柔道界のレジェンド野村忠宏が「野村道場」を通して伝えたいこと

オリンピック3⼤会連続⾦メダリストの柔道家・野村忠宏がプロデュースする柔道イベント「DaiwaHouse presents 第六回 野村道場」が、2022年8⽉10⽇に横浜武道館で開催された。2019年9⽉に開催された第一回以来、約3年ぶりとなるリアル開催だった。

特別講師にはオリンピック2連覇を成し遂げた⾕本歩実氏、そしてスペシャルゲストに、東京2020で男子73キロ級金メダル獲得&2連覇を達成した⼤野将平選手が参加。多くの柔道少年少女が、畳の上で指導を受けた。

多くの柔道ファンのためのイベント

横浜武道館には、続々と小さな柔道家たちが集まってきた。多くは保護者同伴で、柔道衣を収めたリュックなどを背負ってきていた。参加者は167名。レジェンド柔道家から直接指導を受けられるとあって、参加者本人だけでなく、保護者や柔道ファンなどの観覧に訪れた人たちも興奮を隠しきれない様子。

広い会場の一角には、野村氏が手にした3つの金メダルとその際に着用していた柔道衣が飾ってあり、一緒に写真撮影もできるとあって大いに盛り上がっていた。

コロナ禍はオンラインだったが、3年ぶりのリアル開催となった。会場は横浜武道館(横浜市)

別部屋の道場では、また違った緊張感が漂っている。第六回 野村道場開催に先立ってクラウドファンディングが行われていたが、そこで支援した人たちがリターンを受け取るために待ち構えていたのだ。

そのリターンとは「野村忠宏に投げられる権」。世界の頂点を極めた背負投を、身を持って体験できる貴重な権利を獲得したのは、藤井紀寿さん。自身も柔道家であり、なんと野村氏がオリンピックで金メダルを獲得した3度とも、現地で観戦していたという生粋の「野村信者」だ。

他のクラウドファンディング支援者が見守る中、いまだに衰えることのない切れ味で技をかけられた藤井さんは、「昨日は興奮で寝れませんでした(笑)。組み合った瞬間、言葉で言い表すことのできない圧を感じました。かけられたのは一瞬でしたが、まるでスローモーションのように思い出すことができます」と感極まった様子で感想を語ってくれた。

他の支援者も、谷本歩実氏や大野将平選手と記念撮影をしたり、サイン入りTシャツを受け取ったりと、支援ごとのリターンを受け取っていた。

クラウドファンディングのリターンの目玉は「野村忠宏に投げられる権」

柔道で大切な「礼を重んじる」こと

本会場では、イベント開始の時刻が迫ってきていた。そこに登場したのはドンマイ川端選手。子どもたちに大人気の柔道YouTuberで、彼の指導のもと、みんなで準備体操を行う。

いよいよ野村忠宏氏、谷本歩実氏、大野将平選手が会場に姿を見せる。他のゲストとして、野村氏のライバルでもあった元オーストリア柔道代表で北京オリンピック銀メダリストのルートウィヒ・パイシャー氏、そして、スキマスイッチの常田真太郎氏も姿を見せた。常田氏は、高校時代に柔道部で活躍した有段者でもある。

左から)ドンマイ川端選手、スキマスイッチ 常田真太郎氏、ルートウィヒ・パイシャー氏、大野将平選手、谷本歩実氏、野村忠宏氏

野村氏から最初に指導されたのは「礼節」だ。柔道の歴史を振り返り、「精力善用」「自他共栄」という大切な教え、そして感謝の念、礼の作法をあらためて確認する。さすがに自分たちの道場でしっかり教え込まれていると見えて、小さな子どもたちでも礼の大切さを理解しているようだ。

心を整えたら、体を動かしていく。全日本の練習でも取り入れられている野村道場定番のサーキットトレーニングをみんなでがんばった後、休憩をはさみ、いざ技術指導となった。

