【第4回】知的障害者支援ならでは。広がるサポートの輪と、組織運営の難しさ 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが近づく中、スポーツ界では競技性だけでなく「社会的インパクト」が強く求められてきている。そのような状況の中、独自の活動で注目を集めるのが、スポーツを通して知的障害のある人々の社会参加を応援する国際的なスポーツ組織「スペシャルオリンピックス(SO)」だ。SOを日本で率いる有森裕子氏に、運営に携わった経緯と今日までの歩み、マラソンを通して育まれた自らの人生観、そしてスポーツが持つ大いなる可能性と希望を伺った。

ビジネスやスポーツ事業の展開においても、最終的に成否の鍵をにぎるのは社会的な意義や価値観の有無になる。有森氏はこう指摘する。4回目では、スペシャルオリンピックスを支える支援活動、そして組織運営の難しさについて語っていただいた。

前回インタビュー:【第3回】スペシャルオリンピックスが変える、スポーツと社会の関わり方

数百名規模の企業も。広がり続けるボランティア参加者の輪

有森 裕子:公益財団法人 スペシャルオリンピックス日本 理事長。マラソン選手としてオリンピック2大会でメダルを獲得するなど活躍後、現在はIOC委員や日本陸上競技連盟理事も兼務。国内外でスポーツを通した社会活動に取り組む。

――スペシャルオリンピックスでは、ボランティア参加者の多さも大きな注目を集めています

「ボランティアの方々による支援は、企業さんによるスポンサーと共に(運営上の)大きな柱の一つになっていて。例えばナショナルゲームという全国大会をするには、3,000人くらのボランティアを募集する形になる」

「最初の頃はもちろん大変でしたけど、私たちの場合は有り難いことに、協力してくれる企業の輪も広がってきていている。例えばソニー生命さんやトヨタさん、ユニクロさんといった企業なども、非常に熱心に私たちを支えてくださっているんです」

――その秘密はどこにあるのでしょうか

「イベントに一回参加すると、社員さんがなんだかとても元気になって、とても人に優しくなって、みんな生き生きとして戻ってくると。これは私たちならではの良さや、心に残るもの、一人の人間として大切なものを実感できるからなんです。そういう分かりやすい効果があるので、最初は少人数から始まり、数百人単位で毎回ボランティアを出してくださるようになった企業は沢山ありますね」

――社会的意義云々とは別に、事業にもプラスになりますね

「私たちは、様々なメッセージを自然に伝えるためにはどうすればいいかということを常に考えながら、プログラムなどを考えてきました。そういう意味では、(協力する企業などにとっても)、すごく取り込んでいきやすい活動になっているのかなと思います」

「それに私たちの活動に関わって嫌な思いをする人はほぼいないでしょうし、むしろ共感が生まれるから、ボランティアとしてみんな戻ってきてくれる。こういう人たちが核となって、(企業を離れた)日常生活の中でも、新しい価値を社会に広めていってくれるんです」

善意に基づく活動であるがゆえの難しさ

ボランティアは運営の大きな柱の一つに。協力企業も広がり、社員が参加すると元気になって帰ってくるという声も寄せられる。写真提供:スペシャルオリンピックス日本

――とはいえ組織を運営していく際には、独自の苦労も必ず発生します。ましてや障害者の方の支援に取り組まれている。そのことに伴う難しさを経験されたことは?

「スペシャルオリンピックスならではの難しさは、たしかにありました。例えばパラリンピックの場合は、パラリンピアンたちが自分たちで『こうしてほしい』『ああなるべきだ』というメッセージを自分で発信して、独自に動いていけるじゃないですか」

「でも、この活動の場合は、親御さんやボランティアの方々も含めて、知的障害のある人たちを支えている人たちの想いを中心に、最初は活動が展開していく形になる。もちろん誰もが基本的には善意で活動されているんですが、具体的な方法やメッセージの打ち出し方に関する考え方は、全員が一緒にはならないんです」

――皆さん、一生懸命に活動されているだけに、こうあるべきだという想いは強い

「もちろん、そこは揃わなくていいと割り切りたいんですが、皆さんがこれは良かれと思って活動をされている分だけ、その考え方とちょっと外れた意見が入ってきたりすると、ものすごく抵抗が生まれてしまうような雰囲気もかつてはありました」

「また実際に活動していく際には、ある程度の方向性が決まっていても、細かなところで足踏み状態をしてしまったり、ぶつかったりしてしまうケースも出てきてしまう。

――デリケートなテーマを扱われるだけに、運営自体に難しい部分が出てくる

「余計にお互いに気を使ってしまうというか。私自身が関わらせていただいた時代からいうと、なかなか(思い切ったことを)言えないような雰囲気はあったと思います」

――では、どうやって全体の活動をまとめてこられたのですか?

「私の場合は、自分の物言いのせいもあるんですが、けっこう地雷を踏んだこともありました(笑)。でも、やっぱりそこは誰が悪いわけでもないので、とにかく自分の想いを地道に伝えていき、変化を一緒に起こしていこうと、じっくり話し合っていきました」

「要は、自分たちが向かっている方向は、大枠では違わないのだから、今何をすべきか、今何を伝えなければいけないことを大事にしようと。もちろん全部できているわけではないのですが、意志を通わせる努力をしなければいけないという気づきを持った上で、活動をしていましたし」

――それと同時に、活動を本格化させていけば、外の組織や企業社会に対するメッセージの発信の仕方、交渉の仕方にも配慮が必要になってきます

「『自分たちは、こんなにいいことをしている』というスタンスではなくて、まず大事なことをしていると思うんですと説明させていただく。その上で、この団体の活動がいかなる意味で大切なのか、御社にとってもどういう意義があるのかということを、段階を追ってきちんと説明したり、見せていくようにする。これはすごく大事だなと思いますね」

善意の輪を社会に拡げていく喜びと、一つの方向に導いていく難しさ。有森氏はこの二つを共に味わいながらスペシャルオリンピックスの活動を発展に導いてきた。次回はアスリートが第二の人生に踏み出す上で、最も重要な要素について語っていただく。

 
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