高知県土佐町「カヌープロジェクト」で、今求められる「地方創生人材」

高知県北部に位置し「四国の水がめ」とも呼ばれる早明浦(さめうら)湖をたたえる自然豊かな土佐町。人口4,000人足らずのこの町で、今、全国的に注目を集める試みが「カヌープロジェクト」だ。本稿ではプロジェクトの「これから」と、そのキーマンとなる「地域おこし企業人プログラム」に関わる新たな「人材」の募集について、土佐町役場企画推進課企画調整係長の尾﨑康隆氏、嶺北高校教育振興コーディネーターの大辻雄介氏、プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社代表取締役の平地大樹氏の3名に話を伺う。

前編はこちら:まちづくり、カヌーで「推進」。高知県土佐町が行政・教育・企業連携で「地方創生」

行政と企業が人材・情報をシェアする「地域おこし企業人交流プログラム」

土佐町役場 企画推進課 企画調整係長 尾﨑康隆氏

2017年から高知県立嶺北(れいほく)高等学校の「魅力化プロジェクト」とも連動しながら「カヌープロジェクト」を推進する高知県土佐郡土佐町とプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社は、2020年2月に「地域おこし企業人交流プログラムによる研修派遣」協定を結んだ。

ここで着目すべきはこれまで全国各市町村で採用されている最長3年間採用の「地域おこし協力隊」ではなく「地域おこし企業人交流プログラム」である点だ。では、その狙いとは何か?「カヌープロジェクト」を役場側で司る土佐町役場企画推進課企画調整係長の尾﨑康隆氏が説明する。

「カヌーというスポーツ、しかもアウトドアスポーツを地域の中だけで影響を与えていくのは難しいし、『嶺北地域だから』という特徴も出しづらい。となると外向けに対してアピールするためにはマーケティングやプランニングが不可欠だと考えました。そこで制度として使えると思ったのが、三大都市圏の企業と地方自治体とがコラボレーションできる『地域おこし企業人交流プログラム』制度だったんです」

カヌープロジェクトの舞台となる早明浦ダムの貯水地「さめうら湖」。この静水面と吉野川の激流が、国内随一とも呼ばれるカヌー競技に最適な環境を作り出す。

三大都市圏に本社を置く企業に勤める人材が、その企業に籍を置いたまま地方自治体の独自の魅力や価値の向上を通じ、地方創生に尽力する「地域おこし企業人交流プログラム」制度。同制度は2016年度から導入され、これまでは地域ブランドの創設や新産業創設、ICTを利用した高齢者生活支援・健康増進、インバウンド観光事業などに活用されてきた。

今回の締結は、土佐町にとっては嶺北高校を軸とした教育とカヌーを通した地域コミュニティスポーツといった、嶺北地域「ならでは」の付加価値の深堀と発信についてプラスクラス・スポーツ・インキュベーションと人材・情報のシェアができる枠組みだ。

一方で、プロスポーツクラブを中心にプランニングやマーケティングを支援してきたプラスクラス・スポーツ・インキュベーションにとっては、土佐町・嶺北地域を舞台に、「地方×スポーツ」という新たな領域へ活動展開する貴重な機会となる。

化学変化をさらに刺激する「地域おこし企業人」として

プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社 代表取締役 平地大樹氏

では、具体的にカヌープロジェクトに関わる「地域おこし企業人」にはどのような仕事が待っているのだろうか?プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社代表取締役の平地大樹氏は、行政と企業が連携する取り組みのアウトラインをこう語る。

「専門的な知識とか関係づくりについては、正直、役場内の方々だけでできることには限界があると思います。ですので『地域おこし企業人』として僕らから知識や技術、コネクションなどを存分に土佐町へ注入し、かつ地域おこし協力隊として現地で働く人材へのスポーツマーケティングの落とし込みもしていくイメージです。地域おこし企業人の僕らと、地域おこし協力隊として働く人材がタッグを組んで、土佐町でスポーツマーケティングを実施していくんです」

よって土佐町における「地域おこし協力隊」は、土佐町での元カヌー世界チャンピオンのラヨシュ・ジョコシュ氏がコーチを務めるカヌーアカデミーの運営など、カヌープロジェクトやコミュニティスポーツに関わる業務や、土佐町の教育・事業の発信を担い、対価として土佐町から報酬を得る。

これに並行して、プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社からはスポーツマーケティングに必要な知識やスキルを習得でき、さらに複業として所属し、「土佐町駐在員」としてスポーツビジネスを学びながら実践し、給与も同時に得る。さらには希望により協力隊の任期後も同社での雇用に切り替えられる形式を採用する。

これにより、現実問題として「地域おこし協力隊」としてはカバーしきれなかった収入面や、最大3年間という時限職員退任後のキャリア構築も担保できることに。もちろん努力次第ではあるが、自らが「地域おこし企業人」となってカヌープロジェクトをけん引する立場になることも可能である。

嶺北高校教育振興コーディネーター 大辻雄介氏

それでは、今回の取り組みを担う人材は、どのような素養が求められるのか?