柔道で大切な「礼節」も学ぶ

豪華講師陣の得意技を直で伝授

ここからは、講師たちの世界を制した得意技を直接指導してもらう。まずは現役である大野将平選手から、大外刈を習う。子どもたちの中から、大外刈が得意だという人を選び、実際に大野選手相手にかけてみる。それを受けて、大野選手が大外刈で大事なポイントを指導。

「大外刈は、思い切ってかけないと逆に返されやすい。体を相手に勢いよくぶつけるようにして大きく踏み込み、足を刈ることが大事です」(大野選手)

東京2020でも金メダルを獲得した大野選手から「大外刈」の指導

次に、谷本歩実氏からは内股を。小さな体で、大きな外国人選手を華麗に投げた秘訣を教わる。ポイントは、まずは引き手。

「引き手は、相手の手を大きく上に引き上げること。これで相手の体勢を崩します。そして空いた懐に体を反転させて潜り込む」(谷本氏)

そこから大きく足を跳ね上げて相手を投げる。その足の高さ、そしてバランスの良さに会場からは驚きの表情が溢れた。

2004アテネ、2008北京で金メダルの谷本氏からは「内股」を習う

最後は、レジェンド野村忠宏氏から背負投の指導。これには、客席で見ている保護者たちからもスマホで撮影する人が続出。世界を震撼させた背負投の極意を見逃すまい、という気迫が溢れていた。

「背負投は、相手を『背負う』技です。そのためには、相手の腰よりも下に自分の腰を入れなくてはいけません。そのままおんぶできるような感じですね」(野村氏)

子どもたちにもわかりやすいように実際におんぶして見せるなど、教え方にも独自の工夫が凝らされている。そして、自身が相手を投げるだけでなく、子どもたちにも実際に投げさせてみて、その感覚を体で覚えるように指導していく。

子どもたちが野村氏を投げる場面も。こうして学びを実践していく

技術指導が終わると、全員で乱取り(お互いが自由に技を掛け合う実践的な練習)に移る。野村氏、谷本氏、大野選手も、くじ引きなどで相手を決め、乱取りに加わる。実際に組み合うことで、言葉では伝わりきらない想いが共有できているようだ。

乱取りでは講師、ゲストらも参加して楽しく、そして真剣に組み合う

トップアスリートの心がまえを学ぶ

イベントのMCはフリーアナウンサーの田中大貴氏が努めた。レジェンドや現役選手に多くの質問があがる

実技指導が終わり、質問タイムでは子どもたちから真剣な疑問がぶつけられた。大野選手には体重コントロールについて、谷本氏には小学生の時に実践していた練習についてなど。それぞれ、実体験をもとに、真摯な答えが返ってきた。

また、講師陣全員へ、試合で緊張した際にどうしたらいいかという切実な質問がなされると、野村氏は、

「誰でも緊張はします。私も緊張していましたが、それを『当たり前のこと』と考えるようにしていました。緊張しないようにするのではなく、緊張しているなかでどれだけ実力を発揮できるか、と考え方を切り替えました。そして大事なのは、勝ち負けに関係なく思い切ってやること」(野村氏)

と、幾多の大舞台を経験したレジェンドならではのコツが伝授された。

質問タイムの後には、プレゼントをかけた抽選コーナーやゲームコーナーも。ゲームコーナーは講師陣からの○×クイズや講師陣と参加者全員でジャンケンをして、最後まで勝ち残った人がプレゼントを獲得できるというもの。プレゼントは講師たちのサイン入りTシャツや、スポンサー各社から提供されたホテルの宿泊券などもあり、豪華なラインナップだった。

豪華プレゼントが当たるゲームコーナーも。子どもたちも大喜び

最後に、講師の方々から参加者へメッセージが送られた。

大野将平選手は、「鍛錬を続けていく上ではツライこともあるけど、がんばってほしい。今日乱取りできなかった人も、またどこかで会えたら練習しましょう」と今後に向けたエールを。谷本歩実氏は、「楽しかった人、手を挙げて!」と全員に声をかけ、「ぜひ、この夏の想い出として、明日からもがんばってください」と明るく呼びかけた。

