大坂なおみ選手や錦織圭選手の活躍などで盛り上がりをみせる日本のテニス界ですが、テニスの世界でどのようなテクノロジーが活用されているのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
デジタルの先駆者である全米オープンテニスの実情をはじめ、ここ数年で急速に進んでいるテニス界での先端技術の導入に目を向けてみました。
ハイブリッドクラウドに支えられる全米オープン
全米テニス協会(USTA)が主催する大会である全米オープンはグランドスラム大会の一つであり、観客動員数、賞金総額ともに世界トップを誇るメジャー大会です。
そして、全米オープンは、IBMをパートナーとして25年以上前からデジタルトランスフォーメーションに取り組んできた、いわば、スポーツテックの先駆者的存在です。
1日1コートあたり最大6試合が組まれ、戦われる試合は延べ300時間以上にも及ぶ全米オープン。
どんなにコアなテニスファンであっても、これだけ大規模な大会では、見られる試合には限りがあります。そこで、IBMのクラウドで提供されるさまざまなデジタル機能が役に立つのです。
全米オープンに取り入れられている技術として、IBMのWatsonを使った「AI Highlights」がありますが、これは、トーナメントにおいてファンが熱狂するであろう最もエキサイティングな瞬間をAIが特定し、ダイジェスト動画を自動的に作成してファンに届けるというもの。
ファンが熱狂しそうなシーンを機械的に分析するのは難しいように思われますが、ここで分析に使われるデータは、膨大な試合のデータばかりでなく、観客席の反応や選手の表情、ボールを打つ音など多岐にわたり、そのデータを分析することによって精度の高いハイライト動画を作成する、ということが可能となっています。
また、「AI Highlights」と同じくIBMが提供する「SlamTracker」は、リアルタイムで試合のデータを分析し、試合の動向を可視化するシステムです。
試合の要所で放たれるハイライトとなるショットだけではなく、そのショットが打たれるまでの軌跡に至るまで可視化するため、試合の流れがよりわかりやすく把握できるようになっています。したがって、どの選手がどれだけ有効打を打ち、試合を支配しているのかを知ることができ、テニス観戦のビギナーでも試合にのめり込むことができます。
このUSTAの事例は、技術を使うこと自体が目的なのではなく、「何をしたいのか」、「AIやクラウドがその目的に本当にマッチしているのか」がしっかり検証された上で構築されている事例であるといえます。
「すごい技術やAIがあるから何かやってみよう」ではなく、「これをやるのに、AIを使おう、クラウドを使おう」という、目的先行であることが、スポーツテックにおいても成功のカギを握るはずです。
(AI Highlights:https://www.ibm.com/sports/usopen/jp-ja/)
(SlamTracker:https://www.ibm.com/blogs/cloud-computing/tag/slamtracker/)
「テニス」を変えるIT・テクノロジー
近年、テニス界において、プレイを可視化したり、データ化したりする技術の導入が相次いでいます。
ここでは、その中から
- Smart Tennis Sensor
- Smart Court
- PIVOT
を紹介します。
Smart Tennis Sensor
「Smart Tennis Sensor」は、ソニーが2014年に発売したセンサーです。
加速度センサーや角速度センサーを内蔵し、ラケットのグリップに装着してプレイするだけで、サーブやストロークの際のさまざまなデータを記録して解析することができます。
ヨネックス、Wilson、HEADなど主要なメーカーのラケットに対応しています。
(https://smartsports.sony.net/tennis/JP/ja/)
Smart Court
「Smart Court」は、イスラエルのベンチャー企業PlaySight が開発したITによってテニスの科学的な分析を可能にしたシステムです。
このシステムは、プレイ映像からさまざまな分析を可能にする仕組みで、トップ選手として有名なノバク・ジョコビッチ選手も同社に出資しています。
「Smart Court」は記録できるデータが幅広く、コート上のプレイデータのほぼすべてが自動的に記録されます。また、そのデータは即座にビデオや3D映像で確認することが可能です。
したがって、今放ったサーブのスピード、ボールスピードや回転、ボールの着地点やネットを越えた高さ、選手の走行距離・消費カロリーなど、各種データの確認が即座にできるのはもちろん、カメラがプレイ中の動きを捉えるため、フォアかバックかといったフォームの判別をすることもできます。
人の手で入力するような場面がほとんどないので、分析担当のスタッフの助けを必要としないというメリットも見逃せません。
データ収集に必要なのは、コートの四方に設置された5台のカメラとネット脇に置かれたキオスク端末だけ。
ユーザーは、PlaySightのウェブサイトでユーザー登録してキオスク端末にログインすれば、すぐに使用することができます。
取得したデータは自動的にPlaySightのサーバーへ転送されるため、スマートフォンやタブレット端末でプレイ映像やデータを確認することも簡単です。
「Smart Court」は、欧米を中心に世界15ヵ国以上で導入され、既に200台以上が設置されていますが、世界中で集積された選手たちのデータは、同社がクラウド上で管理しており、その一部はリーダーボードとして自社サイトで公開中されています。
(Smart Court:http://www.ne.senshu-u.ac.jp/~proj29-29/pdf/270003-1.pdf)
PIVOT
「PIVOT」は、アメリカのシリコンバレーのベンチャー企業であるTuringSenseが開発したテニス専用のウェアラブルセンサーです。
「PIVOT」の仕組みは、加速度・角速度・地磁気の3種類を3軸で計測する9軸センサーを体に装着してプレーすることによって、フットワークや膝・肘などの使い方を細かく記録。解析結果を元にプレーを改善したり、ケガを防止することができるようになっています。
同システムは、アメリカのスポーツ選手養成学校であるIMGアカデミーで世界のトップ選手を指導したことで知られる、ニック・ボロテリー氏の協力を得たものであり、プランによっては、同氏の指導を受けることも可能です。
(https://www.indiegogo.com/projects/pivot-the-game-changing-wearable-for-tennis#/)
まとめ
テニス界におけるスポーツテック事情について紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。
テニスをテクノロジーの活用によって競技者のレベルを進化させるスポーツテック。
どのようなシステムが導入されているのか、という視点でテニスを見てみるのも面白そうです。
(TOP 写真提供 = Rawpixel.com / Shutterstock.com)
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