【ABeam Sportsコラム#7】企業との価値共創・真の地域密着を実現するためのポイント

本コラムの連載第1回 で、今後、コンテンツホルダーには「スポンサー企業との新たな価値の共創」と「地域との“真”の関係構築」が必要と述べた。企業が取り組むべき課題は多様化しており、最近ではSDGsの取り組みを行うケースも増えてきている。また企業のニーズの多様化に対応する一つとして、顧客基盤の拡大が挙げられるが、そのためにはコンテンツホルダーが活動する拠点を中心とし、地域住民を巻き込んでいく必要がある。本コラムではスポーツ×企業×地域の連携を行うにあたってのポイントを考察していく。(文=アビームコンサルティング マネージャー 澤井一人)

コンテンツホルダーはなぜ地域との関係構築をすべきなのか

コンテンツホルダーが地域との関係構築をすべき理由は大きく2つあると考えている。

1つ目は、地域住民のファン化である。

様々なコンテンツホルダーが各スタジアム/アリーナで試合を開催しているが、試合ごとに訪れる観客は入場料や物販という収入面でコンテンツホルダーに影響を与えるだけでなく、開催地で応援してくれる存在として、コンテンツホルダーを支えてくれる。

しかし一部を除き、各地にあるスタジアム/アリーナは交通の利便性が決して良いとは言えず、最寄り駅からかなりの時間を歩くような場所も多いため、ロイヤルティの高いファン以外の人は「気軽に試合を見に行こう」となりにくいのが現状である。

現在のスタジアム/アリーナの環境において、ロイヤルティの高いファン以外で「気軽に試合を見に行こう」という人たちを取り込むには、スタジアム/アリーナの周辺住民をファンとして取り込んでいくことが現実的ではないかと考えている。

そのためには、コンテンツホルダーが試合だけではなく、地域貢献の活動を通じて、地域住民たちと近い存在になり、その人達にファンになってもらった上で、試合会場に足を運んでもらうことが必要である。

現に筆者の自宅近辺にあるスタジアムでは、そのスタジアムを使用するコンテンツホルダーが、地域の保育園、小学校とスポーツ体験教室のようなイベントを行っている。その教室に参加した筆者の子どもは、確実にそのコンテンツホルダーのファンとなり、筆者自身もファンになりつつある。また、特にコロナ禍前は時間が空くと、ふらっと試合会場に行き、チケットを購入し、試合を観戦しながら飲食を楽しんだ経験があるが、近場にスタジアム/アリーナがある地域住民だからこそできることであろう。このようにコンテンツホルダーが、地域の課題を解決しながら、地域の人たちのファンを増やす活動を行うことが、重要である。

地域とのつながりがスポンサー獲得にも活きる

コンテンツホルダーが地域との関係構築をすべき理由の2つ目は、地域のスポンサー獲得につながりやすいという点である。

地域住民とのつながりやファンが増えると、スポンサー企業獲得や共創という点でも、大きなメリットを創出できる。

第3回目のコラムで述べた通り、企業がスポンサーとして投資を判断するにあたっては、企業が抱える経営課題へ直接的な効果があるかどうかを、コンテンツホルダーがしっかりと明示することが求められる。しかしその前段階として、経営課題を解決するパートナーとして選択される必要があり、その選択において特に情緒性の高いスポーツでは、企業が地元で愛されているかどうかも重要であると解説した。

我々も以前スポーツクラブのスポンサー獲得支援をした際、コンテンツホルダーが所在する地域の企業とその他地域の企業の商談進展率を比較した際、所在する地域の企業と商談が進む確率が高かった。この事実からも地域とつながり愛される存在であることが、スポンサー営業でも重要であるとお分かりいただけると思う。

しかしながら、地域とつながり愛されるだけでは、スポンサーの獲得にはつながらない。しっかりと新たな価値を共創していくことも具体的に示していく必要があると考えている。

企業との新たな価値の共創

スポーツで解決できる企業課題で従前挙げられてきたのは、「企業名の露出による企業認知向上」が中心とされ、スポンサー企業の期待もそこにあったが、現在のスポンサーシップでは、スポンサー企業の事業への直接的効果測定が難しい露出による認知だけでなく、直接的な効果測定がしやすいものでなければ、様々なステークホルダーを抱えるスポンサー企業にとっては、投資判断を行えなくなってきている。