最後の締めに、野村忠宏氏からは、「強くなることも大事だけど、まずは柔道を楽しんでほしいと思います。自分はこうなりたいという気持ちが、前に進む力になります。家族や道場の先生たちに感謝の気持ちを忘れずにいてください。家族の方も、がんばっている姿を、ぜひほめてあげてほしいと思います」と、柔道を続けていく上での大切なことを呼びかけた。

参加者全員で記念撮影をし、退場の際には講師陣とグータッチして会場をあとにした。

イベント後にはグータッチ。一生の思い出になったに違いない

イベント後、参加者に話を聞いてみた。

「大外刈の指導を受けました。大変だったけど、とても楽しかったです。今後の練習や試合で実践してみたいです。また機会があったら参加したいです。それから、プレゼント抽選でホテルの宿泊券が当たってうれしいです!」(室本創志くん、中1)

「得意なのは内股で、谷本さんの引き手のアドバイスはとても参考になりました。また参加してみたいですが、今度は寝技も教えてほしいです」(松島七音さん、中2)

今回の参加者は、小学3年生から中学3年生まで。話を聞いた2人は中学生だったので、具体的な技の指導がとても参考になったようだ。

その他、参加者の保護者からも多くの声が寄せられている。

「この度は、貴重な体験をさせていただきありがとうございました。コロナ禍で約2年間練習ができず、試合もことごとく中止や保護者の引率NGが続いていて、大好きな野村さん、大野選手と同じ場に立たせていただけて最高の夏休みになりました」

「高校でも柔道を続けようか長く悩んでいた子どもが、『続ける!』と腹を決めました。当日、展示されていた野村先生の柔道衣やすりきれた帯を見て、自分の帯がキレイなうちは柔道をやめてはいけないと、子ども心にも感じるところがあったようです」

「はじめて参加しましたが、とても楽しかったそうです。1人で参加した娘ですが、すぐに友達を作って『最高に楽しかった!!』と帰ってきました。『〜ってやるなんて、ぜんぜん知らなかった!今までダメな掛け方してた!』といろいろと発見もあって、大変有意義な経験ができたようです」

イベントに参加した室本創志くん 「今後の練習や試合で実践してみたい」

今回の野村道場は、大和ハウス工業株式会社がメインスポンサーとして開催された。同社総合宣伝部 コーポレートブランド推進室 内田大樹氏は、野村道場をサポートする理由をこう語ってくれた。

「当日は同じ横浜武道館の空間におりましたが、子どもたちが活き活きとした表情で講師の顔を見て柔道に取り組んでいる姿を見れてうれしかったですね。

野村さんの説明は的確で、子どもたちにもわかりやすく伝わっていたと感じました。単に強くなること、勝敗だけにこだわるのではなく、感謝の気持ちを持って、柔道を学ぶものとして何を大切にしなければならないのかが、実感をもって理解してもらえたのではないかと思います。

当社は『共に創る。共に生きる』という企業姿勢を大切にしていて、『人・街・暮らしの価値共創グループ』として、今後も未来の柔道界を担う子どもたちを指導する野村忠宏氏、ならびに野村道場をサポートしていきます」(内田氏)

最後に、主宰の野村氏に今後の野村道場の方向性を語ってもらった。

「新型コロナウイルスの感染状況を見ながらですが、今後もできるだけリアル開催でやっていきたいと思っています。今回は柔道経験者の子どもたちでしたが、今まで柔道と接点が無かった未経験者、過去に柔道をやっていたけど今は遠ざかっている大人たちにも、気軽に柔道を楽しんでもらえる機会を提供していきたいですね。

さらに視覚障がい者柔道や知的障がい者柔道など、いろいろな柔道に取り組んでいきたいとも考えています」(野村氏)

167名の参加となったDaiwaHouse presents 第六回 野村道場。次回も楽しみだ

第一回以来のリアル開催ということで、野村氏も参加者の子どもたちも待ちに待ったという気持ちが溢れていた。子ども時代に世界レベルのトップアスリートと触れ合う経験は、おそらく一生の思い出になるだろう。そして、競技を続けていく上で、大きなモチベーションにもつながっていくに違いない。

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