プロスポーツクラブではスポンサーシップが大きな収入源の一つで、その重要性は増すばかり。他方、異業界では自らのスキルや経験をスポーツ界で活かしたいと考えるビジネスパーソンは少なくない。これを背景に、東京ヴェルディと横浜FCが新たに始めるのが、「複業スポンサー営業」の人材募集だ。新たな外部人材の活用で、クラブの一層の成長を――。東京ヴェルディ パートナー営業部の佐川諒氏と、横浜FC マーケティング部の松本雄一氏に、HALF TIMEの熊谷童夢が聞いた。
前編:東京ヴェルディと横浜FCが始める、新たなスポンサー営業の形とは?
スポンサー営業だからこそ解決できる、クラブ課題
熊谷:お二人が感じるサッカークラブの課題の中で、スポンサー営業だからこそ解決できるものは何でしょうか。
佐川:まず、スポンサー営業は、幣クラブではクラブの売上の半分近くのインパクトを占めています。ここを上げれば、もっとできることが変わってくると思います。チケットやグッズでも収益を上げることはできますが、スポンサーセールスは数千万や億のお金が動く予算でもあり、そこに対する大きな責任感があります。営業がお金を稼ぐことが出来れば、従業員の給料アップや、ITシステムの導入へ投資することができるようになります。待遇や労働環境、業務効率の改善に貢献できるということです。
もう一つは、集客です。チケットチームの頑張りに加え、例えばスポンサーの大手企業から2千人の従業員が来場していただければ、そのまま来場者数にプラスになります。企業やその従業員さんを巻き込むことが出来れば、集客という課題にも貢献出来ると思ってやっています。
松本:私が働いている中で課題に感じるのは予算面です。マーケティングのアイディアは多く出てくるのですが、それを実現出来る体力がないのが現状です。スポンサー収入で得た予算は、チームの強化費に回ることがほとんどです。サポーターもスポンサーもチーム強化を願っているとは思いますが、マーケティングの立場で、集客を持続させていくためには、来場者が満足するアクティベーションやコンテンツをもっと充実させていく必要があると思います。そこに投下するマーケティング費用がない状態ですので、スポンサーセールスを通して、強化費以外にマーケティング費用に持っていける予算の取り方をやっていかなくてはいけないと思います。
もう1つは、スポンサー企業の社員さんたちにどれだけ来場してもらえるかですね。招待しても中々来てもらえないという現状があります。現在は社内で上から落として、会社として行くぞという形なので来る人が少ないのかなと思います。もし会社側で社員に対し、『うちの会社はスポンサーだから友達を誘って来て良いよ』という案内にすることが出来れば、ちょっとした優越感も生まれて社内イベントというよりも、社員が友人を誘って楽しむという意識に変わるのかなと思います。スポンサー企業の社員さんをファンにしていく取り組みをもっと増やしていかなくてはいけないと思います。
招待で来場した人たちは、有名な選手を見て、チームが勝利するのだけを見ても、次は絶対来場しません。サッカー以外のコンテンツの楽しさが充実していないので、次も行ってみようというモチベーションにつながらないんです。マーケティングとしてはそこに課題を感じていて、そこを変えるための予算を取っていきたいと思っています。
「カタログ営業をやめた」東京ヴェルディの試み
熊谷:まさに佐川さんはスポンサー営業の直接のご担当ということで、東京ヴェルディで何か実践されている取り組みはありますか。
佐川:私たちはスポンサー営業の方法を、ここ2年間でガラッと変えてきました。多くのチームもそうだとは思いますが、元々はカタログを持っていき『スポンサーしませんか』というセールスをしていました。この業界はお願い営業でなんとかなるところがあり、そしてなんとかなってきた部分があります。それで良いのかという漠然とした疑問は、ずっと自分の中にありました。
そこで、私たちは2年前からカタログを持っていく営業をやめようと決断し、1社1社がこういうことに困っているのではないか、こういうことを目指しているのではないかという仮説とヴェルディならではの解決案を持っていく、課題解決型の提案を行っています。これが、(東京ヴェルディのスポンサー営業の)強みだと思っています。ハードルは高いですが、それをやり切れているクラブはあまりないのではないかなと思います。
この狙いは、スポンサーシップというものを、スポンサー企業の業績が悪くなっても切られない価値のある予算にしたいという思いもあります。従業員の方々が一生懸命稼いだお金を、なぜこのクラブに使っているのか。これを会社の中で目的や背景、効果を説明いただけるような関係を作っています。(スポンサー企業の)どこの予算を使って、どんなミッションを達成するためのスポンサーシップなのかというのをはっきりさせないと、スポーツビジネスとして成立しないと思うんです。
