データが物語る日本ラグビーの未来像(5)東京にラグビーは定着するか?都市部における地域密着の難しさ

アジア初となるラグビーW杯開催、そして新たなプロリーグ構想の発表。日本ラグビー界に変革の追い風が吹いている。はたして日本ラグビーはいかなる可能性を秘め、何を目指していくべきなのか。長年、観戦者調査を実施してきた早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授に、日本スポーツマネジメント学会での調査報告に合わせて、未来への指針について聞いた。(聞き手は田邊雅之)

前回インタビュー:データが物語る日本ラグビーの未来像(4)プロ化に踏み切るべきなのか?

地域密着 都市と地方の違い

Hirotaka Matsuoka
Waseda University

――地域密着に関してさらにお尋ねしますが、地域密着への移行を図っていく際には地方のチームではなく、都市部のチームの方が大変になるのではないでしょうか?たしかに都市部は人口が多く、ファンも開拓しやすいのですが、地域色を打ち出しにくくなる印象も受けます。サントリーのように比較的知名度や人気の高いチームもありますが、企業チームのイメージが強く、かつ試合の際にも無料招待などの動員による集客が大半を占めているような都市部のチームは、地域密着に移行する際に相当苦労するのではないでしょうか?

「そういう側面は確かにあります。Jリーグの場合でも地方にあるチームのほうが、その街の象徴になりやすいんですよね。例えば私の教え子は今、松本山雅FCで務めていますが、そういう地域の場合は、サッカーのチームができてJ1に昇格するというような状況になると、自分たちの代表というような雰囲気が生まれる。そしてチームが活躍すると、自分のステータス自体が上がるような『セルフ・エスティーム(自尊心)』が高まる感覚を得られるんです。

逆に都市部の場合は、チームが地元に密着したアイデンティティを確立するのが難しくなる。実際、私は京都出身なんですが、私の周りの京都の人たちは、京都サンガF.C.の成績はあまり気にしていないのではないかと思います。京都には象徴的なもの、歴史的な神社や仏閣などがすでに沢山あるので、残念ながらサッカークラブは、自分と京都を結びつけてくれるような存在になるのがとても難しいのです。

むしろ京都の観光者数がまた増えたというようなニュースの方が、『おお京都は人気だな』と嬉しく感じるような感覚がありますから。都市部ならではの難しさがあるというのは、東京も一緒だと思います」

核になるスタジアム ポイントは滞留時間

England
Rugby
Twickenham Stadium
イングランドの「ラグビーの聖地」トゥイッケナム・スタジアム。画像=Peter James Sampson / Shutterstock.com

――ベニュー(試合会場)に関してはいかがですか? たとえばイングランドのトゥイッケナム・スタジアムなどは、施設単体としても見ても素晴らしいものがありますし、ファン・エンゲージメントを高めるためのイベントやアクティビティなども仕掛けやすい近代的なものになっている。それに比べて日本では、新たなファンや家族連れなどを獲得できるような魅力的な施設が少ないとも言われています。マーケティングやファンの掘り起こしによるマネタイズを図っていく上でも、インフラをもっと整備すべきだという意見もありますが。

「この問題はそれこそ競技特性にも関わってくるような気がします。例えば野球はイニングごとに攻守が交代するし、1回から9回までずっと見ていなくてもいいので、隙間の時間に自由に遊べるスポーツなんですよね。だからアメリカの球場には家族ぐるみでも遊べる場所が沢山ある。日本でも東北楽天ゴールデンイーグルスが観覧車を作ったりしました。

逆にサッカーは、90分の間に1点入るかどうかをずっと見ていなければならないので、みんな試合中に席を立って遊びに行ったり、飲食したりはしない。だからヨーロッパのサッカースタジアムのフードも全然充実していないし、どこに行っても同じものしか売っていない。

ラグビーもそれと同じようなところがあって。試合中に席を立てないし、飲食も試合開始前に済ませる形になる。だからベニューに関して言えば、むしろ試合前にどれくらい(スタジアムの周辺に)ファンを滞留させるか、試合前に早くから来てもらって、いろんな楽しいことがあるよという状況を作れるかどうかがポイントになると思います。

実際に7月、日本代表戦が開催された釜石では、試合前にファンの方が芝生に座り、焼きそばなどを食べながらビールを飲み、それからスタンドに上がっていく光景が見られました。あれはアメリカでいうところのテールゲートパーティー(編集部注:試合前にファンが駐車場でトラックやバンの後部(テールゲート)を使ってBBQなどを楽しむイベント)のようで、非常に好ましかったですね」

Japan
Fiji
Kamaishi Unosumai Memorial Stadium
Lipovitan D Challenge Cup
7月27日に岩手県・釜石鵜住居復興スタジアムで行われたリポビタンDチャレンジカップ 日本代表対フィジー代表のスタジアム外の様子。撮影=松岡宏高

――Jリーグの川崎フロンターレなどは、イベントが楽しみで来る家族連れが多いことでも知られています。

「そうです。あれも多くは、試合前なんです。そもそもベニューに関しては、あまりにも凝った施設を作っても、逆に利用が難しいという側面もある。とはいえ何か試合前に、スポーツ以外のプラスアルファを楽しめる場所を作っていく必要はあるでしょうね。これも今後に向けた課題の一つだと思います」

様々な工夫を凝らし、試合開始前にも来場者を楽しませる環境を作り上げる。それが都市部におけるファン獲得につながっていく。次回は「ラグビーはルールが難しいから人気が出ない」というステレオタイプに対する考察を伺う。


▶︎「データが物語る日本ラグビーの未来像」連載一覧はこちら

▶︎ラグビー関連の他記事も含む「ラグビー特集」はこちら