アメリカで人気のあるプロスポーツと言えば、アメリカンフットボール、(NFL)、野球(MLB) バスケットボール(NBA),アイスホッケー(NHL)の4つが挙げられます。
アメリカにおいて、プロスポーツ・チームは単なる娯楽や地元に雇用や税収といった経済的効果をもたらすものではなく、劇場や映画館、動物園や博物館などと並び、「生活の質」を高めるために必要なものと捉えられています。
この記事では、アメリカのスポーツビジネスの特徴や仕組みについて、詳しくご紹介します。
巨大産業化したアメリカのスポーツビジネス
アメリカは、世界の中でもプロスポーツが盛んな国です。
アメリカのスポーツ業界は、収益面で最大限の結果を出すための様々な仕掛けがなされ、スポーツが文化として根付くだけでなく、産業として事業を展開することでビジネスとして大きな成功を納めています。
そんなアメリカのプロスポーツ界では、今、新しいスタジアムの建設ラッシュに涌いています。
NFL、MLBのスタジアム建設が進められたのは1990年頃のこと。
古くなったスタジアムが新しく綺麗になることで、観客数や収益の増加につながっています。
スタジアムの建設によって、アメリカのプロスポーツ・ビジネスはますます巨大化していくでしょう。
アメリカのスポーツビジネスに見られる特徴
アメリカのスポーツビジネスは50兆円規模にも及ぶとされ、世界の市場の3分の1というシェアを占めています。
そのアメリカのスポーツビジネスには
- 個人投資家による投資
- ビッグデータの分析・活用
- 集客を重視した取り組み
などが特徴として見られます。
それぞれの特徴について、詳しく見ていきましょう。
個人の投資家による投資
アメリカのスポーツビジネスでは、資金力のある個人の投資家がスポーツビジネスに投資するケースが見られます。
例えば、ビル・ゲイツと共同でマイクロソフトを創業したポール・アレン。
ポール・アレンは、シアトル・サンダーズやシーホークスなどのオーナーとなりましたが、その資金力を背景に、スタジアムの建設をすすめました。
また、ポール・アレン以外では、NBAのロサンゼルス・レイカーズの選手として知られたマジック・ジョンソンも、現役引退後にスポーツビジネスに参画した1人です。
マジック・ジョンソンはMLSのロサンゼルスFCのオーナーとなりましたが、これによってマジック・ジョンソンが好きな人がMLSの試合に足を運ぶという効果が得られたようです。
このように、アメリカのスポーツビジネスの広がりには、ポール・アレンやマジック・ジョンソンなど、オーナーとなった人に起因する人気やニュース性から、競技に興味を持つというケースがみられます。
ビックデータの分析活用
アメリカのスポーツビジネスでは、ビッグデータの活用がなされています。
ビッグデータの有効性についての本として、マイケル・ルイスが執筆した『マネーボール』が有名ですが、この『マネーボール』は、オークランド・アスレチックスにおいて、ビリー・ビーン氏が行ったデータ分析を記しています。
スキルはもちろん、実績のある選手を起用してチームを勝利に導く方法として、データの活用がなされました。
また、ビッグデータの分析は、試合会場のスケジューリングにも用いられています。
試合を行う会場は、さまざまなスポーツ競技やイベント、コンサートなどが開催されます。
また、アメリカは広大なため、会場の移動距離が長くなるケースも多くあります。
そこで活用されるのがビッグデータです。
ビッグデータの活用によって、距離や時差、気候の違いなどあらゆる条件を考慮し、対戦チームとの公平性を保つスケジューリングが可能となっています。
こうしたビックデータの活用は、アメリカのスポーツビジネスにおける新たなビジネスチャンスの広がりを見せています。
集客を重視した取り組み
アメリカのスポーツビジネスの根幹は、チケット収入にあると言われています。
アメリカのスポーツクラブが一番大切にしているのは「集客力」ですが、これはつまり、チケット販売ということです。
アメリカでは、1人1人の営業マンが、「人に会う回数を増やす」「電話攻勢をかけチケットを売り込む」という活動をすることによって、集客につなげています。
