地方創生もビジネスも「共創型」へ。カマタマーレ讃岐、三豊市、三菱地所が語る、スポーツを核とした「新たな関係性」

「スポーツ×地域創生」をキーワードに2018年より全国各地で開催されている『スポーツビジネスサミット(SBS)』。11月には東京・有楽町を舞台に、オンライン配信も織り交ぜて、 J3カマタマーレ讃岐 代表取締役の池内秀樹氏とその地元香川県の山下昭史・三豊市長、そして三菱地所の河合悠祐氏をゲストに迎えて開催。プロクラブ、行政、企業という各々の視点から、スポーツを核にした新たな関係性が語られた。

求められる「共創型」スポンサーシップ

カマタマーレ讃岐 代表取締役社長 池内秀樹氏

変わりゆくスポーツを包括的に議論すべく、スポーツを取り巻く各ステークホルダーが登壇したスポーツビジネスサミット(SBS)東京。プロスポーツクラブを代表してJ3カマタマーレ讃岐の代表取締役社長 池内秀樹氏、行政からは香川県三豊市の山下昭史市長、そして企業からは三菱地所の河合悠祐氏を迎え、Jリーグアドバイザーも務めるTEAMマーケティング岡部恭英氏を交えてトークを展開。会場となった有楽町SAAIプロデューサーの古田秘馬氏がモデレーターを務めた。

まずセッション冒頭では、カマタマーレ讃岐の池内氏がクラブの現状と課題を紹介。クラブは地元のチームを母体として2006年に創設され、2014年にJ2に昇格し5シーズンを戦った後、2018年からJ3に所属している。

クラブの現状を考える上で挙げられた一つの尺度が、事業規模だ。J1クラブの約48億円、J2の約15億円という売上規模と比較すると、J3は約4億円ほどであると池内氏は説明する。

「安定的に上位のリーグで戦うためには、集客を行い、事業規模を拡大させることが必要不可欠です。それがスポンサーの獲得にも影響を与えますから」(池内氏)

池内氏が指摘するように、プロスポーツクラブにとってスポンサー収入は事業インパクトが大きい。放映権、チケット収入、スポンサー収入、グッズ収入(マーチャンダイジング)が4本柱とされるが、スポンサー収入は相対的に大きく、生命線にもなっている。事実、カマタマーレ讃岐では2018年度の決算時点で全体の約40%をスポンサー収入が占める。

一方で池内氏は、このスポンサー収入に関して、スポンサーとの関係性を新しい形に変えていく必要があるとした。いわゆるユニフォームや看板で企業ロゴを掲出するといった従来型の「協賛」ではなく、企業の課題をスポーツ、クラブチームで解決していく発想だ。

岡部氏はこれに同調し、「共創」というキーワードを提示。そしてそれを実現するためには「人材」が必要であるとし、あるJ1クラブの取り組みを紹介した。

「鹿島アントラーズが何をやっているかというと、親会社のメルカリの社員が、何十といるクラブのスポンサーと連携を取って、外部リソースをクラブに取り込もうとしているんです。外部人材、リソースを活用するのがカギです」(岡部氏)

地方の子どもたちに、スポーツができる機会を

香川県三豊市長 山下昭史氏

このカマタマーレ讃岐と、新たな連携を始めたのが香川県三豊市だ。カマタマーレは本拠地のPikaraスタジアムも位置する丸亀市を中心として県全域をホームタウンに定める中、実は優先的に利用できるトレーニンググラウンドがなかった。そこで手をあげたのが三豊市だ。

この際市長は、グラウンド(緑ヶ丘総合運動公園)を整備し、優先利用できる権利を付与する代わりに、クラブが地元の子どもたちを対象としたスクールを提供することを条件としたことも明かした。

「少子高齢化や人口減少が進む地方において、スポーツビジネスを通じた振興に大きな可能性があると考えたんです。三豊にいても、サッカーでプロになれるチャンスがあるというのは、素晴らしいこと」(山下氏)

