今やスポーツにおいてテクノロジーの活用は欠かせない。サッカー界でも同様で、中でも映像分析はプロスポーツから高校・大学の部活動の現場まで様々なソフトが導入されつつある。RUN.EDGE(ランエッジ)社は独自技術であるシーン映像検索・分析技術等を活用し、映像分析ソフト「FL-UX(フラックス)」を開発。「コラボレーション分析」、「リアルタイム分析」という今までなかった2つのコンセプトを軸に、2020年2月より国内外のプロチーム、アマチュアチームへの提供を進めている。
Jリーグの湘南ベルマーレでも2021年シーズンからFL-UXを導入している。試合に向けた映像編集の時間が劇的に短縮され、さらにはFL-UX内のコミュニケーションで監督、コーチ、選手たちの共通理解が進み、チームとしての戦術理解度も高められているという。
シンプルで使いやすいツール
9月に監督に就任した湘南ベルマーレの山口智氏は、コーチ時代からFL-UXを愛用する。
「操作がわかりやすく、シンプルで使いやすいのが一番大きい。映像を切り取る作業がすごく楽で、映像の時間が調整しやすいし、切り取ったシーンの映像に強調する文字やマークを打てたり、指示を書き込めたりもできる。
映像だけでは、選手に『ここが重要だぞ』という程度の説明になるが、FL-UXであれば強調したいシーンへ簡単に矢印マークをつけたりできる。だから、次にどういう動きをしてほしいか、どこにスペースがあるかなどを表現しやすい」
FL-UXを提供するRUN.EDGEは社員の7割がエンジニアであり、独自技術をベースとしたプロダクトを自社開発している。2018年から開発しているプロ野球向けのアプリケーション「PITCHBASE」は、日米で11以上のプロ球団で採用されている。そのPITCHBASEで培った技術をもとに開発したのが「FL-UX」だ。
最大の特徴は、練習や試合が行われているその場でプレー分析を可能する「リアルタイム分析」。さらに、SNS感覚で使えるチャット機能やシーン共有機能などを活用すれば、誰でも簡単に、映像を共有しながらその日のプレーのふりかえりや戦術確認などができる。すでに、Jリーグクラブ、Bリーグクラブ、欧州リーグサッカークラブをはじめとして、国内外の70以上のトッププロ・アマチュアクラブで導入が進む。
タブレットやスマホで、どこでも簡単に作業
山口監督のもと分析を担当する湘南ベルマーレ白石通史コーチは、どこでも簡単に使えるというメリットを実感する。
「インターネット環境があればどこでもできるので、自宅でタブレットを持って寝室やリビングと場所を移動してもその場でさっと作業ができる。非常に仕事の幅が広がりました。新幹線での移動中だろうと簡単に作業ができる」
タブレットやスマートフォン上で簡単に映像の切り取りやタグ付けができることで、作業時間が大幅に短縮される。これまでは、試合後の振り返り映像や次の試合に向けての相手チームの分析映像を作成するにしても、編集に時間を取られていた。振り返り映像の用意が試合翌日になったり、次の対戦相手の分析映像が練習ですぐに用意できないこともあった。今では試合終了1分後だろうと映像を準備できる。
「作業時間の短縮が本当に大きい。やはり映像を見る時間は限られていますし、毎試合同じように見ることはできません。すぐに映像を用意できて、振り返りや次戦の分析に取り組めるというのは、大きく準備が変わります」(山口監督)
「選手が試合で感じる主観的な視点と、(監督やコーチが)客観的に見た部分でのズレがあったり、選手が自分自身のパフォーマンスを冷静に見られなかったりする。映像はその助けになる。FL-UXでは早くアプローチできることも大きい。瞬時に、意識が高いタイミングで映像での振り返りができる。『鉄は熱いうちに打つ』ですね。試合を振り返るまでのタイムラグのせいで意識が薄まっていったということが減りました」(白石コーチ)
コミュニケーションにも役立つ
コミュニケーション面でもFL-UXは役立っている。プラットフォーム上で、改善すべき場面やプレーの映像に監督やコーチがメッセージを付け加えることができ、選手側も自分が迷っているシーンや気になった場面の映像にコメントを書き込める。チームとしての約束事の確認や、曖昧だった役割の明確化が行いやすくなった。
LINEのようにグループチャット機能もあるので、例えば、スタッフ限定の映像分析や、ゴールキーパーだけの振り返り映像での意見交換などもできる。白石コーチは若手選手や出場機会が少ない選手たちへの気配りにも活用しているという。
「若い選手やこれから出場機会をうかがっていく選手たちにどう目を配るか。コーチの役割は大事です。日頃から細かい練習の中でも、全部の選手に目を向けないといけません。
この選手はまだ試合に出てないけど、前に比べてこういった変化があった。練習での取り組みが良くなった。こういった時にコーチが『ここは良かったよ』と選手にフィードバックできる。そうすると、人間関係を構築することにもつなががっていく。選手は気に掛けてもらっているということで、自信や強みになっていくので」(白石コーチ)
指導者の振り返りにも有効
FL-UXを通して選手とのコミュニケーションの向上に加えて、監督やコーチ自身の指導法への気づきも得られるという。
基本的に監督・コーチらは試合中の攻守局面での役割を明確化するなど、チーム戦術を落とし込んだり選手個人のプレー改善に使える。一方で、指導者たちが自分の考え方が合っているのかどうか、思い込みはないかといった際に確認もできる。
「練習や試合で選手に伝えたことを自分でも振り返るようにしています。自分が話したことはどうだったのか、説明した状況が、自分が考えていた通りで合っていたかと。実際にFL-UXで振り返ってみると、選手の判断の方が適切だったと気づかされることもある」(山口監督)
指導者自らが振り返るというのは、ある種勇気のいることだ。しかしチームをより良くする、選手たちからの信頼をより得られるという点では大きい。そこにFL-UXが一助となっている。
さらに、白石コーチはトップチームだけでなく、アカデミーなど下部組織でも有効活用できるのではないかと考えている。
「誰もがスマホを持っている時代ですし、アカデミーのコーチたちはトップチームがどういうトレーニングをやっているのか共有できる。またアカデミーの選手たちも、トップの選手が日頃やっているトレーニングや試合をいつでもどこでも見られるようになる。
湘南ベルマーレというクラブとして、トップから下部組織までが同じ絵を描いていけば、ユースからトップへ昇格しても考えの違いに戸惑わないでしょう。そういったことが、いつでもどこでも、誰でも簡単に使えるこのツールだったらすぐできるはずですし、面白いのでは」
湘南ベルマーレといえば、運動量で相手を圧倒する「湘南スタイル」が有名。このスタイルをより浸透させていく上で、FL-UXを一層活用できるだろう。
以前から湘南ベルマーレでは、ユースからトップチームに羽ばたいて主力となった選手が多くいる。FL-UXはトップチームの強化だけでなく、選手育成の面でも効果を発揮するツールにもなり得るかもしれない。
■FL-UX