海外のスポーツビジネスの現場で活躍する講師陣がオンラインで講義を行う『HALF TIME Global Academy』の第3期が幕を閉じた。この5月から第4期がスタートするが、それに先立ち、第3期を受講した藤井頼子さん(プロ野球球団勤務)と、酒井琢磨さん(コンサルティング会社勤務)に講座を振り返っていただいた。(聞き手は新川諒)
▶︎『HALF TIME Global Academy』第4期 公式Webサイト
スポーツビジネスをより深く学ぶ場に
――第3期生としてHALF TIMEグローバルアカデミーを受講していただきました。まずはそれぞれのプロフィールを紹介いただけますか。
藤井頼子(以下、藤井):私はプロ野球の球団職員で、マーチャンダイジング(MD)の領域でグッズの商品企画やオンラインショップを主に担当しています。今で3社目になりますが、幼少期の頃からずっとスポーツ、特に野球が大好きでスポーツの仕事に就きたいという強い思いを持っていました。
新卒の時にはなかなかスポーツ業界への入り口がなかったので、まずは鉄道会社に入社し、駅ナカの店舗開発や広報の仕事をしていました。そこでもスポーツ業界の仕事に就きたいという思いは変わりませんでしたので、働きながら勉強会や交流会に参加し、実際に業界で働くきっかけをいただきました。
最初はアスリートのキャリア支援の仕事に転職し、JリーグやBリーグの選手の研修や、引退する選手たちに対してキャリアの支援をする仕事をしていました。仕事をしながらもっとスポーツ業界を知りたいとか、中に入った方がもっと理解できるという思いもあり、球団の公募を受け採用いただきました。
酒井琢磨(以下、酒井):私は現在コンサルティング企業に勤務していてスポーツビジネスを担っています。いくつかの案件のうちの1つが、スポーツベンチャー企業に対して営業やマーケティング戦略のお手伝い、またプロジェクトのマネジメントをハンズオンでさせていただいています。これからは競技団体のスポンサーセールスの支援も行います。
これまでのキャリアは1社目がYahoo! Japan、2社目がTBWA/HAKUHODOで、ずっと広告畑。企業の課題をどう広告で解決できるかをずっとやってきました。Yahoo! Japanではタイアップ記事の編集コンテンツを担い、TBWAではSNSを中心としたソーシャルの企画を営業という立場で回していました。
スポーツ界への転職のきっかけは、幼少期からずっとサッカーをしていて、どこかでスポーツに恩返しをしたいという思いがあったからです。今後広告で生きていくのも辛いなという部分もあって(笑)、どの仕事なら人生かけられるんだと自分に問いただした時にスポーツが最終的に残り、2019年、スポーツビジネス業界にチャレンジしようと思ったのが転職のきっかけです。
「スポーツ業界を俯瞰して見る」
――アカデミーを受講しようと思った理由は何でしょうか?
藤井:一民間のスポーツの業務から球団に転職をして、業務のスピードや忙しさが一番ギャップとして驚いたことでした。プロ野球は一週間で6連戦があるなど、毎日試合があるんです。私の部署ではどんどん新商品を出して、売上を作っているので、毎日結構忙しい(苦笑)。
去年のコロナ禍は、どうやって商品を届けるかとか、お客様が会場に来られない中でどうビジネスをしていくのか、球団職員全員が考えた、忙しかった一年でした。
その2020年シーズンやり切った時に、自分の目線が短く、目先のことばかり追いかけていることにふと気づいたんです。シーズンオフにデジタル領域を自分なりに勉強していたこともあり、もっと先のことやスポーツ業界を俯瞰して見る必要があるんじゃないかと、ある種「危機感」を感じて、スポーツビジネスを勉強したいと思いました。
色々調べた中でHALF TIMEアカデミーを見つけ、様々な海外事例や、1つの領域だけでなく幅広くスポーツビジネスを学べる点が、自分の悩んでいたことや課題感と一致したので受講したいなと思いました。
酒井:私はスポーツ界に来た時に、「Jリーグの観客動員率でプレミアリーグを超える」という野望を持っていました。それを成し遂げるに当たって記事などでも勉強したんですが、HALF TIMEアカデミーから発せられる情報がコンテンツホルダーに関するものの中でも最先端だと思っていて、その情報をキャッチアップするために入ったのが一番の理由です。
「顧客起点」で課題を解決する発想
――お二人とも普段から海外の情報に対してもアンテナを張っていると思います。アカデミーを受講して、気付きや印象に残っている講義はありますか。
藤井:テクノロジーの講義でKiswe Mobileから見せていただいた映像(※)が凄くインパクトがありました。私たちも新しい見せ方をしなくてはいけないと。
