな境地【前編】

スポーツビジネスが国内外で市場成長を目される中、人材育成への視線も熱い。国内でチケッティングを中心にスポーツビジネスを展開してきたぴあ株式会社が2021年4月から展開するスポーツビジネスプログラムは、今年8月に開講したHALF TIMEのアカデミーと提携する。ぴあ株式会社執行役員の永島誠氏とHALF TIME代表の磯田裕介、そして『ぴあスポーツビジネスプログラム』では常任講師を、『HALF TIME Global Academy』では学長を務める中村武彦氏(Blue United Corporation President & CEO)に、展望を聞いた。

スポーツビジネス人材を育てるプログラムが提携

近年、国内ではプロ化するスポーツが増えていて、単に試合を通して競技を行うだけではなく、スポーツを中心とした「見せる」エンターテインメントが提供されている。しかし、それらがどのように作り出され、運営されているかはあまり知られていない。「スポーツビジネス」というジャンルは日本ではまだまだ認知度は低く、具体的にどのようなノウハウがあるのかも一般的になっていない。

スポーツというコンテンツを核として、そこに大きなビジネスチャンスが隠されているということに様々な企業が注目を寄せる中、スポーツビジネス界を背負って立つ人材を育てるスクールの提携が発表された。

ぴあ株式会社が2021年4月から開講する『ぴあスポーツビジネスプログラム』と、HALF TIMEが今年8月から提供する『HALF TIME Global Academy』だ。二社は、それぞれが得意とするフィールドでのナレッジを共有し、より実践的かつ発展的な人材育成を目指していく。まずは、それぞれのプログラムについて、責任者に話を伺った。

「現場の運用スキル・経営視点」×「グローバル視点」

永島誠氏:ぴあ株式会社 執行役員 ライブ・エンタテインメント本部 スポーツ・ソリューション推進局 局長。ぴあで約15年にわたり、Jリーグ開幕や2002年サッカーW杯を含むチケッティングから事業開発まで携わった後、横浜F・マリノスに転職し約13年の間にチケット企画営業部長、マーケティング部長、事業統括本部長などを歴任。2019年ぴあに再び入社し現職。スポーツビジネス事業を統括する。

――「ぴあスポーツビジネスプログラム」はどのような経緯でプランニングされたのでしょうか?

永島:ぴあは長い間、チケッティングという側面から日本のスポーツを支えてきました。国際スポーツイベントやJリーグのオフィシャルパートナーを務めてきた経験をもとに、スポーツビジネス界を牽引する次世代へ投資し、日本のスポーツのレベルアップを図る礎を築いていきたいと考えています。

私自身、横浜F・マリノスで13年ほどクラブ運営に携わってきましたが、スポーツビジネスには独自のノウハウというものがあります。現場にいて実感したのが、そうした専門知識を持った人材があまりに少ないということ。日本のスポーツの発展のための第一歩として、スポーツ経営におけるエントリー人材育成プログラムをスタートさせます。

募集は2020年12月に開始し、2021年4月に開講。約7か月間のプログラムとなります。

磯田裕介:HALF TIME株式会社代表取締役。人材紹介大手インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社後、シンガポール、ベトナム法人に出向。その後スポーツ業界特化の英系ヘッドハンティング会社シンガポール法人に入社し日本事業を立ち上げ。2017年HALF TIMEを設立し、スポーツビジネス専門のPR・採用支援や教育事業を展開する。

――「HALF TIME Global Academy」では、何を目指していくのでしょうか?

磯田:アカデミーの最大の特徴は、海外ビジネスパーソンから直接、オンラインで学べるところです。2020年8月に第1期を実施して、10月から11月には第2期を開催しました。オンラインの利点は、誰でもどこからでも参加できるということですね。それは登壇者も同様で、欧州や北米といったスポーツビジネスの盛んなエリアで、実際にクラブ運営に携わっている人たちのノウハウを学ぶことができます。

私自身、シンガポールのスポーツ業界に特化したヘッドハンティング会社に所属していた時期があるのですが、そこには私以外に日本人は1人もいませんでした。アジアというエリアで見渡しても、スポーツビジネスに関わる日本人が圧倒的に少ないんです。そこで、スポーツビジネスのノウハウを身に付けたグローバルに活躍できる人材を育てたいと考えました。

2021年1月からは、3か月のプログラムを用意する計画です。第1期、第2期はそれぞれ4週間の短期間でしたが、今後は、長期間のプログラムを提供していきます。

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「日本のスポーツビジネススクールの中心地に」

中村武彦氏:Blue United Corporation President & CEO。NEC海外事業本部を経て、2005年MLS国際部、2009年FCバルセロナ国際部など歴任後、2015年Blue United Corporationを設立。HALF TIME Global Academy学長、ぴあスポーツビジネスプログラムの常任講師も務める。この日は拠点であるNYからオンラインで登場。

――中村さんは「HALF TIME Global Academy」の学長を務める傍ら、「ぴあスポーツビジネスプログラム」にも立ち上げから関わられています。スポーツビジネスのスキルを持った人材を育てることの意義について、どのようにお考えですか。

