海の向こう米国ではスポーツマネジメントがどのように教えられているのか。海外留学を考えている、またはこれまで叶えられなかった人には、オンラインでスポーツビジネスを学ぶ講座は機会な機会となる。『HALF TIME Global Academy』第3期の最後の1ヶ月では、提携する米オハイオ大学の教授陣や卒業生による講座が繰り広げられた。
オハイオ大学は、世界で初めてスポーツ経営学修士課程を設立した大学で、欧米大学のスポーツ経営学コースのランキングでは世界1位にも輝く。第9講でマット・カッチャート(Matt Cacciato)教授が放映権について語ると、第10講では卒業生でNBAミルウォーキー・バックスのジャダ・ポラード(Jada Pollard)氏がチケットセールスについて、そして第11講では再びジム・カラー(Jim Kahler)教授がチケットセールスについて、そして最後にはエリザベス・ウォンレス(Elizabeth Wanless)教授がアナリティクス(データ分析)について講義を行った。
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スポーツメディアの誕生がスポーツビジネスを変えた
スポーツビジネスの歴史において、過去最も影響を与えた出来事は何か?その答えは「スポーツメディアの誕生と、それによるコマーシャライゼーション(商業化)」と冒頭でカッチャート教授は述べる。
米国スポーツビジネスではチケットセールス、スポンサーセールス、マーチャンダイジングを差し置いて、1番の収入源が放映権。スポーツビジネスを理解する上で、この結びつきの理解が肝になる。
近年メディアは大きく変化を遂げており、新たなプレーヤーの登場により多様化が進む。DAZNやESPN+などのOTTが台頭し、さらにレッドブルのようなメーカーがスポーツコンテンツのプロデューサーとして出現してきた。マイナー競技でもハンティングやフィッシングなどは自らコンテンツを作り、広告を付けることに成功している。「マイナー競技はマイナー競技としての戦い方がある」ともいう。
放映権の熾烈な戦いに多くのプレーヤーが参加する中、各スポーツクラブ・リーグも独自に展開。「コンテンツ・イズ・キング」と良く言われるが、その代表格が米国プロスポーツリーグのNFL、NBA、MLBだとし、最もパワーを持つリーグだと話す。実際、MLBのニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスなど、プロスポーツチーム自身が「メディア化」する事例も増えてきている。
今後はアマゾン、フェイスブック、グーグルなどプラットフォーマーがスポーツ界で存在感を高めようとしており、OTTプラットフォームのさらなる台頭や新興メディアも含め、一瞬たりとも目が離せない。
「メディアはニュースが命。ニュースがなければ探しに行く。ネタ切れは許されない」とも述べたカッチャート氏。今後メディアがスポーツコンテンツを配信するだけでなく、スポーツ団体に対してどのような付加価値を加えていけるか。そんな戦いへと展開していく時代となりそうだ。
「ただのバスケチームでない」ミルウォーキー・バックス
NBAミルウォーキー・バックスのアカウント・サービス・エグゼクティブで、オハイオ大学の卒業生でもあるジャダ・ポラード氏は、冒頭で1つの動画を紹介した。
そこには「NOT JUST A BASKETBALL TEAM(ただのバスケットボールチームではない)」という言葉が登場。アリーナは自宅であり、駐車場は屋外のリビングルーム。選手たちやチームは会場に会いに行く存在ではなく、身近にいる存在。それも地域にだけではなく、世界中にファンの輪を広げる。
「世界で最も尊敬されるスポーツ・エンターテインメント組織」を目指すことがミルウォーキー・バックスの目標だとポラード氏はいう。それまではシーズンチケット販売が3500枚程度という時期も続いたが、2018年8月の新アリーナ開設から大きく躍進を遂げ、2018-19年シーズンには1万枚の大台を突破した。
では、これをどのように成し遂げたのか?講義では、その実践方法に迫られた。セールスチームは主に4つのグループで、個人への販売、グループチケット営業、クライアント企業への法人営業、そしてシーズンチケットメンバーを担当するという。ポラード氏は最後のシーズンチケットメンバー担当で、更新(メンバー継続)が大きなミッションになる。
目標設定の金額も明確。個人として売るよりもチームとしてどのように販売するのかのマニュアルをまずは学ぶ。コミュニケーションがとりやすい環境で、役職関係なく座席も間仕切りはないと紹介した。