(※モバイルテクノロジー企業の米Kiswe Mobileでは、リモート開催の音楽のライブイベントで、ユーザーが視点をカスタマイズできる機能を提供したり、ファンの応援をインタラクティブに会場に投影する仕組みを提供している)
(コロナ禍で)オンラインを使ってどうファンの方に試合やコンテンツを届けるかというのに苦労をしていて、私たちもテクノロジー領域が得意な人間がおらず、みんな試行錯誤のシーズンを過ごしていました。そんな中、海外ではスポーツだけでなくエンタメ全体で、テクノロジーが大きく発達していたんです。
酒井: 「お客様やスポンサー企業の課題を解決するために、どうすべきか」という顧客起点で物事を考えていく視点が身についたと思います。スポンサーセールスを一つ取っても、アクティベーションの事例は記事を見れば出てくるんですけど、先方の課題をクラブ側がヒアリングをして捉えられている。課題を解決できるのか考える、解決できなかったらお断りするケースもあるというのは驚きでした。
お客様視点の課題解決は、チケットセールスでも同じです。取得した顧客データをどうパーソナライズして、非日常体験を高めることができるか。顧客起点でアウトプットを考えるという学びがありました。
中村学長が仰っていた「バルセロナのライバルはレアル・マドリードではなくてNETFLIX」という言葉がずっと印象に残っています。コロナによって「おうち時間」の取り合いが増えてきて、変化する顧客心理を捉えていかないと、スポーツを見る時間もいよいよなくなるのかなと思います。
――オンラインで学ぶ機会も増えていると思います。お二人が感じたHALF TIMEアカデミーの特徴があれば教えてください。
藤井:3ヶ月同じメンバーで、オンラインで海外とつながって受講する体験は新鮮でした。時差がある中でリアルタイムにつながり、学長の「おはようございます」から始まって(笑)。毎回の講義では講師の方に日本語で質問をさせていただき、学長が英語で通訳してくれて、その場で質問を返してくださる。不思議な感覚があり、ありがたかったですね。
(※学長のBlue United Corporation中村氏は米ニューヨーク在住)
酒井:オフ会でも話が広がって、ある受講生の方はお仕事でJクラブとも関わっているので、「コロナが明けたらみんなで現場視察をしましょう」という話も出ました。今はコロナ禍ですが、リアルでの視察コンテンツがあっても良いよねという話も出ていましたね。
「講義が終わってからも楽しみでした」
――最後に、お二人がこのアカデミーから得たものは何ですか。そして未来の受講生へのメッセージがあればよろしくお願いします。
藤井:私がこの講座で学んだのは、中村学長が何度も仰っていた「観戦体験」というキーワードです。今後もスポーツ業界に身を置くつもりなので、観戦体験の価値をどう作っていくのかという視点を持って、何事も取り組んでいきたいです。
私自身、海外の事例やスポーツに対する知識がもっとあれば、よりアカデミーで吸収できるものがあったんじゃないかと今も考え続けています。吸収しきれなかったこともあるので、半年後や1年後に受講すると、また得られるものも変わってくるのかなと思いますね。
私のような球団やクラブの中にいる人たちにとっては、自分たちのやっていることに「こういう意味があるんだ」という発見も多いですし、日々の業務に直接生かせることもたくさんあります。
スポンサーやコンサルタントなど周りの方にとっても、よりスポーツの中のことを知る機会になります。幅広い方に受けていただくことで、オフ会の交流で色んなアイディアが出たり、学びが広がったりするのではと思います。
酒井:直近で、競技団体のスポンサーセールスの支援を始める案件があるので、見込み客の作り方、アクティベーション費用を見込んだ上の金額設定の提案など、知見を実際に活かしたい。新規スポンサーの収入を新しいテクノロジーを導入する原資にするなど、上手くチャレンジもできると思います。
当然ですがセミナーを受講しただけではスポーツビジネスができるようにはなりません。せっかく受講するのであれば、自分なりの仮説を持ったり事前にテーマを調べてくることで、持ち帰ることのできる情報量、質の差が出ると思います。
私は講義中に毎回1つは必ず質問しようと、自らに課していました。(講義が)終わった後にTwitterで投稿すると学長や他の受講生の方が絡んでもくれました。オンラインで、一人パソコンに向き合っているんですが、一人じゃないような感じが面白かったですね。
藤井:毎回講義が終わってからは、私も楽しみでした。みんなどんなアウトプットをするのかなとか、学長がどういうまとめをするのかなとか。自分が拾えていなかったところを他の受講生の方がSNSで出してくれて、私は終わってからも1時間ぐらい張り付いてみんなの意見から学んでいました。そして翌朝、酒井さんのレポートを読んで復習するところまでが、HALF TIMEアカデミーという感じでしたね(笑)。
■対談の様子はこちらの動画でも