スポンサー営業で求められる人材像
熊谷:スポンサー営業がクラブで重要な役割を担っていることが改めて分かりました。そうすると、スポンサー営業には、どのような人材が求められているのでしょうか。
松本:クラブとして求めている人材は、現状維持のバイアスを取っ払って、ポジティブに変化をさせていける人材です。スポンサー営業に関しては、プランニング能力があるかどうかだと思います。人脈を作って、コミュニケーションを取ることのできる能力も大事ですが、企業の課題を聞いてソリューションを提案し、実行出来るプランニング能力がある人ではないと、今後スポンサーシップのメリットを与えることができず、いつまでたっても“お願い営業”から脱却出来ない気がします。
自分がいた広告代理店を例に出すと、BtoCのプランナーをしている人たちで、かつ取引先の部長レベルとコミュニケーションを取れる人などは、クラブで働くことをイメージしやすいのかなと思います。営業は広くマーケットを俯瞰して、メーカーにとっての施策の一部として、(自分の)サッカークラブの施策があると捉えて、プランニングしていく能力がないといけません。
私がこれまでの経験で活きていると感じるものは、営業で培われたプランニング思考です。相手が何を求めているかと考える視点ですかね。SNS運用をしている中でも、サポーターがどういうものを見たいか、どういうクリエイティブを作ったらこんな反応をするかなというのを考える力は、営業の経験が活きていると思います。
佐川:どういう経験の人が合うのかなと考えると、有形よりも無形の営業をしていた人の方が合うような印象があります。私は元々人材の業界にいて、人材紹介を担当していましたので、後からお金をいただくという場合がほとんどでした。そうなると最初の握り、企画力というのが非常に大事になります。
ありものを売るということをしてこなかったので、今も1社1社が何に困っているのかを聞き出す、自由な発想に結びついているんだと思います。また、様々な業界を相手に営業してきた経験もすごく活きていますね。どの業界の人にも、こういうことを提案出来るだろうな、という発想がありますので。
複業スポンサー営業への期待
熊谷:これからクラブをさらに発展させていくために、スポンサー営業は欠かせません。改めて、今回新しく始める複業のスポンサー営業の人材募集について、期待を聞かせてください。
松本:横浜FCだけに限らず、サッカー界の新しい在り方を作っていけると思います。新しい取り組みでこれまでと違う文化を作っていければ、スポーツビジネスで稼げるという、成功事例になっていくかと思います。そうすればクラブもサポーターもより幸せになれますし、業界を変える一つの手段になると思って、このプロジェクトに取り組みたいです。
佐川:私も、複業としてサッカークラブが使えるんだという、新しい文化を作っていきたい。特にスポンサー営業は取り組みやすいと思っています。私が過去に在籍していた会社だと、2、3万社とのつながりを既に持っています。サッカーに興味を持つ企業に対して、「私、複業でヴェルディと関わっていますが、紹介しましょうか」と提案することも出来ると思います。
その紹介がうまく形になれば、(複業人材は)コミッションを得られると考えると、非常にいい話じゃないですか。本業で多くの会社とつながりながら、複業も許可されている企業は多くあると思いますので、こういった外部人材を何故これまで活用していなかったんだろうと思っています。この取り組みが、そういった人たちの突破口になればと思いますね。
熊谷:最後に、この取り組みで採用する複業人材に期待することは何でしょうか。
佐川:新規を取るという形での実績を求めたいですね。
松本:私たちも実績ですね。
佐川:自分達を主語にすると実績になりますが、参加してくれる人達には楽しんでもらいたいなと思います。サッカーでビジネスに貢献出来るというのを世の中に発信していきたいと思っているので、そこを体験して発信者になってもらいたいです。
松本:参加してくれる人達が横浜FCを広めてくれる存在になってくれると良いですよね。普段の提案活動でも常にクラブのセールス資料などを持って営業に行ってもらえると、どんどん施策につながると思います。“新しい働き方”を体現してくれる人たちになって欲しいですね。
◇聞き手=熊谷童夢:HALF TIME 最高執行責任者(COO)。日本生命でセールス及びセールスマネージャーを務めた後、PR TIMESでスポーツチーム・団体のPR支援を行う「SPORTS TIMES」を立ち上げ。日本プロ野球、Bリーグ、Jリーグ、Tリーグなどのキーアカウントを担当し、80団体以上とのパートナー契約を実現してきた。
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