香川に限らず、地方では子どもたちや指導者の減少で、学校の部活動が成立しない地域も増えてきている。山下市長は、地域外に出るという選択肢以外に、スポーツを続けるチャンスが子どもたちに与えられていないことを問題視しているという。

同氏はさらに、地方創生において「ビジネスベースで考えられる人材の必要性」にも言及。人口減、過疎化が進む中、自治体として生き残っていくためには、新しいものを迅速に取り入れていく動きが必要だと話す。

「行政が単純に税金を投入するだけでは、取り組みは続きません。そのためには、三豊をフィールドに様々な協業を行い、自治体と企業双方にとって有益な関係をつくることが必要です。これが、今後の地方創生の鍵を握るでしょう」(山下氏)

人材と地域をつなぐ「ビジネスプロデューサー」の必要性

三菱地所株式会社 営業企画部兼協創マーケティング室 河合悠祐氏

三菱地所でスポーツ・エンタメ領域のマーケティングを担当する河合氏は、企業から見たスポーツクラブの存在や、外部人材を活用することの重要性について事例を含めて説明する。

三菱地所は、2019年のラグビーワールドカップのスポンサーを務めるなど、近年積極的にスポーツを活用。不動産開発だけにとどまらないまちづくりやコミュニティづくりを実現するために、例えば同大会に合わせて、リアルとバーチャルでラグビーファン向けのコンテンツを展開する「丸の内 15 丁目 PROJECT.」などのアクティベーションを行った。

河合氏は、ラグビーワールドカップの成功に触れつつ、もう一つコミュニティベースで活動する取り組みを紹介した。それが、「Jリーグ丸の内ラボ」だ。

同プロジェクトは、Jリーグの社会連携活動「シャレン!」の一環として、丸の内というエリアを企業・人・地方のハブにすることを目指して、東京大学先端科学技術センターも参画し発足。鹿島アントラーズや松本山雅FCなどのクラブから事業担当者をゲストに迎え、スポーツビジネスに興味があるビジネスパーソンと学生を対象に、実際にクラブが抱える課題を解決するためのワークショップを実施するなどした。

「東京で働くビジネスパーソンの中には、『自分のスキルを活かして地域に貢献したい』と考える人が多く存在します。そのような人材と地域クラブをつなぐ仕組み創りこそが重要なんです」(河合氏)

モデレーターを務めた古田氏もこれに頷き、地方創生やコミュニティ形成には「アグリゲーター」となる人の存在が必要であると付け加えた。人材や情報をつなぐビジネスプロデューサーのような役割の人を中心に、地域の交流人口を増やすようなプラットフォーム創りができると語った。

三豊市長 山下氏も、「完全巻き込み型」の行政をしていると形容し、次のように続ける。

「三豊市では、20社以上の企業やクリエイティブ人材、さらには大学生や高校生を巻き込んだ取り組みを行っています。その中で光るアイデアや、ビジネスプロデューサー的な存在が出てきてくれれば」(山下氏)

プロスポーツクラブを中心とした、新たな地域のあり方

今回のSBS東京では、一貫してプロスポーツクラブのこれからのあり方が議論された。河合氏は不動産ビジネスの観点からスポーツ興業中心のスタジアムの課題を指摘。試合は毎日行われるわけではないので、試合観戦だけにとどまらない体験のできるスタジアム運営が必要とした。

三豊市長の山下氏はこれに同調しつつ、スタジアムやクラブといったハブになる存在を通して、「教育と健康」という付加価値を提供していく構想を明らかにした。地方の「生き残り」戦略にもつながるが、ここでもサッカークラブとの連携が地域の人々を包括的に巻き込む際にポイントになるということだ。

これにはカマタマーレ讃岐の池内氏も首を縦に振り、「子どもたちにとっての『人間教育』にもなるようなチームを作ることが必要」と述べ、スクール提供にとどまらないさらなる展開を予感させた。

カマタマーレと協働する三豊市の山下市長は、地域とその未来を預かる立場として、最後に次のように念押しする。

「大人の都合で、子どもたちの未来を奪ってはいけません。スポーツは地方の子どもたちの『夢そのもの』ですから」