多くの企業が現在、経営課題として注力するDE&I(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ&インクルージョンとして取り組む企業も多い)だが、慈善活動・CSR的に支援を行うだけでなく、事業やブランドに貢献することで企業としての成長につなげていこうという動きもうまれつつある。5月に開催された「HALFTIMEカンファレンス2022」では、ブリヂストンとDAZNがそれぞれの活動を紹介した。
DE&Iを「知ること」が第一歩。スポーツがそのきっかけに
カンファレンスに登壇したのはブリヂストン コーポレートブランド部門でオリンピック・パラリンピックのアクティベーションを統括する烏山聡子氏、DAZNでコミュニケーション&PR部門の責任者を務め、アスリートマネジメントなどスポーツ領域で20年以上の経験を持つ松岡けい氏。Sport For Smile代表理事の梶川三枝氏がモデレーターを務めた。
セッションでは最初に、「DE&I分野でのスポーツの可能性と活用法」をテーマとして議論が進んだ。松岡氏はトップアスリートの例を示し、「スポーツ領域ではDE&Iへの取り組みは自然にできているのでは」と語る。
「トップアスリートって、会った瞬間に仲良くなっちゃうんですよね。近い距離感で会話が始まって、最後には“ベストフレンド”のようになってしまう。これはなぜかと考えたんですが、お互いにアスリートであり続けることの大変さを理解できるので、リスペクトが生まれるのではないかと思いました」(松岡氏)
これをきっかけに、まずは「知ること」が重要だとした上で、誰でも取っつきやすいスポーツから、DE&Iの取り組みが他にも広がればと付け加えた。
ブリヂストンの鳥山氏は、自社が取り組むアクティベーションを例に挙げてスポーツ×DE&Iの可能性に言及する。
「ブリヂストンでは、『DREAM STUDIO』という、パラスポーツをテーマにしたオンライン番組の制作に取り組んでいます。メジャースポーツに限らずマイナースポーツに取り組むアスリートでも、”舞台があれば輝ける“という確信があったので、知名度に関係なく発信できる場所をつくるというのが出発点。その上で、番組を見ている方々がDE&Iを自分ゴトだと感じられるようになってほしい。そのフックがパラスポーツだということです」(鳥山氏)
コンテンツを軸に、事業・ブランドにつなげる
続いて、「DE&Iの活動をどのように自社ブランドや事業成長につなげるか」というテーマに話題が移った。鳥山氏は、「ブリヂストンはタイヤを主力とする商材柄、社会問題に関心が高いようなミレニアル世代にリーチしづらい。そんな中、ミレニアル世代との接点や当社に対する理解・共感を得るためにパラスポーツを活用することに魅力を感じています」と述べた。
さらに、どのようなゴールに向かって、どのようなストーリーで発信していくか、明確な目的意識と「芯を食ったアクティベーション」をつくる腕前が企業には求められると付け加えた。
松岡氏は鳥山氏の発言に賛同した上で、「DAZNは現在、欧州女子CLやWEリーグなどを配信コンテンツとして持っている。だからこそDE&Iに取り組んでいると発信できるし、活動の厚みも違ってくる。次のビジネスにもつながっていく」と述べ、活動の軸となるコンテンツの重要性を強調した。
現場での創意工夫とは
モデレーターの梶川氏からは、現場で取り組む上で意識したことやこれまでの取り組みの中で壁になったことについても投げかけられながらセッションは進む。
鳥山氏は実際の現場で行った取り組みとして、Team Bridgestoneをはじめ自分たちの身近にいるパラアスリートのファンをつくること、様々な人に対して自分たちから働きかけてパラスポーツとの接点を作りにいくことの2つを挙げた。
前者については、パラアスリートのファンづくりに取り組むことで、ファンとなった人がアスリートを応援し、その先に他のパラスポーツにも目が向くようになるという流れを意識しているという。
後者については、「DE&Iがなぜ必要なのかは、自分事にならなければわからない」と述べた上で、どんな人も、視点が違っていたとしてもとにかく何かしらパラスポーツとの接点を持つことで影響されることがあると話した。
ジェンダーだけでなく障がいの有無や人種まで、様々な多様化に注目される現代において、DE&Iへの取り組みは無視できないものになりつつある。その中で、あらゆる壁を越えてつながることのできるスポーツが果たす役割は大きく、スポーツを支援する意義は十分に深いに違いない。
■カンファレンスの様子は動画でもチェック