そして「優秀な営業の条件とは何か?」という問いに対して、ポラード氏は「NOと言われる度に自己否定に陥らないこと」、「相手の気持ちを思いやれること」、「ポジティブでハイエネルギーであること」、そして「話しやすく信頼される人であること」を挙げる。
「営業する人になるのではなく、顧客にとって常に頼ることができて、チームの内側にいる人になること」――商品の営業ではなく、体験を売ることを意識して関係性を築いている。
プロスポーツの基礎「チケットセールス」の中身
先述のミルウォーキー・バックスのに続き、同テーマを深掘って解説したのがオハイオ大学のカラー教授。10年以上に及ぶNBAクリーブランド・キャバリアーズでの経験を中心に語った。
キャバリアーズではシーズンチケットホルダーに向けてシーズン中にアンケートを実施し、「来シーズンの契約を更新しますか?」という問いで「多分(Maybe)」と答えたうち、約66%が実際に更新してくれるというデータも明かし、シーズンチケットの売上予測の方法を紹介。またシーズンチケットホルダーは平均で8年間継続したともいう。
NBAは各球団がビジネス面の競合ではなく、それぞれの地域にある支店であるという考えを持ち、成功例を共有する仕組みづくりがあったという。北米プロスポーツでは2019年のデータで2番目の収入源であると紹介されたチケットセールスを「プロスポーツの基礎」とカラー氏はいう。
同氏は、チケットセールスでは「ブランケット・プライス(共通価格)では通用しない」とも指摘。なるべく多くの試合数を売り切ることを目標と掲げ、ポテンシャルのある試合は積極的に売り、見込みのない試合には労力をかけないという考え方も明かした。有名な「2:8の法則」で、コートサイド付近やスイートルームなど2割の領域から、8割の収益につなげる考えだという。
2002年にキャバリアーズを去ったカラー教授だが、当時アナリティクスを担当していたのは1人で、しかも兼業だった。それが現在では、アナリティクスに特化した部署があり、約6名の正社員を抱えてチケットセールスでも重要な役割を担っている。
スポーツファンの属性だけでなく価値観が変化する現在、顧客を理解するためにはより正確な情報が必要となる。今後チケットセールスにおいても「鍵となるのはアナリティクス」だとカラー氏は予測した。
スポーツ界でさらに求められる、アナリティクスの活用
3ヶ月・12週に及んだ第3期の『HALF TIME Global Academy』。最後を飾ったテーマはアナリティクス。砲丸投げの米国代表選手として活躍し、自身のパフォーマンス分析にデータを用いて、現役引退後には博士号まで修得したオハイオ大学のエリザベス・ウォンレス教授が講師を務めた。
スポーツは勝てないチームでないと経営が成り立たない。そんな固定観念を払拭したのがNBAフィラデルフィア76ersだったと紹介。成績が落ちて、勝利から遠のいていた組織がデータを活用すると、チケットセールスでは新規販売ではリーグトップ、継続(更新)でもリーグトップ10に君臨した。
2017-18年には成績も悪かった同チームだが、「試合には負け続けていたチームだったが、ビジネスでは勝利していた」とウォンレス氏は表現。スポーツビジネスでの成功はチームの勝敗と必ずしも連動するわけではないというメッセージを伝えた。
データは選手のパフォーマンスや競技成績の向上だけではなく、チケットの価格設定や販売戦略、顧客との関係性構築、SNSマーケティング、パートナーシップの効果測定にも活用できる。ファンの性質を知ることを可能とし、スポンサーアクティベーションにおいても数字を知ることで、より効果的な取り組みへとつなげることもできる。
様々な分野でデータは有効的。こう頭では分かっていてもデータや数字への拒否反応も存在する。それをどう事前に理解し、緩和させていけるかが重要ともウォンレス教授はいう。データ中心のプレゼンをしてパニック状態を引き起こすのではなく、上司や同僚にどう歩み寄っていくか。どんなプロジェクト導入でも同じことが言えるが、組織の目的を理解しつつ、相手に合わせた提案をすることをアドバイスした。
ビジネスリーダーやコーチにアナリティクスの考え方や用語をどう理解し、活用してもらえるか。使われないデータは、結局意味をなさない。テクノロジーの進化で増えるばかりのデータを、どう活用するかは人間次第だともウォンレス氏は付け加えた。
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得られた「知」をどう活かすか――。これはアカデミーにおいても通じる考え方かもしれない。海外の様々なゲストから、毎週学びの機会を得ることができる。だがここから何を学ぶか、これらどう活かすかは自分次第。その姿勢があれば、可能性は無限大にもなる。第3期は終了となったが、第4期はさらに魅力的なプログラムとなり5月27日から開始する。