中村:私自身がスポーツビジネスを学ぼうと思った2000年初期には、日本にはプログラムがなかったのです。それで、2002年にマサチューセッツ州立大学アマースト校に留学をしました。そこでスポーツマネジメントの原理原則を体系的に学ぶことができました。ただ、本場のアメリカでもスポーツマネジメントの学問としての歴史は70年ほどと浅く、またアメリカのメジャーリーグサッカー、スペインのFCバルセロナでのキャリアを通して重要と感じた「サッカーにまつわる法制度」に関しては、ヨーロッパほど研究されていなかったこともあり、2014年にスペインのマドリードにあるISDE(Instituto Superior de Derecho y Economia)法科学院にあらためて留学をしました。

いま、日本では凄まじいスピードでスポーツビジネスが拡大しています。将来的に、日本の基幹産業になるという人もいるほどです。その中で、日本のスポーツ界の中心で活躍してきたぴあが人材育成を担うというのは、とても大きな意義があることだと思います。何しろ、現場でのナレッジをたくさん蓄積していますから。

一方で、新しい風を吹かせることも重要です。日本でのスポーツビジネスの歴史は20年ほどですが、常に新鮮な空気を供給していかなければ、社会の速い流れに対応していけません。HALF TIMEのアカデミーの強みは、デジタル対応していることとグローバルな視点があることです。オンライン講座なら、海外のエグゼクティブが登壇してくれる機会を多く作ることができます。

日本のスポーツビジネスのリーダーであるぴあと、そこに新しい風を吹かせるHALF TIMEがコラボレーションすることで、スポーツビジネススクールの中心地が誕生するのではないでしょうか。

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スポーツの現場からは人材が求められている

――今後の発展が見込まれているスポーツビジネスにおいて、ますます優秀な人材が欠かせません。

永島:弊社には、チーム運営ができる人材を出向させてほしいという依頼が、いろんなクラブから寄せられています。しかしながら、2019年のラグビーワールドカップみたいな大きなイベントがあると、社内の人材も不足してしまいます。そこで、私どもで若手を育成して人材を輩出していくというプランを考え出しました。これが、「ぴあスポーツビジネスプログラム」の発端です。

プログラムは大学生から社会人5年目くらいまでの若い人たちを対象に、チケッティングやファンクラブの運用に関する現場の知識やクラブ経営の視点など、具体的なスキルを学んでいただきます。さらには、最新テクノロジーの活用などを含めて、競技だけにとらわれない総合的なアイデアやイノベーションを提案できる人材を育てていきたいと考えています。

磯田:HALF TIMEアカデミーでは、「誰でも、いつでも、どこからでも学べる」ということをコンセプトに、オンラインで提供しています。同じオンライン形式の4月のHALF TIME主催のカンファレンスでは、500名ほどの聴講者に集まっていただきましたが、アンケートを取ってみると、約40%の人にとっては初めてのオンラインイベントの参加だったたという結果が出ました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って私たちの生活は大きく変わりましたが、それに対応していかなくてはなりません。オンラインならグローバルに学ぶこともできるので、そうしたメリットも活用していこうと考えています。

――両プログラムが連携することで、現場ニーズに即した学びの機会を提供するのが役目ということですね。

磯田:ぴあさんはチケッティングやファンクラブ運営など、日本でのスポーツの現場のナレッジがあり、HALF TIMEはグローバルの視点と、人材採用・転職支援といった「卒業後」のサービスも行うなど、それぞれ事業ドメインが異なります。お互いにナレッジを共有し、事業を連携することで、大きなシナジーが生まれます。

永島:日本のプロスポーツは、海外から学ぶことがまだまだあります。ですから最新の海外事情をいち早く得られるということは、大きなメリットですね。今後は、お互いの生徒のコミュニティを連携させていくのもいいかもしれません。スポーツビジネス領域で働くには、何も日本だけでなくてもいいわけですから。HALF TIMEさんからぴあの生徒が刺激を受けられるのは、大歓迎です。

磯田:卒業生同士がつながって、情報交換をしてくれたりしてもいいですね。現に私たちは受講生のFacebookコミュニティなども作っていますが、ぴあさんも含めて、卒業生の横のつながりを作るお手伝いができればいいなとも思います。

国内スポーツの現場のノウハウを持つ『ぴあスポーツビジネスプログラム』と、海外講師を招聘したグローバル視点を提供する『HALF TIME Global Academy』。この提携で、「日本のスポーツビジネススクールの中心地」となり、一層の人材輩出を目指すという。次回はスポーツビジネスの現状をさらに深堀することで、求められるスポーツビジネス人材像を引き続き三者に伺っていく。


来年4月に開校する『ぴあスポーツビジネスプログラム』は、公式Webサイトより申込を受付中。11月29日(日)には、無料の開講記念セミナーも開催される。詳しくは〈こちら

HALF TIME Global Academy』第3期は、開講スケジュールとコマ数を拡大し、講師陣も新たに2021年1月〜3月に開催。スペイン・ビジャレアルCF国際ディレクターによる「スポンサーシップ」、米MLSシカゴ・ファイアFCのVPによる「コミュニケーション&メディア」など、専門テーマを網羅的に提供する。詳細・申込みは以下の公式Webサイトより。

▶︎HALF TIME Global Academy第3期 公式Webサイト