世界で活躍するスポーツビジネスパーソンから、いつでも、どこでも直接学べるオンライン講座『HALF TIME Global Academy』が遂に開講。8月に4週にわたり開講されるその第一講は、スペインサッカーリーグのラ・リーガからグローバルパートナーシップセールスを担当するディエゴ・サンチェス氏が講師を務め、グローバルビジネスの根幹を成すパートナーシップとアクティベーションについて解説した。
グローバル・アカデミーが遂に開講
世界で活躍するスポーツビジネスパーソンから、いつでも、どこでも直接学べるオンライン講座『HALF TIME Global Academy』が遂に開講。この8月、世界中のスポーツ団体やそれらのスポンサー企業で働く経験豊富なキーパーソンが、実践的な事例を交えて講義を展開していく。
アカデミーの学長には、米NYを拠点にするBlue United Corporation CEOの中村武彦氏が就任。「自分自身の海外経験とアカデミック経験を、HALF TIMEの最先端テクノロジーや若いパワーと掛け合わせることで、魅力的なアカデミーにしていくことができれば」と意気込みを語った。
中村氏は、冒頭でアカデミーが提供する三つの特徴を挙げた。まずは第一線で活躍する海外エグゼティブから最先端のスポーツビジネスを学べること、次に講師陣とのディスカッションや質疑応答などインタラクティブであること、そしてグローバルにスポーツ界で活躍したい志を持つ参加者同士の交流だ。
満を持して開催された8月4日の第一講には、講師としてスペインサッカーリーグのラ・リーガでグローバルパートナーシップセールスのマネージャーを務めるディエゴ・サンチェス氏が登場。グローバルビジネスの根幹を成すパートナーシップとアクティベーションについて解説してくれた。
ラ・リーガは、なぜグローバル展開を目指すのか?
HALF TIME Global Academyは日本から世界中の取り組みを知る貴重な機会だ。ラ・リーガは何故グローバル市場を意識した取り組みを続けているのか、その理由についてサンチェス氏が語ってくれた。
ラ・リーガの自国市場であるスペインの人口は約4,700万人と、日本の約3分の1。市場を国内だけに限定してしまうとリーチできる人数も制限されるだけでなく、約6,700万人の人口を誇る同じ欧州のイギリスを舞台とするプレミアリーグには一生追いつくことが出来ない計算となってしまう。だが世界市場を視野に入れて考えると、ファンとなる可能性のある人口は一気に78億人へと広がる。
ラ・リーガは現在世界11ヶ国にオフィスを置き、海外を拠点に働く駐在員(デリゲート)のスタッフは46人に及ぶ。役割は各国でラ・リーガのブランド価値を高めることで、放映権の交渉も担う。2013年まではリーグに所属する各クラブが独自で各国への販路を見出そうとしていたが、ハビエル・テバス氏が新たな会長となり改革が進んだことで、世界市場への拡大の取り組みをリーグが一括して担うこととなった。
テバス会長の「世界中で誰もやったことのないことをやろう」という考えの下、各国でマーケティング・広告代理店と契約するのではなく、駐在員を希望するスタッフを世界中から募り、配置を進めている。この取り組みが功を奏し、ラ・リーガは現在181ヶ国、そして104の放送局で試合が放映されている。
スポンサーシップからパートナーシップへ
これまでスポーツに投資する企業は主にスポンサーと呼ばれてきた。スポーツ団体を「支援する」ために、大きな資金を投じてきたからだ。一方でスポーツ団体は、チケットやマーチャンダイジング、広告看板露出など所持するアセット(権利)を提供して収入を得てきた。
だが近年、スポンサーシップから“パートナーシップ”へという考え方に移行してきている。その大きな違いはスポーツ団体と企業の関わり方だ。クラブが持つアセットをパッケージ化したスポンサーシップではなく、カスタマイズされたアクティベーションを一緒に作り出すことで、パートナーにとって投資対効果が得られるように協働する関係に変わりつつある。
この大きな潮流の中、新型コロナウィルスの影響により、今後はスタジアムでのアクティベーションの減少が予想される。一方で、加速することが予想される領域は、デジタルを活用したパートナーシップだ。これをサンチェス氏は、「eパートナーシップ」と新たな呼び名を付けた。
同氏はこの「eパートナーシップ」について、試合がない期間にどれくれい、そしてどのようにデジタルコンテンツをファンに届けられるか、また数値を明確に出すことができる中、ROI(投資対効果)をどう設定していくかなど、今後の課題についても触れた。
また、ファンやサポーターの間では、複数デバイスのスクリーンで試合を観る“デュアルスクリーン”での観戦が通常となり、若年層はフルマッチの観戦よりもハイライトを中心にコンテンツが消費されているとも指摘。変わりゆくデジタル環境の中、ラ・リーガの魅力を一貫して伝えていく必要があることも述べた。