したがって、コンテンツホルダーは自身の持つアセットをフル活用し、スポンサー企業の企業課題に対応していく必要がある。スポンサー企業側が抱えるニーズは、下表のように整理されるが、我々がリーグやクラブのスポンサー営業支援として企業を訪問する中で、コンテンツホルダー 、企業、地域の3者の共創として、企業側から求められるニーズはSDGsの取り組みにあるというのが実感である。今回はこのニーズに絞って実際どのようなアセットを提供し、企業、地域との共創を行うべきか説明していく。

スポーツ×企業×地域共創の取り組み

第4回目のコラムでも述べた通り、スポンサー企業のSDGsの取り組みへの熱は高まっている。企業は投資家の要請に応じて、SDGsに関連する活動を行っているが、企業単体での取り組みだと「やったはいいが発信力がない」という課題を抱えることが多い。

本来であれば、投資家からの注目度を高めるためにも、活動の発信力が必要であるが、一企業のSDGs活動が注目されることは少ないのが実情である。一方でスポーツは、生来持つイメージを通じて、社会課題への取り組みをポジティブなイメージに変えることに加え、「共感」や「一体感」を生み出しやすく、コンテンツホルダーだけでなく、そのファンの発信も期待できる。スポンサー企業にとっては、注目されなかった自身のSDGs活動の発信に関する悩みを解消することができる。

コンテンツホルダーは、もともと地域に根差した活動を行っており、地域社会に存在する社会課題の解決に取り組んでいる。コンテンツホルダーは、取り組んでいる活動というアセットを、スポンサー企業の取り組みたい方向にアジャストさせ、ファンというアセットを活用し発信してもらうことが、提供価値になると考える。

その際に必要となるのは、コンテンツホルダーが取り組んでいる地域における社会課題の解決テーマと、スポンサー企業側が持つアセットとの親和性や、その活動を行うことによりスポンサー企業側やその企業を取り巻く人たちに生み出される付加価値が何かを踏まえた上で活動を行うことである。

例えば、消費財を個人客へ自社で輸配送を行っている企業が、コンテンツホルダーと古本などの回収と地域への寄贈を行う場合、古本の回収はスポンサー企業の輸配送網を使い、スポンサー企業の顧客希望者や、コンテンツホルダーとつながりがある地域に古本を寄贈することで、スポンサー企業としては資源の有効活用という社会課題解決に貢献できていることに加え、顧客や地域住民からスポンサー企業の取り扱う消費財に対するエンゲージメントも高めることができる。

またこれらの活動は、コンテンツホルダーからもしっかり発信される必要がある。コンテンツホルダーは、ファンや地域住民などを中心とした顧客基盤やメディアとのつながりというアセットを有している。例えば千葉ジェッツふなばしは、「課題解決のハブ」となり、企業や地域と連携をしながら、社会課題解決の活動を行っており、彼らの活動はメディアでも多く取り上げられている。また、ファンや地域住民を巻き込みながら活動することで、地域との一体感を創出することが可能である。

スポーツだからこそ実現できる「地域との一体感」

この地域との一体感というものは、スポーツだからこそ実現できることでもあり、具体的に例を挙げていく。

前述した千葉ジェッツふなばしは、地域に根差した社会貢献活動を行い、地域から愛されているチームである。同チームはコロナ前までは平均観客動員数5,000人超を誇るファンの多いチームである。

同クラブがファンから愛されている理由には、「強さ」だけではなく、地域に貢献する活動を行っていることが挙げられる。同クラブはファン/地域から支えられたことへの恩返しとして、「JETS ASSIST」という活動を立ち上げ、地域の課題を聞き、企業を巻き込みながら、地域の課題解決を行っている。

一例をあげるとプラスティックごみ問題の啓発とリサイクル推進を目的とした活動として、ファンから集めた衣類を、協賛企業の技術を活用して再加工し、「ジェッツ絆Tシャツ」として販売をした事例である。これはまさに、千葉ジェッツをハブにして、クラブ、協賛企業だけでなく、ファンを巻き込むことで、地域で排出されるごみを減らすという取り組みであり、「共創」として良い事例である。

当社ではこのような事例を調査し、各SDGsの項目に沿ってコンテンツホルダーが販売できるメニューを開発しているので、是非問い合わせをいただければと思う。

今回は「企業との共創」と「地域との真の関係構築」を解説した。コンテンツホルダーが今後ビジネスを拡大するにあたって、これらは個別で考えるものではなく、両方を意識していくものだと考えている。この方法論がコンテンツホルダーに根付き、企業・地域に愛されるコンテンツホルダーに成長することを期待する。

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