まず求められるのは新たなことに興味を持つ好奇心だ。事実「カヌープロジェクト」を通じての化学変化も各所に起こっている。高知県立嶺北高等学校の「学校魅力化プロジェクト」を司る大辻雄介氏は、その一例として高校カヌー部にまつわる学校内のエピソードを話してくれた。

「今のカヌー部2年生は6名なんですが、県外からやってきた4名に刺激を受けて新たに地域の2名が加わってくれたんです。そして生徒会役員も今までは無投票で決まっていたのが、立候補を募ったらいっぱい手があがって選挙になった。選挙制度を生徒たちは自分で学んだんです」。子どもたちが一歩を踏み出したフロンティア精神こそ、この業務に最も必要とされるマインドである。

カヌー部も所属する「カヌーアカデミー」の方はどうだろうか?ハンガリー人コーチのラヨシュ氏とのコミュニケーションが気になるところだが、尾﨑氏は「ハンガリー人のラヨシュは英語での会話になりますが、英語が話せるにこしたことはないにしても、必ずしも必要というわけでもないです。日々を過ごしていけば学生時代に学んだ英語は思い出すはずなので」と補足する。

発展するカヌープロジェクトで新たな「地方創生人材」を待つ

さめうら湖近くに佇むさめうら荘。食堂・宿泊施設を備え、観光・スポーツツーリズムの一大拠点となっている。

このように様々な人たちが手を取り合って拡げてきた「カヌープロジェクト」とそれにまつわる「地域おこし企業人プログラム」。そんな両輪が動き出そうとしている2020年春、さめうら湖の水面にはコンクリートを叩く金属音が静かに響く。

さめうら湖近くに佇み、食堂・宿泊施設を備える「さめうら荘」の隣接地では現在、「湖の駅」が建設中だ。ここでは、これまで屋外にあったカヌー艇庫、トレーニング施設に加え、ラヨシュ・ジョコシュ氏が自ら監修した天候・風雨に左右されずに練習できるハンガリー式パドルプールを内包。日本国内唯一ともいえる充実した施設が7月に完成した暁には、土佐町は名実ともに「カヌーどころ」としてのベースが整うことになる。

「今でも琵琶湖がある滋賀県などでさえ、中学までカヌーをしていても高校では競技を断念する子どもたちがいる。(土佐町に)来たら世界チャンピオンの指導が受けられる。高校の新しい寮も来年から設置されます。だから僕たちはこういう環境があることを広く知らせていかなくてはいけないんです」。嶺北高等学校教育振興監 大辻雄介氏の使命感を伴った力説に、平地氏と尾﨑氏も大きくうなずく。

「尾﨑さんと最近話すのは『土佐町のカヌーアカデミーが、いずれカヌーをベースにした地域総合型スポーツクラブになるような形になればいいね』ということ。私たちはノウハウをどんどん提供しますので、最前線に立って地方創生をできる人に来てほしいですね」(平地氏)

「人口減少地域におけるスポーツクラブのモデルケースを作るためには、最初はプラスクラス・スポーツ・インキュベーションさんのような企業と手を取り合ってベースに乗せることが不可欠。(地域おこし協力隊には)その3年間で私たちのサポートを得て、人生を大事にしてもらいながら、田舎暮らしでスポーツに携わるケースを作りたいですね」(尾﨑氏)

そんな3人が近未来に見据えるのは、幼少期からさめうら湖や吉野川で水に親しみ、カヌーに育まれた子どもたちが大人になり、世界に名だたる一流選手としてオリンピックで活躍し、現役を退いた後には次世代の子どもたちを育てていく新たなライフサイクルだ。さらに、そこに関わる人たちも豊かに人生を過ごす、新たな地方創生のかたちづくりを目指す。

日本に過去、例を見ない壮大な挑戦へ――。尾﨑氏、大辻氏、平地氏をはじめ、土佐町・高知県嶺北地域の人々全員は、この夏、新たな「ONE TEAM」の一員となる地方創生人材の出現を心待ちにしている。


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