集客できれば、自然とスポンサー広告が付くという訳です。
アメリカの4大スポーツの中でも、もっとも成功しているNFLに見られる3つの仕組み
NFLは、シーズン開始前に全チームの黒字が決まっているなど、リーグとしての成功とチームとしての成功が相伴い、スポーツビジネスが成功しているとされています。
このNFLには32チームが参加していますが、日本のプロ野球がセ・リーグとパ・リーグに分かれているように、NFLはNFC(ナショナル・フットボールカンファレンス)とAFC(アメリカンフットボール・カンファレンス)という2つのリーグに分かれています。
もともと、1920年にAPFA(アメリカン・プロフェッショナル・フットボールアソシエーション)が創設されましたが、1971年にNFLとAFLが統合されたことにより、チームはNFCとAFCの二つのカンファレンスに分かれたのです。
このNFLには、
- レベニューシェアリング
- サラリーキャップ
- ウェーバー制ドラフト
という3つの特徴的な仕組みが見られます。
レべニューシェアリング
NFLはレベニューシェアリングと呼ばれる、収益分配性制度を採用しています。
これは、テレビ放映権料や入場収入料、グッズ収入やスポンサー収入を所属する32チームで均等に分配するという制度であり、1チームの収入に占めるリーグからの分配金の割合は、平均約70%に達しています。
NFLのテレビ放映権料は、レギュラーシーズン(25試合前後)とスーパーボールを含めたポストシーズン全試合のテレビ放映権の交渉をリーグが一括して行うため、放映権料は全て、リーグ全体の売り上げとして管理されています。
試合の入場料は、各試合のチケット収入の40%がリーグ全体の売り上げとして管理され、残りの60%が、ホームチームの収入となります。
また、グッズ収入は、各チームの売り上げから発生するロイヤリティ収入が、すべてリーグ全体の売り上げとして管理されます。
この制度により、すべてのチームが同じ額で運営をすることができる環境を整えています。
サラリーキャップ
経営の有る種の理想像を呈しているNFL。その秘訣は、サラリーキャップによるものです。
サラリーキャップとは、選手に支払う年棒総額に、リーグ全体の収入に基づいた上限金額を規定する制度です。
フリーエージェント制による年俸の高騰を抑える目的や、全チームが平等な条件となることが目的であり、1994年から採用されました。
サラリーキャップはシーズン終了後に決定されますが、現時点で170億円程度となっています。
ウェーバー制ドラフト
ウェーバー制ドラフトとは、成績が下位のチームから順に、獲得したい選手を指名できる制度のことです。
この制度によって、各チームの戦力均衡が保たれています。
毎年4月後半におこなわれるNFLのドラフトでは、主に大学4年生の選手が指名されます。
このドラフトは、初日で1巡目、2日目に2~3巡目、3日目に4~7巡目と、3日間を通して行われます。
アメリカのスポーツビジネスはSNSの活用でさらなる広がりを期待
アメリカでは、週末にスポーツ観戦をしたり、会社や学校でスポーツ談義をする方が多くいます。
また、幼児から習い事の1つとして取り入れられるなど、スポーツが生活の中に溶け込んでいます。
コミュニケーションのツールであるSNSでもアプリやファンサイトを通じた情報共有がなされる今、スポーツビジネスのさらなる広がりが期待されます。
まとめ
スポーツビジネスは、人々に感動を与えながらメディアやスポンサー、企業やスポーツ用品等さまざまな産業を巻き込み、巨大なビジネスへと成長しています。
世界の市場規模の3分の1を占めるアメリカでは、レべニューシェアリングやサラリーキャップ、ウェーバー制ドラフトなど、公平性を保つ仕組みによる運営が進められていますが、これらは、日本のスポーツ界でも検討が進められています。
SNSの活用により、ますます広がりが期待されているアメリカのスポーツビジネス。
その取り組みから目が離せません。
参考文献
スポーツビジネス最強の教科書 平田武雄 東洋経済新報社