ラ・リーガのパートナーシップ戦略とは
ラ・リーガは各国で、「最高のパートナー選びをするための、グローカルアプローチ」(サンチェス氏)を取る。グローバルという新たな市場で“ラ・リーガ ブランド”を作っていくために、共に長期的な成長をしていける様々な企業と手を組む。
ラ・リーガのパートナーは、冠スポンサー(現在はサンタンデール銀行)と、グローバルからリージョナル、そしてナショナルという各国向けスポンサーに分類される。グローバルパートナーを結んだ企業とは世界中での展開を共に行い、それらの競合企業と国単位で契約することはない。だがリージョナル、ナショナルパートナーを結ぶ企業の契約エリアはあくまでもその国や地域となる。実際、メキシコではトヨタと、スペインではマツダと契約するなど、同じ自動車メーカーでも国によって契約企業が変わってくる。
では、ラ・リーガがパートナーシップで重視することは何か?サンチェス氏は、グラウンド上のコンテンツだけでなく、様々な取り組みから構築されるブランドのストーリーだと言う。
同氏は例として、ソーシャルメディアやアプリに代表されるデジタル、eスポーツなどのイノベーション、次世代育成のアカデミーに象徴される未来作り、女子リーグへの取り組みによる平等性、世界初の精神障害者向けのプロリーグ発足による包括性(インクルージョン)などのキーワードに言及した。
また、リソースが少ない他のスポーツ団体に支援を行う「LaLiga Sports」を通して、相互のファン層の拡大を図る、ラ・リーガのビジネススクール「LaLiga Business School」の運営により未来のリーダー人材を輩出するなど、サッカーではなくスポーツ業界全体の成長にもコミットしている。これらのラ・リーガが積み重ねてきた知識とノウハウは、様々な業種のスポンサー企業が活用できるアセットやプラットフォームにもなる。
企業側は、スポンサードというと選手やチームといったピッチ内のアセットだけを意識しがちだが、「It’s not Football. It’s LaLiga.(フットボールではなく、ラ・リーガだ)」というスローガンを掲げるラ・リーガは、競技以外の面でもスポンサーへの価値を提供する姿勢を見せる。
受講生から何度も“最後の質問“が…
一方的に話を進めるだけでなく、講義途中にも幾度となく聴講者の質問に答えたサンチェス氏。講義の後の質疑応答では、“最後の質問”を何度も受け答えしていたのも印象的だった。
受講生の質問に加えて、アカデミー学長の中村氏が「このコロナ禍において、ラ・リーガが模索する新たな収入源とは?」と投げかけると、サンチェス氏は各国に今後展開する予定のスポーツバーと、新たなビジネスについても紹介してくれた。
「スポーツバーはただの社交場ではなく、テクノロジーを駆使してラ・リーガのブランドコンテンツで彩ることで、世界中のどこにいても同じ空気感を味わえる。そして新たなビジネスとしては、クラブに対するコンサルティングサービスも検討段階にある」(ラ・リーガ サンチェス氏)
参加者にとってはラ・リーガの最新事例を学ぶだけでなく、グローバルへ展開するためには何をすべきか、理想的なパートナー企業を見つけるためにはどのようなブランディングをしていくべきかなど、その背景にあるスポーツビジネスの原理原則についても学ぶ点が多かったはずだ。
最後にサンチェス氏は、ラ・リーガにとって今後はプレミアリーグや米国スポーツだけがライバルではなく、「人々の余暇時間」を奪い合う時代に一層なる中、「ライバルは、エンターテインメント業界全てとなる」と語った。
先見の明を持ち、生き残るために何をしていくべきか。これは今回のアカデミーの参加者である日本のスポーツ業界の関係者、そして他業界からスポーツビジネスに関わろうとする全ての人にとって、貴重な学びの時間になったのではないだろうか。
アカデミーは先日8月11日に第二講「アジア・スポーツビジネス」を開催。次回の第三講は再びラ・リーガから「スポーツマーケティング」を題材に、APAC地域のマーケティング責任者を迎える。各回の参加者も引き続き募集中だ。
▶︎『HALF TIME Global Academy』公式ページ
ディエゴ・サンチェス氏も教鞭を執るラ・リーガの「LaLiga Business School」では、Master in Football Management, Methodology and Analysis、Master in Sports Law Applied to Professional Football、Master in Global Sports Marketingの3つの修士コースを提供中。次回の入学はこの秋11月となる。